2513.呪法師は大魔王の呪法に感嘆の声を漏らす
「うむ。どうやら迫ってくる者達は、明らかに『魔神級』以上の強さを有しておるようだ。別世界から訪れたと見て間違いないじゃろう」
「はい。でもこの禍々しい感じからして、絶対にソフィ様たちではなさそうです」
「それは当然じゃな。もしソフィがヌーを連れてノックスから帰還した事を伝えに来たのだとしても、先にワシに『念話』で知らせてくる筈じゃからな」
「……はい」
レアはここに来るまで来訪者達の事ばかりを考えていたが、父であるフルーフの口からあの憎き大魔王の名が出てきた事で、再び収まっていた苛立ちが募り始めるのを自覚するのだった。
(今はあの大魔王の事を気にしている時じゃない……。来訪者が何者なのかをしっかりと考えないと!)
胸中でそう呟いたレアは、頭から大魔王ヌーの事を追い出して気を引き締め直すのだった。
「来訪者たちが何の迷いもなく、直ぐにこちらに向かってくるという事は、狙いは間違いなくワシじゃろう。ワシが居る事を知っていてここに来ているのか、それとも単にこの世界で一番魔力があるものを狙ったか。まずはその辺から調べる必要があるな。上へ行くぞ、レアよ」
「はい!」
その会話を最後に、フルーフとレアは部屋を後にして地上に向かうのであった。
…………
フルーフ達が地下で会話を行っている間に、あっさりと魔王城の敷地内の空にまで近づいた『エグゼ』と『ロプトウス』は、この地に張られている『結界』に視線を向ける。
「どうする? フルーフって魔族は大魔王である前に『呪法師』だ。必ずこの『結界』を破ろうとすれば『呪法』が飛んでくるぞ」
そう告げるのは、フルーフと同じ『呪法師』である『ロプトウス』であった。
「たとえそうであろうとレキ様の命令に従うには、ここで『結界』を破る以外の選択肢は存在しない。それに『呪法』が飛んでこようが、お前が何とかすればいい話だ。そうだろ?」
「ふっ、まぁそうだな。フルーフの『魔』の概念を知るまではお前達に従い協力してやる。さっさと壊せ」
「お前のその言葉遣いと態度は気に入らないが、レキ様に対する姿勢だけは問題ない。これからもレキ様に仕えるのだぞ」
「……有益だと思える間だけな」
エグゼはロプトから明確な否定がなかった事に満足したようで、小さく鼻を鳴らした後に視線を再び『結界』の方に向け直す。
「さて、それじゃ始めるか」
表情を真剣なものに戻したエグゼは、右手を下ろして『魔王城』そのものに向けた。
――そして次の瞬間、エグゼの右手からまるで波動砲のような『高密度』の魔力圧が放たれるのだった。
ちょうどそのタイミングでフルーフとレアが地上へと姿を見せ始める。
「お前達、下がっておれ!」
迫りくる魔族達の接近に気づいた魔王軍の兵士達が、放たれた『魔力圧』を何とか対処しようと動き出していたところに、地上に出てきたフルーフの声が響き渡ると、慌てて対抗しようと『魔力』を高めていた者達は後ろに退き始めるのだった。
そしてエグゼの『魔力圧』がフルーフの『結界』に着弾した瞬間、あっさりと『結界』は粉々に砕け散り、そのままの勢いを保ったまま地上に居るフルーフ達に尚も『魔力圧』が迫ってくる。
だが、フルーフは自衛のために『魔力』を高めてはいるが、ただ迫りくる『魔力圧』を見上げるだけで『次元防壁』などの対抗策を何一つ取らなかった。
――そして遂に地上に全てを呑み込もうとばかりに、エグゼの『魔力』で出来た波動砲が襲い掛かってくるのであった。
「フルーフ様っ!!」
この時に至って尚、何もしようとしないフルーフに遂に後方で控えていたレアが焦り顔を浮かべて父に叫び始める。
するとフルーフは『魔力圧』を見上げたまま、小さく手を上げて大丈夫だとばかりにレアの叫びに反応を示す。
そして『二色の併用』を纏いながら、目を金色に輝かせたフルーフが小さく口を動かした。
「――」
フルーフが何かを小さく呟いた次の瞬間、粉々に砕け散った筈の『結界』の残滓が『魔力』の基となるかのように、淡い紫色の光となっていき、その淡い光の正体である『呪法』が、まさに刹那と言える程の時間でフルーフに迫る『波動砲』の背後から包み込んでみせた。
「「!?」」
「……ほう」
自身が放った『魔力圧』と同じように『魔力』をぶつけるか、はたまた防御系統の『魔』の概念で相殺を図るだろうと予想していたエグゼと、そんなエグゼと同様に『次元防壁』で次元の彼方へ送り飛ばすのだろうと考えていたレアは目を丸くして絶句し、そしてレアとエグゼの両者とは異なり、ロプトウスは驚きというよりは感心……、いや、それよりも感動に近い感情で声を震わせて、喜々として感嘆の声を漏らすのであった。
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