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第39話 最悪の想定

ヒャッハー!汚物はショーDOKUだ!


麻呂デブの波動が…… ←今ここ!

 襲撃の頻度は段々と多く、感覚も短くなってきている。


 それは隆一以外の奴隷たちの消耗度からも明らかだ。


 湖底遺跡に到着してから早いものですでに4日目。昼夜を問わず襲撃してくる魔獣たちに奴隷達の疲労はピークに達していた。


 アリサとアリシアの二人も顔には出さないが疲労が溜まっているはずだ。


 常に前線で剣をふるい続けている隆一とは違い、彼女らは他の奴隷達の管理も行っているので尚更だろう。


 湖底遺跡に潜っている他の二人の赤縁とは未だ出逢っていないが、少なくとも死んではいないはずだ。


「ご主人様。お食事の用意が出来ました」


 アリサが武器の手入れをしている隆一の元まで来て声をかけてくる。

常に姉妹どちらか片方が俺の補佐をするように傍らに立ち、日常の下以外の世話を焼いてくれている。


「ありがとう。アリサもそうだが他の奴隷達も適宜に休憩をとるように頼む。あと数日耐えれば国から増援が来るから、そうしたら今まで倒した討伐報酬を持って帰れるはずだ。明日以降、俺以外は全員拠点の防衛に全力配置。襲撃回数が増えてくるからなるべく早く、増える前に倒して休憩する時間を確保してほしい。さすがにこの数は予想外だから少し見積もりが甘かった」


 隆一の口から謝罪の言葉が出てくるのを驚きつつも、隆一が口にしているのは『後は一人で片付ける』という意味だ。


「なりません!いかにご主人様といえど共も連れず一人では!」


 アリサの身を案じてくれる言葉に感謝しつつも、現在の隆一の実力は他人がいる状態だとフルに発揮できない。


 故に単独行動がしたいのだ。


「意義は認めない。主人の命令だ。アリサ達は俺の帰る場所を死守すること。これは最高に難易度が高いから全力で事に当たれ。そして誰も死なせずに俺の帰りを待ってるといい」


 隆一は武器を鞘に納めてアリサの肩を叩いて飯を食べに出る。


 一人残されたアリサはとりあえずアリシアと相談してどうするか決めようと隆一の後を追うのであった。







 ウインドミル一行は初日と違い、数を大幅に減らした状態、というよりもたった一人で遺跡の内部に立ち往生していた。


 理由はもちろん奴隷として連れてこられた子供達の負傷による離脱等が原因だ。


 金にモノを言わせて違法奴隷で身を固めていたジャマイカスだったが、見かねた後ろの冒険者や探索者のグループが隙をついて子供たちをジャマイカスから匿ったのである。


 ジャマイカスも後々奴隷の数が減っている事に気づいていたが、違法奴隷な上に奴隷紋も素人が施したものなので両者間のパスが弱く、奴隷の位置を確認することが出来ないでいた。


 追い打ちをかけるように湖底遺跡の中でも上位に当たる下位湖竜(レッサー・レイク・サーペント)の襲撃に逢い、三日目にはすでに周囲から孤立しつつあったのである。


 そして下位湖竜の襲撃で地盤が崩れ、ジャマイカスは奈落の底へと落ちていく。周囲にいた子供の奴隷達は素早く回収されたが、誰もジャマイカスには手を差し伸べなかったようだ。


 これも人徳という奴であろう。


 そして四日目に入りジャマイカスは奈落の暗闇の中で目を覚ました。


 周囲には崩れた遺跡の残骸と女神像と思われる巨大なオブジェ。


 上層の遺跡を思わせる作りの中に明らかに異質の影が散らばっている。


 目覚めたジャマイカスは、身の丈に合わない素早さを風魔法を使用することで可能にし、明らかに隠し階層とおぼしき場所を抜け出すために歩き始める。


「麻呂は赤縁で最強の絶対なる至高な風使いのはずなのじゃ。こんなことがあってたまるか」


 ブツブツと文句を言いながら生活魔法で手持ちの布切れに火を付けて即席の松明モドキを作成して歩みを進める。


 時間の感覚もマヒし、明らかに上層よりも凶悪な魔獣の襲撃を退け、即死の罠を強引に魔術で突破し、いくつもの部屋を抜けてたどり着いた先は上層へ向かう階段ではなく巨大なガラス瓶が並べられている大きな部屋。


