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肉体の無い主人公が神様から肉体を貰う為にがんばります!(旧:肉体の無い英雄譚)  作者: 紅 時雨
第2章 AGO1500年前~勇者編~
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第46話 グレイラットの冒険

さぁ特訓の始まりだ! ←今ここ!

グレイラット・ヒースクリフ視点


『前略、お父様、お母様、お元気でしょうか?

 私グレイラットは、毎日修行と言う名の拷問を受けて過ごしています。

 朝は日も昇らぬうちから起床と言う名の奇襲を受け、そのまま屋外へ投げ出されての模擬戦と言う名の私刑リンチを朝食まで。

 その後は昼食までこの国の歴史、文字の読み書きに算術を、おそらく国立学術院よりも高度な知識と内容で叩きこまれ。正午の鐘が鳴ったら一時間の休憩という名の瞑想が始まり。そして次の鐘の音と同時に夕食の時間まで再び模擬戦と言う名の私刑リンチが始まります。

 最初こそ使用人やメイド達に触れることすらできない一日中地面と共にいるか鳥のように空を飛びまわる状態でしたが、最近ではなんとか朝の起床から朝食までの間は地面に横になる事も空を飛ぶこともなくなりました。

 先日屋敷の主人であるリューイチ殿からは新しい訓練に移ると聞いております。

 明日からまた地を這い空を舞う日々が始まるのかと戦々恐々としておりますが、私は元気で生活しておりますのでどうか、どうか、本当に気にしないで成長して帰る私の姿を楽しみに待っていてください

                

二人の最愛の息子グレイラット』



 書き終えた手紙を封筒に入れ蝋印で封をする。その手紙を部屋の中で待機していたネズミ(軍隊鼠というらしい)にくくりつけると、そのネズミは素早く部屋の隙間から外へと出ていく。


 手紙の内容を思い返すと、もしも屋敷の人間に読まれた場合は酷い事になりそうだが、少なくとも嘘は言っていないし、朝だけではあるが奇襲に対して朝食まで立っていられているのも確かである。


