2498.チャント・レルピルの詠唱
(完全な支配? ただの比喩的な表現ではなく、本当に『魔瞳』で『魔神級』最上位の相手も支配出来る程だというのか? 他の連中であれば軽く流して終わる話だが、確かにあのガキは『空間』を操る程の『魔』に於ける『魔神級』最上位だった事は間違いない。そして俺もあの時確かにアイツが『結界』と呼んでいた『次元の狭間』の空間以外にもまだ奥の手が有りそうだと感じていた。それが本当に相手の支配を行える程の強力な『魔瞳』なのだとしたら、これは絶対に見過ごすわけにはいかない。あーあ、完全に対応を間違えちまったな。俺と同じ『魔神級』だった事で少し我を出し過ぎちまった。そこまで厄介な『魔瞳』を持っているような面倒な相手だと最初から知っていれば、大魔王ソフィに行ったように徹底した演技を行って上手く奴の懐に入り込めていただろうに。あろうことか煽るような発言を行っちまって、もうすでに一度怒らせちまったからな。次会った時に媚びても駄目だろうな……)
どういう『力』を持っているか分からない魔法使い。それもメナスは『魔』に於ける『魔神級』最上位なのだ。自分に被害が及ぶ可能性を考慮すれば、相手がいけ好かないガキだろうが何だろうが、レルピルは絶対にこの時点でメナスの機嫌を損ねてはならなかった。
これまでレルピルは彼自身が『魔神級』最上位の強さを持っているからこそ、決して侮ってはいけない『存在』が居るという事を理解し、だからこそ厄介な相手や面倒な者達には本性を隠して、相手に変な意識を持たせぬように、自ら下手に出るような行動を取っていたのである。
だが、どうやら肝心なところで彼はミスを冒してしまったようである。
「その顔を見るにメナス様に対して、何か余計な事をやっちまったんだろう? クク! ざまぁねぇな、オイ?」
「うるせぇな、本当にこの場でテメェを消しちまってもいいんだぞ?」
「おお、怖い怖い! だが、俺を殺れば必ずお前は『シェイディ』様に狙われるぞ? いや直接殺らなくともお前はすでにメナス様に接触を行った。その後で俺の身に何か異変が生じていれば、それだけでお前はあの方たちに疑いを持たれる。下手な事は考えない方が良いぞ? わざわざ故郷の世界を捨ててまでこの世界に逃亡してきたっていうのに、その逃亡先でも命を狙われたくはあるまい?」
レルピルは目の前で煽るようにそう告げてきたルーヴァンスに相当の苛立ちを覚えたが、そのルーヴァンスを睨みつけている内に、彼を纏う朧気な『魔力』の残滓を感じ取るのであった。
(ん……? 何だ? こいつ、今何かやってやがるな?)
流石は『魔』の概念に於ける『魔神級』最上位であるレルピルは、頭に血がのぼっていても直ぐに冷静になり、相手の違和感を感じ取るのだった。
「『私は望まぬ流転に明確な拒否を示し、異常に対しての正常を求む。結論、この場に満ちる魔を祓うに至る』」
そして次の瞬間、レルピルの目が金色に輝き、自身が放った詠唱の言葉に膨大な魔力を乗せ始める。
「ぐっ!?」
表面上、何かをしているようには見えなかったルーヴァンスだが、次の瞬間には一瞬の内に『魔力』が全て消失し、その魔力ごと裏で行おうとしていた『魔』の概念技法そのものも雲散してしまうのだった。
レルピルは上手くルーヴァンスの企みを未然に防いだのを確認すると、その口角を上げた。
「残念だったな? この『チャント・レルピル』の前では、お前程度では私の詠唱より先に何かを行おうとしても無駄だ。理を介しての物事の順序は必ず逆転が許されて、お前のやろうとしていた全ての道理の決定が下される前に私の言葉が優先されて、そしてその結果こそが真実に上書きされる」
勝ち誇った顔でそう告げるレルピルだが、その言葉の意味が全く理解出来ぬまま、ルーヴァンスは舌打ちを行うのだった。
「いったい、何を……?」
「白々しい奴だな。お前、さっき俺が喋っている時も気づかれない程度の微弱な『魔力』を自らの身体に流し続けて何か『魔』の概念技法を使おうとしていただろう? 違和感のようなモノがうっすらと俺の頭に過ったからな、完全にその違和感が溶け込んでしまう前に、異変そのものをこの場所から消し去って、この場所を含めて正常な世界に戻しただけだ」
さっきの説明よりは分かりやすかったが、それでも行われた事に対する意味がまだルーヴァンスには伝わらなかった。
(よく分からないが、これがコイツの『能力』ってわけか? くそっ、あまりにも俺と相性が悪すぎる。あんな一瞬でさえ、俺のやろうとしている事を察知し、これまで防がれたことがない俺の『能力』を完全に防ぎやがりやがった……! これでは違和感を増長させて少しずつ精神を支配してやろうという企みは潰えたようなもんだ。流石に一つの世界を支配しただけはあるな、一筋縄では行かなさそうだ)
どうやらルーヴァンスは、これまでのような形だけの配下ではなく、彼の能力を最大限活用して少しずつ精神の洗脳を行っていき、やがてはシェイディやメナス達の手先に作り変えようと、その布石をこの場で打とうとしたが、その目論見はレルピルには通じなかったようである。
……
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※この回でレルピルが自身の能力を使う時に瞳を金色に変えましたが、これは魔族の『金色の目』とは異なるものであり、単に『魔力』の変換によるものです。
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