2497.現実味を帯びる
「なるほどな、上手く嘘を織り交ぜながらメナス様を騙しきって事なきを得たってわけか。やっぱりお前は頭が働く野郎だな。そのままやられちまえばよかったのに……」
レルピルからメナスと『結界』の中で行っていた話の内容の全貌を聞き終えたルーヴァンスは、そう悪態をついて舌打ちを行う。
「ふんっ! お前らと潜り抜けてきた修羅場の数が違うんだ。あんまりこの俺様を舐めるなよ、低能が!」
ルーヴァンスの嫌味に対して、勝ち誇るかのようにそう言い放つレルピルだった。
若い優男でやり手の国の宰相というイメージから、今回でそのイメージが相当に掛け離れてしまった現在のレルピルの言動に、ルーヴァンスは額に青筋を浮かべながら腹立だしそうに彼を睨みつけるのであった。
「それで? お前の能力が対象を相手に陰険に付き纏いながら、強引に違和感を押し付けるって事は理解しているが、何故俺がヨールゲルバの支配者だって事を知っていた? お前らと最初にこの世界で会った時から俺様は、高慢な魔族共が好むように、媚び諂う奴ら共の演技を完璧にこなしていた筈だが」
「残念だったな。偵察隊共に『ヨールゲルバ』の世界へ向かわせたのはこの俺だ。大魔王ソフィの事を調べろと主様に言われた時点で、奴の配下である九大魔王が何処へ跳躍ばされたかを調べるのは当然だろう?」
ルーヴァンスのその言葉に、レルピルは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
「ちっ! 最初からリサーチ済みだったってわけか。しかしよく大魔王ソフィの配下がヨールゲルバに居る事が分かったモノだな?」
「お前こそ俺をあんまり侮るなよ、俺はあのシェイディ様に認められた専門の諜報員だぞ」
「……別世界の支配者の俺様に、お前らの世界の常識を押し付けるなよ。そのシェイディって奴の事も、俺には名前と見た目だけしか分からねぇんだからよ」
「ならこの際だ、よく覚えておけ。今主様の組織の配下で動ける最高幹部の内の一体が『シェイディ』様だ。そして『シェイディ』様は主様の側近を除けば、リラリオの世界で単独で世界を支配出来る程の選ばれし大魔王なのだ」
「なるほど……。それじゃ、さっきの大魔王メナスって精神年齢が低いガキはどうなんだ?」
「精神年齢が低いガキって、お前な……」
口ではルーヴァンスもレルピルに窘めるような言葉を告げたが、実はこの時内心ではレルピルに全面的に同意していたのだった。
彼も少し前に大魔王ソフィの元へ向かう最中、何度も大魔王メナスに対して苛立ちを募らせており、最終的に彼も『シェイディ様はよくこいつと一緒に居られるよな』と考えた程であった。
「あのガキは協調性はないが、実力は間違いなくある。ヨールゲルバの支配者だった『魔神級』最上位の俺様から見ても、概念理解度は俺に匹敵する程だった。平場なら本気でやれば十中八九俺様が勝つだろうが、あの『次元の狭間』の中で争うとなれば話は別だ。それにあの『次元の狭間』が、奴の奥の手ってわけじゃないんだろう?」
「ああ……。お前に情報を渡す事には懸念を覚えるが、それでも今は大魔王ソフィを何とかするのが最優先だから話す。メナス様の本当の奥の手は『魔瞳』だ。それも俺達魔族が使う『金色の目』とは比較にもならない程に強力な『魔瞳』だ」
「ほう? 俺様には魔瞳は単なる補助的な代物の『魔』の概念技法というイメージだが、どうやら奴のはそう単純なモノではないようだな。具体的にどういうモノだ?」
「……完全な支配だ」
レルピルがメナスの『魔瞳』はどの規模だろうかと考え始めた瞬間に、たった一言で返答を行ってきたルーヴァンスであった。
「ぶふっ!」
幼稚な稚児が意味をよく分かっていないままに、最強とか無敵という言葉を使うかの如く、世間を知ったいい大人が真面目な顔して告げた事に、衝動的に噴き出してしまうレルピルだった。
「お前、いい加減にしろよ。本当にお前はよく分からない奴だな。真面目な話をしている最中に冗談を言うようなタイプに見えなかったのによ。いや、俺は今ので案外お前の事を気に入っちまったかもしれ――」
「冗談で言ったわけではない。大魔王メナスの『魔瞳』は、本当に世界を支配する『魔瞳』なんだ。先程の話に戻るが、主様の側近を除けば、我が主のシェイディ様、イングラム様、そして『魔』に於いての『魔神級』最上位であるメナス様が、リラリオを支配出来る程の大魔王なのだ。そしてメナス様が『次元の狭間』の中で『魔瞳』を用いれば、イングラム様もシェイディ様も、無抵抗のままにやられてしまう程だ」
最後まで真剣な様子で言い切るルーヴァンスに、これまで馬鹿にするように笑っていたレルピルも表情をまともなものに戻した後、眉を寄せて真剣に考え始める。
「その、お前の主のシェイディって奴も、俺と同じ『魔神級』なんだよな……?」
「ああ。それも最上位だ」
(……馬鹿を言うなよ? 『魔神級』最上位を相手に同じ『魔神級』最上位が争えば、数日は膠着状態のまま決着がつかない筈だ。よっぽどの事がない限り、そんな一方的に勝負が決まるなど有り得ない。それが『魔神級』の最上位同士の戦いというモノの筈だ)
胸中でそう告げるレルピルには実感がこもっており、どうやら彼自身もかつて彼と同様の『魔神級』最上位と争った事がある様子だった。
「本当に、無抵抗のままやられてしまうと?」
「……我が主自身が、直接俺に教えてくれた事だ」
そのルーヴァンスの言葉に、今度こそレルピルは絶句する。今度は内心で驚くばかりではなく、実際にルーヴァンスにも驚いていると伝わる程の驚きようであった。
(シェイディって奴は矜持というものがないのか? 他の奴が言うならまだ分かるが、自分が『魔神級』最上位だというのに、同じ『魔神級』最上位を相手に無抵抗でやられるなどと、俺なら絶対にそんな事言わないぞ。いや、実際にメナスの『魔瞳』がそう告げてしまえる程に強力なモノだとしたら、言えてしまうのか……?)
ここにきてようやくルーヴァンスが言っていた完全な支配の『魔瞳』というものが、現実味を帯びてきた様子のレルピルであった。
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