第47話 立ちはだかる壁
グレイラット君は未知の屋敷の冒険へと出発!
そこで見つけたのはあやしい小道…
進むと背後から凶悪な気配が!
立ち向かえグレイラット君!敵は強大だ! ←今ここ!
隆一は紅の餌を仕留めるために、役職の仕事を丸投げして外へと狩りに出かけていた。
目的はジャイアントポテト。もしくは肉だ。
竜種なのだから肉を食ってろと言いたいが、紅は俺と同じく美食家なのだ。
ジャイアントポテトを定期的に食べさせてやるのを条件に俺と契約しているから約束は果たさなければならない。
襲いかかる魔獣を仕留めつつ朝一で出発して正午を回り、肉は持ってきた荷台に山のように積み重なり、ジャイアントポテトはようやく自生しているのを発見できた。
見つけた猪が地面を掘り起こしていたのでそこを脇から肉ごと掠め取ったのだが、弱肉強食だと思ってあきらめてもらおう。
帰ってきた俺と、俺の背後に積まれた魔獣の肉とジャイアントポテトを見て、門番の衛兵は毎度のことながらと呆れた感じで入国手続きをしてくれる。
宮廷魔術師といえど法律は法律だ。
きちんと手続きを終えて入国を果たす。
その足で冒険者ギルドへ向かい、裏口から職員を読んで仕留めた肉の解体を依頼する。
こういった解体作業は新人冒険者の小遣稼ぎとして重宝されるので、使用人にやらせるよりもこちらで行わせるようにしている。
「今日は数が多いので夕方に取りに来て下さい。リューイチ様の仕留めてくる獲物は大きく珍しいのもいますから冒険者にとっては良い知識の習得場所になってますよ」
最近俺専属の受付嬢と化したコノカがそう言ってほほ笑んでくれる。
最近はめっきり大人びて笑みの中に艶やかさが感じられるようになった。狐族と言うらしいから傾国の美女にでもなるのではないかと少し心配だ。
「それなら良かった。夕方にまた取りに来る。あと量は少ないが皆で食ってくれ」
そう言って大きな布袋を巾着袋から取り出してコノカへ手渡す。
「この匂いは!まさかジャイアントポテトですか!?」
袋から漂ってくる甘い匂いに気付いたのかコノカの耳と尻尾が勢いよく尖る。
「ああ。今日は紅用に取ってきたんだがこっちは少しサイズが小さくてな。種イモにしようかと思ったんだがいつも世話になっているし良かったら食べてくれ」
渡された芋を大事に抱きしめてお礼を言うコノカに手を振りながら屋敷へと帰還する。
相変わらず獣人達は鼻が良いのか俺のにおいを感じ取ったようで大慌てで俺の出迎えの為に屋敷の前に整列している。
「「「「おかえりなさいませご主人様!」」」」
使用人達の挨拶に軽く答えて不在間の異常の有無を確認する。
「特に来客等はございません。本日は訓練を休ませていますのでグレイラット様も先ほど食事を終えて屋敷内の散策に出かけられました」
報告をするヨコナガの言葉に、そういえば半ば強制的に運んできたので屋敷の必要な場所以外の案内などはしていないな。と考える。
「立ち入りを禁止している場所へは立ちいらせるな。俺の書斎や宝物庫へは特にだ。中には触れると害のあるモノもある」
隆一の言葉に頷いていたヨコナガの背後から掃除を終わらせたメイドが声をかける。
「あら?ご主人様。さきほどお部屋におられたかと思いましたがこちらでしたか?何度も申し上げたではございませんか、ちゃんと正面から御帰りになられるようにと」
あたかも先ほどまで俺が部屋にいたかのような言動が飛び出し俺とヨコナガは二人揃って顔を見合わせる。
仮面越しでも俺の言いたい事を察したのだろう。
「すっ!すぐに探してまいります!」
慌てて踵を返して走り去るヨコナガを見て事態を察したのか、話を聞いたメイドも顔を青くする。
「時に俺が帰ってきたと判断した理由は何だ?」
「はい!ご主人様の書斎にて物音が聞こえたため扉越しに御声をかけたところ慌てた様子の物音がしたので失礼を承知で中を改めさせてもらいました。室内にはだれもおらず、最初は賊かとも思ったのですが獣人族の使用人達を欺ける者がいるとも思えず、風か何かを聞き間違えたのかと思いその場を後にしました。」
確かに俺の書斎に立ち入るのは掃除以外だと俺が帰ってきた時くらいのものか。
メイドに落ち度がない事を告げて安心させ仕事に戻るよう促すと、隆一は物音がしたという自分の部屋へと向かう。
書斎と言う名の単に物置き兼寝室となっている自分の部屋には王城へ繋がっている隠し通路が存在する。
それはこの屋敷を購入した時に発見した絵画に隠された通路を改修した際に残したものだ。
屋敷を建築した当時の国王が王城から逃げる為の脱出路として造られたであろうその道は、王城にある大食堂、国王が普段在席している謁見の間、王妃、王女の寝室、そして地下の独房の看守室へと繋がっている。
初めて王城へと辿りついた時は、大食堂、地下の独房と謁見の間は確認したものの、王妃、王女の部屋と続く道は、冒険者ギルドのギルドマスター『アーカード・マクシミリアン』の妹『クリスティアーネ・マクシミリアン』が立ちはだかり行くことはかなわなかった。
ちなみに、前にその事をアーカードに話したらすごい嫌な顔をしていた。
よほど兄妹の中は悪いみたいだ。
閑話休題
書斎に入った俺の目には一見して賊が入ったようには見えない。
棚にも異変は無く荒らされたような形跡もない。
「やっぱり気のせいか? んっ?」
ふと棚に飾られていた中から一振りの刀が消えている事に気がつく。
