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肉体の無い主人公が神様から肉体を貰う為にがんばります!(旧:肉体の無い英雄譚)  作者: 紅 時雨
第2章 AGO1500年前~勇者編~
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第53話 三人の夜

お久です。

他連載と同時更新です。

ぜひ一緒にご覧ください!

 御前試合。


 かつてリューイチと言う宮廷魔術師がクロムベルトの前で溢したインターハイや武道大会等の試合企画がごちゃ混ぜになった試合。


 殺す事を主眼に置いた『死合』ではなく、己の技術の見せ場となる『試合』


 もしくは『仕合』ともとれるが、かの宮廷魔術師は


「まぁ技術見れるし?それなりに光る物あれば引き抜きもできるし?ついでに金取れば国民に娯楽、国に潤いをもたらす。大会運営だけは面倒だがやれば場所代くらいで基本は自己責任で黒字運営でWIN-WINじゃね?」


 という言葉にクロムベルトは当時その内容を一考する事にした。


 そして現在、実現できた御前試合という名のイベントに、大会会長と言う名を冠した王族席に座りながらクロムベルトは横に座る財務大臣と宰相と言葉を交わしていた。


「では今回の試合における集客率と経費、そして国民から閲覧料として入る大体の収支報告がこちらになります」


 財務大臣から渡された書類に目を通せば、額こそ大規模ではないがある程度国庫を潤す事ができる数字が書かれている。


 今のご時世で国民も細々とした生活を余儀なくされ、物価も上がり治安も悪化、悪いこと尽くめで鬱憤も溜まっているだろう。


 今回の試合で多少なりとも民の気持ちが前向きになれば良いのだが。


 クロムベルトは今回の試合に関し、ある程度の優勝候補を予測し終えていた。


 その中でも最有力なのがかつてリューイチに師事を受けたというグレイラット・ヒースクリフ。


 彼が群を抜き実力に差があるのは見知っている。


 そして彼以外にも今回の試合には年齢で出る事が叶わなかったが、幼少の身ながら破格の強さを持つアリサ・ミズーリの息子『オニキス・ミズーリ』と同じくアリシア・ミズーリの娘『ラピス・ミズーリ』

 そして我が妹ミリアリアもリューイチとの子を授かっていた。

 身分違いの婚約にして共になる事叶わず、リューイチはミリアリアと結ばれた数日後にその姿を消した。

 ミリアリアの娘『アルトリア・エインズワーグ』は白き魔力を纏って生まれてきた。

三人共、生まれた当初からあふれ出る魔力を制御してのけた正に逸材。


 もう少し時に余裕があればグレイラットと共に魔王討伐の任に着かせたものを。


 しかし、彼が残した種を戦いに赴かせるのはとも思う。


 子供にすがるのではなく、大人が解決して後の世の子供らにこう言うのだ。


『私達はここまでやった。後はお前達が切り開く番だ』と。


 しかし時はそれを許さず、今最前線では質も量も欲しがっている。


 少数精鋭による魔王討伐への一点突破。


 リューイチが残した手記には地脈の先に魔王と魔王を生み出す存在がいると書かれていた。


 世界に張り巡らされている地脈、もしくは龍脈と呼ばれるパワースポットは強大な魔力を有し、それに長時間晒されたものは強大な力を得られるという。


 かつての湖龍のように遺跡の主の上にその力を手にした強大な存在はイレギュラーだとしても、あれほどの存在を生み出してしまう魔力の源泉ならば魔王という存在を生み出すのも納得できてしまう。


 だからこそさらなる強大な存在が出現する前に潰しておかなくてはいけない。


 もうあの英雄はいないのだから。


 暗くなる気持ちを振り払い、クロムベルトは試合が行われる壇上を見つめる。


 手元には国内で行われた事前の試合で勝ち残った8名のリストと簡単な経歴を載せたプロフィールがある。


 まず隆一の指南を受けていた男性『グレイラット・ヒースクリフ』。使用するのは剣術と魔法。隆一の師事を受けていたとあって彼を知る者達の中では一番の優勝候補である。


 そして隆一のいなくなった後、宮廷魔術師の座を勝ち取った魔術師の女性『アロウリト・リヒター』使用するのは魔術全般。

 どちらかと言えば知識肌の人物であり、理論然とした思考の持ち主だ。本来こう言った剣術魔術が入り乱れた場に出るような性格ではない人なのだが、本人曰く「あのリューイチが師事したという少年を倒せば間接的にとはいえあのリューイチに近づく事ができるまたとない気かでありますから」という自己顕示欲でこの大会に参加してきている。


