第55話 御前試合第二試合
長らくお待たせしました!時間が取れましたので投稿再開です!
第2試合はじまります。
一回戦のライオネル・サンダースの敗因は自身の強さを鼻にかけた驕りであろう。
冒険者としての実力や魔力量で見れば一線級の赤縁として名をはせていたのも解るが、彼はそれに胡坐をかき相手を見下す傾向にあった。
ジャマイカスの死後、頭一つ抜きんでた実力者がいなかったこともあったのだろう。狭い世界に満足してしまっていたようにも見える。
ゆえに遥か高みを目にしていたリヒターに負けるのだ。
アリサは国王の傍ら護衛役に専念しつつ、頭の中でリヒターと言う魔術師の評価を上方修正する。
隆一の下で働いていた宮廷魔術師は大なり小なり彼の影響を受けている。
リヒターは表面上そう言った姿勢を見せなかった稀有な存在だが、今回の試合において、彼女らしくもあり彼らしい戦いを見せてくれた。
『魔術師が相手に対して魔術だけだと、そう思わせた時。そいつはその勝負に8割方勝利しているよ。理由?そんなもん実際に死合えばわかるだろうさ』
俺みたいな奴ほど相手は騙されてくれるだろう?とその時隆一は身に付けた武器防具類を見せてそう告げていた。
見た目こそ剣士然とした隆一だったが、こと魔法に関しての実力も確か。さらに魔導書を用いない『魔法』を使用するからこそ彼は剣士でありながら魔法使いとしても頂点とも言うべき高みに位置していたのだ。
見た目剣士の隆一とどう見ても魔術師とした容貌のリヒター。対極ではあるが用いた技法は同じ『相手をだます』に特化した戦法。
ゆえに彼女はこの試合に勝利できたのだ。
魔術だけではなく肉体も鍛えていた。
元々研究肌の彼女にとって、肉弾戦など先ほどの蹴りが精いっぱいなのは確かだろう。
見た目にも重い蹴りとはいえないものだが、自らが勝つための環境を構築してそこへ辿りついたその手腕は素直に評価されるものだろう。
もっとも二度目はないのは明らかだが、二手三手先を考えていない者なら最初の試合で早々にけりがつくことは間違いない。
クロムベルトは試合の様子を見て大臣たちと話をしているようだが、大臣たちにとってはこの試合の結果より、国民達から徴収できた利益の方へ眼が行っているようだ。
クロムベルトもそれを解っていながら無視している。
アリサは次の試合のために整備されている盤面に視線を移し、次の試合の相手に思いを巡らす。
「次は」
「次の対戦は元Aランク冒険者にして現在冒険者ギルドに所属する剣術指南役としても名を馳せ、王家の剣術指南すらこなした経歴を持つ!数多の敵を倒してきた生粋の剣豪『バルデロイ・ロックハート』!」
会場で紹介され盤上へと上がって来たのは細身の剣を携えた初老の男性。
身体の節々に傷跡を残し、いかにも歴戦の覇者のようなその姿に若い男達は憧れを込めた声援を、年上好きな女性は黄色い声援を送る。
「あまり持ちあげないでくれるかのう?ただの武骨者にすぎんよ」
白髪が交じる髪を頭の後ろで一括りに紐で縛り、顔には薄く無精ひげが生えている。服装は鎧を付けず、局所に軽いプレートが付けられたヒラヒラとした服を纏っている。
アリサはその姿を見て隆一が寝る時に着ていた和服を思い出した。
彼は、寝巻として着る以外に通常の衣服としても使用できるとも言っていた。
彼曰く風通しがよく着脱が楽であり、種類によっては身体の起こりを隠す効果もあるとか。アリサとしては仮面を外した時の隆一が見せる透ける黒髪に良く映えていたのを覚えている。
それに彼が来ているのはそれに類似した足元まで隠れる種類の着物。要所に付けられたプレートからもそれが彼にとっての戦闘服であることが解る。
「対するは我が国を代表する姫騎士!ミリアリア・エインズワーグ様だ!今日も白銀に輝く鎧が美しい!」
対戦相手はミリアリアか。とアリサとアリシアは吐息を漏らす。
剣術指南役と言えば、バルデロイはかつて冒険者ギルドからの出向でミリアリアにも剣術を教えていた時期がある。
そのせいか対峙する二人は旧友にでも会うかのような気軽さで会話を交わしていた。
「久しいなバルデロイ殿。王家の指南役を辞してまた冒険者稼業へ身をやつしていたと聞いていたが息災で何よりだ」
