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肉体の無い主人公が神様から肉体を貰う為にがんばります!(旧:肉体の無い英雄譚)  作者: 紅 時雨
第2章 AGO1500年前~勇者編~
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第49話 別れ

グレイラットよ。後は君の物語だ…


朝チュン ←今ここ





 一夜明けた隆一達は、互いの身支度を整えると食事の為に食堂へとやってきた。


 すでに朝の訓練を終えたのであろうグレイラットが、どこかふっきれた顔で食事をとっている。


 グレイラットはこちらを見ると食事を中断して朝の挨拶を送ってくる。


 その顔には昨日話した内容についての不安の様なものは感じられない。


 グレイラットも隆一が見詰めている理由に思い当たったのか外い離せない事を承知の上でそれを省いた気持ちを伝えてくれた。


「僕には昨日の話は壮大すぎて正直なところ全然理解できませんでした。だけどその先の世界に必要な事なら僕はこの先もそれをお手伝いできたらと思いました」


 先の世界の為の種になるとグレイラットは言ってくれた。


 隆一は仮面越しだがゆるくほほ笑み、背後の二人も笑みを浮かべる。


 この少年は覚悟を決めた。それならこの先の歴史では俺と彼の道は途中で分岐し、この時代で再び出逢う事は無くなるはずだ。


「そうか、下手な重圧を受けるよりも柳の枝のように全てを受け入れ受け流せる大人になれ。世界は、お前の未来はお前自身のモノだからな。俺やノイマンの言葉はお前の将来の指針の一つになるだろう。だがそれも一つの道にすぎない。受け売りだが『自分で考え自分で決めろ』。お前がその時何を考えどうするべきなのか。それはお前自身の心に聞け」


 隆一はそう言って食事を開始する。何度見ても仮面越しに食べているように見えるが、どうやって食べているのだろうか?


 グレイラットは気にするのをあきらめて食事を終えると、ヨコナガとノッポに連れられて午前の修業を始める。


「ほぅ。これは!」


「なるほど!」


 変に考えるのをやめたグレイラットは驚くほど動きが変わった。


 考えるよりも直観が働く。そう思わせるような動きのキレ。


「ご主人様が見つけた逸材。正に原石だとは!」


「これは久々に本気を出さねば!」


 二人はすでにBランクを超える実力を持っている。Aランクにならないのは二人には魔力の量が圧倒的に少ない身の為だ。

 

 魔量に関して、貴族などは魔力量で婚約者を決める家系もあるくらいには重視されている項目だが、二人はそういった血筋のない平民の出だ。


 戦闘奴隷としても価値が低く、また労働奴隷としても貧弱に見られがちな体型のせいで買い手がつかなかった奴隷だった。


 そう。『奴隷』だった。


 隆一に買われてから今日まで、二人は血反吐吐くほどの修業しかしてこなかった。


 二人は隆一から『ヨコナガ』と『ノッポ』という名で呼ばれ始めてから今日の今日まで、二人は一人じゃできない事をやり遂げられるように修行してきた。


 絶対的に魔力の少ない二人は、同じく魔力量の少ない種族である獣人族の中に混じって修業をした。


 身体能力に優れている獣人族の中で見れば、圧倒的に劣る体力の二人だが、だからこそ実になった。


 身体の動かし方や気配の察し方。


 レイモンドと組んで三人で遺跡へ向かい死ぬ思いをしたこともある。


 そんな二人が一人の子供に対して本気で剣を振るう。


 そんな二人がなけなしの魔力で身体強化をして追いすがる。


 そんな二人だからこそグレイラットのためになる。


 人の底力を。


 人の生きる力を。


 人という種族の可能性を。


 二人は隆一から言わせれば『守るべき対象』になってしまうくらい弱い。


 しかし隆一は二人をアリサやアリシア以上に評価している。


 それは二人があきらめないから。


 草薙から、ファルシナの記憶から。


 どの歴史を見ても、どの場面を見ても、どんな最後だったとしても。


 二人は一緒にその時を全力で生き抜いていたのだと解っているから。


 だからこそ隆一は全ての過去でこの二人をグレイラットの教官に当てていたのだと草薙は言っていた。


 全ての人に可能性がある。


 それは今まで隆一がその手にかけてきた人達も含まれるのだろう。


 そしてそれはこの先も同じなのだろう。


 ゼウスがこの世界をあきらめない限り、この世界が続く限り全ての種族に、全ての生き物に可能性というものは生まれ続けるのだろう。


 だから隆一は毎日眼を覚ますと思うのだ。


『あと何回同じ天井を見れば良いのだろうかと』


『この世界の未来をあと何回繰り返せばいいのだろうかと』


 そして毎日決意するのだ。


 今度こそ俺で終わらせるのだと。


 今度こそ俺が終わらせるのだと。


 食事を終えた隆一達三人も、隆一の部屋からその様子を眺めていた。


 遂に二人に身体強化を使わせたグレイラットに対して、アリサとアリシアは驚きを見せている。


「わずかな期間であの二人に身体強化を使わせるなんて…」


「しかし、剣の振りも体さばきも全てがまだ未熟。勢いに思考と身体が追い付いていないのが解ります。二人もそれを合わせるために身体強化をしてそれを合わせようとしているのだと推測できます」


