2508.幸福な時間
今日もレパートにあるフルーフの魔王城では、レアの元に下から随時報告の書類が山ほど届けられてくる。
もちろん彼女だけが全ての作業をこなしているというわけではないが、あらゆる役職に就いているレアが最終的な決定を行う判断をつけなくてはならない為、それらの確認作業だけでも膨大な量となる。
もう少し落ち着いてくれば彼女が新たに選んだ配下達にも役職を任せられるのだが、フルーフとレアが戻ってきた事で色々とゴタついている今の段階では、他者に任せると混乱を招くだけと判断し、余計な仕事を増やさないようにと彼女が全ての最終チェックを行っていた。
もちろん彼女がそうしようと考えている理由には、父親である大魔王フルーフに大魔王『ヌー』との決戦に集中して欲しいという願いが込められているからである。
それに確かに現在のレパートも膨大な仕事量ではあるが、かつてレアがリラリオの世界の三大魔国を支配していた初期に比べれば、この程度は忙しい内には入らないと彼女は考えていた。
あの頃はもっと考える事が多く、普段の仕事量に加えて各国の動向を常にチェックし、更には他種族の襲撃に関しても全てレアが動かなくてはならなかったのだ。
今も同じような事をやってはいるが、それらも全てあの時を縮小したものばかりであり、部下達もレアに全面協力で動いてくれている為、ラルグ魔国を支配した当時の恐怖で支配していた頃とは仕事のはかどり具合も雲泥の差と言えた。
そして今日も昼に差し掛かる頃には、ようやく山のようにあった書類も片付け終えるのだった。
「ふぅ……。ようやく重要な内容の分は終わったわねぇ。後もう少し細かな作業分も残ってはいるけど、大した問題でもないし、先に先輩の魔法部隊の方を見に行こうかしらねぇ」
地面に足がつかない椅子の上で仕事を行っていたレアは、ぴょんっと椅子から着地を果たすと上機嫌で軍の練習風景を観察しに行こうとするのだった。
現在のレアはかつてレインドリヒに任せた『軍事司令』の座も兼任している為、毎日必ず軍全体の様子を窺いながら、効率よく研鑽が出来るように指導も行っていた。
レアは父であるフルーフを探す為にリラリオの世界だけではなく、アレルバレルの世界にも向かった事がある。そこで現在の『九大魔王』であるエイネから指導を受けて、完全に『二色の併用』をコントロールする技術を身につけるに至った。リラリオではあくまで『金色の目』を用いて強引に発動を行っていた彼女だが、エイネのおかげでそういった滅茶苦茶なやり方を行わずに正式なコントロール法を覚えた事で消費する『魔力』も最小限に留める事を可能とし、実に効率的に発動を可能にすることが出来るようになった。
そんな彼女はこの世界に戻って来た後、かつてユファが面倒を見ていたレパート軍の者達を相手に、オーラの使い方の指導を行い始めていた。
まだまだアレルバレルの『魔界』に居るような、とんでもない化け物揃いの魔族達の強さには至ってはいないのだが、それでも少しずつ戦力面は伸びており、このまましっかりと研鑽を続けていけば、いずれは兵士全員が『二色の併用』を行えるようになる筈である。
どうやらレアは自らの研鑽だけではなく、他者への指導にも相当の才を持ち合わせていたようである。
元々フルーフの『魔法』を『概念跳躍』を含めて使いこなせるだけの『魔』の概念理解者であったが、そこに付随して実際に一つの世界を支配した経験も彼女の自信に繋がっているようであり、指導に際しても真価を発揮し始めている。
そして何より、彼女自身が『金色の体現者』だという事も大きかった。
もちろん今は代替身体の身となり、全盛期の頃のような強さはもう持ち合わせはいないが、それでも一度至った強さの感覚は忘れてはいない。
数値面では当時の強さを反映させられずとも、指導の面ではかつての自分の強さを指導に役立てる事を彼女は可能とする。
まさに軍事司令の座にうってつけの人材と言えるのが、この宰相の役割を担う『魔王』レアなのであった。
そんなレアはリラリオの世界で世話になったユファという軍の先輩の為、彼女がソフィの『九大魔王』としてこの世界から離れた後は、彼女の残した『魔法部隊』の面倒を見るつもりで兵士達の指導を行っている。
当然それがフルーフの為にもなるが故に、彼女は出し惜しみせずに指導にあたっていた。
――朝、昼、夕方と彼女はしっかりと仕事を行い、休憩を挟む時は必ずフルーフの元に顔を出す毎日をこの世界に戻ってきてからずっと続けている。
一切仕事も指導にも手を抜かないレアは、当然この魔王城で大人気の存在となっている。
かつてはレパートの軍にも入らず、父であるフルーフが傍に居てくれさえすれば他には何も要らないと、自分に近寄ろうとする者を自ら遠ざけていた彼女だったが、リラリオでの経験やアレルバレルの経験もあり、今では率先して仲間達の為に懸命に働いている。
「それでね! フルーフ様、今日はこんな事があって――」
「ほう……! それは大変じゃったなぁ」
「そうでしょう! でもこんな事もあってね、それでね……!」
このようにレアが訪ねてくるときに合わせて、フルーフも休憩を取るようになり、自分の代わりに仕事をこなしてくれるレアの話にしっかりと耳を傾ける。
フルーフは自分の愛娘が、仕事の休みの合間に必ず自分の元に笑顔を届けてくれて、楽しそうに話す彼女を見て幸福を噛みしめる日々を送るのだった。
――フルーフ達がこのような日々を過ごしている頃が、ちょうどソフィ達がノックスの世界で『妖魔退魔師』の者達と邂逅を果たしている時期であり、この時はまだ襲撃者の影すら見えず何の憂いもなく、そしてフルーフやレア達にとっては、何事にも代えがたい幸せな時間の中に居るのであった。
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