2488.同じ組織に属しながらも、互いに相容れぬ者達
ソフィ達がルードリヒ王国からラルグ魔国領にあるセグンスの町に『高等移動呪文』で飛び立っていくのを見届けた後、レルピルは先程まで宴を行っていた城の一室に戻ると、酔ってそのままテーブルに突っ伏すように寝ているエイルの姿が目に入るのだった。
「……さて、大魔王ソフィ達も居なくなった事だし、再び洗脳状態に戻しておくとするか」
レルピルがエイルと自分以外に誰も居なくなった部屋でそう独り言ちた後、直ぐに手を叩いて合図を送り始めるのだった。
「お呼びでしょうか、レルピル様」
誰も居ない筈の部屋に突如として声が聞こえて来たかと思えば、直ぐに長身の『魔族』が姿を現し始めるのだった。
「ああ。邪魔者達が居なくなったからな。コイツの意識が戻らない内に、またお前達に頼みたい」
「お任せください。おい、起きて俺の目を見ろ」
「むぅ……?」
長身の魔族は直ぐに言われた通りにエイルを呼び起こすと、意識がまだしっかりとは戻らぬまま、彼はぼんやりとその魔族を視界に捉え始めるのだった。
――魔瞳、『金色の目』。
「……」
長身の魔族の魔瞳によって、エイルは完全に自分の意識というものを失い、虚ろな目を浮かべたまま椅子に座り直すのだった。
「準備出来ました。いつでも問題ありません」
魔族の魔瞳によってエイルは自我を失い、再び彼らの支配下に置かれてしまうのであった。
「ふむ……。こいつを前回の時のような完全な洗脳状態にしてしまうと、魔瞳を解いた時にその『魔力』の残滓から、あいつらに怪しまれてしまうかもしれないからな。半覚醒状態にしてある程度は意識する事を可能な状態にしておけ。ああ、だが自分の意志を持たせぬように、言われた事を疑いもせずに従う状態に留めておくんだ」
「はっ!」
レルピルの指示でこの世界出身ではない『魔族』達は、直ぐにエイルをレルピルに言われた通りの状態に『魔瞳』で操り始めるのだった。
少しの間レルピルは虚ろな目を浮かべ始めたエイル国王を眺めていたが、ソフィの言葉を思い出しながら笑みを浮かべると、その部屋から出て直ぐにルーヴァンスに『念話』の波長を合わせ始めるのだった。
そしてその波長は直ぐ、この世界に降り立ってすでにラルグ魔国の監視を行い始めていたルーヴァンスに繋がるのであった。
(ルーヴァンス様、大魔王ソフィとエイル国王の対談は無事に済みましたが、もうメナス様方をヴェルマー大陸に派遣する方針は厳しいかと思われます。すでにヴェルマー三大魔国のそれぞれの王と我がルードリヒ国王との正式な会談が大魔王ソフィによって決められてしまいました。これを覆す事はもはや誰であっても不可能だと思われます)
(そうか……。では当初の予定通りに俺の方からレキ様に伝えるとしよう。しかしその前に尋ねるが、お前の目から見て実際に大魔王ソフィはどういう風に映った? 武力ではどう足掻いても勝てないにしても、何処か突けるような穴は見当たらなかったか?)
ソフィがエイルと会う前に、この両者はソフィの出方次第で現在の方針を全て白紙に戻して主に報告を行い、当面の間は様子を見ると決めていたのだった。
双方の事前の取り決めではそこまでしか話を決めていなかったが、ルーヴァンスは少し前に自分がメナスと共に大魔王ソフィと相対した時、自分自身は『空間』の中で意識を維持する事が出来ず、実際は大魔王ソフィが武力面を除いてどこまで相手に出来るかという判断を最後まで付ける事が出来なかった。
頼みの綱であった大魔王メナスに尋ねるも、ルーヴァンスが知りたい事とは程遠いものばかりであり、結局はメナスから得た情報は、大魔王ソフィは単独で相手にする事は出来ない『化け物』という事しか知る事が出来なかった。
確かにメナス程の存在からしても大魔王ソフィは脅威に映っているという事も重要な情報の一つではあるのだが、そんなものは最初からある程度理解が及んでいたものに過ぎず、今後の作戦の方針を決める上では何の役にも立たなかったのである。
そこで必ず大魔王ソフィがやってくる事になるエイル国王の元に、ルーヴァンスは自身の配下である『レルピル』を派遣し、全く大魔王ソフィから命を狙われる心配のない国の宰相という立場に居るレルピルに、大魔王ソフィの事を調べさせて今度こそ有用な情報を得ようと考えたのであった。
(ルーヴァンス様、尋ねられる相手を間違っておりますよ。所詮小国の宰相に成り代わるぐらいしか出来ない取るに足らない小物の私には、大魔王ソフィを推し量る事など出来ませ……――)
(おいおい、この俺を無能扱いする気かよ、レルピル?)
(え……?)
面倒な質問を投げかけられたとばかりに、上手く誤魔化して乗り切ろうと考えていたレルピルだったが、ここでまだ日が浅い組織の上司である『ルーヴァンス』が、思っていた以上に厄介な魔族だという事をこの時を境に分からされてしまう瞬間になるのであった。
(お前が普段どういう目線で俺達の事を見ているかは把握している。俺達だけではなく、レキ様に対してお前が思っている事すらもな。まぁ、別にお前は俺やシェイディ様たちのように『リラリオ』出身ってわけじゃないし、あくまで利があると見て俺達を利用しようとしているに過ぎないつもりなのだろうが、それはこちらも同じだという事を失念するなよ? 如何にお前が有能な人間だとしても、逆らっていい相手かどうかを見誤ればあっさりと幕が閉じる事になる)
(……いったい、何を仰られているのでしょう? 私はあくまで『煌聖の教団』の分隊の方のツテで、貴方がたの組織を紹介されただけのしがない研究者の身ですよ。もう一度言わせて頂きますが、そんな私に何を仰りたいのか……――)
ルーヴァンスの脅しめいた言葉にも少しも臆することなく、ぺらぺらとまた言い訳じみた言葉を並べ立てようとしていたレルピルだったが、この後にその流暢に喋っていた言葉を出せなくさせられるのだった――。
(その辺にしておいたらどうだ? 大賢者『スペル・ホルドラン・ライドネル』。いや、詠唱者『チャント・レルピル』と呼んだ方が良いのかな、ヨールゲルバの世界の支配者様?)
(!?)
この後、両者は『念話』の波長が繋がったまま、無言の時間が続く事となるのであった。
……
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