 二人の言葉に頷きながら、成長していくグレイラットを嬉しく思う反面、これから起こるであろう未来を思いわずかに表情が曇ってしまう。


「アリサ。アリシア…」


 隆一の言葉にすぐさま反応し、隆一の方へ顔を向ける二人。何よりつらいのはこの二人であろう。


 隆一の浮かない表情に気付き、二人の表情にも陰が差す。


「これから先起こる全てに対してお前達は生きる為だけに専念しろ。例え親類縁者や関係者の身に何が起ころうとも自分の命を最優先で行動するように…」


 それは二人にとって隆一の身に何があっても行動するなと言われたも同然である。


「近いうちに恐らく何かが起きる。俺はきっとそれによってこの地を離れなければならないだろう。だから二人には俺のいなくなった後、この屋敷と使用人達。それに王族たちを支えてやってほしいんだ」


「それは……。命令ですか?」


 わずかに震える声でかけられる言葉に対して頷きだけで返事をする。


「私達はすでに、あなたの奴隷ではありませんよ?」


 アリシアの震えてもなお強気な声に苦笑をこぼしながら


「知ってるさ。お前達に告げれば絶対にそう言うと知っていたからな」


 隆一の手が光った。


 それは遥か昔、二人が黒の巣で交わした時と同じ隷主紋があった個所。そして二人の首からも同様に光が生まれる。


「これは!?」


「まさか『奴隷紋』!?」


 激しい光生まれそして収まった時、赤い糸が二人の首から隆一の隷主紋へと繋がれていた。


 それは三人の何よりも硬い絆であり、そしてなによりも耐えがたい証でもあった。


 二人は首元に触れ、手に取れない赤い糸を掴もうとする。


「解っているはずだ。解っていたはずだ。奴隷紋の解除には契約の履行。もしくは『両者合意』の元でしか解けるものではない」


 ならばなぜ奴隷紋が発動するのか。


 それは二人が奴隷から解放された時まで遡る。


 二人は奴隷からの解放時、隆一に対して解放後も変わらない忠誠を捧げていた。


 もちろん他の奴隷達も同じように告げてはいたが、二人の場合は隆一がわざとそうするように促してすらいた。


 そうすればこの二人に行う事に関して他の者に同様に行ったとしても怪しまれないと思ったからだ。


 隆一は膝をついて頭を垂れている二人に近づきそっと奴隷紋のあった首筋に触れた。


 その時には次の奴隷契約が水面下で行われていたのだ。


「俺の求めに応じて変わらない忠誠をたのむよ」


 隆一の言葉に触れられたままの二人は告げてしまった。


「「はい。ご主人様の御心のままに!」」


 そうして新しい奴隷契約が履行された。


 他の奴隷達には頭や肩を叩きながら軽い声で応対することで、二人が家令筆頭だと知らしめるとともにこの一連の動作に違和感を持たせないようにするためでもあったのだ。




「なんで…どうして……」


 泣き崩れる二人。


 それは奴隷に戻ったからではない。


 信頼していた主人に、愛を告げた相手に奴隷にされたからでもない。


「なぜ、共にいてはくださらないのですか!」


 そこまでして二人を遠ざける意味が理解できなかったからだ。


「死が私たちを分つまで!なぜ!そうまでしてその使命が大事なのですか!まだ!この時だけでも!せめて私たちが老いて消えるまででも…、なぜ時は待ってはくれないのでしょう……」


 鳴き声は嗚咽となり、すすり泣く声が室内に響く。


「アリサ。アリシア……」


 隆一は決して謝らないと誓った。


 この時代で終わらせるためにこの涙で終わらせるために。


 そして仮にも武神と呼ばれていた神からスマホ経由で別の神の力を借り受けた。


 二人には昨日、知らない振りをしていたが、俺の生まれた地の産土神と契約を交わして一時的に子供をできやすくしてもらった。


 確実とは言えないが、運命と言うモノを信じるのならばきっと二人は俺の子供を産んでくれるだろう。


 そして俺が二人に告げた言葉の意味を察してくれるとありがたい。


「俺の最後の命令でお願いだ。『幸せに暮らせ』」


 隆一が告げた言葉に二人は泣きながらも頷き、この話は終わる。


 そしてそれからわずか五日後、隆一はエインズワーグから姿を消した。



 突如としてエインズワーグへ侵攻を開始した海を越え迫りくる大量の大型魔獣と龍族の群れに、誰よりも早く駆けつけ増援を撒き込まないように単身飛び込み強制転移した形で彼はその日エインズワーグから、彼を知る全ての者達の前から姿を消したのであった……。











更新が遅れましたがいつも通り不定期更新ですいません。


ここまで読んで下さりありがとうございます。


次回からはまた少し時代と視点が変わって新展開になるかも?


次回更新までしばらくお待ちいただければ幸いです。

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