 身の丈ほどもあるガラス瓶が所せましと並び、そしてその中には水棲魔獣の姿がおさめられている。


 隆一が見たら『研究所』という言葉が浮かんだことだろう。


 しかし地球の知識を持たないジャマイカスには意味不明の設備にしか思えず、そこを無視して先へと足を進める。


 道中さらにいくらかの戦闘こなしつつ明らかに他とは雰囲気の違う扉を見つけると上に上がる階段があると信じて開け放つ。


 周囲は暗黒、底なしの闇が下へと続く。思わず踏み出しかけた足を戻すが、反動で松明が手から離れて落ちていく。


 松明の明かりはしばらく視界に入っていたが、次第に遠くなり、そして見えなくなった。


底なしの闇。思わず身を震えたジャマイカスの耳に、不意に荒い息遣いが聞こえてきた。

 

魔獣の気配など感じなかったジャマイカスの目の前に、絶望が首をもたげて君臨している。


「遺跡にこんなヤツがいるなど聞いたことがないでおj……!」


 涙と汗と体液まみれのジャマイカスは最後まで言わせてもらえなかった。


 赤黒いのが目の前に迫り、瞬時にジャマイカスの上半身が消えて無くなった。


 最高の赤縁を一息で仕留めたそのナニカは、そのまま底なしの闇の中へと消えていく。


 匿われた奴隷達の奴隷紋が一斉に消えたのは、ジャマイカスが喰われてすぐのことだ。






 ルカルスは遺跡内において一人、薪の前で眠っていた。


 年齢は今の隆一よりも少し上、今年で十九になろうとしている。


 青年よりも成年に近づきつつある宮廷魔術師は、周囲を自身の魔術で操る鎧騎士たちに番をさせ、浅い眠りの縁にいた。

 

