第36話 久方ぶりの空の旅
だいぼーそーをなんとかして!
じゃ、行ってくる! ←今ここ!
一通りやることが終わり、屋敷へと帰ってきた俺を出迎えたのはこれから遠征へ向かうための道具を用意し終えた屋敷の使用人たちの姿であった。
あれから三年経ち、皆慣れ親しんだのか種族に関係なくキビキビとせわしなく仕事に励んでいる。
その中でも初期の頃からいる元奴隷達と新たに入った奴隷達とでやはり動きに違いが出てくるな。
キビキビ動いていた中からアリサが出てきて現在の進捗度を教えてくれた。
「ご主人様。お帰りなさいませ。遠征用の荷造りはもう少しで終わります。今回遠征に同行させていただくのは私とアリシアを軸に最近入ってきた戦闘技能が乏しいものを十人。食料などはとりあえず二十日分を用意して足りなくなれば道中奴隷達の技能向上のため狩りをしながら進む予定を考えておりますがいかがなさいましょう?」
三年前と違い、元がつく奴隷の皆は冒険者としても活躍するようになってきて、奴隷の枠から解放された今全員がギルドランクCに至っている。
俺を例外だとしても、三年でそこまでの技量に育ったのは個人のたゆまぬ努力であろうし、その中でもアリサとアリシアの二人は突出してギルドランクBに上がっているのはすごいといってもいいだろう。
体つきもより女性らしくなり、元々の容姿も相まって道行く人が思わず振り返って二度見するくらいの美人だ。
そんな二人は奴隷から解放されたあとも屋敷に残り続け、ダンケの下で培ったメイドとしての技術を駆使してメイド長の座を手にしている。
戦闘系技能と合わせて屋敷にいる誰よりもスペックが高いのだ。(紅を除く)
全員のギルドカードの内容を知っているが、獣人よりも性能が高いのはなんでだろうな?
そんな二人が先頭に立って指揮をとれば、入ったばかりの新人でもそれなりの動きができるであろう。
『弱くて奴隷に落ちたのなら強くなって這い上がればいい』
俺は毎回入ってきたばかりの奴隷にそう告げているし、俺の言葉に感化されて実際奴隷達は死に物狂いで努力している。
中には挫折する者もいるが、そんな奴らは遺跡に放り込めば何故か皆死にたくないと普段以上の力で帰ってくる。
そして毎回こう告げてくる。
「遺跡に半日いるくらいなら死んでも借金返してのし上がってやります!」
ギラついた目で宣言する奴隷達を以前同じような目にあった奴隷達は頷きながら温かい目で見ているのだ。
そんな経験を積んできた奴隷達をまとめるアリサとアリシアの引率の元、予定外のことがなければ道中危険なことが起きることはなかろうと許可を出す。
準備を進めるアリサたちに労いの言葉をかけ庭へと足を伸ばす。
紅も眷属化のスキルにより奴隷契約を解除しているが、日夜奴隷達や他の使用人の引率をして狩りを堪能しているために、体は以前よりも大きくなり、紅色の鱗はその存在感を美しく見せている。
『あ、リューイチ。今度はどこに行くの?』
紅から念話が飛んできて隆一の頭の中で愛くるしい声で再生される。
今更ながら、完全に意思疎通できるようになって驚かされたのは隆一と契約した餅、紅、ラト、そして黒の四体が全員女性型だということだ。
黒は見た目で女性だとわかるのだが、餅や紅、ラトは見た目で判断ができないからややこしい。
黒と契約して彼女の口から聞いた「女性ばかりの契約者」というワードで初めて知った情報であった。
勿論草薙も彼女らの契約の件に関しては今までも記憶にない出来事なだけに俺以上に驚いた対応であったのは言うまでもない。
まぁ、今となっては気にならないし、俺も草薙もここから先は未知の世界と腹をくくっている。
「今回は北東の先にある湖だ。なんか遺跡の魔物が大量に湧き出たからその露払いが仕事になる。道中になにか旨いものでもあれば食いながら行こう」
隆一の言葉に紅は喜びながら尻尾を振る。
犬みたいだな。と思いつつも準備が出来たら呼ぶからそれまで待つように伝えて一度屋敷の自室へと戻る。
三年間、八方手を尽くして遺跡に関する情報を手に入れた。
過去の自分の書いた書記も読み尽くし、遺跡の文字と照らし合わせ、自分に出来る範囲で頑張った。
「始点がどこなのかがわかれば・・・その年代が特定できればあるいは?」
