2390.続く違和感の正体とは
ミッシェルに『デス』の護衛を付けた後、カーネリーの時と同様にソフィは何かあれば『デス』を通じて報告をするように伝え終えると、ヒノエと共にミッシェルの部屋を後にするのであった。
彼を監視付きではあるが自由にした理由として、ミッシェルが自分に協力していた魔族『シェイディ』と連絡を付けると口にしたからであった。
他にもカーネリーがミッシェルを許すといったような発言を行った事も関係はあるのだが、それ以上に過去の『イツキ』や『ディアトロス』の言葉がソフィの脳裏を掠めた点が大きかったと言える。
『シェイディ』という魔族が、あのイツキを以てして殺されると思わされたというのが、ソフィにとっては相当に衝撃的な出来事だったようである。
「なぁソフィ殿、ちょっといいかな?」
ミッシェルの部屋を出たソフィが思案の海に潜っていると、隣を並んで歩くヒノエが声を掛けてくる。
「む? どうかしたか、ヒノエ殿」
いつものように笑みを浮かべながらではなく、神妙な面持ちを浮かべたままで前を向きながらソフィに声を掛けてきたヒノエに、真剣な様子を感じ取ったソフィは、こちらも完全に思案を止めて話を聞こうとする。
「実はソフィ殿が屋敷に戻った時に少し気になる事があってさ、あの部屋でアイツと二人になった時、あいつがこんな事を言っていたんだ……――」
ヒノエはミッシェルの部屋で『破壊神』の隣を歩く自分が、ソフィの妃になる予定のある女性だと街中で噂になっていたという話をソフィにも言って聞かせるのであった。
当然ソフィもこのリースの街では、ミッシェル以外の誰にもヒノエの事を紹介しておらず、ドナルダー商会でミッシェルの居る場所を訊き出した時にも、ただの一言もヒノエの事を口にしていなかった。
ソフィも直ぐにヒノエが感じた違和感にピンときたようで、彼女が何を言いたいかを理解し始める。
「ミッシェル殿は、有名人であるソフィ殿の隣を歩く女性が居れば、当然誰しもであっても噂にするだろうって言っていたんだけどさ、何だか私はそれだけじゃないような気がしてさ、まぁこれは単に私の『勘』に過ぎないし、ただの憶測だと言われればその通りなのかもしれないんだけど、どうにも違和感が未だに残り続けているんだよなぁ……」
『まぁ、別にそんな大した話じゃないんだけどさ』と最後に付け加えながら、そこでようやく笑顔を見せた彼女だった。
しかしその話を聞いたソフィは険しい顔を浮かべ始める。
「ふむ。違和感、違和感か……」
確かにミッシェルが口にしていたとヒノエが告げたように、単なる噂話だという可能性は高いだろう。
しかし彼女が感じたという違和感と似たようなものを、ソフィもつい最近感じた事があった。
――それは、ここに来る前のトウジン魔国の『冒険者ギルド』の中での事である。
ソフィがディアトロスと、ヌーについての話をしていた時の事。
ヌーがギルドの窓口に居る職員から色々とソフィの事を尋ねられて、彼が相当に機嫌を悪くする一幕があったらしいのだが、いつもであればそんな場面を目の当たりにすれば、直ぐに注意を行う筈の『アイゲン』が、冒険者ギルドの中で起きていた揉め事の仲裁を行っていた為に、その場に居なかったというのだ。
しかし先程も述べたように、ソフィもディアトロスもあの場所に実際に居たが、そのような揉め事を行っていた者達の存在に最後まで気づかなかったのである。
そして当然に一緒に来ていたイリーガル達も居た筈であり、魔族同士で揉め事があったのであれば、直ぐに九大魔王の誰かが気付いて止める筈であった。しかし実際には誰も止めるどころか、ヌーがアイゲンが仲裁を行っていたと口にするまで誰も気づかなかったという事に、あの時ソフィは違和感を覚えたのであった。
(……あの時、確かに我はディアトロスと真剣な話を行っていたが故に、気づかなかった可能性は多いに有り得る。しかし、今こうしてヒノエ殿が感じた違和感のある話を聞かされると、あの時に感じた我の違和感もあながちただの勘違いではなかった可能性もあるな)
別にソフィもヒノエも違和感が勘違いであろうとなかろうと、そこまで大きな問題だというわけではないし、単なる違和感で終えたとしても別に構わないのだが、どうにもこれをそのままにしておくのは良くない事だと、頭にいつまでも残り続けるのだった。
ヒノエは自分の感じた違和感を聞いた事で、彼が悩み始めたのを見て慌てて口を開いた。
「ソフィ殿、余計な事言っちまったみてぇで本当にすまねぇ! もしかしたらこの違和感の正体が何かの『魔法』のせいだったりするのかなって思って、ソフィ殿なら何か思い当たることがあるかもって軽い気持ちで言っちまったんだ! だからもう、直ぐに忘れてくれていいからさ!」
「ふむ……。直ぐには思い当たるものは思い浮かばないが、確かにそういったモノが使われた可能性は否定出来ぬな」
目から鱗だったとばかりにソフィは、ヒノエの言葉を受け入れるのだった。
「そ、そうかい? 何だか惑わせちまうような事を言っちまって申し訳ねぇ」
そう言って改めて謝罪を行うヒノエであった。
(我達はある程度の耐魔力を有しているが故に、直接攻撃をされても問題はあまりなく、むしろ直接攻撃を行われる事で攻撃を放った相手の居場所を割り出せたりと、逆に直接攻撃をされた方が問題の解決を早められたりしたが、確かにこうした攻撃を受けているのかどうかが分からずにいる方が不気味で困ると言えるな……)
実際に何かされていたのだとしても、その事に気づけないでいる事の方が、極大魔法や殲滅魔法といった破壊力に適した攻撃を行われるよりも、余程に嫌なものだとソフィは考えるのだった。
(確か過去にも意味合いが少し異なるが、死角を突くような面白い移動を行う魔族が居たな。確かあやつは自分の事を『魔術師』と呼んでいたか……?)
ふと、こういった違和感を醸し出すような動きを見せた魔族を『トウジン』魔国の闘技場で見かけた事があるなと思い出したソフィであった。
(ああ、そうだ。確かあやつは『レインドリヒ』と言っていたな。フルーフやレア、それにユファと同じ『レパート』の世界出身で組織の魔族に『呪縛の血』を用いられて、魂を死神に持っていかれたのだったか)
あえてレインドリヒの事を思い出させる必要は無いが、一度ユファと会って相手に『違和感』を与えるような『レパート』の世界の『魔』の概念技法はないかを尋ねようと決めたソフィであった。
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