 時折爆ぜる薪の音に、軽く呻きながら夢を見る。


 目の前には二人の女性。


 かつて王城の舞踏会で顔を見ただけの姉妹の姿。


 そして成長した二人の女性が目の前の姉妹と重なり彼の眼を楽しませる。


 らしくもなく夢の中でほほ笑むルカルス。彼の夢の中でも姉妹はルカルスにほほ笑んでくれている。


 しかし、彼は気づいてしまう。姉妹は彼を見て微笑んでいたのではない。


 夢の中でルカルスは振りかえる。


 奴は彼を嘲笑うかのように姉妹に手を振り近づいていく。


 姉妹もそれを当然のように頬を赤く染め恋人のように寄り添う。


 ルカルスを背景のように扱い三人だけの空間を作っていく。


「やめろ。やめろ。やめろ」


 奴はルカルスの目の前で姉妹に交互にキスをする。


 そしてその合間にルカルスを見てほくそ笑む。


『こいつらは俺のものだ』


 そのニヤついた目は雄弁とルカルスに語りかけていた。


「殺す!」


 叫び飛び起きたルカルスは、今まで自分が見ていたモノが夢だと悟る。


 荒い息を吐き、そしてそれが嫉妬や妬みに基づくものだとわかると、舌うちと共に自分の未熟さに腹が立ってくる。


 しかし、彼は己のうちにあの姉妹に恋慕に似た感情を持っている事を否定はしなかった。


 初見で人を美しいと感じたのは生れてはじめての経験だ。


 それが恋なのだと、そしてその姉妹を所有しているリューイチという男に嫉妬し、敵意を向けてしまっているのもまた己の未熟さなのだとルカルスは恥じている。


 その一方でリューイチを排除し、姉妹を手に入れられたらと考えてしまっている自分がいる事もまたルカルスは否定しないのだ。


 ジレンマ。


そう捉えても仕方がないのかもしれない。


 恋とは盲目なものだ。


 たとえそれが歪んだ愛情なのだとしても……。





 隆一は一人湖底遺跡の正面にいた。


 奴隷達は野営地に全員残し、お供として連絡要員のラトと一緒に来たいといった準戦闘要員の黒。もっとも、黒は主にラトと組んでもらうことになるが、クイーンアントとしての戦闘能力はバカにできない。


 本来なら野営地の拠点防衛に残して行きたかったが、生み出した兵隊蟻が大暴走に引きずられてコントロール不能になる可能性もあったので生み出した兵隊蟻と共に連れてくるしかなかったのが正しい。


 相変わらず餅は生態アーマーとして全身を覆っていたが、こちらもすでに身体から離れて黒に抱えられている。


 紅も行きたそうにしていたが、こちらの野営地の切り札としても紅には残ってもらわなければならないのでジャイアントポテトで手を打たせてもらった。


 大所帯になった簡易要塞ともいえる拠点に紅の火力があれば万が一の可能性もないだろうが、遺跡でルカルスやジャマイカスと会った際に面倒は少ない方がいいと思ったのも事実だ。


 それに先ほどすれ違った冒険者の話によると、ジャマイカスから匿っていた子供の奴隷紋が消えたらしい。


 つまりはジャマイカスが契約を自分の意志で解除したか、『死んだ』事になる。


 赤縁の魔術師がやられるほどの相手がこの遺跡にいるとは考えづらいが、事実子供の奴隷紋が消えているのを確認したので、現在湖底遺跡に存在する赤縁魔術師は俺とルカルスのみになる。


 単純な討伐総数だと恐らくウチのメンバーが断トツでトップだろうが、魔力量がずば抜けている赤縁を倒せる魔獣が出てきたと考えると、気楽にあと数日を過ごすというのは無理かもしれないな。


 目の前に広がる死屍累々と化した惨劇を前に、現状を引き起こした張本人は思考に埋もれている。


 周囲は黒と黒の率いる兵隊蟻の軍団が守っているためある程度安全が確保でき、黒の近くにいる間は兵隊蟻もおとなしいものである。


 考えても仕方がないと意識を切り替え、隆一は奥底の方から響いてくる強大な魔力に目を細める。


 ルカルスの魔力よりも濃い、おそらくジャマイカスを倒した魔獣だろうか?