「そちも息災で何よりじゃのう。子の方も大事ないか?」
盤上で話す二人に司会役の兵士も戸惑っているようだが、二人の関係を知っている手前口をはさめずにいた。
「まぁ積もる話は試合後でも酒と共に酌みかわそう」
「負けた後の愚痴の酒ほど肴はないでしょうに」
抜かせ!と二人は笑いあいながら距離を取り武器を構える。
剣に手をかけた瞬間から二人の顔から笑みは消え、獲物を狩る強者の顔へと変貌する。
突如として始まり唐突に語りを終えた両者のありように戸惑いつつも、盤上に立つ兵士は司会進行と言う仕事を思い出して声高らかに宣言する。
「それでは第二試合!始め!」
「いざ尋常に!」
「押して」
「「参る!」」
両者ともに加減なしのぶつかり合いが始まった。
初撃から両者詰めての鍔迫り合い。高く打ち鳴らされる金属音と両者から出る気迫が会場全体に圧として襲いかかる。
開始の号令と共に全力で逃げた兵士を誰もが英断と後に論じた。
その姿は共に修羅。互いを知り実力を解りきっているからこそ遠慮も加減も言葉すらも必要ない。
先ほどの魔術戦が霞んでしまうほどの密度の濃い攻防、いや攻攻に会場内の誰もが声を上げられずにいた。
『やはり良い!それでこそあの男の伴侶となった女性だ!』
両者ともに笑みを浮かべながら斬りつけ合う修羅の中、バルデロイは目の前の女性に胸中で称賛の声を上げる。
彼は撃ち合う剣の響きの中、己の過去へ自問する。
『彼女は強敵手なるや?』
『彼女は彼に劣るなるや?勝るなるや?』
彼はそれらに対し『否』と自答する。
かつてただ一度、刹那の間に全てが始まる前に終わり、己の未熟さに、怠慢による辛酸を味わったあの日。
当時最強と自負していた。
冒険者として名声をあげ、引退後は当時の騎士団長や目の前の女性がまだ幼い頃から手を取り剣を教え導いてきたつもりであった。
『王家の剣術指南役』
いつしか付けられたそのネームバリューに酔いしれ、当時研鑽を怠っていたのもまた事実であった。
たまに剣を取り勘を忘れない為に型をなぞる。いつしか日課となっていたその生活が、隆一と言う少年の出現によって打ち砕かれた。
「坊主。貴様がミリアリア様にあのような武具をあつらえたと言うのか?」
王城でふと見かけた少年が、王族の武具をこしらえたのだと聞いて興味が出たのだ。
『おっさんだれ?』
たしか初めて会った時、彼は私にそう言ってきた。
当時王国内で私を知らない者はいないと高をくくっていた私はその言葉でプライドが傷つけられたと憤った。
「貴様!王家の剣術指南役であり、冒険者ギルドで名を馳せた最強の剣士である私を知らぬと申すか!?」
当時矮小な権力を笠に堕落し始めていた私の身体は、全盛期に比べて明らかに脂肪が表に出ていた。
彼は私の身体を隅々までみてため息をつきこう告げたのだ。
「おっさん。駄肉が付き過ぎだ。最近訓練サボってるんじゃないのか?剣豪の名が泣くぞ?」
その言葉で目の前が真っ白になった私は、いつしか腰の剣を抜き放とうとして、すでに喉元に突きつけられた『折れた刀身』を見て言葉を無くした。
「俺の起こりすら見抜けない様じゃそれこそ…だ。 武芸者として、いや『戦う者』にとって怠慢、停滞したその瞬間に死が始まる」
「あんたはまだ片足突っ込んだだけだろう?なら引っこ抜いてもがくんだな?」
去り際に言い捨てていった彼の言葉は、うなだれ膝をついて生を実感した私の身体に深く浸透していった。
私は剣術指南役を退役、再び冒険者としてギルドからの指名依頼を受け、長期にわたり牙を研ぎ直す為危険の中へと身を投じるようになった。
そうして再戦を誓った私だが、彼は唐突に消えてしまった。
私でも死を覚悟する数多の飛竜の襲撃に単身飛び込み。竜達と共にその姿を消したのだった。
抜け殻のように成りかけた私だが、ふと彼の忘れ形見の弟子がいた事を耳にした。幼くして彼の師事を仰ぎ、その剣の冴え、魔術の実力は一線級である冒険者。
震え立った私は彼の素性を調べ、この大会を利用して彼と戦おうと思った。有象無象を薙ぎ払い手にしたこの御前試合の場。
そうして今、私はここにいる。
あの日の我が再戦の誓いを、あの日のやり直しを叶えるために!
