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肉体の無い主人公が神様から肉体を貰う為にがんばります!(旧:肉体の無い英雄譚)  作者: 紅 時雨
第2章 AGO1500年前~勇者編~
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第54話 御前試合第一試合

お久しぶりです。


御前試合第一回戦始まりです!

『エインズワーグ勇者選定御前試合!』


 冒険者ギルドの前、国に出入りするための入出門がある広い広場がその会場であり、誰ともなくエインズワーグ国民の有志達が集まりその幕を大々的に国を囲む城壁に掲げた。


 立ち寄った商人も元からいる商人も、皆一様に稼ぎ時を見極め露店を展開している。


 その中でも群を抜いて大規模な展開を行っているのはもちろんグレイラット・ヒースクリフと言う自慢の一粒種を輩出したノイマン商会だろう。


 現に出している商品のほとんどがグレイラットに縁のある、悪く言えば名前だけ借りた商品なのが残念であるが、彼の実力を知っている者達はその力にあやかろうとこぞってお金を落としていく。


「息子様々ですな」


 ノイマンは定期的に送られてくる売り上げに顔を綻ばせながら隣に立つ女性、アリシアに視線を送った。


「旦那様が鍛えた子ですから。それくらいの人気が出るのは当然のことです」


 アリシアは今回ノイマンと共に御前試合にVIPという扱いで招かれている。


 国を上げて盛り上げている今回の御前試合。それに勝ち残る者達の中で、呼べる者達はみな同じような待遇で歓待されている。


 アリシアはいきなり訪ねてきた王城からの使いの言葉に驚き、接点のある貴族であったアリサ達に、御前試合の間だけでいいので共に観戦してはくれないかと持ちかけたのだ。


 元々別枠で御前試合には出るつもりであったので、アリサを王の護衛役に、アリシアを何かあった時のサブとして、王が眼の届く範囲に常に入るようノイマンと共に席取りを配置した。


 比較的王が身近に感じられるためか、ノイマンは終始緊張しているようだ。


「落ち着きなさい。グレイラットが来る前に心労で倒れますよ?」


 魔法を使用し、グラスを冷やして水を注ぐ。


 それをノイマンに差し出しながら呆れた顔でアリシアは告げる。


「んぐ、ぷはっ!すまないなアリシア殿。解ってはいるんだが、あくまで私は貴族でもない一商人だからね。本家の人達に後でなんて言われる事やら」


 元々貴族であったノイマンは恐らく来ているであろう親類がもし自分を見つけたのならと考えたのか震えている。


 決してグラスの水が冷たく、トイレが近くなったわけではないはずだ。


 アリシアはため息をつきつつ試合が行われる闘技場へと視線を移す。

 