過去の俺自身ができる限りの手段を講じて現況の打破に挑み、そして失敗して俺に回ってきた。
ファルシナはもういない。
草薙の知識もここから先はあまり意味をなさないかもしれない。
武御雷の力を持ってしてもゼウスとかいう創造主に謁見が叶うことはないらしい。
腐っても世界を作った一人というわけか。
一個人である俺がゼウスに会うには少なくともこの世界のシステムになっている神工神と出会い、そして龍族の長、ミドガルズオルムとの謁見。そして二人の神工神によって封印されたという魔皇妃にも会い、話を聞かなければならない。
どこかにきっと答えはあるはずなんだ。
そんな答えの見えない考えをしている隆一の耳に扉をノックする音が響く。
「準備が整いました。紅様を含め同行者一同正面にて待機しております」
声の主はアリシアか。アリサは今頃同行する奴隷達を並ばせていることだろう。
「わかった。アリシアは戻ってアリサのフォローに回れるようにしておいてくれ」
アリシアの了解の言葉とともに隆一はベッドから降りて今一度装具の点検をする。
一通り確認を終えたら雪城だけ抜き放ち一通りの型を行い体を馴染ませる。
そして型の最中に草薙を抜いて二刀流になると型から演舞へと形が変化する。
我流で磨いた動きだが、草薙の記憶とファルシナの記憶を元に再現した全盛期の俺の動きを真似たものだが、最近ようやく様になってきた。
一通りの演舞を行い二刀を鞘に収めると隆一は普段の服の上から特注のマントを被り、体のラインを隠す。
大勢で動く場合、何が原因で体が無いことを悟られるかわからないので、餅には全身を覆ってもらうことはもちろんだが、マントのようなシルエットをぼやかす物で偽装して万全の体制を取る。
「結局いつ話すか決めてないんだよな?」
自分の体のことをいつ使用人たちに話すか、決心が今だにつかないのだが、今回の以来が終わったら話そうと心に決める。
「さて行きますか」
屋敷の門前には山のように積まれた荷物と今回同行する奴隷達の他屋敷の使用人一同が並んで待機していた。
「毎回大袈裟にしなくとも、往復でひと月もあれば帰ってくるのに」
呆れた口調の隆一の言葉に、先頭で待機していたアリサが「主をお見送りするのは義務であり仕事でもありますので」と一蹴する。
毎回どこか遠征に行くときにこのスタイルを取るのは恥ずかしいし、なにより王城からも見えるんだよねこの屋敷って。
あっ、いま王女と国王が尖塔からこっち見て手を振ってる。
国王に至っては気付いた上で手を振ってやがるな。
片手を上げて返してやると、王女の方は気づかれたのがわかって顔を赤くし、国王はそんな王女を見て笑っている。
「まぁいいけどさ。荷物はこれで全部か?」
隆一の言葉にアリサは頷きをもって返す。
それを確認してから巾着の中へ全ての荷物を片付け始める。
さすがに食料に関しては次食べる分と水は出しておき、移動用の大型馬車(紅牽引用)に詰め込み始める。
それが終われば同行者が馬車へと乗り込み、隆一とアリサは御者台へと乗り込んだ。
主が普通は中じゃないのかと思うが、紅に牽引させる際は隆一が御者台にいた方がなにかと都合が良いのでそうしている。というよりも、今回はいないとどうにもならない。
全員が準備できたところで隆一は大声で紅を呼び、馬車の牽引部分と接続させ、出発する。
軽く滑空する紅と、それに引っ張られる形になる馬車の位置をうまくコントロールするのも隆一の仕事だったりするので、高速移動用のこの馬車の使用に関しては実質隆一がいなければ実現不可能な芸当なのであった。
住宅に被害が出ないように城壁を抜け、目的地の湖まで紅本来の移動速度で馬車を引いてもらう。
「速度出るから何かにしがみついとけ~」
御者台側にはこれ専用に背もたれ部分にハーネス型の安全ベルトを常備させ、荷台部分にもシートベルトもどきを設置してある。
全員が装着し、荷台からのOKが出ると紅が勢いよく上に飛ぶ。
勿論馬車もそれに引っ張られるように空へと飛び上がるが、縄でつないでいるだけの馬車はそれだと重力に従い下へと落ち、中にいる人も物も落ちることになるが、荷台にがっちりと固定された荷物はもちろん、馬車もそんなことにはならない。
「よし、今回も無事に離陸成功だな。しばらくはこのまま進むから飯時まではのんびりしてていいぞ」