 元Aランク冒険者で現在は隠居して冒険者の剣術指南を行っている男性『バルデロイ・ロックハート』。使用するのは剣術のみ。

 本人もアロウリト・リヒターと同じでリューイチの師事していた子と一戦交えて見たいと言う理由からの参戦だった。なんでも以前軽くいなされたらしい。


この3人に対してはエインズワーグからの出場と言うだけあって国民の期待は高い。しかし3人中2人がグレイラット狙いなのはどうかとも思うが。あくまで勇者の選定なのだがな…


 軽く吐息をついて再び視線を落とす。

 

魔術国家ステイメンからやって来たAランク冒険者にして赤縁の魔術師で歪曲の二つ名を持つ男性『ディビジョン・ワンダー』。使用するのは剣術と魔術、そして血統魔術と書かれている。詳細は不明


 湖底遺跡近郊の国ステインからは『ウインド・ミル』の後釜としてAランクの地位を築いている『シュテルン・リッター』と呼ばれる冒険者グループ、そのリーダーである男性『ライオネル・サンダース』。使用するのは魔術全般。


 隣の大陸からやって来た獅子の獣人族女性『レイア・ガール』。使用するのは徒手空拳。


 この3名は国外からの参戦者だ。上二人は他国からの回し者の気配がするが、レイアという獣人族の女性は武者修行と言う旅の途中らしい。なんでも腕試しに来たと言っていたそうだ。


 その下には私の妹である『ミリアリア・エインズワーグ』の名前。使用するのは剣術。なぜか国内から出場する3人とは違い、王城から出場を考えていた全員を倒しての出場だ。つまりある意味国の代表ともいえる。


 そして一番下には全ての項目が『詳細不明』と書かれた人物。


 唯一使用しているのが剣術と魔法。とだけ書かれている。


 そう。グレイラットが隆一の指南を受けているのなら魔術ではなく魔法を使用しているのも納得できる。


 他の御前試合出場者で魔術を使用する者は魔道書ないし魔導書を持っているのが普通。


 グレイラットでさえ高度な術は隆一作成の魔導書を用いないと発動できない。


 しかしこの人物に限っていえば、近接戦の最中に無詠唱、魔導書なしで術を行使していたと記録にある。


 ゆえに『魔法』。


 脳内で術式を構築し何かしらの媒体を介して術を行使している。


 国内でも隆一、または赤縁のAランク冒険者。それか魔術に特化した一握りの人材しか成しえない極致の領域に踏み込んだ者。


 目深に被ったフードに素顔を晒さない為の無色の仮面。


 クロムベルトは脳裏に隆一の姿を想像してしまった。


 彼が生きて帰って来たのでは?


 思わずそう考えてしまうほどにこの人物の存在感が突き抜けていた。


 しかし、ならば…?


 なぜ彼は堂々と姿を見せない?