それは湖底遺跡の湖龍を倒した時に手に入れた骨から削りだした一振りの刀。
地脈の魔力に晒される期間が長かったからなのか、骨自体の魔力の伝導率が非常に高く、また竜骨だけあって中々に硬い。
ゲイルの元に持ち込み、二人の手で嬉々として武器へと形を変えたお気に入りの刀が見当たらない。
そして足元、わずかではあるが棚が動いた跡がある。
偶然なのか故意なのかは知らないが、どうやらグレイラットか賊かは知らないが、どうやら秘密を知られてしまったみたいだ。
「とりあえずは先制しておくか」
自身の魔力を殺気に変えて隠し通路の奥にいるであろう誰かに圧をかける。
ついでに魔力をエコーのように飛ばすと中にいるのは一人のようだ。
帰ってきた反応からすると賊ではなくグレイラットのようだ。
「反応が遠ざかっていく。込めた力が強すぎて脅えられたか?身動きができなくなればベストだったんだが…」
これ以上進まれると王城へ辿りついてしまう。
さすがに本人もこの通路の意味に気付いているとは思うが、これ以上の刺激は逆効果か。
隆一の誤算は、魔力の濃度が高すぎたせいでグレイラットに殺気を込めた魔力がしばらく纏わりついてしまった事だろう。
本人の魔力の高さが弊害を生む悪い事例になってしまった。
通路の先にある梯子を下りてしばらく、墓地の下のあたりでグレイラットの動きが止まった。疲れてへたり込んだか、それとも
「迎え撃つつもりかね?」
グレイラットがウチに来てまず最初に教えた事は彼我の実力差を正しく認識させる事。
実力のある強者が常に力を見せつけているわけがない事を嫌と言うほど身体に叩きこんだ。
その上で相手が見せている力が最高でない事も身を持って体感させた。
実力者の放つ殺気の圧で実力を測れるレベルまでは鍛え込んである。
その上で言える事は、グレイラットにぶつけた殺気は少なくとも自身より上の相手がそこにいる事を解らせたはずだ。
それなのに彼は逃げ出す事をやめてそこで佇んでいる。
考えられる事はこちらが把握しきれていない力を振るう事。
もしくは
「生きるのをあきらめたか?」
これもある意味では良い実地訓練になったと思い、隆一はグレイラットの待つ地下墓地へと進んでいく。
最近ではラトの配下が定期的に見回りをしてくれているので通路はとても綺麗だ。たまに魔獣の骨が落ちているのは御愛嬌と言ったところだろう。
もうすぐグレイラットのいる場所へ辿りつくという所で彼の魔力が急激に圧縮されたのが感じられた。
そういえば彼に適性のありそうな魔術を詰め込んだ魔導書をくれてやったっけ?
グレイラットの魔力が魔導書を通じて地面へと拡散。こちらへ迫ってきたのでギリギリの場所まで後退する。
感じられる魔力の性質から土属性の魔術。ついで地面や壁から剣や槍の穂先が無尽蔵に突きだされ通路を埋め尽くす。
「『千剣千槍』。せまい通路で使うなら正解だけど距離と魔力が圧倒的に足りない。グレイラットの魔力量だとこれが限界か?」
通路の向こうでグレイラットが緊張を少し解いたのが感じられた。
確かに普通なら当たらなくても時間稼ぎにはなる魔術を使用したのでそうなるのも理解できるが、相手の状態を確かめもせずに緊張を解くなど殺して下さいと言っているようなものだ。
「『灰塵』」
わざとグレイラットの聞こえるように言葉を発し、自身の周りに魔力で膜を張る。
最近開発した魔力、もしくは魔力で作り上げたものを無効化する膜を自身を中心に円形状に作り上げる。
そのまま剣と槍が突き出た空間に入れば、魔力を通して変化させられた鉱物はその組成を破壊され、土くれへと戻る。
わずかに残る剣や槍の残骸の雨の中を悠々と歩いていくる俺の姿に、グレイラットは腰を抜かして見上げるしかできないようだ。
「まったく。なんでこんな所で俺に対して攻撃を仕掛けてくるような真似をした?」
つとめて冷たい声音で圧をかけるようにグレイラットの前まで来て問いただす。
「あっああの、ごめn」
謝ろうと口を開くグレイラットに魔力を込めた威圧で黙らせて、言葉を続ける。
「うちの屋敷の中でも使用人がむやみに出入りできない場所がある」
指を一つ立てて「まずは宝物庫」
2本目に「そして俺の部屋」
3本目に「そして入浴中の俺の浴室だ」
最後にジョークを込めて見るがあながち間違いではない。未だに使用人の半分は俺の姿が透けているのを知らないのだから、仮面を被っているのは伊達じゃないのだよ。
しかしグレイラットの様子をみると彼は口から軽く泡を吹いて失神している。
すこし苛めすぎたのかもしれない。
「リューイチ様。いくらなんでもやり過ぎです」
屋敷に戻ってグレイラットを客間のベッドで寝かせた後、隆一は屋敷へ用事で赴いたアリサとアリシアから正座の姿勢で御説教を喰らっていた。
「この屋敷に秘密が多いのは誰もが知るところですが、相手は子供なのです。好奇心に負けて何か取り返しのつかない事があるかもしれません。そうならない為に大人が最初にそういった事項を教育するのが正しいあり方ではないのですか?」
貴族として返り咲くために口調や俺に仕える態度なども改めるように命令したのだが、余計に俺への忠誠心が高まっている気がする。
ついでにオカン度も…
「なにか?」
アリサの座った目線に気圧されて思わず首を横に振る。
「俺って元とはいえ主人だよね?」
「今もまだ私達の主ですが何か?」
扱いが昔と違う!
