2391.非常に面倒な大魔王
ソフィやヒノエが考えた通り、彼らの感じた違和感を作った要因は、とある魔族が用いた『魔』の概念によるものであった。
その『魔』の概念を用いた魔族は、かつてリラリオの世界でシェイディ達の世代に居た大魔王で、名を『ルーヴァンス』と言った。
彼もまたレキが仲間にした呪法師の手によって現代で蘇った魔族の内の一体だが、便宜上はレキの組織に所属する彼の配下という立ち位置だが、実際には組織というより『シェイディ』専属の部下と呼ぶ方が正しい。
この『ルーヴァンス』こそが、これまでミッシェルがシェイディとやり取りを行う上で間に入っていた魔族なのだが、少し前からシェイディの命令によってその役割から外されて、現在はソフィや周りに居る者達の監視を行っているのであった。
シェイディの命令で動く雑用係のような彼だが、こう見えて現代の『アレルバレル』の魔族にもひけを取らない程の戦力値と能力を有している有能な大魔王である。
「ねぇ、ちょっと」
そんな彼はシェイディに報告を終えた後、再び『リラリオ』の世界へ戻ろうと『概念跳躍』を用いようとしたが、そこでとある魔族に声を掛けられるのだった。
「え? あ……、貴方は!」
ルーヴァンスに声を掛けてきたのは、彼の直接の主達が居た集落跡に姿がなかった『メナス』であった。
「何やらシェイディに報告をしに来てたみたいだけど、何かあった?」
「は、はい! シェイディ様が目をかけられていた向こうの世界の人間が、あの大魔王ソフィと接触を行いましたので、その報告を行っていました」
「あぁ……。そういえば、そんな人間も居たねぇ。彼は歪んだ目をする人間が好きだもんね。でも何で大魔王ソフィはそんな人間なんかに接触してきたの?」
ルーヴァンスは一刻も早く『リラリオ』に戻りたいと思っていた為、興味本位で色々と訊いてくるメナスに内心で溜息を吐くのであった。
しかしそれでもルーヴァンスは、目の前に居るメナスを邪険に扱った日には、あっさりと自分が消される事になるという事を存じている為、いくら面倒だと考えが過ろうが内心で溜息を吐こうが、表立っては絶対に悟られるような真似はしない。
「実はその商人……名前を『ミッシェル』というのですが、そのミッシェルが恨んでいる同業者の商人こそが、大魔王ソフィの恩人のようなのです。それで『ミッシェル』が恨みを晴らそうと手を出した事が原因で大魔王ソフィに居場所を突き止められてしまい、そのまま拘束されてしまったのです」
「ふーん……。すでに大魔王ソフィが仲間想いだという話は聞いていたけれど、どうやら本当の事のようだね。それでシェイディはどうするつもりなの? お気に入りが大魔王ソフィに拘束されちゃったんでしょ? もしかしてだけど、取り返そうとかそういう話になってたりする?」
「え、いや、そのまま放っておけと仰られました……」
「ああ、まぁそうだろうね。主様が大魔王ソフィと争うなって言ってるのに、ある程度気に入っている奴だとはいっても、そこまで重要な人間ってわけでもないだろうしね」
「は、はい……」
ルーヴァンスはそろそろこの中身のない雑談話を切り上げたかったが、それを決める事が出来るのはメナスだけであり、さっさとこの話から興味を失ってくれないだろうかと切に願い始めるのだった。
「それで話を戻すけど、君はこれからどうするつもり? このままあの世界に戻ろうとしているようだけど、もうシェイディにその商人の人間の事は放っておけって言われたんでしょ?」
結局まだ話は続くのかと表面上には出さないが、内心ではげんなりとするルーヴァンスであった。
「ええ……。大魔王ソフィとの関与を避ける為にもまず、これまで連絡を取り合っていた連中を消し去って、完全に繋がりを消そうかと考えておりました」
「へぇ、面白そうだね。僕もついて行ってあげようか?」
「え!? そ、そんな! め、メナス様のお手を煩わせるわけには参りませんよ! それにメナス様達はレキ様の本来のお身体を取り戻すために色々とお忙しい身ではありませんか、私なんかのつまらない後処理にご協力をして頂くわけには……」
「些末な出来事だったら直ぐに終わるんだから、別にちょっとくらい良いじゃんか。それとも、君は遠回しに僕と一緒は面倒だって言いたいのかな?」
(め、面倒くせぇ……! 前々からこいつは空気の読めない野郎だと思って色々と接触するのを敬遠してきたが、直接話をしてここまで面倒だとは思わなかった。シェイディ様たちもよくこんな奴と一緒にいつも居られるよな……!)
