第37話 赤縁の品格と大暴走対処開始
湖着いたぞ!
うわぁあんなのが同類とかないわぁ(´Д` ) ←今ここ
湖底遺跡とは、文字通り湖底に沈んでいる遺跡であり、巨大なドームに覆われた形の異質な遺跡になっている。形状は二枚貝に似ているが、入口は湖の底から入る方法と、湖の近くにある古城の地下から入る非正規ルートの二箇所に分かれている。
古城から入るのが非正規なのは、この道は冒険者たちが水に濡れるのを嫌がって古城から穴を掘って強引に繋げた道だからだ。
そこまで深い湖ではないのだが、泳げない冒険者や、装備品が濡れて錆びるのを嫌がる人が多く、今ではそちらが主流のルートになっている。
「お~。やっぱ他の遺跡と比べても魔獣の数が桁違いだな?」
もちろん濡れるのを気にしない隆一は正道を通り真正面から遺跡に侵入、すでにふた桁を超える魔獣の襲撃を返り討ちにしている。
一日に二桁超えれば多いと言われている遺跡調査の襲撃回数としては文字通り桁が違う規模だ。
所々にその襲撃の多さから逃げきれなかった冒険者や遺跡に潜る事を生業にした探索者やらが死んでいたり重傷を負って転がっていたりとしているが、基本的に助けているのは女性のみだ。
別にフェミニストを気取っているわけではないがこの世界において女性の地位は高くなく、男性冒険者や探索者に付き添われる形でついてきている場合が多いので、真に男性冒険者についてきている者かどうかは女性冒険者たちを助ければ自ずとわかるのである。
何人かの女性たちは自分から男性冒険者を救助するが、ほとんどの女性は怪我が治ると男には目もくれずに仲間の女性冒険者を助けて一目散に逃げ出していく。
中には奴隷も混じっているが、そういった輩には奴隷紋による縛りがある為回復はさせるが以降の処置は冒険者と交渉してもらっている。
大抵奴隷達は開放を要求し、主人は生きたいがために要求を飲むが、回復してやると「弱みに漬け込んだ約束なんて無効だ!」と憤って攻撃してくるので、目の前で奴隷の代わりに凹ると大抵おとなしくなって奴隷と平和的に話し合ってここから去っていく。
結果として遺跡に入って数キロも歩かないうちに最前線と思われる場所までそういった交渉で手に入れた奴隷を連れてくる羽目になった。
誰が悪いかといえば弱い冒険者連中と、思ったよりも数の多い魔獣のせいだな。
連れ立って歩いている奴隷達も圧倒的な隆一の実力と身軽な状態で奥へとドンドン進んでいくまるで無警戒な行動に全員涙目だ。
しかし気にせず先へと進んでいくので、置いていかれてはたまらないと皆固まって後ろへとくっついていく。
昔のRPGみたいな感じだな。
最後尾の奴隷達には背後から強襲された際に時間稼ぎができるようにそこらの冒険者の死体から失敬した装備品を身につけさせている。
罰当たりな行為にも思えるが、この世界では別段違法ではないし、奴隷達も命がかかっているので必死に身を固めている。
冒険者から手に入れた物を奴隷達に与えるとともに、隆一は遺跡に住まう魔獣の種類を大体把握できたのでそろそろ帰ろうと奴隷達に指示を出す。
「とりあえず間引きは終わったから帰るか。お前たちもこれからはしっかり働いてもらうから野営地についたら先輩たちの言うことをよく聞くんだぞ?」
道中仕留めた水棲魔獣のうち、見た目で食えそうなやつと明らかに食いでがありそうなやつだけを手早く解体して奴隷達に運ばせる。
冒険者たちのお供として買われてきた奴隷だけあって、全員が解体に対して忌避感を持つことなく作業は進んでいく。
もちろんその最中も魔獣の襲撃はあるので解体する魔獣は増えていく一方だ。
さすがにめんどくさくなったので、ある程度の数を倒したら後は焼却して先へと進むことにする。
「この遺跡ってどうやって酸素供給してるのかな?」
水の中でこれだけの人数が激しい戦闘をしているのに薄まらない酸素濃度に疑問を覚えつつも、考えたら負けだと思いそういう遺跡なんだと気にしないことにした。
『異世界だから』はファンタジーの殺し文句だな。
帰りはさすがに古城ルートで帰ったが、やはりそこかしこで傷ついた冒険者たちが転がっているのが見受けられた。
「本格的な大暴走前なのにここまで消耗が激しいと、少し甘く見ていたかもしれないな」
