2493.大賢者と大魔王がそれぞれ抱く思惑
「私はこの世界に来てまだ日が浅いですが、すでにルーヴァンス様や、他の組織の皆様から大魔王ソフィだけではなく、その周囲の面々も厄介な者達が揃っていると伺っております……。ですが、やはり私の世界に現れた魔族共の方が殊更厄介だという印象を持っています。これはやはり直に戦っているところを見たからでしょうが……」
そのレルピルの言葉に、今度はメナスがレルピルの世界に現れたという大魔王ソフィの配下達の事が気になり始めるのだった。
「君の元の居た世界は『ヨールゲルバ』だっけ? その大魔王ソフィの配下達は大したことがない戦力値だって言っていたけれど、能力の方はどういうものだったの?」
「私が直に戦った相手の方は、私が繰り出す全ての魔法を『反射』してくる魔族でした……。私はどちらかと言えば近接物理ではなく、生粋の魔法使いタイプですので非常に相性が悪いと言わざるを得ませんでした」
「なるほど『反射』……か。確かに『魔』の概念技法を用いて戦う僕達には、非常に面倒な相手だと言えるね。でも『反射』って分かっていれば、それなりに戦う方法はある筈だけど? 君は攻撃魔法以外に補助系の魔法等は使えないの?」
すでに先程のレルピルの言葉から、彼が『魔』に特化したタイプの戦闘スタイルだという事を理解したメナスは、そちらの方面に絞って戦闘の話を振るのだった。
「私の魔法使いとしての戦闘スタイルは、全ての魔法に対して『詠唱』を用いて強力な一撃で一気にカタを付けるというやり方でしたので、そこまで能力の底上げを行う補助系統は得意な方ではないです。それに……」
「それに?」
メナスは目の前のレルピルが補助系の魔法が得意ではないと口にした事で、その時点で『魔』の概念理解が自分より遥かに遅れている事を再認識したが、その後にまだ話の続きがあるような言い回しを行った彼に続きを喋らせるように促す。
「もう片方の魔族が更に厄介だったのです。私が『反射』を行う方の魔族に意識を向けると、そのもう片割れの魔族が膨大な数の補助系や、こちらの戦闘スタイルを崩すような魔法を一瞬の途切れもなく、戦闘が終局するまで延々とかけ続けてくるのです。更にこちらに見せつけるかのように、次の手はすでに用意しているとばかりに数百の『スタックポイント』を作りながら、わざとこちらが放った直ぐ後に向けて放ってくるのです。奴らが普段から戦闘の時に行動を共にしているのかは分かりませんが、攻撃のタイミングが完璧に合わせられていて、私だけではどうにもなりませんでした。こちらの魔法を反射された挙句、あんな穴のないこちらの隙を突いての連続攻撃をひたすらに繰り返されてしまえば、どのような魔法使いであってもお手上げですよ……」
メナスに向けて熱の入った言葉で喋ってみせたレルピルだが、この時においてはこれまでのような演技など一切する事はなく、実際に大魔王ソフィの配下達と戦った時に彼が抱いた感想を、そのまま大魔王メナスにぶつけるように告げたのだった。
――それは、同じ『魔』の分野においての『魔神級』最上位である大魔王に、お前も戦えば同じ目に遭うかもしれないぞと告げているようであった。
「ふんっ、君と一緒にしないでくれる? 所詮それは、君が『魔』においての『魔神級』の下位から中位クラスだからそんな感想を抱くんだよ。同じ魔法使いであっても、君と違って僕ならその二体を相手取っても屈服させられていたよ。そもそもその前段階の話で、僕の『魔瞳』でそいつらが意識を保ち続けられるとも思えないしね」
「そうですね……。確かに『次元の狭間』を自由自在に生み出せる貴方なら、奴らの厄介な立ち回りを相手にしても何とか出来るかもしれません。ただ、最初に貴方自身が仰ったとおり、大魔王ソフィの配下は誰を指しても決して侮れません。少なくとも私はおいそれとは大魔王ソフィの軍勢を敵に回したくはありませんね。たった二体だけでもあれだけ辛酸を舐めさせられたのですから」
大魔王ソフィの配下二体から逃れる為に、煌聖の教団の残党達の勧誘を利用してこの世界に避難して来たと言っていたレルピルを見て、大魔王メナスは確かにその通りだと考えるのだった。
(大魔王ソフィだけでもどうする事も出来ないぐらいヤバイのに、大魔王ソフィと正面きって争えば奴の配下達全ても敵に回さなくてはならなくなる。そうなれば当然、僕やシェイディにイングラム達も命を懸けた戦いになる事は間違いない)
本当は大魔王ソフィよりも、先に大魔王エグゼを消滅させたいと本気で考えているメナスだったが、大魔王ソフィと戦わされるにあたって、まず最初に矢面に立たされるであろう自分やシェイディ達の事を考えて、エグゼと争っている場合ではないと改めて考え直す事となるのだった。
(少なくとも今は、あの鬱陶しい『エグゼ』の手も借りないといけないだろうな。せめて『エグゼ』ではなく、他の主様の側近達、あのお優しかった『イオム』様や『ムオラプイ』様が代わりに居てくれれば良かったのにと心底思うよ……)
そこでふとメナスは、自分が主様の側近達の中でも特に信頼を寄せていた魔族達を思い出し、どうしてエグゼより先にあの方々を蘇らせられなかったのかと、顔を歪ませるのであった。
そしてレルピルはそんな顔を浮かべているメナスを見ながら、彼もまた隠している事を考え始めるのだった。
(俺が再びヨールゲルバの支配者に戻り、あの世界の魔族共を再び屈服させる為には、大魔王ソフィとその軍勢共とこいつらを争わせて共倒れさせる必要がある。早くこいつらを俺の思惑通りに動かせるような利用方法を考えないといけないな……)
ルードリヒ王国の宰相の座についているこの『チャント・レルピル』だが、彼にとっては大魔王レキや、目の前の大魔王メナスがどうなろうと知った事ではないが、大魔王ソフィに敗れるにしてもまずその前に、何とかしてヨールゲルバに現れたソフィの配下達を葬る為、自分の代わりにこいつらとぶつけて争わせたいと思案するのだった。
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