 生存を確認したい人物は山のようにいる。


 彼だって好いた人物がいれば第一に顔を出すだろう。


 しかし誰からもそういった話は聞かないし目撃情報も上がってこない。


 リストから得られた情報は最終日にふらりとやってきて王城に集っていた受付待ちの他の区画からの猛者全てを鎧袖一触に薙ぎ払い勝利を収めたという記録だけ。


 本来ならもっと人数がいた筈の登録者が少ない理由がこれだ。


 他の出場者を再起不能にしてからの御前試合への挑戦権獲得。


「もしも『彼』ではないのなら空恐ろしい実力者だ」


 隆一に比肩しうる可能性を秘めたその人物にクロムベルトは知らず身が震えるのを感じた。


 そんな彼の思考を他所に、御前試合の幕が切って上がる。




 初日は御前試合の開催と試合形式の説明、そして集まった選手の紹介。最後に組み合わせの抽選を行って終了の運びとなった。


「やはりその正体不明の出場者の身元は解りませんか…」


 リューイチの屋敷にて、ミリアリアとアリサ、アリシアの3人はお茶を飲みつつ出場する人物のリストを見ながら世間話に興じていた。


 見目麗しい3人の女性がテーブルを囲んでお茶をしている姿は絵になるが、纏っている空気は不穏そうな事この上ない。


「ラト達も情報を収集しているようですが今のところ成果はありません」


 隆一と共に情報戦を繰り広げてきた軍隊鼠が何の情報も得られない。


 半数以上が上位個体へと進化を遂げた軍隊鼠はその能力をこの10年間で飛躍的に上昇させている。


 それでなお得られない相手だとすると。


「魔族…?」


「魔王の手の者という可能性も否定できないのが…」


 いっそ派手に正体を晒して暴れてくれれば良いものを、この御前試合に乗じて接近を許してしまっては一気に国が危うくなる可能性もある。


 しかし証拠もないのにいきなり捕える事も出来ないし、何より並みいる出場者を一蹴した実力があると知れれば迂闊に手を出す事も出来ない。


「明日から始まる御前試合は万全を期した警備体制を敷くのはもちろんですが、出来れば王の側役の護衛として貴方方二人を元Sランク冒険者として雇いたいのです」


 Sランク冒険者と呼ばれた二人は表情には出さないもののミリアリアの申し出に難色を示す。


 すでに冒険者としては引退した身であり、ミリアリアと違い魔術の基礎訓練などは怠っていないものの実戦からはしばらく遠ざかっている。


 それに何よりも二人の子供を残して離れると言う事自体がなるべくなら避けたい事態でもある。


 ミリアリアも自分の子供もいるのでこちらの気持ちも理解はしているはずだ。


 それでも彼女が頼まざるを得ないのだとしたら、同じ人を愛した者として首を縦に振らざるを得ない。


「他ならない貴方の頼みです。本来なら実戦から遠のいた身としては断りたいのですが…」


「姉ともども明日から急遽と言うのはさすがに…勘を取り戻す時間が足りません」


 二人の言葉にミリアリアは軽く手を叩く。


「御呼びでしょうか?」


 現れたのは一人のメイドそして


「久しぶりだなアリサ、それにアリシアも。4年ぶりくらいか?っと敬称付きで呼ばなくちゃ無礼かね?」


 大柄な熊の獣人族の男性。


「レイモンド!? 今までどこに?」


 かつて共にリューイチの奴隷として助けてもらい。その後は共に屋敷の使用人として暮らしてきた友であり戦友であり同僚だ。


 4年前に遺跡に籠ると告げて行方をくらましてから音沙汰なしの状態が続いていたので、すでに遺跡か魔族の軍勢にやられたのではないかと思い始めていた。


「彼はついこないだまで私と共に周辺の遺跡を探索するのに同行してもらっていました。今更紹介の必要はありませんね?そしてこのメイドが」


「初めまして。冒険者ギルドのギルドマスター。アーカード・マクシミリアンの妹『クリスティアーネ・マクシミリアン』と申します。我が愚兄が色々とご迷惑をおかけしておりまして心苦しい限りです」


 メイドらしく深々と自己紹介をする彼女の所作は、アリサ達をもってして完璧たらしめる動きだ。


 ダンケの元で修業をしてきた者達にとっての完成系と言っていいほどだろう。


「彼女は元は母の近衛兼専属メイドだったのだが、父の退位と共に母が私の傍付きに付けてくださったのだ。実力はそうだな。君達が初めてあったころのリューイチを地下通路で追い返すくらいの実力はあるよ?腕もその頃から更に磨きがかかっているからな」


 誇張が過ぎます。と告げているが、確かに二人から見ても実力はかなりの者と言える。


「そしてこの二人に手伝ってもらい、私の鍛錬を兼ねて貴方達二人の戦闘の勘を今夜中に取り戻してもらいたい。報酬は旦那様に繋がるかもしれない情報でどうだ?」


 ミリアリアの告げた言葉に二人は軽く目を見開いて動揺を表す。


「私とて無意味に遺跡を探索していたわけではない。リューイチがいなくなる前まで各遺跡を調査していたのは知っているだろう?そこで彼の者と思われる筆跡をいくつか発見した。役立つかどうかはわからないが、君達が持つ彼から託されたモノの一助になってくれればと思う」


 ミリアリアは二人の了承の返事を聞き、満足そうに頷くと揃って椅子から立ち上がる。


 訓練を行うのは中庭。紅には悪いが少し場所を借りる形になる。


「すまない紅。クリス悪いが紅にあれを」


 クリスティアーネがレイモンドと共に運んできたのは大きく実ったジャイアントポテト。


 場所を借りる代わりの代金と言うわけだ。


「悪いが庭を借りている間の料金だ。城壁の外でしばらく喰って待っていてくれ」


 ミリアリアの言葉に頷くと芋を咥えて飛び立っていく。


 紅がいなくなり広くなった庭で、戦闘服に着替えたアリシアとアリサは三人と対峙する。


「さて、では始めようか?」


 長い夜が始まった。








お久です。


他連載と同じく少しずつ書いているので気長にお待ちいただけると幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

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