2489.駆け引きを行う大魔王
※一部修正を行いました。
(貴様、何処でその名を……いや、それよりも何故、俺がヨールゲルバの支配者だと知っていやがる?)
レルピルはこれまでと声色を変えた上で、行っていた全ての演技も止めて言葉に威圧を乗せながら『ルーヴァンス』に尋ねるのだった。
(おっと、えらく態度が急変したな。ふふっ、それがお前の本性ってわけか。俺はそっちの態度のお前の方が、話しやすくて好きだぜ?)
レルピルの質問を完全に無視しながら、ルーヴァンスは楽しそうにレルピルを煽り始める。
(たかが『大魔王領域』が頭打ちの魔族が調子に乗るなよ? 貴様如きならば、この俺は遠く離れたこの場所から、この『念話』を通して殺すことも容易いという事を思い知らせてやろうか)
そう言った直後、レルピルに『金色』のオーラが纏われ始めたかと思えば、更にその次の瞬間には同時に鮮やかな『青』が交ざり始めていく。
――どうやらレルピルは『金色の体現者』にして、シギンやエルシスのように『金』と『青』の『二色の併用』を行う事の出来る『人間』のようであった。
だがしかし、余計な情報を得ている様子の『ルーヴァンス』を葬ろうとしていたレルピルだが、言葉通りに『念話』による波長を利用した『魔』の概念技法の攻撃を繰り出そうとした瞬間、唐突に自分の身体が鉛のように重くなっていく感覚を味わう事となるのだった。
「――これは、まさか……!?」
そう告げている傍から、レルピルの目に映る視界の景色の色が失われていき、あっという間に無機質な空間に変貌を遂げていくのだった。
(この現象は次元の狭間の『結界』か!)
(ふふっ、先程お前がその部屋で小馬鹿にしていた大魔王メナス様のご登場だ。気を付けろよ? 既にあの御方はお前に対して怒り心頭だからな。さて、それじゃゆっくりメナス様から尋問を受けてくれ。俺は安全な場所でお前が生き延びられている事を期待しておくからよ! ははははっ!!)
そこでルーヴァンスの『念話』が切れて、合っていた波長が徐々に雲散していくのだった。
「ちっ! 俺は最初から信用されていなかったわけか!!」
レルピルにとっては、最初からヴェルマー大陸や、ルードリヒ王国のやり取りなどどうでも良く、レキの組織と大魔王ソフィが敵対関係にある事を利用して近づいただけなのであった。
それに先程のルーヴァンスの口振りでは、この部屋でのレルピルの発言も聞かれていた様子であり、いつの間にかエイル国王に魔瞳を掛けていた煌聖の教団の分隊の魔族達の姿どころか、気配すらもこの城から完全に消えている。
どうやら大魔王メナスがこの場に来る事をルーヴァンスから説明をされたのだろう。
つまり、今この場に現れようとして強引に別の場所から空間を繋げ始めている大魔王メナスが、この場にやってくる理由の中には、レルピルの始末が含まれている事は否めないというわけである。
そして遂に完全に『空間』と『空間』が繋ぎ合わされてしまい、糸目の見た目が十歳くらいの少年が、うっすらと笑みを浮かべながら姿を現し始めるのだった。
そんな中性的な顔立ちの少年の姿を目の当たりにしたレルピルだが、意識を失う事なくしっかりとその視界にメナスの姿を捕らえる事が出来ていた。
「やぁ、こうして会うのは二度目かな? ルーヴァンスにさっき教えられたんだけど君さぁ、僕の事を大した事ない魔王って陰口を言っていたんだって?」
にこにこと表面上は笑っているだけにしか見えないが、どうやら言葉を聞く限りでは、少し苛立ちのようなものも感じられるレルピルだった。
だが、こうしてメナスが現れた事によって、先程までとは少し異なる考えもレルピルの頭の中に浮かんでくる。
(……確かに僅かに苛立ちのようなモノは感じられているが、脅威と思える程のモノでもなければ、殺意すら感じられない。本当に俺を殺すつもりできたのなら、こんな事で違和感を感じるわけはないだろう。それにさっきはルーヴァンスの言葉の勢いに流されてしまったが、よくよく考えればこれはおかしい。そもそもどうして俺を始末する必要があるというんだ? あまりに脈絡がなさすぎる)
ルーヴァンスの言葉の勢いと、実際に大魔王メナスが現れた事による動揺で混乱する場面の筈だが、逆にこの空気感がレルピルを冷静にさせるのだった。
(……信用されていなかったのではなく、これからその信用するに値するか試している? これまで俺の情報が組織に知られていなかった事が明るみになり、ようやく組織の中での俺の使い道を決めようとしているというわけか?)