 銀龍皇の発していた魔力とは違う禍々しい陰鬱な魔力が感じられた。


 ルカルスも赤縁なだけあって魔力量はランクに見合うだけのモノを持っていたが、この気配の主はそれこそ次元が違うものだ。


 遺跡から湧いた魔獣たちの総魔力を合わせてもこうはならない。


 隆一の中で草薙から聞いた年代を思い出した。


 1516年前、魔王が生まれる5年前に俺は来た。


 そしてそれから3年。


 魔王が生まれる胎動がはじまり、そして湖底遺跡に影響を与えているのであろう。


 魔王が生まれる前、魔皇妃が魔力を放つ時の地震は無かった。


 つまりこの異変はまだどこの国も知らないことになる。


 確証はないが、もしそうなら赤縁3人では時間稼ぎにしかならないことだと国も知っているはずだ。


 戦力の逐次投入はどこの戦でも愚策とされるから一刻もはやくこの事を国に伝えなければならない。


 ラトに伝言を頼み、黒と兵隊蟻を護衛に野営地まで後退させる。


 せっかく遺跡内へ来たのに引き返させて申し訳ないが、ここから先は、下手すると俺でも致命傷を負う可能性がある。


 一刻も早い増援を打診し、遺跡の封鎖に人員を差し出してもらわなければならない。


「面倒だがまだ生きているうちにルカルスと合流して戦力を固めないと各個撃破されるかもな」


 隆一自身そう簡単にやられるとは思っていないが、ルカルスの実力では下手すると瞬殺されるかもしれない。


 自身の魔力量はこの先にいるであろう魔獣よりも高いが、物量にモノを言わせる戦法をとってきた場合、その限りではない。


 不意を突く一撃が何より怖いのが戦場だ。


 現代戦でも英雄が流れ弾で死ぬなんてことは多々ある事なのだから戦力は少しでも多い方がいい。それがある程度の強者ならなおさらである。


「まぁ、とにかく前に進むしかないか…」


 手に持った武器を強く握りなおし、周囲に湧きだした魔獣たちへと目線を向ける。


「悪いが時間をかけられない。速度重視で行かせてもらう」


 構えた刀身に幾何学な模様が幾重にも重なって浮かび上がる。


 刀身に掘り込んだ魔方陣に魔力が通い魔術回路として光と共に術式が展開する。


 次いで発生するのは隆一がイメージする魔法の形。


 某ゲームで有名な魔の付く機神の必殺技だ。


 刀身を赤い炎が包み込み、それは巨大な火の鳥と化す。


 隆一が有名な大戦ゲームからイメージした技の形


「ア○シック・○スター!」


 叫びと共に魔力を前方に押し出すとともに後方へ推進力としても火属性のジェット噴射を起こす。


魔力で作られた火の鳥は強大な魔力と火力を周囲に振り撒きながら前方の敵を一直線に焼き払う。


 火の鳥が消えた後にはこんがり焼けた死体と周囲に振り撒いた熱気で火傷を起こしている、巻き込まれなかった魔獣だけだ。


 それらに素早くとどめを刺して隆一は刀身に目をやる。


 強固に鍛造された刀身だがさすがに強大な魔力に耐えきれなかったようでわずかだが歪みが生じている。


 後で修理にださなくちゃな。


 口には出さずにそう思い、わずかに引っ掛かるものの刀身を鞘へと納めて草薙を代わりに手に持つ。


 雪城は細身の刀だが草薙は両刃の剣なので雪城よりも若干重く、何回か素振りをして感覚をなじませる。


「さて、マスターはここから先にいる魔獣についてのアドバイスはいるかい?」


 今まで口を開かなかった草薙だが、久々に活躍できるのがうれしいのか情報提供を呼び掛けてくる。


 しかし今回の大暴走は草薙の記録にもないものだったはずだけど?


「確かに大暴走は初めての経験だな。しかしこの遺跡自体は何度か来た事があるしこの遺跡の主も討伐経験はある。つまりはそういう事だ」


 確かに草薙は大暴走『は』初めてといっていた気がする。


 遺跡の情報を持っているのなら心強いがこの先の魔力の持ち主がどんな奴で草薙の予想通りなのかが心配なところだ。


「わかる範囲でいい。その主の情報を教えてくれ」


 同一個体とは限らない為参考程度に知識を得る。


「湖底遺跡の主は海竜種の内の一匹だ。遺跡の魔獣の中でも頂点に立ち、実力は銀龍皇よりも下だが水中での機動性は他の竜種を上回る。水属性の魔法を連発してくるから遠近ともに死角は少ない敵だ」


 もっとも障害物の多い遺跡だから隠れるのは容易だし、基本的に戦うときは陸上が主だったために隆一が苦戦しているところは見たことがないという。


 今回もそうだといいんだけど……


 先へと進む隆一だが胸の奥にある不安は今だ消える事はなかった。






一月ぶりぐらいの更新です。

暑かったり寒かったりと身体の調子がすぐれない今日この頃です。


昼は暑いのに夜は雨降るしじめじめするし仕事はめんどいしで嫌になっちゃいます。


今回の隆一の技はサイ○スターのあの技です。さしずめアリサとアリシアが二匹の猫でしょうか?


更新間隔が開いてしまいがちですが時間があるときに少しずつ更新していきますのでご了承ください。

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