2389.全て把握済みのリーネ
ミッシェルに護衛を付ける為、セグンスの外側の門から少し離れた場所に『高等移動呪文』で戻って来るのだった。
彼は皆が寝静まる夜中でもなければ、毎回こうして道行く者達を驚かせないように極力門の外に転移するようにしているのだが、今回はリーネ達に心配させないように、おやじが差し迫った状況にあった事を話さずに出てきていた為、顔を合わせないように戻る事が出来て良かったとソフィは考えるのであった。
今もリーネ達はソフィが『ルードリヒ』王国のエイル王の元に向かっている筈だと思っている為、驚かせないようにそっと庭に居るベアや『エンペラー』達の元へと足早にソフィは向かっていく。
すでにベアには『念話』で事情を話し終えている為、今頃は庭に居る配下の魔物達がソフィを見ても騒がせないようにしっかりと説明を行ってくれているだろう。いつものように配下の魔物達が、騒がずに居てくれる筈だと、ソフィは安心しきっているのであった。
そしてようやく、自分の屋敷に戻ってきたソフィは、庭に勢揃いしている『ベア』達の顔が目に入り、手を上げて合図を送ろうとしたソフィであったが、そこで『ベア』がソフィに向けて深々と頭を下げ始める。
「む?」
中途半端に上げた手を戻すのも忘れて、ソフィはその『ベア』から少し離れた縁側に『六阿狐』と二人でこちらに視線を送る『リーネ』の姿を視界に捉えるのだった。
「おかえりなさい? ルードリヒ王国に向かうにしてはえらく早い帰宅になったようね? エイル王と会うだけでもそれなりの手筈を整えないといけないと思ったけど、もう話も終えて戻ってきたのかしら?」
笑みを浮かべてそう告げるリーネだが、どうやら相当に怒っている様子なのが、いつものリーネらしくない棘のある言い方からも察する事が出来たソフィであった。
「いや、実はそちらはまだ向かっておらぬ……」
ソフィは出来るだけ『おやじ』の命が危なかったのだという事をリーネに聞かせないようにしようと考えていた為、この時も可能な限りは余計な事を言わないようにしようとしたのだが、今もずっと頭を下げ続けている『ベア』が再び目に入り、どうやらリーネに全て話したのだろうと何となくではあるが、理解をし始めたソフィであった。
ソフィもリーネが誰よりも感情の機微に聡く、また幼少期の環境のせいでそうせざるを得なかったという事を理解しているが故に、少しでも違和感を残してしまえばこうなってしまうと改めて感じたのだった。
「はぁ……。まぁ、貴方の事だから私に心配させないようにって『おやじ』さんの事を黙っていたのよね? とりあえずヒノエさんが一緒にいないところを見ると、色々と急いでいるところなんだろうし、また貴方が色々落ち着いてからゆっくりと話をしましょう。それで『デス』達を連れて行くんでしょ?」
「う、うむ……。これはとても必要な事なのでな……」
ソフィがそう言って視線を『エンペラー』達に向けると、すでにベアから事情を聞いて準備を整え終えていたであろう『デス』が、ソフィの一歩前へと出て来るのだった。
「『デス』、お主がミッシェルの護衛を務めるのだな?」
「はっ!」
「……すでに分かってはいると思うが、無理だけはせぬように頼むぞ?」
「御意!」
どうやらソフィが言わずとも言いたい事は理解している様子であり、あえてまた言う必要も無いと判断したソフィも頷くのだった。
「では向かうとしよう。リーネよ、戻ったらしっかりとお主にも説明をすると約束しよう」
「ええ、待っているわ」
「うむ。では六阿狐にベアよ、リーネを頼むぞ?」
「「お任せください!」」
長年共に居るような息の合った返事をするベアと六阿狐を見て、ソフィも笑みを浮かべるのであった。
「では、行って来る」
そう言い残してソフィは『デス』の肩に手を置いて、庭の中から『高等移動呪文』を発動するのであった。
…………
ヴェルマー大陸のセグンスから一瞬の内に、ミールガルド大陸のリースの街に戻ってきたソフィは、早速人型を取るデスと共にミッシェルの部屋に入るのだった。
「おかえり、ソフィ殿!」
どうやら部屋の中でミッシェルと雑談をしていたのだろうヒノエが、ソフィが部屋に入ると嬉しそうな顔を浮かべて立ち上がり、慌てて駆け寄ってくるのだった。
「うむ。すまぬな、少し色々あって遅くなってしまった」
「いや、それは構わないんだけど、えっとこの子は、庭に居た『デス』っていう鳥の子だったよな?」
ヒノエは隣に立つ人型の『デス』を見て、あれほど多く居る配下の魔物達の一体である『デス』の事を直ぐに言い当てたのだった。
「はい! その通りです、ヒノエ様。覚えて頂けていて光栄です!」
「え、あ、ああ……」
デスもヒノエがソフィの婚約者だという事を存じており、リーネと同じ未来の妃であるヒノエに恭しく礼をするのだった。そしてヒノエはあまりにデスが下手に出てくる事に驚いた様子であり、思わず言おうとしていた言葉が出てこなくなるのだった。
ソフィは互いの様子を見届けた後、視線をミッシェルの方に向けて口を開く。
「今後こやつがお主の護衛を務める事になる『デス』だ。何かあればこやつを通して我にも連絡を行ってくれ」
「りょ、了解した。よ、よろしく頼むよ」
デスは自分に向けて差し出してきたミッシェルの手を直ぐに取ろうとはせず、じっとその手を眺め続ける。
(ベアから聞いておるとは思うが、ひとまずはこやつの出方を色々と見る必要がある。何かよからぬことを企んで居れば直ぐに我に伝えるようにな)
(御意! では、それまでは協力的な態度で接するようにします)
(うむ、頼んだぞ)
(はっ!)
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ソフィからの『念話』を受けた後、デスは眺め続けていたミッシェルの手を自ら握りに行き、無事に握手を果たすのだった。
「あ、ああ」
ミッシェルもほっとした様子で胸を撫で下ろして、改めて護衛を務めてくれるデスに笑顔を向けるのであった。
……
……
……
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