第50話 胎動
隆一の波動が消えた!?
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あれから…。
隆一が単身魔獣たちと共に消えてから十年。
最初の一年のうちに世の中は緊張に包まれた。
それから三年、各地で大きな地震が発生し、次々と地形が変わっていった。
そして残りの期間で…。
この世界は戦乱の世になった。
人族は当然の事、周囲の大陸でも突如として魔獣、龍族が暴走を始めた。
エインズワーグ国内にいた紅にも攻撃的な目がむけられたが、屋敷の庭で欠伸をしている竜の姿に町の人々は毒気を抜かれていた。
遠方から次々と送られてくる同盟締結の書簡や情勢が綴られた書類が山のように執務室に積み重なり、文官達が寝ずに仕事をしている光景が日常になりつつあった。
そんな中で、アリサとアリシアは隆一の子供を出産。
貴族だなんだと階級身分を笠に着ていた者たちはこの十年の間にその姿を消した。
その多くは隆一が消えたことで調子づき昔のように階級身分を盾に横暴を繰り返してきた貴族達だ。
平民や商人を敵に回して貴族が生きていけるわけがない。
それがわからない者たちから順にこの厳しくなった世の中から消えていったのだ。
隆一が残した資産のすべては相続人となっていたアリサとアリシア、そして使用人達に分けられ、屋敷の維持費は残りから負担。紅や黒といった隆一の連れていた魔獣に関してはアリサとアリシア。ラトについては王城と冒険者ギルドで面倒を見てくれる事になった。
そして屋敷で訓練を積んでいたグレイラットは、その身を大きく成長させ、以前の様な卑屈な態度をとる事のない好青年へと成長していた。
そして現在、王城では同盟国との間で、魔王討伐の任を就かせるために誰を差し出すか議論が繰り広げられていた。
「今こそアーカードに行かせるべきです!冒険者ギルドのギルドマスターでもある元SSランクの彼ならば正に適任でありましょう!」
一人の大臣が声を荒げれば
「いや!元Aランク冒険者にして紅の飛竜を手懐けているアリサ殿とアリシア殿こそ適任であろう!」
見知った名前が飛び交う会議の場において、当の本人であるアリサとアリシアの姉妹は落ち着いた姿勢で騒ぎを傍観していた。
(なんて無様な。殿方と言うのは平時は己の武勇を誇る癖にいざという時に及び腰になる。常に人の前に立ち続けたあのお方とは雲泥の差)
二人は同じ事を考えながら、ふと会議の人達から一線を退いた位置に立っていた女性に近づいていく。
「ミリアリア様。ご機嫌麗しゅう」
「お久しぶりです。お二方もお子様の具合はいかがですか?」
「ミリアリア様もお子様の様子はいかがですか?」
三人は同じ質問を返してフフフと同じように笑いあう。
「共にあのお方から授かった子供なれば…」
「身分の差など瑣末なモノですわね…」
「最近は王城に参ろうにも周囲の貴族が邪魔をしてきまして」
三人は議論に熱が入る他の連中を尻目にしばらくの間雑談に興じていた。
「ではだれか我こそはと名乗り出る者を我らで選定すればよいのではないか?」
突如として響く澄んだ声に、皆の視線は一斉に扉に今入って来た者に向けられた。
そこには現エインズワーグ国王であるクロムベルトの姿があった。
この十年でクロムベルトは正式に国王に即位、そしてその手腕を発揮した。
治水、農業、畜産、あらゆる生産に対して革命を起こし、エインズワーグの国内における食料自給率は飛躍的に上昇した。
そして隆一の消失後、彼はその自身の得意分野を他国にも広め、来る今日のために常に戦い続けてきたのだ。
「さっきからウダウダと同じ話を続けているお前たち自身が戦場に赴き戦果を上げようとなぜしない?」
静かな声音でかけられた言葉に、今まで他者を推薦してきた者たち全員が下を向く。
「君たちの中にはかつて湖底遺跡での戦闘に加わった兵もいた筈だ。我々はあの時見たのではないのか?高き力を。羨望の実力を。くじけない心強さを。あれから幾年も経つ。彼もいない。だからこそ我らがあの時と同じように立ち上がる時ではないのか?」
