2485.国王と呑み比べを行うヒノエ
ソフィとエイルの対談が終わり、その後に開かれた宴も気が付けば相当の時間が経っていた。
「ソフィさん、そろそろお時間が……」
この宴の場で酒を一滴も呑まずにいた六阿狐は、そっとソフィの元に近づくと、ここに来てから相当の時間が経っている事をこっそりと耳打ちする。
「む? もうそんな時間か」
「はい、ご気分良く呑まれているところを失礼かと存じますが、屋敷でソフィさんの帰りを待っておられるリーネ殿の事を思うと、お知らせしとこうと六阿狐は愚考しました。お許しください」
「いや、伝えてくれて感謝する。お主の言う通りだな。楽しい時間である事は間違いないが、ここに来た目的はあくまで大陸間の取り決めを円滑に行う場を整える為であって、個人的な親交を深める為ではないのだからな」
今も目の前でエイルとヒノエが呑み比べを行っているのを見ていたソフィだが、六阿狐が自ら動いて時間を伝えてきた意味を考えて、宴気分を切り替えるのだった。
六阿狐はソフィの護衛だが、同時にリーネにも強い感情を抱いている。忠誠心にも近いその感情は、この場でも如何なく発揮されており、無礼講だからとソフィに告げられてもリーネの事をしっかりと考えて六阿狐は最後まで酒を呑まなかったのであった。
「……しかし、ヒノエは何処にいても変わらないモノですね」
あくまで六阿狐はここに赴くと決まった時から、ソフィをリーネの元に無事に送り届ける事を一番に考えていたからこそ酒を控えていただけであり、別にこの場で同じ護衛を兼任している筈のヒノエが豪快に酒を呑んでいても、別に咎めるつもりは毛頭ない。ただ、一国の王を相手によく堂々と呑み比べが出来るものだなと、違う角度からヒノエに一言告げたいと考えた六阿狐であった。
「クックック、それがヒノエ殿の魅力的なところではないか。我はヒノエ殿のこの姿にも非常に好感を抱いておるよ」
そう話すソフィの横顔を見た六阿狐は、明らかにノックスの世界でヒノエを見ていた時とは、ソフィのヒノエを見る視線の種類が変わっている事を悟るのだった。
(……残念だけど五立楡、もう私達には割り込む場所は残されていないみたいだわ)
六阿狐は五立楡が自分と同じ仄かな恋心をソフィに抱いている事を知っている為、口には出さないが胸中でそう呟くのだった。
当然六阿狐は王琳にソフィの護衛を命じられた時から、それまでとは明確に気持ちを切り替えるに至っていたが、こうして目の前でソフィがヒノエをどう想っているかを目の当たりにした事で、諦めようとする気持ちが一際大きくなったようである。
六阿狐がソフィの背後でそんな事を考えていると、視線の先に居るソフィが立ち上がって口を開き始める。
「エイルよ、そろそろ時間のようだ。我たちはここら辺で暇とさせてもらおう」
「あぇ……? ま、まだ……よ、良いではないか、そ、ふぃ、殿……、そ、それにまだ、余は、ひのえ殿との勝負はついてゃ、おりゃ……ぬのだ、ぞ」
ヒノエと数時間に渡って強い酒を休むことなく呑み比べを続けていたせいで、すでに呂律も回っていない様子のエイルだが、しっかりとソフィの声は聴こえていた様子で、もう少し一緒に居たいと彼は心からの本心をソフィに伝えるのだった。
「ははははっ! エイル国王、アンタが大酒豪なのは今回の事でよく分かった! 次回も私で良ければまた付き合うからさ、今日のところはこれで引き分けにしようや!」
どうやらその言葉通り、ヒノエはエイルの呑みっぷりを大変気に入った様子であった。
「……ソフィ様、ひ、ヒノエ様は本当に人間なのですか? 飲み始めた頃と全く顔色も変わっていないように見えるのですが」
宰相であるレルピルは、ヒノエを見て偽りなく驚いている様子でソフィにこっそりとそう告げてくるのだった。
「うむ。ヒノエ殿はその気になれば、ずっと呑み続けられるようなのだ。屋敷でも我や居候の者と朝まで呑む事も珍しくはないのでな。もちろんその時も全く酔っている素振りを見せず、それも少し仮眠を取った後は当たり前のようにみっちりと、刀を振って朝の鍛錬を行う程だ」
ソフィの話を聞いたレルピルは、信じられないとばかりに苦笑いを浮かべるのだった。
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