第52話 御前試合前哨戦
おまたせしました。
割とPCに触る時間がとれず更新が遅れて申し訳ありません。
クロムベルトの提案した連合軍へ差し出す勇者の選定。
強者を選抜するための大会は大々的に告知され、その勝者の待遇が周知されるとエインズワーグ各所から腕自慢の者達が参加の名乗りを上げてきた。
国に仕えるのが嫌で冒険者に身を落としていた元騎士達も、冒険者稼業でその名を知らしめた者たちも、一般の民も商人も誰もかも。
参加資格は問わず、年齢も問わず。
腕に自信がある者は軒並み参加を希望した。
もちろんそれだけの人数を全て見ることなどできないので期限を設け、クロムベルトや大臣たちが協議した内容で試合を行い勝ち残った上位者がクロムベルトの前で御前試合を行う事ができるというものだった。
もっとも、これは以前に隆一が話していた『インターハイ』なる大会に習って考えたものなのだが。
無論勝ち上がるために手段を問わない者もいるだろう。
金、暴力、闇討ちや毒の類まで……。
しかし彼らには頼れる相棒達がいた。
「「「「「ちゅ~っ!」」」」」
かつて隆一と共に情報戦をやってのけた軍隊鼠。
いまやかつての倍以上の数になった彼らをラトが制御し、国の内外問わず精密な情報を得る事が叶うまでになっていた。
それらの力を遺憾なく発揮し、不正を罰すると共に、悪の根を絶やし真に強者だけを抜粋していく作業に、大会の運営に抜擢された大臣は泣き笑いで仕事をするのであった。
「勝者!グレイラット!」
とある商館の前で開かれた前哨戦。
一人の青年が徒手格闘のみで身の丈ほどもある大槌を振り回していた巨漢を殴り倒していた。
周りで見ていた観客達も、青年に向かって振りおろされた大槌をその青年がやさしく手で押しとどめたのだけ理解できた。
そこから先は青年の身体がブレて視認ができなかった。
恐らく軽く跳躍したのだという事は解る。
そして手が大槌から離れてまた置かれた。
次の瞬間には大槌を持っていた男の顔は窪み、拳の跡が残っていた。
大槌はそのまま青年が片手でつかんだままそっと地面に下ろす。
置いた瞬間少し石畳が歪んだ事からして相当な重さであった事が解る。
それを振り回していた男を一撃で倒す青年。
名を『グレイラット・ヒースクリフ』
かつて隆一の元で更生され、その終盤で隆一が消えたため以後の引き継ぎを当時隆一の屋敷で警備の長を務めていたレイモンドが務めた結果、立派な筋肉が出来上がった。
もちろん魔術や算術、礼儀作法もアリサ達が続けてはいたのだが、戦闘スタイルはレイモンドの色が強く残り、肉弾戦と隆一の剣を使ったスタイルが半々になっている。
しかも魔術を使わせたら当時のアリサ達を超えるレベルの魔術量を見せつけたため、制御がうまくなるまでは使用しないようにとアリサ達に封印指定までされていた。
隆一が後の勇者とまで謳っていただけあり、その実力は折り紙つきで、他の追随をまったく許さない。
今倒した男も別の地区で名を馳せた実力者だったはずだが、なすすべもなく沈黙している。
そんな彼の意識を覚醒させると穏やかに手を差し伸べる。
「かなりの力強さだ。魔力強化をしていなかったら潰されていた。」
力強く起こされた男は、グレイラットの言葉に「嘘つけ」と苦笑しながら固く握手を交わす。
現に今男は全力でグレイラットの手を握り込んでいる。傍目には解らないほど全力でだ。
しかし、グレイラットはその上で笑みを絶やさずにいる。
「完璧に負けたよ。あんたが最強だ…」
やがて根負けしたのか男は頭を掻きながら床に置かれた大槌を担いでその場を去っていった。
去り際に「また鍛え直しかぁ」と呟いていたのをグレイラットは聞き取ったが、あえて何も言わなかった。
「どうやら無事勝てたようだな」
広場も落ち着きを見せた辺りでグレイラットに声をかける人物がいた。
以前に比べて大分老けこんではいるが、グレイラットの父『ノイマン・ヒースクリフ』は、勝利を祝うために店から出てきたのだ。
「まだ商業地区のトップになっただけです。これから王城で行われる御前試合のための申請に冒険者ギルドへ向かおうと思っています」