あの時と何が違う。とクロムベルトは言った。
絶対的な強者が不在なだけ。それ以外は何も変わらない。魔獣が強くなろうと我々は常に前線に立ち続けていたエインズワーグの民だ。
「後日王城前にて触れを出す。双方合意の元こたびの魔王討伐の任に着かせる者を広く募集する。そこに身分は問わない。高き想いと強き実力、そして挫けぬ心をもった者を選ぼうぞ!」
王の、クロムベルトの言葉に貴族たちは平伏し、承諾する。
クロムベルトの一括で解散となった会議の後、クロムベルトとミリアリア、アリサとアリシアは秘密の通路を通って旧隆一の屋敷へと集まっていた。
外には相変わらず紅が庭に陣取り昼寝中、通路を含めた屋敷全体にラト達軍隊鼠が睨みを利かせている。
黒は現在冒険者ギルドへアーカードの依頼で試験官として出向中なので不在だ。
隆一が強制転移で消えた後、真っ先に危惧されたのは隆一の配下となっている魔獣たちの暴走であった。
しかし、主人と離れ離れになっても微動だにしない魔獣たちに隆一はまだ無事なのだと後々気付かされたのであった。
ゆえに宮廷魔術師の席は未だ埋まっておらず、いずれ帰ってくるであろう隆一のために残されているのだ。
「これで少しの間でも貴族連中の煩い怒声を聞かなくて済む」
屋敷に常駐させている隆一の元使用人であり現在アリサ達の家に仕えているメイドにお茶を入れさせクロムベルトは人心地つく。
クロムベルトが本来なら未だ周辺諸国の情勢を把握すべく奔走しているべきなのをわかってはいるが、あまりにも過労が溜まっていると判断したので半ば強引にここへ引っ張って来たのだ。
ある種最高のセキュリティを誇るこの屋敷ならば、万が一にも襲われる心配はないと解っているからである。
「お兄様は根を詰め過ぎなのです。他国へは定期的に草を放ち情報収集に努めているのですから王自らが走り回る必要などないのです」
同じく入れられたお茶を口にしながらミリアリアはクロムベルトに釘をさす。
そんな二人のやり取りをアリサとアリシアはほほ笑みながら見つめている。
そんな二人の元へ、小さな二人の子供が走って来た。
どちらも髪は黒く、眼はアリサとアリシアと同じ色をしている。
言わずもがな隆一と二人の間できた子供である。
アリサの子供は男の子で名前がオニキス・ミズーリ。
アリシアの子供は女の子で名前がラピス・ミズーリという。
子供達はラトの配下である軍隊鼠を一体ずつ抱えており、その顔は笑顔に輝いている。
「フワフワ!」
「モチモチ!」
恐らくずっと相手をしてくれていたのであろう二体の軍隊鼠は精根尽き果てたのかされるがままの状態である。
ふと視線を二人が来た方へ向ければ扉の影から部下の様子を除いているラトの姿があった。
「ラト!」
「ラト!」
母親の視線に気づいたのか、振り向いてラトを見つけた途端に軍隊鼠を抱えたまま正に風のような速度でラトを捕まえる為に走り始める。
実際に足に魔方陣が生まれているので魔術を使用しているのは間違いないのだが。
隆一と共に歴戦を潜り抜けてきたラトをもってしても必死で逃げなければならないほどの速度で迫る『無邪鬼』とも言える子供を見て、ミリアリアは乾いた笑いが漏れた。
「やはりあの方との子供は成長が違いますね…」
オニキスが纏っていた魔力の色は青色。かつて隆一が武御雷と言っていた神の色と同じ。
ラピスが纏っていたのは赤色。隆一がよく身に纏っていたファルシナと同じ色の魔力。
二人は隆一の魔力の特徴を色濃く受け継いでいた。
そしてそれは魔力量や特徴までもだ。
アリサとアリシアは喜びと共に少しの悲しみを感じていた。
まるで隆一が分かれたかのような。隆一が二人に代わってしまったのではと。
しかし今の時代にそんな泣き言はいらない。
二人が成長するまでは隆一の代わりにしっかりと親にならなければならないのだ。
いずれ再開した隆一に自慢の子供だと。貴方との子供なのだと自慢できるように。
「それで、魔族や龍族のいる大陸の情勢はどんな感じなのですか?」
子供達が部屋から出ていきしばらくした後、本題を切りだした。
集まったのはほかでもない。魔王復活の報が出回り混乱している中で何度か龍族が大陸を渡り攻めてきたからだ。