 周囲にいる国民達から一斉に歓声が沸き起こる。


 御前試合に出場する者達が姿を現したのだ。









 大歓声の中、八名の男女が闘技場へと姿を現す。


 皆一様に落ち着きを持ち、中には民衆に対しアピールを施す者もいる。


 アリシアはその中にいるグレイラットとミリアリアの姿を見て軽く目を細めた。


 どうやら二人とも精神や肉体的に疲労や緊張があるようには見受けられない。


「ノイマン殿。御子息が出てきましたよ。応援なさらないと」


アリシアの言葉にノイマンがグレイラットを見やれば、向こうもこちらに気付いたようで軽く手を振ってこたえていた。


 ノイマンは心配そうな顔をしながらも嬉しそうに両手を振ってこたえ、アリシアは軽く頷く事で返答とする。


 すぐ後ろに並び立つミリアリアに視線をずらせば、あちらもこちらを見返し軽く首を振ることで返答とした。


「あのお方ではない…ですか…」


 隆一が消えてから十年がたつ。


 噂もなく気配もない。


 ただ彼がそこにいた痕跡だけがこの国にある。


 またいつの間にか帰ってくるものだと信じて、彼女達は国から離れず彼の帰る場所を守り続けてきた。


『正体不明の冒険者』


 御前試合に出場する人の中にいて異質なその人物が彼なのではないかとミリアリアは彼の素性を知るべく近づいたのだが、残念ながらその正体までは知ることができなかった。


 気配も背格好に立ち振る舞いのどれをとっても彼とは違う。


 断定できる明確な理由はないが、ミリアリアの中では彼が違うという結論に至った。


 ならば彼は誰なのだろう? 少なくともグレイラットと近しい実力は備えているように感じられるが底が見えないのも事実。


 考えていてもらちが明かない。


 かわいい子供達を屋敷に置いてきているのでなるべくなら早く戻りたいのも事実。


 守る者が増えたと。そう感じられるようになったのは彼がいなくなった後からだったな。


 失ったモノの大きさを嘆き、残ったモノの暖かさに触れ、私たちは今ここにいるのだ。


 視線を戻し御前試合に臨む者たちを観察する。


 実力的には皆並みいる冒険者達を退けてきただけの事はある実力者たちだ。


 本来なら彼を探す一助になればと志願しようとも思ったのだが、やはり子を置いて離れる事は出来なかった。


 これを弱くなったと嘆くべきか、守る者ができたと誇るべきか。


 旦那様ならなんというだろう。


 きっと誇れ、胸を張れと笑う事だろう。


 全員の紹介が終わり、各々が控室へと戻る中、正体不明の冒険者がこちらへ視線を向けた気がした。


 フードを目深にかぶっていたせいで顔は解らないがこちらへ向けられた視線は何かを確かめるようにも思えた。


 しかしそれも一瞬、すぐに視線を戻すと皆に紛れて控室へと消えていく。


「第一試合は我が国の宮廷魔術師筆頭であるアロウリト・リヒター!」


「対するは魔術国家ステイメンからやって来たAランク魔術師。『シュテルン・リッター』のライオネル・サンダースだ!」


 名前の紹介と共に本人二人が壇上へと再度姿を現した。


 アリシアはアリサと共に壇上の二人の実力を遠目に図るが、リヒターは元々隆一の下で働いていた魔術師で二人とも良く顔を合わせていたので実力は知っている。研究肌の女性だが気の強さと隆一に近づくため、無詠唱とまではいかないものの独自に編み出した『短詠唱』という必要最低限の言語と魔導書を持って行使する魔術は隆一すら舌を巻いていた。


 相手側のサンダースは魔術師とは思えないほどに筋骨たくましく、昔見た事のあるあの豚野郎マロデブよりかは実力はありそうだ。


 魔術と武に優れている冒険者は総じて実力が高い。


 どちらか一辺倒だけ鍛えていたのでは必ずどこかで頭打ちになるからだ。


 魔術ならば魔力量の関係で行使できる魔術の回数に限界が、逆に近接戦や物理に頼った戦いでは物理耐性が高く魔術耐性の低い相手に手が出せない。


 パーティならばそこら辺を補えるだろうが最低限の力は持っていて損はないというのが隆一が言っていた冒険者と言うものだった。


 ゆえに二人とも双方のバランスを考えつつも両者ともに鍛え上げて実力を付けた。


 目の前のサンダースも似たような形で鍛え上げた部類だろう。


「もやしっこみたいな嬢ちゃんが相手とは。身体動かすよりも頭動かす方が得意な達か?」


 サンダースの言葉にむっとしながらもある程度は当たっているためにリヒターは声を上げなかった。


「両者正々堂々と戦うように!」


 中央に立つ審判役の近衛騎士の言葉に両者ともに睨みあいながら各々の獲物である魔導書を取り出す。


「それでは御前試合第一回戦…初め!」


 次の瞬間そこにいた近衛騎士は天高く舞い上げられていた。


 双方が瞬時に魔術を発動させ打ち出したからだ。


 発生させたのは風の魔術。


リヒターの「風発!」という掛け声に一歩遅れる形でサンダースの「来たれ風よ!」という言葉が続く。


 どちらもアレンジさせた風の魔術を起動させ、試合場に荒れ狂う暴風を生み出した。


 観客が手に持っていた荷物などが風にあおられ空に飛び、アリシアとアリサはとっさに周囲に対して風の壁を発動させることで対抗措置とした。


 わずかに発動が早かったリヒターの魔術が、サンダースの放つ風をわずかながらに押している。


 そのせいで両者が離れるのはある種必然であった。


「くそが!なんだその魔術は!」


 魔術のぶつけ合いでは勝てないと見切りを付け、早々に逸らす方に全力を注いでサンダースはリヒターに吠える。


「だけどこちとら場数は踏んでんだ!冒険者なりの魔術ってもんを見せてやるよ!」


 おもむろに魔導書を持つ手とは逆の手をポケットに入れて一枚の紙を取り出した。


「付与術!加重化!」


 手に持つ紙に魔力を流して術式を発動させると持っていた紙が光り燃える。


 そして今まで踏ん張っていた身体の力を抜いて自然体で身を起こした。


 いまだリヒターの風は吹いている。それはサンダースの服や髪がはためいている事からも解る。だというのにそれを気に留める様子もなく自然体で立っているその姿を見てリヒターは思わず魔術の発動を止めてしまった。