冒険者の質が低いのか、湖底遺跡の魔獣が強いのか。
隆一からすれば湖底遺跡の魔獣は数こそあれ強さはどう頑張ってもダークパンサー位の強さだ。
中にはアシッドアントのように階級のような組織体系を持ったサハギン種や湖底遺跡の固有種と思われる不定形の魔物『アクアミスト』という物理的な攻撃が効かない奴もいたが、ある程度の冒険者なら群れればそこまで恐れる相手ではなかったはずだ。
きっと欲に目がくらんで協力というパーティーの大前提を忘れてつっこみすぎたのが原因であろう。
真実は知らないがここまで来て怪我をしたのは自分の責任である。
奴隷達は嫌でもついて来なくてはいけないのだから俺が同情するのはそれで傷つけられた奴隷に対してのみである。
中には好んで付いてきて怪我したのもいるかもしれないがそれはそれで早く解放されたいからだろうしな。
野営地に戻ると、アリサたちはすでに夕飯の支度に取り掛かっていた。
水辺の周りにもいくつか魔獣の残骸があったので、きっと見回りついでに討伐しているのだろう。
奴隷達は俺の後ろの新規に入荷?した奴隷達を見て目を丸くし、アリサとアリシアは素早く全員の身体的特徴を覚えていくつかのグループ分けをはじめる。
マンハントのような鋭い目で新米奴隷達を見定めるアリサは鬼教官みたいに凄みがある。
以前冗談半分で口にしたら数日口をきいてくれなかったので言わないが・・・。
それに対してアリシアはグループ分けされた奴隷達用に新規に衣類や装具を用意している。
屋敷の補給担当にもなっているアリシアは見ただけで相手の服のサイズがある程度把握できるという。
既製品は高いので屋敷に入りたての奴隷には、アリシアが手作りした衣類を最初支給される。そして仕事に慣れてくると既製品の衣類が支給される出来高制を導入しているのだ。
今回新米奴隷達に配られたのは長旅用に余分に持ってきていたアリシア手製の衣類なので、これを着ることで正式にウチの奴隷として認識される。
圧倒的に新米率が上がったのだが、アリサもアリシアも気にすることなく支持を続ける。
慌てて衣類を着替えてアリサ達の指揮下に入る新米奴隷を見て満足そうに頷いていると、遠くからやたら豪華な馬車が勢いよくこちらへ向かってくるのが見えた。
「こんな激戦区に高級馬車で乗り付けるなんて非常識な」
紅にくくりつけて空を飛んできた人間が言うセリフじゃないと近くにいた奴隷は思ったが、口には出さずに作業を続ける。
豪華馬車は湖の縁まで進み、そこで停車。御者台にいた奴隷と思しき人間が馬車の扉を開けようと扉に近寄ったところで馬車の内側から勢いよくドアが開き、奴隷はその衝撃で勢いよく飛ばされてしまう。
周りで見ていた冒険者もその姿を見て引いているが、出てきた人物を見て更に一歩引くことになる。
「ニュニュニュ!このトロクサい屑が!急ぎすぎて酔ってしもうたではないか!」
アキバでポスターをリュックに刺して歩いているような典型的オタを彷彿させる色黒肥満型ボディに、無駄に長く異様に艶めいている白髪。
「おいおいアーカード。こいつがそうなのかよ?」
頬が引き攣るのを感じながら隆一は馬車から出ようとして扉につっかえている黒豚を見据える。
「ニュニュ!Aランク冒険者であり赤縁魔術師である麻呂率いるウインドミルが来たからにはこんな大暴走など恐るるにたらなんぞな」
無駄に煌びやかな服装に身を包んだ黒人麻呂呼びのデブが、アーカードの言っていたウインドミルのリーダーなのかよ・・・。
黒麻呂の後から降りてくるのはいろんな意味で汚されたとわかるほどに汚れ切った男女問わない幼い奴隷達。
豪華といっても限りがある馬車にすし詰め状態なのではないかというくらい出てきては馬車に備え付けられた装具を取り外して野営場所を作り始める。
その目には一様にして光がなく、もはや生きる人形のようだ。
「ダンケが見たら悲しむだろうに・・・」
他人の所有している奴隷に対してとやかく言うことはないが、さすがに見ていて気分のいいものじゃない。
ダンケが売ったわけではないのだろうが、もう少し売り手も買い手を選んで欲しいものだ。
パーティーを組んでいると聞いたが、他のメンバーは見当たらない。
まさかあの奴隷達がメンバーだとでも言うのだろうか?
