2481.ルードリヒ国王すら存ぜぬ、宰相の暗躍
エイルのその断言する言葉にソフィは二の句が継げなくなり、呆然として口ごもるのだった。
「ソフィ殿……!」
ソフィと共にエイルの話を聞いていたヒノエもまた、驚きを隠し切れない様子でソフィに声を掛けるのだった。
「うむ……。もう一度確かめておくがエイルよ、お主は今の我と同じぐらいの年齢の中性的な顔立ちの魔族の少年、そして巨大な斧を担ぐ筋肉隆々の魔族の男、そしてつばの長い帽子を被る長身の魔法使いの三名の魔族をトウジン魔国の冒険者ギルドに派遣したのではないのだな?」
ヒノエに頷いた後、ソフィは改めて魔族達の特徴を告げてエイルに冒険者達の確認を行う。
「……ああ。そのような魔族達を余は全く知らぬ。こちらがトウジン魔国に送ろうとしていたのは全員が『イネル』の冒険者ギルドに所属する者達で、先日勲章ランクがAになったばかりではあるが、すでに指名依頼も数多くこなしておるベテラン揃いだ。今回の件でシチョウ魔国王から許可が下りた暁には、是非ソフィ殿にも闘技場で彼らの戦うところを観戦してもらいたい。ケビン王国の『紅蓮の魔導』も見事なものだが、彼らならいずれは追い抜いてくれる事と余も期待しておる」
そう言って豪快に笑い始めるエイルを見て、どうやら本当の事なのだろうと感じられたソフィであった。
……
……
……
ソフィ達がエイルと『面会』を行い始めた頃、エイルの元までソフィ達の案内役を務めたこの国の宰相である『レルピル』は、こつこつと靴音を響かせながら城の廊下をゆっくりと歩いていた。
この若い宰相はいつも変わらぬ柔和な笑みを浮かべているが、誰も彼の顔を見ていない今は、冷酷な目を浮かべていた。
彼は無言で廊下を歩いているように傍からは見えているが、実際にはとある『魔族』に対して『念話』の波長を合わせている最中にあった。
そして丁度ソフィ達を待ち受けていた廊下の場所が見えてきたかというところで、合わせようとしていた波長がしっかりと相手に伝わり、向こうからレルピルに『念話』が届くのであった。
(驚いたな、こちらの世界に着いて直ぐにお前から連絡が来るとは思わなかった。何かあったのか?)
(ええ、緊急の用件です。今しがた大魔王ソフィがエイル国王に謁見しにルードリヒ王国に訪れました)
(……な、何だと?)
レルピルの報告に『念話』の相手である男は数秒程無言になったが、その後に彼にしては珍しく驚いた様子でレルピルに訊き返してくるのだった。
(相手が大魔王ソフィでは下手に動くような真似をすれば直ぐにバレるかと思い、エイル国王に対しての意識操作など、現在は全て完璧に停止させました)
(そうか。それで良い、よくやった……! それで、お前もその謁見の場に居るのか?)
(いえ、エイル国王の元までの案内役は私が務めましたが、部屋まで送った後に直ぐに離れました。それで貴方様に今後私はどう動けば良いか指示を仰ぎたく、失礼ながらこうしてご連絡をさせて頂いたというわけです)
どうやらレルピルと『念話』を交わしている相手の魔族は、ルードリヒ王国の宰相を務めている彼よりも立場が上のようであった。
(大魔王ソフィが現れてしまっては仕方あるまい。あの大魔王が違和感に気づいて動いたのであれば、これ以上の工作はこちらの身を滅ぼす事になるだろう。もう完全に手を引け。こちらもトウジン魔国から離れるように『シェイディ』様達に伝えておく。追ってまた指示を出すから、それまでは何食わぬ顔でそのまま宰相として潜り続けておけ)
(御意。それではすでに始末した冒険者共の後の処理はどうしましょうか? 今はまだ貴方様の能力で違和感はありつつも誰も問題にはしておりませんが、エイル国王の意識を正常に戻している以上は、大魔王ソフィに尋ねられてしまえば、諸々を含めて一挙に明るみに出てしまう事になると思われますが……)
(放っておけ。所詮それもルードリヒ王国と、ヴェルマー大陸主要国との外交目的にエイル国王が利用しようとしていただけに過ぎん。その冒険者共はすでに魂ごとこの世に存在していないんだ。見つかりようがなければ、奴らも諦めるしかない。お前はさっき言ったように、知らぬ存ぜぬで通し続けていろ。絶対にあの大魔王に勘付かれるようなヘマをするなよ? 少しの違和感でも残せば終わりだと思え)
(……御意)
レルピルは大魔王ソフィが想像以上に厄介な魔族だと、改めてこの『念話』で記憶するのだった。
(それでは、怪しまれぬ内に私も戻る事にしますので……)
(ああ、分かった。近い内にまた知らせる)
(はっ!)
そこで相手からの『念話』が切れると、合っていた波長も完全に途絶えるのだった。
『魔』の概念理解度が最上級の者達であれば、合わさっている波長から直ぐに『念話』を行っていた事が知られてしまい、怪しまれる危険性があるが故に、完全に証拠を消し去る目的で故意に波長を途絶えさせたのであった(※残された波長から誰が誰と『念話』を行っていたのか等、現時点で探知が出来たり、行われている会話に強引に介入する事が出来る者は、この世界では八尾の大妖狐『耶王美』ぐらいのものである)。
(やれやれ……ルーヴァンスも用心深い事だな。しかしこれで私のこの国での役目も終わりか。せっかく好機の機会に恵まれたと思ったのに、とても残念な事だよ。全く、大魔王ソフィも余計な真似をしてくれたものだ)
この国の宰相であるレルピルは大きく溜息を吐くと、踵を返してゆっくりと元来た道を戻って行くのであった。
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