「成長…してるのかな?」


 毎日無様に倒されるだけの日々を送っていく中で、グレイラットの中にあった自身は微塵に砕かれていた。


 しかしグレイラットを鍛えているノッポとヨコナガを始め、屋敷に仕えている使用人達のほとんどが実力でいえばBランクの上位に位置できるレベルの猛者ぞろいなのである。


 子供のグレイラットが勝てると言う方がおかしい(もちろん同年代の使用人もいるが、彼等はダンケの元礼儀作法の訓練を行っているため戦闘経験は無い)のだ。


 自身の実力を過小評価しているが実際に外で魔獣相手に実戦を積ませれば自分の今の力を再認識することだろう。


 そしてそれを驕りと取り再び傲慢不遜な態度をとる事がない様に現実を叩きこむのがこの訓練の目的でもある。


 グレイラットは一つ大きく背伸びして身体の険をほぐす。


 昨日隆一からは本日は休みにすると言われていた。


 ゆえに今日はゆっくりと体を休める事ができる。


「何をしようかな?」


 朝駆け(物理的な)のない朝など久しぶりで、本や嗜好品など持ってきていない。


「屋敷の中でも見て回ろうか?」


 強制連行されてから今日まで必要な場所以外の屋敷の内部に立ち入った事は無く。また物理的KOのせいで部屋と食堂、風呂と訓練場以外の場所に行く気力すら湧かなかった。


「とりあえず食事にしようか」


 お昼の鐘の音が響いてきたので食事の時間がやってきた。


「今日は何が出るんだろう?」


 初めてこの屋敷に来て出された食事は巨大な肉の塊と白パン。そして色々な野菜が入ったシチューであった。


 なんでもその日火竜と共に狩りに出た使用人が仕留めたジェノグリズリーの肉だという。


 しかし仕留めたのは火竜ではなく使用人の方。


 火竜は巨大な芋を加えて帰ってきていた。


 恐らくジャイアントポテトであろう。あの高級食材として名高い芋に凶暴性で知られるジェノグリズリーの肉。


 普段ここの使用人はこんなモノを食べているのか。


 普通の貴族の家で働く使用人は家人の食後の余りや黒パン等で食事を済ます。


 しかしこの屋敷の主である隆一の方針で、ここの使用人達は主人と食卓を囲み、人数が多い場合はローテーションで食事が冷めないうちに食べるのがルールとなっていた。


 普通は身分の違いを明確にするために食事のランク付けをするのが一般的だと思うのだが、この屋敷では行わないらしい。


 もちろんダンケの指導の元、通常の貴族のルールを骨子としているため他の貴族に仕える際はそういった知識は棄てるように厳命されている。


『郷に入っては郷に従え』と隆一は言っていたらしい。


 今日の食事はシチューに白パン。そしてサラダと言う簡単なものだった。


 最初に来た日のインパクトが強くて忘れがちだが肉類は訓練の終わった夜に出されることがほとんどだ。


 仕事で冒険者ギルドの依頼を終えた使用人達が仕留めた獲物が食卓を彩るので当然なのかもしれない。


 すでに全員の顔と名前が一致するまでには顔見知りになったので食事中も談笑しながら食べる事ができている。


 食事中は音をたてず静かに食べるのがマナーだが、賓客のいる場所やパーティー会場などで出されている食事ではないのだからと屋敷内での通常の食事は隆一が気にしないでいいと言ってくれている。


 最低限のマナーを守り、汚くない食べ方をする。


 それさえ守れれば充分だ。と隆一は考えているようだ。


 マナーの基本はダンケから教わっているので使用人達は皆不備なく職務に従事している。


 食事を終え、再び手持無沙汰になったグレイラットは屋敷内のまだ行った事のないエリアに足を踏み入れていく。


 使用人達の住む場所は屋敷から少し離れた場所にあり、ここにある部屋すべてが客間や倉庫、そして隆一の部屋となっている。


 風呂は男湯と女湯に分かれていてどちらも大浴場だと聞いている。女湯の方は見た事がないので知らないが。お湯を沸かすのに火属性の魔石を使用して沸かすか、外でいつも寝ている火竜に魔石に熱を込めてもらい沸かすかのやり方があるみたいだ。


 どちらもコストと火竜を手懐けるという問題があるが、その恩恵にあやかっているのは気にしない事にする。


 各階に取り付けられたトイレも水洗式でそこの屋敷にもない最先端の技術がつかわれている。


 流れた汚水がどこに繋がっているのか聞いたら城壁の外にある川までパイプが伸びているらしい。


 父であるノイマンに聞いたところ、元は何代か前の国王の静養所として建てられたのだが、当時の国王の死後度重なる不幸の末国民に下賜されたそうだ。


 しかし変死が続いて買い取り手がつかなかった所を隆一が格安で買い取り屋敷の問題を解決、改修工事を行い今に至ると言う。


 屋敷内部の設計は当時の国王が行ったという事まではわかっているが詳細については未だ謎になっている部分も多いという。


 始めて聞いた時は背筋が凍る思いもしたが、暮らしてみれば別段問題があるとは思えない。





 いろんな部屋を隙間から覗いては閉めてをくりかえし珍しい物がないかと探索していると、一つの書斎に辿りついた。


 ベッドもあり、棚一面には一目で希少だとわかる品々が無秩序に飾られている。


 その中には魔力を無効化すると言われる銀龍皇の龍鱗までもが飾られていた。


「宝物庫かな?」


 周囲に人の気配がないのを確認してから中へと入り、棚に飾られている品々を見ていく。


 その多くは見ても解らないモノがほとんどだが、やはり少年心に剣や盾には憧れてしまうもので、立てかけてある剣盾に騎士甲冑や見慣れない細身の剣などが出てくると我を忘れて見入ってしまった。


 棚の中にある本に手を伸ばそうとすると、突然『カコン』と音がして棚が左右に動き出した。


 なにか触ってしまったのだろうかと慌てるグレイラットだが、仕掛けが発動した棚は人一人分の大きさに開くと停止してしまう。


 棚の奥には道が続いていて薄暗くはあるが随所に明かり用の魔石が埋まっているのか歩く分には不自由しなさそうだ。


 正直興味があるが、奥に何があるかわからない以上怖くて進みようがない。


 風が抜けていく音がまるで悲鳴のようにも聞こえるし正直このまま逃げ出してしまいたいのが現状である。


 恐怖心と好奇心。その二つが天秤で揺れている状態だが、現実はグレイラットを強制的に二つの選択肢に迫らせる。


『コンコン』

 