遂にルーヴァンスは胸中で本音を吐露し始めたが、流石に表面上はおくびにも出さない。
「ん? 急に黙り込んだみたいだけど、図星だったのかな? ねぇねぇ、改めて君に訊きたいんだけどさぁ、僕って面倒くさいかなぁ?」
笑みを見せないところをみると、メナスは何も揶揄っているわけでもなく、本気でルーヴァンスに尋ねている様子であった。
ルーヴァンスは胸中で『クソ面倒くせぇよ』と言い放ったが、もちろん正面切ってそんな事を言える筈もなく――。
「いえいえ! そんな事はありませんよ! しかし最初にも言わせて頂いた通り、貴方はレキ様のご命令次第で直ぐに動かなくてはならない大事なお体の身、本当は尊敬している貴方と行動出来るなんて夢のようなお話ですが、こうして泣く泣く断らせて頂いているんですよ!」
「え? 君、僕の事を尊敬していたの?」
「も、もちろんですとも! 貴方やイングラム様、それに我が主は私らの世代の魔族からすれば、雲の上のような存在、それもメナス様はあの当時の『リラリオ』の世界の『理』にある大半の『魔』の概念を御極めになられているのでしょう? 私も当時の『理』からなる色々な『魔』の概念について、相当に勉強をさせて頂いておりましたが、貴方の『魔』の概念理解度の凄さを目の当たりにしてからというもの、いつも舌を巻いておりました!」
そのルーヴァンスの言葉に大変気分を良くした様子で『メナス』は、ここでようやく満面の笑みを見せ始めるのだった。
「そうだったんだ! うん、君の能力の事は僕もよく知っているんだ! 君も僕には劣るけど、凄い優秀な『魔』の概念理解者だよね! よし、もう決めた! 僕も忙しいけど、君の為に一肌脱ぐ事にするよ! さ、早く『リラリオ』の世界に行こう、僕が何でも手伝ってあげる!」
にこにこと笑いながらメナスは、遂にそう言い切ってしまうのだった。
何度も来るなと遠回しに告げていたつもりだったルーヴァンスだが、彼の気持ちが定まった今では、もうそれも言えなくなってしまう。これ以上彼を遠ざけようとすれば、ここまで気分を良くしている彼の顰蹙を買いかねないからである。
「よ、よろしいのですか? う、嬉しいのですが……、シェイディ様やイングラム様もお困りになられるのでは?」
「……はぁ? お前がいちいちそんな事を気にする必要はないよ」
――瞬間、ルーヴァンスは目の前のメナスに鋭利な刃を突きつけられたような気がした。
先程の気分を良くして笑っていた時と全く同じ笑顔だというのに、その笑顔を見ているととても息が詰まるルーヴァンスであった。
「それで僕を連れて行くの? 行かないの? ハッキリ言葉にしてくれないと、分かんないんだけど?」
「お、お手数をお掛けしますが、お手伝いをよろしくお願いします! ずっと貴方と一緒に行きたいと思っておりましたぁっ!!」
そのルーヴァンスの言葉に、ようやく満足そうに頷いたメナスであった。
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