幸いにしてどこも小規模な襲撃だったようで被害は軽微とのことだが、断続的に続くと民も兵も疲弊していしまう。
最近こそ頻度は減ったが、まるで相手側が力を溜め込んでいるのではないかと邪推する輩が増えてきているのだ。
安心できない現状、いくら情報があっても不足することはない。
それらの情報の中から正確な情報を精査するのが彼女たちの仕事なのだから。
「放った草からはどこも龍族、もしくは魔獣の狂化によって少なからず損害をこうむっています。内陸に行くほどその傾向は酷く、逆に海に近い国ほど被害は軽微だという事です」
その内容に三人とも内心思う所がある。
本来最前戦ともいえる海岸都市周辺が一番進行が早く、被害が最も多いとされるからだ。
少なくとも飛竜種の襲来があった時は海岸に近い都市は地下へと避難するか山村へと避難するのが通例であった。
内陸はそんな海岸都市のおかげで栄華を保っていられたのだ。
「内陸部の冒険者、魔術師の質が落ちているとも考えられますが、少なくとも何か意図、もしくは原因があってしかるべきだと判断するべきでしょう」
ミリアリアの言葉に頷き三人は夜遅くまで議論を交わすのであった。
?????視点
死期が迫っている……。
長らく形作って来たこの世界もじきに終わる。
久しく見た高き者。名をなんといったか?
まぁよい。
全ては神に投げた。
全ては高き者に託した。
全ては我が子らに預けた。
魂魄散るその日まで。
せめて最後の華となろう。
最初で最後の始祖龍として……。
この世界の最後の生物として……。
「さぁ、宴を始めようかのぅ……」
??????視点
繋がれた龍脈が震えたのを感じた。
幾星霜の時をこの姿で過ごしたのだろう。
創造主の型代となる予定であった我が身は知らず自我を持ち、そして余りの強大さから創造主とその従神2柱の手によりこの空間に封印された。
幸いか不幸か、この場所は龍脈の一番濃い所に位置しているため3柱は私の封印にこの龍脈を利用して封印を施した。
しかし、その龍脈は私にも力を渡していた。
際限なく高まる魔力により封印が壊されるのを恐れ、常に従神の2柱のうち片方が私を見張り、もう1柱が世界を見守り調整する事になった。
普段は姿を見せず、ここ数十年はあっていないが元気であろうか?
私が封印されたのち、地下深くに封印された私を知る者は、いつの時代からか時折やってくる大神官と名乗る魔族の数名。
それも龍脈の鼓動に合わせて私が吐き出す余剰魔力からつくられる物質を、まるで下賜されるかのように捧げ持ち運んで行くのだ。
正直見ていて気分のいいものではない。
龍脈から送られてくる魔力は封印された私では抗うことはできず、内に秘めていく魔力は次第に膨らみ身体にも異変として現れる。
時折吐き出すことで発散させているのだが、さすがに短期間で大量に送られてくると処理しきれない。
そんな時は、私の身体が女形という観点から体内ではなく胎内へ、子を作ることで対処する事にしている。
いずれ生み落とせばそれまでの蓄積魔力は0になる。
幾度かの出産を得てきたが、そのたびに生み落とされた我が子は神官と名乗る者たちに奪われ連れ去られる。
五体を封じられ身動きできない私はその光景を口惜しく見続けことしかできない。
ドクン! と一際龍脈が動いた。
送られてくる魔力の質が一段と大きくなった。
どうしたのだろうか?ここ数年常にこんな感じだ。
魔力を通じて、この龍脈には主がいる事が解っている。
正確にはこれは龍脈と呼ばれているものではない。
これは血管の様なものなのだ。
魔力が流れているどんな生物にも存在する回路。
私は身動きできない時の中でこの龍脈に浸り続けて確信した。
「この龍脈は生きている……」
そしてこの脈動が大きいという事は、この龍脈に死期が迫っているのではないのだろうか?
身動きできない私は、誰にも言えずただ時が過ぎるのを待つのであった。
お久です。
短めですが投稿です。
不定期で申し訳ないですが今後ともお付き合いいただければ幸いです。
また次回をお楽しみに!