「ゲスですね・・・」
いつの間にか近寄っていたアリサとアリシアが汚物を見る目で目の前で幼い奴隷達をいじめている赤縁魔術師『ジャマイカ・ジャマイカス』を見ている。
「ご主人様と同じ赤縁魔術師でも天と地ほどの差があるとは世の中不条理なものです」
アリサの言葉にアリシアも頷きその場から去っていく。
品位の欠片もないが魔力の高さは赤縁と言われるだけあって相当なものなのだろう。
デブ麻呂の気色悪さは最悪だがまだ実戦を見てないので過小評価はできない。
アーカードも性格に難があるとは言っていたが、あれは人間性に難があるだろう。
とにかくこれで宮廷魔術師が来れば大暴走までの間の足止めメンバーが揃うわけだが、正直言って数だけ多い戦いなら俺一人で事足りるのは今日一日でわかった。
突然変異種でも出ない限りは手持ちの奴隷達の経験値稼ぎの場として利用させてもらおう。
「後は宮廷魔術師様が到着すればクエスト人数が揃いますから、今日は収穫された奴隷達の契約変更とご主人様に仕えるにあたっての注意事項などを教えてまいります」
俺は取り扱い注意な電化製品かとアリサ達にツッコミたかったが、言ってもわからないであろうネタを言う気にもなれず、手早く晩飯の用意を手伝うことにした。
今日は魚づくしになりそうだ。
「それじゃあ、新しく来た奴隷達は早く仕事を覚えて頑張れ!前から居る奴は抜かれないようにもっと頑張れ!本番は明日以降になるから存分に食って騒げ!」
隆一の乾杯の発生とともに、各人が手に持っていたビンを高々と上げる。
中に入っているのはかなり度数の低い果実酒だ。
さすがに安全を確保した野営地だとしても、いざという時に動けないのでは困るので、酒は初日である今日だけ、そのひと瓶が尽きたら後は仕事後まで禁酒となる。
久しぶりに酒を口にした新入りの奴隷達はその味を噛み締めるようにちびちびと酒を飲み、捉えた魔獣の肉類を美味しそうにほおばっている。
俺はアリサとアリシアに挟まれ両手に花の状態で手ずから食わせてもらっていた。
なんかダメ男になった気分だが、アリサたちは率先してやってくれているので無下に断ることもできない。
さすがに下の世話まではしてこないので気にするほどじゃないだろう。
一応灯りを四方に配置しているが、木の板でバリゲートしただけの簡易の野営地なので周囲からは比較的丸見えだったりする。
周りの冒険者達もこちらを羨ましそうに見ていたりするが、中には似たような雰囲気の場所もあり、そこまで悪目立ちはしていない。
・・・・・・一箇所以外は
赤縁魔術師であるジャマイカ・ジャマイカスは奴隷の子供たちを虐めながら一人豪勢な夕食を平らげていた。
一般市民である隆一ですらテーブルマナーに気をつけているというのに、ジャマイカスの食事の仕方は下品の一言に尽きる。
身の丈に合わない服飾に、金に物を言わせたその装備、赤縁の品格を疑われてしまうといっても過言ではないその光景に周囲はドン引きである。
もちろん周囲にいた冒険者は大きく距離を取り、かかわり合いにならないよう気をつけている。
女性を連れている冒険者のグループなどで酷い者は対岸に野営地を移したほどだ。
しかしジャマイカスはそれすら嫌悪とは取らずに自分の魅力に近寄りがたいと思うような神経の持ち主で気にも止めていなかった。
下手に力のある人間が陥る愉悦感が彼が彼たる所以でもあるのだ。