実はこの馬車、遺跡から発掘されたどう見ても小型の飛行機としか思えない部品を下に、隆一が別遺跡で見つけた重力を無効化する魔道具と組み合わせて造り上げた空飛ぶ馬車であったりする。
馬車の土台部分に飛行機の部品を流用し、その部品に刻まれている紋様が一種の飛行用魔法陣であることを過去の自分の書記から見つけ出した隆一は、同様に遺跡から出土した重力を無効化する魔道具を持ってきて双方を組合わせて見るという考えに至った。
試行錯誤の末実験は成功したが、浮くけど動かない欠陥品が出来上がる。しかも隆一並の魔力を持たないと継続して浮かばすこともできない高コスト品な始末。
開発を断念しかけた隆一の目にとまったのは、ちょうどその日の奴隷を連れて狩りから帰ってきた紅の姿。
「そうか。紅に引いてもらえばいいんだ!」
結果、隆一自作の飛行馬車『ボー○ング』が出来上がった。
後々龍籠という、気球のように龍の首から下げて移動する籠の存在を知るのだがそれはあとの話。
予定では十日後に到着予定だが、紅の移動手段を用いていけば俺自身の魔力の回復速度から見ても半分の時間で行けるだろう。
それから空を縄張りにしている魔獣や鳥が近寄ってくるが、紅の威圧で蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。
しかし、それだと昼食が手に入らないので荷台から数名、紐付きの矢を用いての狩りを行う。
仕留めた獲物が落ちても回収できるように紐をつけたこの馬車専用の装備だが、どちらかというと馬車に備え付けてある固定砲台から打ち出すので簡易のバリスタのようになっている。ある程度の大物も仕留められるように専用工具で組み上げたゲイル達鍛冶ギルド自慢の逸品だ。
昼食までにある程度の狩りを済ませ、着陸までの時間つぶしに血抜きと羽の下処理を済ませて川辺付近に着陸したら早速飯の準備に取り掛かる。
すでに夕方にさしかかろうという時間、今日はここで野営することになるので各人にその準備も行うようにアリサが指示を出す。
今回の遠征は新人教育用に八人の奴隷、教官役としてアリサとアリシアが付いて来ている。二人に四人ずつ割り振り、調理と野営準備の用意をさせる。その間に隆一は紅のために別個で食料の調達に向かう。
先程上空から大物の影が見えたので今日はそいつを狩る予定だ。
相変わらず紅の好物はジャイアントポテトだが、竜らしく肉類も好むので今日は肉で攻めていく。
見つけた。
残念ながら黒毛ではなく大猪だが、体調は軽く4mは超えている大物だ。しかし纏っている雰囲気からしてどうやら魔獣のようだな。
「血抜きの関係上頭から落としたほうが楽かな?」
別段魔獣だからといって今晩の肉には変わりないので隆一も紅も気負うことはない。
それどころか紅の食欲旺盛な気配が伝わったのか、大猪がジリジリと後ずさりしている。
「おいおい」
一瞬でゼロ距離まで詰める隆一。目の前の大猪も突然のことで動きが一瞬止まる。
「肉が逃げたらいかんだろう?」
振り上げる手には雪城、草薙でも良いのだが研ぎの仕上がりを試してみたかった。
綺麗に両断された大猪の首はズルリとズレ落ちるように首から離れ地面に落ちる。
返り血が嫌なので隆一はすでに最初の位置まで戻り雪代の血を払い刀身の仕上がりを確認する。
「うん。さすがゲイルいい仕事してるな」
分かってはいるがその仕上がりに満足して納刀すると紅が大猪の後ろ足を持ち上げて血抜きを行っている。こちらは返り血などお構いなしだ。
だって元から赤いもの。
「じゃあ、頭は俺が持つから体は血抜きした状態で皆のとこまで戻るぞ」
隆一の言葉にご機嫌な状態で戻る紅。
野営場所ではすでに調理支度や野営準備を終えたらしくお湯を沸かしている皆の姿があった。
「お土産」
一言告げて紅が持ってきた大猪の体を見せられた新人の奴隷達は驚き、アリサとアリシアは落ち着いた様子で毛皮と牙の価値を検分していた。
「魔獣のようですが成り立てですね。魔力の浸透率が牙の先端まで行き届いていないので成って日が浅いのは間違いないようです。毛皮は鞣せば今回の道中敷布替わりにはなりそうですね」
目利きとしての才能もこの三年間で鍛えたのかアリサの鑑定眼とアリシアの解体術の手さばきも堂に入ったものだ。