突如聞こえたノックの音。道の奥からではなく屋敷の扉からだ。


「ご主人様。すでにお帰りになられていらっしゃるのでしょうか?あれほど使用人達の目を盗んだ屋敷への帰還はご遠慮下さるようにお願いしたはずですが?」


 どうやらメイドの一人が物音から隆一が帰ってきたのだと勘違いしたみたいだ。


 しかしピンチは続く。


 仕掛けが再度動き出し徐々に閉まろうとしていたのだ。


「ご主人様?この音は何でしょうか?また魔獣を飼うとかおっしゃられていませんよね?開けますよ?」


 ノブが回る音と慌てたグレイラットが戻すのを忘れたままの剣を持って棚の奥の通路へ逃げ出すのは同時。


「ご主人様?まったく、ご自身の立場と言うモノを考えてくださいませ。ご主人様?いらっしゃらないのですか?もう、いっつもすぐに消えてしまわれるのですから」


 すこし怒った口調のメイドが部屋から出ていく音を棚の裏から耳を澄ませて聞いていたグレイラットは大きく息をついて安堵する。


「ここからどうやって出よう?」


 本来出られる筈の棚は閉ざされ奥へと続く通路が薄暗く続いている。


 この道をまっすぐ行った先に何があるのか興味はあるが、ここが隆一の部屋だとするならば彼の秘密に迫る何かがあるのかもしれない。


 再び恐怖心と好奇心がせめぎ合うが、ここは好奇心が勝ってしまった。


 思わず持ったまま隠れてしまった剣を握りなおしてグレイラットは薄暗い通路を先へ進むことにした。


 いくらなんでもすぐそばに王城があるのに魔獣が出るわけがない。


 そう思っていた時期がありました。


 結論としてこの通路は軍隊鼠の専用通路のようだと言う事がわかった。


 なんせ所々に小さな穴が開いており、そこから鼠達が様々な場所へ派遣されていく光景を見る事ができたからだ。


 どうやら屋敷内のいたるところに道があり。非常時の隠し通路と言ったところだと言う事が判明。随所にのぞき穴がある事から外敵対策としての役割も果たしているようでこの屋敷の防犯機能の一端を垣間見た気がした。


 そして現在、グレイラットは地下へと続く梯子の前にいる。


 通路の梯子にも魔石が埋め込まれているため、上り下りには不便は無いであろうが、そこの見えないほど深い梯子を前にさすがに足が竦んできた。


「さすがにこれ以上はあぶないかな。あの棚以外の出口もあったしそこから出ればばれないかな?」


 しかし手に持つこの細身の剣はどうしようか?素直に言えば許してくれるだろうか?それとも特訓の内容が激しくなるから言わない方がよいのだろうか?


 黙って持ちだして帰さなかったら盗人扱いになる。商人の息子としてそれだけは駄目だと父であるノイマンからもきつく言われている。


 事情を話して素直に返そう。怒られるのは仕方ないにしても家の名に泥を塗る行為だけはしてはいけない。


 以前の弱い者いじめをしていた自分に同じセリフを言ってみろと言わんばかりの思考だが、自分は屋敷に来て変わったのだと言い聞かせてグレイラットは元来た道を戻ろうとする。