「おっ止んだか。嬢ちゃんにしては強い魔力量だな。宮廷魔術師筆頭っていうのも頷けるが、所詮は知識肌。実戦を積んでる冒険者の、更に一流どころである俺とやり合うには経験が足りてないぜ?」


 この御前試合、四角い石造りの盤上で戦うため場外負けというルールが存在する。


 もちろん『試合』ではなく『死合』ならばそんなルールは関係なく殺すか殺されるかだけなのだが、さすがに国民の見ている前で人殺しをさせるわけにもいかない為こういう手段を講じている。


 先手でリヒターは相手の準備が整う前に一気に場外へ吹き飛ばそうと考えていたのである。


 それは彼女がサンダースの言っていた通りに研究肌の人間であり、運動技能が今回の参加者の中で一番低いと自覚しているからである。


魔力量だけが取り柄だった彼女は、隆一からその才能を見いだされるまでは図書館で司書として働いていた経歴を持つ。


 そしてサンダースは最初の風の魔術の起動の速さを警戒してか武器を構えた状態から動こうとしない。


 リヒターは動かないサンダースの姿を見て司書の頃に培った書物から対抗できる知識を必死に割り出す。


『先ほどの風の魔術の途中、彼は何かを取り出した。そしてその後足が地面に吸いついたかのように余裕な顔で対抗魔術を解除していた。あの時取りだしたモノは何だった?』


 思考に意識を割いていたリヒターは、不意に飛んできたそれに気づくのが遅れた。


 ガシャン!という音と共に辺りに巻かれたモノは何か異臭のする液体。


 その液体は瞬時に揮発し彼女へ悪臭を放つ。


『これは揮発油!くそ!火属性の魔術を封じられた上に呼吸を封じられて詠唱も!』


 鼻につく刺激臭にとっさに袖口を口に持っていく。そうすることで一時でも彼から意識を逸らしてしまった。


「今だ!滾れ炎熱の魔弾!フレイムバレッド!」


 サンダースは彼が放った極めて揮発性、引火性の高い油により彼女の意識が逸れたのを見逃さず、火属性の魔術を放つ。


 それは狙い違わず彼女へと迫り、揮発していく油へと引火、爆発を引き起こした!


 揮発油の黒煙と赤い炎、そして周囲に巻き起る爆音と刺激臭を伴う風。


 だれもがその光景に目をつぶり、サンダースも爆風から顔をわずかに逸らしつつも警戒を怠らずに爆発した箇所を中止する。


 不意に風が巻き起こり、爆発の煙が霧散した。


 風の中心には黒く煤けた姿のリヒターの姿。


 とっさに無詠唱で簡易的な風の魔術を放ったようだが、爆発の余波を防ぎきれず衣類はボロボロ、女性ゆえに羞恥心で局所を軽く手で覆い隠している。


「油断しました。やはり実戦経験の差というものは如何ともしがたい…」


 荒く息をつくリヒターは、魔導書を手になおも戦闘を継続する姿勢を見せる。


「女だてらにその威勢や良し!もうちょい経験を積んでから挑戦してきな!」


 サンダースは腰から剣を抜くとポケットから一枚の紙を取り出し握りつぶす。


「付与術!怪腕!」


 術式が発動し紙が燃え腕に魔力が流れる。


「悪いが次で決めさせてもらう!」


 リヒターは彼が握りつぶし、告げた術式の名を聞いて先ほどのサンダースの不可解な行動に見当がついた。


「まさか戦闘中に付与術式を…」


 予め魔力を込めた紙に術式を刻み、魔力を流しながら術式を発動させるモノを付与術式と呼び。魔導書の様に永久に使えるものではなく、一時魔導書を超える性能を持てる代わりに使い捨てと言う使いどころを選ぶ物だ。