「ご主人様は宮廷魔術師と遺跡発掘の功績を受けて伯爵に、私達も末席とはいえ子爵になりましたので、階級差はあれど下に仕える者として上のモノに意見具申をするのは当然かと?」
「姉さまも最近貴族がらみの付き合いで疲れているのでご主人様も気を付けてください」
アリシアが横合いからフォローに回るが、最近また貴族が調子づいてきたのか。この国はホントに話のわからない奴が多いな。
「すまないなアリシア。後でその貴族のリストを教えてくれ。俺のかわいい部下達に無礼を働く輩に遠慮はいらないからな」
かわいいというフレーズに二人は赤くなったが、二人は最初助け出してからもう十年近い時が流れている。
幼さの残る二人だったが、まだ若いとはいえかわいいから美しいになり始めている。
ハーレムを作りたいわけじゃないけどできれば二人には幸せな家庭を気づいてもらいたい。
「でも二人も好きあった人がいるなら気にせず結婚しろ。俺は知っての通りこんな身体だけどお前達は幸せになる権利があるんだから」
草薙曰く俺の子の体にも生殖機能はあるが、今まで子をなした事は無いらしい。
この身体が生身よりも霊体に近いからなのかもしれないと考えているが、武御雷からは「たんに種無しじゃねえの?」と笑われた。
今思い出しても腹が立つが、代わりにスマホの中に入っていた連絡先に片っ端から変態メールを送ってやったら後日苦情が来た。
「てめぇ!俺のスマホで何しやがった!毘沙門天が今日赤くなりながら「ワシの今日の下着は赤なのじゃ…」っていいながら去っていったぞ!
お前に解るか!良い年した爺さんが恥じらいながらパンツの柄言って立ち去る姿がお前に解るか!周囲からも奇異な目で見られたんだぞ!」
スマホを机に置いて離れていても聞こえてくる怒鳴り声を放置して聞いていたが、あれはどちらも自業自得として水に流すことにしたっけ?
閑話休題
「私はあの時助けられてからご主人様に操を捧げておりますので」
「私もです。お慕いしております」
二人の美女から好意を寄せられて悪い気はしないのは確かだな。
「俺もお前達が好きだ。だから本当は言いたくないのは承知してくれ」
我ながら臭いセリフだとは思うが、こちとらこの世界に来て最初に手に入れた人材だ。なによりもこちらに忠誠と好意を向けてくれている二人を手放すなんて本当はしたくなかったのだ。
しかし後の歴史の分岐点でこの二人の存在の有無が重要になってくるという草薙の言葉とファルシナの知識を信じるならば、このまま手元に置いておくにはこの二人の存在はとても大きい。
「俺のこれからにお前達が必要だ。その為に非道な事を命じるかもしれない。だからなるべくでいい。俺以外の好き人を見つけてもらいたい。種族や年齢、平民貴族は問わない。お前達が幸せになる道を、俺は作りだして見せるから。今度こそは……」
最後の言葉は二人には聞こえなかったようだが、その目には慈愛の表情が浮かんでいた。
さて、話も本題から逸れた事だし、グレイラットの様子でも見に行こうかな?
さすがに正座の文化がある日本人といえど、地味に足が痺れてきたので、腰を浮かせようとした俺の足裏をおもむろにアリシアが手に持っていた日傘でつつく。
感覚がなくなりかけていた所へ急な刺激が加えられ、思わず前のめりに倒れ込む。
そんな俺をアリサがやさしく抱え込み耳元へ一言
「話はまだ終わってませんよ?」
どうやら苦しみは続くらしい……。
俺が二人から解放されたのは夕食の時間になってからであった。
話は短いですが、次話でグレイラットのO☆SHI☆O☆KIは終了になります。
勇者として力を付けるグレイラットの成長がどれほどになるのか御期待下さい。
作者が応えられるかは別として(泣)