 そしてすぐに踵を返して梯子を降り始める事になった。


 理由は帰ろうとした進行方向から突如としてすごい殺気を感じたからだ。


 わずかばかりの殺気でも気の弱い者なら倒れてしまうほどのレベル。


 明らかに放つ殺気は殺しに長けた熟練者のそれだ。しかもまっすぐに通路の先にいるであろう僕に対して放っている辺り標的は僕なのかもしれない。


 一瞬でまだ見えない敵との彼我の実力差を思い知り、梯子を降りつつ生き残る手段を懸命に考える。


 滑り落ちるように梯子を降り、震える体を鞭打ってひたすら通路を駆け抜ける。


 迫る殺気は鋭さを増し、常にお前を捕えているぞと言わんばかりに指向性のある殺気をぶつけてくる。


「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」


 まるで訓練場のように障害物にまみれた通路を駆け抜け、迷路のような道を走破し、息も絶え絶えに辿りついたのはいくつか棺桶が並ぶ地中の墓場のような場所であった。


「ハハハ、何なんだこの場所は?」


 枯れた笑いで、もはや何の汗かもわからない汗をぬぐい、グレイラットはその場に座り込む。


「もういいや。疲れちゃった…」


 息を整えつつ手に持つグレイラット唯一の武器である剣を胸に抱きしめる。


 遠くから飛んできた殺気はすでに止み、そのかわりに砂利を踏む音が静かに、しかし確実に聞こえてきた。


 屋敷の使用人だろうか?それとも隆一を狙っている暗殺者であろうか?それともこの通路の先にあるであろう場所を守る守人であろうか?


 浮かんでは消える予想を振り払い、手に持つ剣を抜き放つ。


 そして唱えるのは自分ができる最上級の魔術。


 ポケットから取り出したのは隆一が手ずから作り上げた文庫本サイズの魔導書。


 魔道ではなく『魔導』。隆一が生み出し書き綴った世界で一冊の書物。


 グレイラットが隆一の屋敷に来た次の日に手渡された、グレイラット専用の魔導書だ。


 本来なら基礎理論を試してから応用を行うが、その過程を飛ばして作り上げたある意味で未完成品であり、しかし過去の隆一本人が残した手記を元にした完成品でもある。


 世に出ていないだけであり、未来では普及されている技術なので全ての発端と言えば発端の書物でもあるのだ。


 その中でも隆一が教え、グレイラットが取得できた魔術が3つある。


 そのどれもが隆一が考えだした魔術なだけあって規模がでかいか破壊力に特化したモノばかりだ。


 その中でも、対人戦に優れた魔術を選択して魔力を込める。


「祖は土、素は鉄、組は鋼。地勢に宿りし地と血と知、形となりて敵を討て!『千剣千槍サウザントブレイダー』!」


 自分にかける魔力強化分を残して全てをこの一撃に込める。


 通ってきた道の全てに槍と剣が突き出るのをイメージし発動させる魔術。


 土の中にある細かな鉄を魔力で無理やり精錬し鋼へと変え、更にそれを武器の形へと変化させる。


 しかし元は魔力が無制限に使える隆一が考えた魔術。


 勇者の素質があるからと言って魔力量が隆一に近いわけではない。


 実際に通路が塞がれたのは入り口から入って5メートルの区間だけだ。


 だからといっても金属で作られたある種の檻である。


 そう簡単に突破は容易ではないだろう。


 ゆえに残りの魔力を身体強化に使用して一気に距離を図らなくてはいけない。


 グレイラットは急激に消耗した魔力のせいでふらつきながらも自身の身体に魔力を循環させるべく落ち着こうとした。


「『灰塵アシュ・トゥ・アシュ』」


 聞こえてきたのは静かな、だけど通路の先から聞いた事のある声だ。


 次いで響いたのは通路全てを埋めるように突き出されている剣や槍の穂先が、まるで最初からなかったかのように崩れていく光景だ。


 球体状に削られていく鋼の檻。


 その中から出てきたのは一人の青年。


「まったく。なんでこんな所で俺に対して攻撃を仕掛けてくるような真似をした?」


 グレイラットが世話になっている屋敷の主人にしてエインズワーグの宮廷魔術師をしている青年。


 龍ヶ崎 隆一は仮面の下からでもわかるほどの冷たい声色でこちらへ問いかけるのであった。




お久しぶりです。

新作を読んで下さった後にこれを見てくださった方。

もしくはその逆の方は改めましてありがとうございます。

ちびっこ勇者はもう少しだけ続きますのでどうかお付き合いください。

更新不定期で申し訳ありません。

今回は新作の方も更新しますのでそちらもぜひご覧ください。



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