 今回の様に要所ごとで使い分けているサンダースはそういった事に才能があるのだろう。


 もしくは長年培ってきた冒険者としての経験だろうか。


 リヒターは付与されたサンダースの腕を見て軽く喉を鳴らす。


 効果時間が短い分与えられる恩恵は相当なものだ。


 今ならば鉄の剣すら彼は素手で受け止めねじ切るであろう。


 そしてその力は今現在自分へ向けられている。


 リヒターは魔導書に手を当て術式を発動させる。


「突!地!槍!」


 わずかに発せられた単語が術式とリヒターの思考を魔力を通じて発現させる。


 地面からサンダースへと向けて次々と石で作られた槍と棘が突っ込んでくる。


「しゃらくさい!」


 それらを術式が付与されている腕で殴り壊し前進する。


「凍!地!壁!」


 再度告げられた言葉。


 地面が即座に凍りつき、彼女との間に透明な氷でできた壁が立ちはだかる。


 気温と湿度を支配し試合場を極寒の場と化したリヒターは更に魔術を開始する。


「我が魔力を用いて渦巻きうねり舞い踊れ!荒れぶる暴風一陣の槍と生せ敵を討て突き進め!ウインドランスぺネトレイト!」


 氷の壁を破壊して突き進むサンダースに向かい再びの豪風が襲いかかる。たたらを踏み付与された力で剣を地面に突き刺し対抗する。


「くそが!怪腕使用中は他の付与術は使用できんし加重はもうない!奴の魔力が尽きるまで耐えるしかないか!」


 歯を食いしばり抵抗しているが、刺した剣毎徐々に後ろに下がり始めるサンダースの姿に場外で観戦をしている国民は沸き上がる。


『くそ!もう少しであの位置まで押し込める!』


 歯を食いしばっているのはリヒターも同じだ。


 術式を省略せず自分の渾身の魔力を込めて打ち出す全力の風魔法。


 試合の最初に放った風魔法との違いは魔力量だけでなく指向性の有無。


 そして試合に勝つための下地作りだ。


 相手の男も言っていた。私には冒険者として培ってきた経験値はない。


 しかし隆一と言う名の理不尽を前に宮廷魔術師として今まで頑張って来たのだ。


 魔術理論と戦術理論は隆一が今までに提出していた論文を読んで暗記している。


 勝つために必要なのは時と場所と後は殺す覚悟だけらしい。


 そしてそのうち殺す覚悟はこの試合には必要ない。そして時は作った。


 場所も作成した。


 あとは殺意に変わる意地だ!





 そして時は来た!


 地面を凍らした。それは壁を作るのとは違い本来なら必要ない事だ。


 そして壁を作り注意をそこに向け地面まで凍らせた事に注意を向かせない。


 次いで放つ全力の風で相手を縫いとめる。


 先ほどまでの動かなくなる付与術はすでに効果が切れている事を期待している。と言うよりも放った直後に剣を地面に突き刺したので賭けには勝っている。


 背後にはつるつるの氷の床。そして豪風。ここまでお膳立てしたならば後は相手の自滅を待てばいい。


 私の魔力が切れるのが早いか相手が足を滑らして場外へ落ちるのが先か根競べだ!


「ぬおっ!」


 足を滑らし持った剣毎すっぽ抜けて後ろへ倒れ込むサンダース。


 そのまま風に吹かれて上手い具合に場外へと滑っていく姿に会場が更に熱くなる。


「このまま恥ずかしい負け方してたまるか!」


 滑りながらも腰に付けていたダガーを地面に突き刺しギリギリのところで地面にへばりつく。


「へへ!さすがに魔力も限界だろう!これで俺のか…ぐぺっ!」


 顔を上げたサンダースは、目の前に迫る細い脚を見た。


 二枚目ニヒルなその顔をリヒターの足が綺麗に蹴り抜いた。


 思わず手を離したダガー。仰け反る顔と身体。どさっという音と共に地面に落ちたサンダースはまぎれもない場外。


「別に体術の一つや二つ出来ない訳じゃないのよ!」


 威風堂々と魔力切れでつらいはずの身体を奮い起してサンダースへ言葉を放つ。


「ライオネル・サンダース場外!勝者!アロウリト・リヒター!」


 初戦で辛くも勝利を収めたリヒターに観客は惜しみない拍手を。


 そして控室では彼女達の戦いを見て自分の戦闘をどう組み立てていくのか各々考えていた。


 御前試合はまだ、始まったばかりである。







お久しぶりです。月末に夏休みが取れそうなのでそこらへんでまた更新できたらと思います。

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