2499.痺れを切らした呪法師
「これまでのお前はその稀有な能力を使って、大体の事は思い通りにしてきたのだろうが、一定以上の強さにまで辿り着いた奴にはもう、全く通用しないという事を覚えておいた方が良いぞ。むしろ格上に使う事で余計な事まで気づかせてしまう結果になる。今の俺のようにな」
そう告げるレルピルの目を見たルーヴァンスは、ブラフやハッタリで言っているわけではないと判断するのだった。
(……失敗したな。これが『魔神級』最上位か。確かに俺は自分の能力を過信しすぎちまっていたようだ)
レルピルは先程まで勢いよく悪態をついていたルーヴァンスが、人が変わったかのように無言になった事で笑みを浮かべるのであった。
「優れた能力を持つ者こそ、使いどころを見極める必要がある。相手が同じように優れた能力者だった場合、こちらが先に切り札を切ってしまう事で、相手に隙を見せてしまう結果を生むのだからな」
「肝に銘じておく……」
ルーヴァンスは素直に目の前の『魔神級』最上位の男に対して、あらゆる面で勝ち目が無いと認めたのだった。
これにより、今後は表向きはレキの組織でルーヴァンスがレルピルの上司という立場になるが、実際には立場が逆転してルーヴァンスがレルピルに従わざるを得なくなるだろう。
ルーヴァンスの『能力』は強力なものであり、それを見事に看破して忠告を行ったレルピルに対して、彼が素直に認めた時点で明確に格付けは済んだのである。
たった一度のやり取りだが、それで全てが決まる程に重く、両者の間でしか分からないこのやり取りは、明確な格付けが行われた瞬間になったというわけである。
「全てを語らずとも理解は出来ているようだな。あのガキに言われたからではないが、確かに俺は当面この組織に居る事になるのは間違いないからな。今後は大人しくお前らの意向に従ってやる。だが、面倒事を俺に押し付けようとするなよ? 取捨選択の判断は任せるが、裁量は俺が決める」
「……分かった。だが、こちらもお前に持っていく話を俺が決められるわけじゃない。特にメナス様はお前の有用性に気づいた筈だ。出来ると判断した事を俺を通してお前にやらせようとするだろう。どんな任務が来るかはまだ分からないが、そうなった時は俺にあたらないでくれよ? 俺にはどうする事も出来ないんだからな」
「ふふっ、了解した。まぁ、今後は仲良くやっていこうや。同じクソガキを嫌っている者同士なんだからよ」
そのクソガキとは大魔王メナスの事を指しているのだろう。どうやらレルピルは、すでにルーヴァンスが自分と同じ考えをメナスに対して持っていると確信している様子であった。
「……その言葉の返答に対しては黙秘を行うが、お前程の奴がこちら側に付いてくれる事に関しては、何一つ異論はない」
「ふっふっふ、今はお前の事を面白く感じられる。よろしく頼むぜ、組織の先輩さんよ」
「ああ……」
こうしてこれまでとは大きく関係性が変わった両者は、互いに全く異なる表情を浮かべたままで握手を交わすのであった。
…………
ルードリヒ王国でルーヴァンスとレルピルが新たな関係を築いていた頃、ダールの世界にあるレキの魔王城の玉座の間には、レキとロプトウス、そして彼の右腕である『エグゼ』と現在のレキの組織の司令官として抜擢された元煌聖の教団の分隊に配属されていた『マルクス』の姿があった。
現在のレキの組織は主に総帥の立場に居るレキがある程度の行動指針を決めて、それをエグゼとマルクスが意見を交わして細かな修正を行い、決定となった作戦を『シェイディ』達三名のレキの手足が遂行する流れとなっている。
少し前にメナスが大魔王ソフィと邂逅を果した事という報告を受けたレキは、マルクス達と決めた案を白紙に戻して、ソフィ達が『フルーフ』の元に向かう前に先手を打つべく『ダール』の世界へ向かい、先に『フルーフ』の身体を奪うか否かで、再度この場で話し合いが行われていたのだった。
そして彼らが次の作戦を考え直している時、中々作戦が発表されずにずっと待機をさせられ続けていた『ロプトウス』が痺れを切らして、直接この場に乗り込んできたというわけである。
「おい、約束はどうなっている? お前の配下になる代わりにフルーフとかいう奴の呪法を俺に教えてくれる話だった筈だろう?」
レキ達が今後の作戦を決めている場にずかずかと無遠慮に入り込んできたロプトウスは、自分の組織の長である筈のレキに対して、思っている事を堂々と言い放つのだった。
「下がれ、ロプトよ。今は作戦会議中だ」
そう言ってエグゼは前回のような大声で怒鳴るわけでもなく、単に注意を促す程度の声量でやんわりと『ロプトウス』をこの部屋から退室させようとする。
「あれから何日もずっと会議を続けている癖に、まだ決まっていないのか?」
しかし組織の大幹部にして総帥の立場に居るレキの右腕に注意されても、ロプトウスは全く引き下がろうとはせずに、それどころか煽るように話を続け始めるのだった。
エグゼが再度口を開こうとしたが、それをレキが手を上げて制止する。
「……少し問題が生じてな。当初の予定通りというわけにはいかなくなったんだ」
このままエグゼとロプトウスに話を続けさせれば、再び口論から良からぬ方向へ発展しかねないと判断したレキは、仕方なく現状の説明を自ら行い始める。
「おいおい、放っておけば例の大魔王ソフィとかいう奴に邪魔をされかねないと言っていたのはお前自身だったろう? 時間を掛けるのはまずいんじゃなかったのか?」
しかし総帥の立場に居るレキから説明を受けてもロプトは全く意に介していない様子であり、むしろ発言の勢いが文句と呼べる程にまで強まるのであった。
「その大魔王ソフィに俺達の組織の事がバレちまったんだよ。前回までの作戦通りであれば、奴らの仲間とフルーフが一騎打ちを行うところの隙を突いて身柄を押さえる手筈だったが、前もってこちらの動きが読まれちまえば、大魔王ソフィが相手ではそれも叶わなくなる。だから作戦を練り直しているところ……ってわけだ」
実際に細かく言えば他にも色々と理由があるのだが、予定していた行動に対して二の足を踏まざるを得なくなった一番大事な部分を、ロプトに包み隠さずに説明を行ったレキであった。
「そんなのは俺の知った事ではない。俺はお前の配下になればあの時の『呪法』を教えてくれるというから、お前の配下になる事を認めたんだ。その約束が果たされないというのであれば、俺もいつまでもこんなところに居るつもりはないぞ」
レキの組織の中に居る者でこんな言葉を直接レキに言える者は、彼を除いて他には存在しないだろう。
それが証拠に隣で聴いていた『エグゼ』は、再び我慢ならんといった様子でオーラを纏わせ始めており、そしてレキの座る玉座の反対側に居るもう一人の側近である『マルクス』は、それを見てあわあわと慌てふためいているのだった。
「そこまで言うならロプト、お前が直接動いてみるか?」
そう言って邪悪な笑みを浮かべ始める大魔王レキであった。
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