「速すぎて剣筋が見えないのだがね?アリシア殿、貴方は…追えているようですねぇ…」
ノイマンはアリシアに試合の解説を頼もうとしたのだが、彼女も互いの動きを追うのに忙しい様でノイマンの言葉に意識を割けなかった。
正確には言葉を返す事は出来るし警戒も怠ってはいないが、それよりもこの試合の行く末に純粋に興味があったのだ。
『互いの剣の腕前はほぼ互角。早さでミリアリア様が、力でロックハート殿が上をゆく。手数だけで押し切れるほどどちらも甘い相手ではない事はすでに解っているだけにこの試合は長引くかもしれない』
互いの戦力の彼我を計算して導き出した答えは千日手の可能性が高いということだ。
しかも単純な剣の冴えならばより実戦を経験しているバルデロイ・ロックハートが有利に見える。
一撃に容赦がなく。二の太刀に隙がない。仮に押せても深追いしない慎重さも併せ持つ。
普通に戦えば懐に入られた時点でアリシアならば負けを悟るだろう実力者だ。
昨夜の戦闘訓練で私たち二人を相手に互角以上の立ち回りを見せていただけに結果がどうなるか予想もつかない。
仮に魔術を用いたのだとしたらロックハートが後手に回るのは目に見えるが、それでも魔術を行使するまでの時間をロックハートが許すとは思えない。
…そう、普通ならば。
「『ソニック』」
剣での応対の最中、ミリアリアが呟いた言葉にロックハートは即座に反応した。
一瞬で距離を離し、剣を構えなおしたのだ。
「よもや術式の詠唱省略とは。リューイチは無詠唱で行使していたと聞いたが師は彼かな?」
ロックハートの言葉にミリアリアは答えない。
しかし返事として風の刃が四方からロックハートへと斬りかかった。
それをロックハートは風の流れだけで把握した上、全てに対しただ一振りの剣圧だけで霧散させる。
「アースバインド」
破られる事を前提にミリアリアは次の魔術を行使しつつ瞬時にロックハートへ肉薄し斬りかかる。
流れるような剣筋に刃を滑らせ両者ともに相手の姿勢を、隙を、虚実織り交ぜるような連撃の応酬で作りだそうと交わしだす。
二人とも油断も隙も剣の技量に速度も力も決定打と呼ぶような差は今のところない。
魔術を使用し始めたミリアリアに剣のみの技量で食らいつくロックハートの姿に観客の熱も最高潮に上がってきている。
一般の観客はすでに剣の動きも両者の姿すらブレて見える状態であり、正直撃ち合う金属音と時折見える二人の姿にただ湧くだけとなっている。
幾度となく交わされた攻防の末、先に隙が生まれたのはミリアリアのほうであった。
剣撃の応酬の最中、ロックハートがおもむろに繰り出した拳による打撃。
相手の剣筋のみに集中し過ぎていたミリアリアはその打撃をとっさに剣の腹で受けてしまう。
そして同時に発動しようとしていた魔術も失敗する。一瞬の集中が途切れた隙をロックハートは見逃さない。
崩れた姿勢のミリアリアの腹部に剣の柄で一撃を入れるとその手ごたえに違和感を感じ、即座に間合いを離す。
次の瞬間にはロックハートがいた場所に無数の石でできた槍が突き上げてきたからだ。
ようやく見えるようになった二人の姿に観客は沸き、二人の攻防を見えていた者にとっては一息つく間になる。
中断させられた魔術の再構築を優先し、あえて剣の柄による打撃を受けたのだが、上手い事交わされた事にミリアリアは舌打ちをする。
「鎧通しを使用しない打撃ではその防具の中にまで打撃は通らんか」
先ほどの柄による打撃の手ごたえに違和感を感じて即座に飛び退いたのは正解であった。
魔術の発動は妨害したはずだが、体勢を整え応戦するよりも魔術の行使を優先したのはロックハートの計算ミスである。
「成長なされたミリアリア殿。先王もさぞお喜びであろう」
今頃も義勇兵として世界各国を渡り歩いていると思われる父の姿を脳裏に浮かべ、ミリアリアは軽くほほ笑む。
「まだ若輩の身なれど、国を思う気持ちはだれにも負けぬつもりだ。それが国を、民を守ると誓い立った王の子孫の役目だと私は思っている。それは降嫁した今でも変わらぬ。そしてそれゆえにこの戦いは負けられぬ戦いでもある」
王族に敗北は許されない!
言葉と共にミリアリアが纏った空気の質が変わる。
ロックハートはその気配を読み背筋が震えた。
はたしてそれは恐れからか?それとも武者震いか?
知らず飲んだ息と、剣を持つ手に力が入る。
「これより先は羅刹へと入る。バルデロイ・ロックハート殿。悪いがこれより先は命の保証は出来かねる」
ロックハートは本能で悟る。
『これより先は死線の応酬』
一太刀のミスも許されない。それが死を意味するのを彼女から肌で感じ取ってしまっている。それを見たくもあるが、これはあくまでも試合の一つ。
ゆえにロックハートは剣を納める。
「しからば今日はこれまでとしよう。御前試合で血を見せるは本意ではなくこれ以上はわしもそちも加減が利かなそうだ」
磨かれた牙を確認できた。それだけでロックハートは良しとした。本来の目的であるグレイラット・ヒースクリフとの試合こそ出来なかったものの、それもまた運命であると結論付ける。
「審判よ。此度の試合はわしの負けでよい。そしてミリアリア様。産後とはいえ夫人の腹を殴打する無礼お許しを」
深く頭を下げるロックハートにミリアリアは「試合の最中の事だ気にするな」と言葉をかける。
「勝者はミリアリア・エインズワーグ様!」
審判の兵士の言葉に観客は大いに沸き立ち、激しい戦いを繰り広げたロックハートにも大勢の観客から歓声とねぎらいの言葉がかけられた。
お久しぶりです!
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とはいったもののPCの調子も悪く、老体(PC)に鞭うちながら細々と更新は続けていきますので
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