今まではあくまで他に適材適所と呼べるような人材が居なかった事も有り、仕方がなくレルピルをルードリヒ王国に起用させていたが、この短期間で自分の事が何らかの形で組織に知られる事になり、組織の立ち位置の再配置の意味を兼ねて今回技量を試しにやって来たのではないだろうかと、冷静さを取り戻した事でこれまでにない発想がレルピルの頭に過り始めたのであった。
(少し、試してみるか……)
「いやいや、別に陰口を叩いたつもりはなかったのですがね……。ただ、私達の世界でも『次元の狭間』があるという事は存じておりまして、もちろん意図的に出現させる『理』のようなモノも存在しておりませんし、知っていても実現させる事は出来ないのですが、そんな『次元の狭間』を意図的に出現させられる技法を持った御方であっても、あの大魔王ソフィには通用せず、離れる事しか出来ないほどに強いのかと驚きを口にしたつもりだったのです。この場に私以外に誰も居ないと思い込んでおりましたので、ついつい私の独り言をルーヴァンス様は曲解してしまったのでしょう」
「……別に全く通用しなかったわけじゃないよ。あの時は僕以外にもルーヴァンスがいたからさ、守ってやらないとって思って、第一に安全を確保するために撤退しただけだよ」
そう言ってメナスは逃げたわけじゃないと弁明を始めたが、この大魔王が直ぐに攻撃を仕掛けてこないところをみると、やはり自分を殺すつもりはなく、単にこちらを試す為に現れたのだなとレルピルは考えるのだった。
(攻撃される心配がないのであれば、こちらもわざわざ手の内を明かす必要もないな)
レルピルは目の前のメナスに脅威はないと判断したことで、先程のルーヴァンスの発言も自分に疑惑を持たせるためにあえて告げた言葉なのだと悟るのだった。
(わざわざルーヴァンスが私に恐怖心を煽った理由としては、やはり何処まで私が冷静で居られるかを試そうとしていたと見るべきか? いや、他にも何か試したいことがあってこの子を利用したのかもしれないが、流石にこれ以上無理に思惑を引っ張り出すのは危険だろうな。藪を突いて蛇を出すではないが、余計な詮索をすることで本気になられても困る。別に私は彼らの組織と対立するつもりもないわけだしな……)
この後の行動の指針が定まったレルピルは、やがて柔和な表情を作りながら口を開き始めるのだった。
「そうだったのですか……。独り言のつもりだったとはいえ、誤解をさせるような発言をした事をお許しください」
レルピルがメナスに対して素直に頭を下げながら謝罪を行うと、その様子を眺めていたメナスは纏っていたオーラを消し始める。
「そっか、誤解だったんだね。そういう事ならもう頭を上げてくれて構わないよ。こちらこそ驚かせてごめんね」
レルピルが再度口を開こうとしたが、今度は明確に『殺意』を孕んだ視線を向けてきているメナスをその視界に捉えて口を噤まざるを得なくなるのであった。
「……ただ、僕の事が誤解だったのは良いんだけどさ、君は自分の都合で組織や僕達の主様を利用しようとしていたんだよね? その件についてはしっかりと僕も聞いておきたいかな。もちろん納得が出来る話を聞かせてくれるよね?」
レルピルはこの時、目の前のメナスが自分の事しか考えていない大魔王だという認識は誤りであった事にようやく気付くのだった。
(……あえて別の話題を先に口にして、あたかもそれが本題だと思わせた上で安心させた後、こちらの出方を見た上で本題を被せてくるか。大魔王レキの周りの奴らは、どいつもこいつも面倒な奴ばかりだな……。別の場所なら話も別だろうが、この『次元の狭間』で戦うとなると流石にこちらが不利だ。それもこいつは『魔』に於いての『魔神級』最上位だ。この『結界』だけが奥の手ってわけじゃなさそうだし、これはもう仕方がないか)
胸中でそう呟くと、観念したかのように大きく溜息を吐き始めるレルピルであった。
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