ジャマイカスの野営地はまだ幼い子供たちが中心の奴隷で構成されているので野営地も数に物を言わせて作り上げた粗末なものだ。
本来なら大人の数人で完成できるレベルの野営地でも子供たちには重労働なのだ。
傍から見ていた冒険者たちが気を利かせて物資を支援していなければきっとその日は野宿となっていただろう。
そしてそうなればジャマイカスは子供たちに何をするのかは目に見えてしまう。
いやな連鎖だが冒険者連中は自分の保身と精神的安寧を求めてジャマイカスの奴隷達に支援をしなければならないのであった。
翌日、最後のひとりである宮廷魔術師『ルカルス・キャラメル』が湖底遺跡に到着した。
共は連れずに単身でだ。
馬車の中には無差別に鎧甲冑や武器が転がっており、もはや武器庫である。
恐らくルカルスが使用する魔術に関係しているのだろうが、出会って早々に俺とジャマイカスを見て舌打ちすると、打ち合わせもなしに遺跡へと馬車を向けて進んでいく。
「にゅっ!赤縁魔術師である麻呂に挨拶もなしとはたかだが宮廷魔術師風情が偉そうに!奴隷どもよ!遅れをとるなでおじゃ!」
唾を撒き散らしながら顔を赤黒くしたデブ麻呂は奴隷達を馬車に敷き詰めて同じように湖底遺跡へ出発していく。
俺の背後ではアリスとアリシアが下衆を見る目で二つの馬車を見つめていた。
「同じ赤縁魔術師としてご主人様を見習って欲しいものです」
「陣を用いないご主人様の実力は魔術師ではなくて魔法師にあたりますお姉さま。あんな奴らとは一線をかくする実力ですからあの二名と比べては行けませんよ?」
背後で交わされる会話が黒い・・・。
しかし、魔法陣を使用しない俺のスタイルはあの二名とは文字通り一線を超えている。ファルシナの知識と俺の魔法に対する考え方、そして魔法とは想像力が物を言うのだ。
ヲタではないが想像力豊かな現代っ子ができる最高の魔法を再現してきた俺にとってこの世界の魔術は大きく遅れていると言っても過言ではない。科学的なイマジネーションができないので仕方ないとも言えるが、それでもだ。
話がそれたが、いい加減俺たちも出発しないとあの二人の実力を見るまもなく終わってしまいそうだ。
「じゃあ俺たちも出発するか。あの二人は古城ルートから侵入するみたいだし俺たちは正面から堂々と蹴散らしにかかるぞ。道は作るからアリサとアリシアは奴隷達を指揮しつつ経験を積ませることを考えろ。やばくなれば紅も俺もいる。気にせず頼れ」
二人の元気な返事を背に、湖底遺跡まで通じる道を湖を縦に割る事で可能にする。
無論草薙に風を纏わせたなんちゃってエクスカリ○―だ。風の○でもいいな。
二つに割れた湖は固定遺跡の入口まで届くと同時に急速に冷えて氷の氷壁となる。
馬車が往復で通れるほどに広々とした通路を皆が恐る恐る通り抜け、殿の俺が指を鳴らすと後を追ってきた冒険者連中の叫び声が聞こえた。
背後で楽しておこぼれをもらおうと考えていたのだろうが、俺は自分には優しく他人には厳しいのだ。
湖の氷が割れて水が流れ込み、道中小判鮫になろうとしていた冒険者が水面に浮かんでいく。
湖面から上を眺めると、水棲魔獣に襲われている冒険者がいるが、まるで水族館みたいだと思ってしまう。
「さて、お仕事を始めようか?」
湖底遺跡の大暴走処理が始まった。
久しぶりです今年度もよろしくお願いします。
久方ぶりの更新ですが飽きずに見てくれると嬉しいです。
豚麻呂はキャラ構想が楽しいです笑