グレイラットが告げた言葉に、嬉しそうな半面さびしそうな表情を見せたノイマンに、グレイラットは申し訳ない気持ちになる。
商家の息子、それも優秀な人間に育てくれたのはうれしい。
しかし、彼の進もうとする道は戦道。
それも訓練などではないまさに生きるか死ぬかの実戦である。
ノイマンはメキメキと実力を付けるグレイラットを見ていると、あの時隆一の元に行かせなければと考えてしまう。
素行の悪さも本来なら私が矯正させなくてはいけなかった。
本来なら全て私の不徳が招いた失態の筈だった。
懇意にしているからと、彼に甘えたのも私だ。
それが悪いとは思わない。
私が親としての責任を果たしきれなかったから息子はどこかで私とは違う道を選んでしまったのだろう。
「父様…」
グレイラットが私に近づいてくる。
しかしかける言葉が見つからないのか私に触れようとした手が迷うように途中で止まる。
口惜しい…。父として、一人の親として子の行く末に寄り添う事も出来ず、口さえ出せない自分の愚かさを。
私はグレイラットの迷う手を取り両の手で包み込む。
「あっ」とグレイラットが呟くのが聞こえたがあえて聞こえない振りをする。
毎日剣を振り豆を潰してきた手のひらは固く、剣ダコのできた指は若いながらに武骨者のそれに似ている。
ついど自分の手へと視線を移せば、商会のトップとなってなお誰よりも前へ出て書類仕事や契約に奔走した自分の指も、負けず劣らずペンダコが目立つ指となっている。
「お揃いだな。道は違えどお前は私の子だ…」
ノイマンの言葉にグレイラットは知らず涙を流した。
幼いころから甘やかされ、隆一の元で正確その他を矯正され、その後も剣の道を進むべく親の気持ちなど考えもせず突き進んできた。
いつからか両親が接し方が解らなくなったかのように触れてきた時、グレイラットもまた、両親との距離が解らなくなっていた。
すれ違いの日々で互いと理解し合おうともしなかった二人は、ただこうすることで親子になった。
「隆一君にお前を預けた時は最善だと考え、その後の成長を見て私は選択を誤ったのではと後悔した。しかしグレイラット。お前はお前だ。私の敷いた道でも隆一君が敷いた道でもどちらでもいいしどちらを選ばなくても良い。お前が考えお前が決めた。グレイラット・ヒースクリフの道を歩み続けるがいい。そして」
包み込んだ手をそっと話してノイマンは自分の店を見る。
「疲れたならひと時の休息を得に帰ってくるがいいさ。ここはお前の家なのだから」
グレイラットは「はい!」と涙をぬぐうと御前試合の受付のためにノイマンの前から走り去った。
気恥ずかしさもあってかその足はいつもよりも大分早い。
グレイラットが視界から消えるのを確認してからノイマンは店角に隠れていた人物に声をかける。
「お二人も今まで息子の世話を焼いて下さりありがとうございます」
声をかけられ姿を現したのは隆一に仕えていた元奴隷で今は上級貴族の筆頭でもあるアリサとアリシアの両名であった。
「私達は旦那様の命を守ったにすぎません。ここまで成長したのは彼自身の鍛錬の賜物です」
「それに私達は主に礼儀作法。武術や剣術は旦那様やレイモンドの役目でしたから」
二人の言葉にそれでもありがとうとノイマンは頭を下げる。
「お二人ともこの後時間はあるかね?最近隣国の良い茶葉が手に入ってね?屋敷にいる子達の分のお菓子も用意しよう」
先ほどまでの気落ちした態度から一変して笑顔になったノイマンに二人は一瞬間の抜けた顔になった。
「おや?ははは!気持ちや感情の切り替えは商人にとって必須な技能ですからな。まだまだお二人は若い若い。これから先の世で生きるのならば貴族の権謀術数渦巻く世界で自然と身に付くでしょう」
ノイマンの言葉に苦笑しながら二人は「いただきます」と後について店へと消えていった。
その後受付を済ませたグレイラットの御前試合は、一週間後に決まった。
しばらくはグレイラット中心の話で展開が進みます。
不定期更新で申し訳ありませんが引き続きよろしくお願いします。
誤字脱字は発見次第訂正いたします。