うろたえない二人の姿を見て、奴隷達もアリシアの指導のもと解体の準備に入る。
こういった下積みの経験を活かして成長していくんだなと頷きながら、隆一は調理に使う道具類を巾着から取り出して並べ始める。
それをアリサと手空きだった女性奴隷達が並べて調理をし始める。
今日の料理は道中仕留めた野鳥や魔獣たちの肉と大猪の肉、そして巾着に入れて持ってきた野菜類で作った鍋料理だ。
パンもかなりの数を詰め込んでいるので飢えることはないだろう。
最悪自身で生き抜くだけのサバイバル技術は入ってすぐに叩き込んでいる。
皆で食事を終え、夜の警戒要員をローテーションで決めた上で終身に入る。
俺は紅と黒、そしてラトと固まって就寝に入る。
紅にもたれて餅とラトを布団に寝る形だが、そこに黒が抱え込むようにしていつも寝るのだ。
最初こそ一番女性型だからと断ろうとしたのだが、仲間はずれはひどいと言われて渋々こうなった。
人間慣れというのは怖いものだ。今では当然になっているのだから。
早々に寝に入った隆一の姿を見てアリサとアリシアは与えられた役割を淡々とこなし始める。
「最初はアリシアのグループが警戒にあたります。紅様がいらっしゃるかといって魔獣や盗賊の類が近寄らないとは絶対に言い切れません。なので気を緩めるなとは言いませんが常に周囲の情景に気を配って警戒するように。私のグループは最初の仮眠です。無駄話をせず速やかに寝るように、武器は手元から離してはいけませんよ」
アリサの指揮で役割を振られ夜が老けていく。
道中、盗賊や魔獣の襲撃といった要素もなく、紅がジャイアントポテトの匂いに釣られて航路を外すというハプニングがあったものの、無事五日目には目的の湖にたどり着くことができた。
今のところ目だった大暴走の兆候はないが、そこかしこに冒険者が野営しているのを見ると、今が稼ぎ時だと判断しているのだろうか?
大暴走のせいで同種族の素材は値崩れを起こしていそうだが、冒険者にとっては実力を高めるチャンスでもあるし、素材が値崩れしても収支的に見ればプラスに傾くのだろう。
見える陸地で水棲型の魔獣の姿は見えないが、湖底遺跡スピネルでは今も大暴走の波が来ているはずだ。
早速指示を出して野営の準備に取り掛かるとともに、ラトにウィスパーで冒険者ギルドと王城に到着の連絡を入れるように依頼する。
「俺は残りの赤縁の魔術師が来るまで周囲の散策に出るから、黒と紅はこいつらを守ってやって。アリサとアリシアは奴隷達が襲撃にあっても怖気付かないように言い聞かせること。それじゃ、晩飯までには戻るからある程度の荷物は置いていくぞ」
巾着から一通りの荷物を出し、アリサ達から忘れ物のないことを確認して隆一は単身湖底遺跡スピネルへと足を運ぶ。
奴隷達は単身で乗り込んでいく隆一を奇異の目で見つめ、アリサとアリシアはそれが当たり前とでも言いたげな目線で隆一を見つめている奴隷達を見つめている。
紅は連れて行ってもらえないので仕方なく寝ることにしたようで、黒は一人黙々と野営の準備を行っている。
ラトの姿は見当たらないが、きっと連絡ついでに狩りでもしているのだろう。
「さぁ。ご主人様の命ぜられた通りに行動を開始しなさい。帰ってきたときにまだ野営の準備が完了していないなんてことがないように可及的速やかに行動に移る!」
アリサの号令で一斉に奴隷達は動き出し、着々と野営の準備が出来ていく。
その頃、冒険者ギルドと王城では、アーカードと国王の両名がほぼ同時にラトから送られてきた到着の知らせを確認し、その有用性に感嘆していた。
ラトからは追伸で『上手いチーズを食わせてやってくれ』とも書かれていたが、もちろん隆一はそんな事は伝えていない。
将軍の名を冠するだけあってラトは部下思いの良い女なのである。
アーカードは早速行きつけの店で食べているお気に入りのチーズを取り出し分け与え、国王は笑いながら王室御用達のロイヤルなチーズでネズミたちを楽しませた。
以降、何かあるたびにネズミ達は交互に伝令役を交代し、両方の味を満喫するのであった。
今回は間が空いていた分更新が早めです。
ホントはこれくらいのスパンで投稿したいのですが・・・
これからもよろしくお願いします!




