2506.横に並び立つ娘のレアと、父親のフルーフ
大魔王フルーフがレパートに戻った時、直ぐに彼はこの世界の安寧と無事を確認した後、レパートの有事の際の命綱である『魔王軍』を構築し直す為に動き始めた。
これまでレパートの魔王軍は、最初期にフルーフが編制を行った者を魔術師レインドリヒが束ねて、次に幹部となった『災厄の魔法使い』であるユファがこの魔王軍の『魔法部隊』の長として継ぐに至ったものである。
そしてそこから長き時を経て魔王軍の存在理由である大魔王フルーフがこの地を離れた後、一時魔王軍はヴァルテンの手に落ちかけたが、リラリオの世界を見事に支配してこの世界に戻ってきた『魔王』レアによって、収まるべきところにきっちりと収まる事となり、再びレパートの魔王軍は『魔王』レアから『軍事司令』の座を拝命された『大魔王』レインドリヒの手に戻る事となった。
大魔王ヴァルテンがフルーフの代わりにこの世界の支配者になろうと目論みを抱いた時、あろうことかレパートの魔王軍の上層部にアレルバレルの『煌聖の教団』に属する魔族を据え置こうという企みが存在した。
寸でのところで『魔王』レアに阻止されて、その後はレアの配下となった『軍事司令』レインドリヒによってその全てが廃案となったが、あの時にもう少しレアの帰還が遅くなっていれば、今頃はこの魔王軍は取り返しのつかない事になっていただろう。
レインドリヒの手腕は見事なものであり、それからしっかりと『魔王軍』をフルーフやレアが望む『正常な形』での維持を続けてみせた。
だが、そんな軍事司令官レインドリヒもまた、先のリラリオの大魔王ソフィを襲撃する事を目的とする戦争で命を落とし、再びレパートの魔王軍は束ねる者を失ってしまった。
当然こういう可能性を考慮した不測の事態に備えるレインドリヒの案により、一時的にレインドリヒの右腕であった副官が『軍事司令』の座に就くに至ったおかげで何とか事なきを得たが、それでもあくまで一時的な軍事司令官に過ぎず、魔王軍は存在理由であるフルーフという『支配者』と正式な『軍事司令官』を失ったことで、先行きの見えない多大な不安に襲われる事態が長く続いていた。
このレパートの魔王軍は、意欲的な意味でも限界が来ていたところだったが、何とかバトンを繋ぐ形で今日まで耐えきってみせて、そこに遂に魔王軍の『存在理由』であるこの世界の支配者である大魔王『フルーフ』が、娘の『魔王』レアと共に、この『レパート』の魔王城に帰還を果たすに至った。
このレパートの世界を挙げてのフルーフとレアの帰還の歓迎ぶりは相当なものであったが、一番の歓迎ぶりを見せたのは他でもない、このフルーフの『魔王軍』に所属する者達であったことは間違いないだろう。
そして大魔王フルーフと魔王レアがこの世界に戻ってきてからそれなりの日が経ち、ようやく歓迎ムードも落ち着きを見せ始めた頃、要人関係者への積み重なった挨拶等々、これまでの出来事に対する説明を終えたフルーフとレアは、ようやく冒頭通りの国の基盤の見直しを開始し始めるのだった。
…………
フルーフはレアを連れ立って、城の庭で訓練を行っている軍の兵士達の元へ向かっていた。
「フルーフ様、本当にあのような無法者と決闘の約束を交わしても良かったのですか……?」
「む? ああ、大魔王ヌーの事か? 構わぬよ、あやつがいくら戦力値を上げて強くなろうと『呪法』に対する備えなどは何も無いに等しい。あのような勢いだけの単なる若造にこの首をくれてやるつもりもない」
フルーフは『牢』の中から悍ましい程の殺気を自分に向けて放ってきていたヌーを思い出し、それを加味して尚も勢いだけの若造など恐るるに足らずとばかりに、娘のレアに告げるのであった。
「確かにアイツはフルーフ様の……お父様の『呪法』に対しての対策などは未だないようには思えますが、私には何故かは分かりませんが、アイツを侮って考えはいけないように思うのです。決して油断をしてはならないというか……」
「ふむ」
フルーフは横に並んで歩くレアの険しい横顔を見て、本当に成長しているとばかりに全くヌーと関係のないところに意識を向けながら、我が子を誇らしく思い笑みを浮かべるのだった。
「? ど、どうかなさいましたか、フルーフ様」
レアはフルーフとヌーの一戦を真剣に考えていたが、そんな父であるフルーフが自分を見て笑っているのに気づいて、視線を合わせながらそう尋ねたのだった。
「いや、本当にお前は成長したなと感心していたのだ。その点に関してのみだが、ワシはあやつに感謝の念を覚えておるよ」
「ば、馬鹿な事を言わないで下さい! ふ、フルーフ様を攫ったアイツに感謝などと! じょ、冗談でも……言わないで下さい……」
父の言葉に激昂するように勢いよく口を開いたレアだったが、徐々にその勢いを失いながら、最後には悲しそうに、そんな事を私の前で言わないで欲しいと告げて顔を俯かせるのだった。
「お、おお、レアよ……す、すまぬ! ワシが悪かった、謝るからそのような顔をせんでくれ」
自分の愛娘の泣きそうな顔を見たフルーフは、オロオロとしながら何とか顔を上げさせようと、必死に声をかけるのだった。
フルーフは、先程の言葉がレアの気持ちを蔑ろにするような発言だったと反省し、慌てて謝罪を行うのだった。
レアはフルーフの命令を守って『リラリオ』の世界へと向かった後、ちゃんと世界を支配して褒めて貰おうと戻ってきたが、そのフルーフはヌーやミラの手によって身柄を攫われてしまい、そのまま数千年に渡って行方をくらませてしまったのだ。
その間にもレアは、必死に父親であるフルーフを求めて色々な世界を飛び回り、何とか取り戻そうと苦労に苦労を重ねて、それこそ命を省みず必死に探していたのである。
その苦労の末に、ようやく父親を見つけ出して幸せを手にしたばかりの娘に、自分がヌー達に攫われた事に感謝していると告げられれば、誰でも悲しくて泣きたくなるだろう。
いくら娘の成長を喜びはしても、言って良い事と悪い事があったと反省する『父親』のフルーフであった。
「も、もうアイツに感謝しているとは、絶対に言わないで下さいね……。そして、必ず勝って私を安心させてください、ふるーふ様……!」
「ああ……勿論だとも! 任せるのだ、レアよ!」
両手で溢れる涙を拭いながら、必死の思いを込めて父に勝って欲しいと告げる娘に、堂々と胸を張って答える父親のフルーフであった。
……
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