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第35話 3年後、そして大暴走

そして時は動き出す! ←今ここ!

 屋敷を手に入れ、エンズワーグに居を構えてから3年が経った。


 それからの隆一の生活は外へ出て狩りをする。週一で鍛冶ギルドへ草薙の調査を依頼する。そして遺跡の調査が新たに加わることになった。


 エインズワーグ周辺の遺跡を中心に範囲を伸ばすことになるが、以前草薙から聞いていた過去の隆一が残したと思われる筆跡を遺跡の随所で確認することができた。


 無論草薙の知識により未発見の遺物も発見することができたため、隆一個人の手持ち金としてはしばらく遊んで暮らすことも可能だ。


 何よりの収穫が遺跡の探索において、ある仮説が隆一の中で組み立てられたことだった。


 それは他の人間が聞いたら突拍子もない根拠もない絵空事の考え方だが、隆一はある種の確信を抱いていた。


 その考えは『遺跡は過去の俺がループした数だけ存在する』という仮説であった。


 どこでその考えに至ったかについてはわからない。


 ふと頭の中で遺跡に書かれていた一つの樹形図を見て思いついた発想だ。


 昔の俺が遺跡に何かを残したのなら、なぜ手元にある本に全てを記さなかったのか?

 

 それは草薙が知らないそれよりも昔の俺が知識を残すために遺跡に記したものだから。


 ならばなぜ遺跡に残したのか? 過去の俺が遺跡に立ち入ることを前提として記したのならわかるが、未来の俺が遺跡に入るかはわからないし、なによりその時の俺ですべてが終わるかもしれないのに残す意味があったのだろうか?


 謎は残るが考えていても仕方がないので結論だけ出すことにする。


「どう考えても地球にいた頃の技術を再現しようとした形跡がある。それも俺が知っているうろ覚えの知識じゃなく、きちんとした理論と確信をもって制作されたものだと思う」


 目の前に置かれている巨大な縦長のオブジェ。


 ただデカイと表現できるそれは、遠目から見た瞬間思わず駆け出してしまうほどに隆一に衝撃をもたらした。


「どう見てもスペースシャトル。それもほぼ内装も出来上がっている状態だ。気密性はさすがに危ないだろうけど昔ニュースで見た形と全く同じだ」


 なぜこんなものがこの世界にあるのか?俺の立てた仮説は、ループした俺の分だけこの世界が上書きされるという考え方である。


 ファルシナの時渡りが完全なものでなく、俺とともに全ての平行世界も引きずり過去へと遡っているのなら?


 全ての息絶えた世界とそうならなかった世界が遺跡という形でこの世界の表面に現れるのだとしたら?


 考えただけで恐ろしい。


 今までの全ての進化体型が今のこの世界に集約されているのだとしたら?


 全てを一つにまとめた世界の終わりを内包した世界なのだとしたら?


 ファルシナには悪いがこの世界はここで終わらせるべきなのかもしれない。


 もしも創造主がこの世界を見限ったのではなく諦めたのだと、それは創造主にとっても本来は考えてなかったことなのだとしたら?


 俺にできるのは創造主に直接会い、新しい世界にこの世界の住人を移動させてもらうよう懇願するのみであろう。


 奴隷達も家での仕事や冒険者稼業にも慣れ、子供たちもダンケの下で働く楽しみを見つけたようだ。


 魔王が生まれるまで後2年、それからしばらくの間は魔物が活発化し、人々のあいだに緊張が走る。


 ノイマンの家では勇者となる子供が生まれ、名をグレイラットと名付けられた。


 今は1歳で元気に家の中を駆けずり回っているそうだ。


 ノイマン商会とは今でも贔屓にさせてもらっているのでグレイラット(みんなは縮めてグレイと呼んでいる)を見せてもらった。


 女性陣に大人気のようで、ノイマン商会に買い出しに行く際は取り合いになるほどの人気者だ。


 そして現在の俺の装備は、草薙の形が折れた大剣からバゼラートに形が変化している。


 記憶にあった地球に祀られている草薙の剣の形状をゲイルに伝えたところ、それくらいなら刀身が短くなるが可能だと言われたのでお願いした。


 未来の子孫はこれをもとに草薙を仕上げたのだろうと感じてしまうくらい高い技量をゲイルは持っていた。


 創造主は恐らく龍族の大陸にいるのではないかというのが武御雷の意見だ。


 俺の仮説を武御雷は一笑せずに聞いてくれた。

 

 結論としては武御雷も俺の考えに賛成してくれた。


 話が急展開すぎるが、事が事なだけに武御雷の方でも話を持っていくそうだ。


 武御雷曰く、本来世界の調整に自身の端末、ファルシナのような存在に巨大な権限を与えること自体があってはならないのだという。


「俺自身まだ無名の下級神だと思って対応していたから気がついたら後手に回っていた。それぐらいゼウスがファルシナに付与していた神としての核がでかいということだ。そして結局のところなぜゼウスがその世界を見限り別の世界を創ることになったのかについては謎のままだ。何回もループしている世界などエラーの塊のようなものだから最悪お前だけでも別の世界に逃がすことはできるが、お前の性格上関わったもの全てを助けたいのだろう。そんな神様めいた人格者だからこそお前が今そこにいるのだろうが」


 武御雷としては最悪創造主が作った別世界に介入して、今いる世界の生物(害悪な者は除く)を転移させる腹積もりのようだ。


 ファルシナの言っていた龍族の絶滅と創造主が別の世界を作った時期が同じなのなら、創造主が龍族を逃がすために新しい世界を作ったのだとしたら?


 考えていても仕方がない。


 今俺ができることは来る龍族滅亡までの間にどうにかして創造主と接触することが目標だ


 周囲の住人には曰くつきの屋敷として知られていたが、今では庭に飛竜が住み着いている屋敷としてちょっと知れた存在になっている。


 無論最初の頃は飛竜の素材目当てでやってきた冒険者崩れや貴族の類が押しかけてきたが、しばらくの間手を出してきた人種階級身分etc関係なく潰して根絶やして軒先に晒すようにしたら次第に誰も近寄らなくなった。


 王族の近衛騎士団長とかいう玉座の間にいた人間がやって来てもう少し穏便に頼むと言われてからは、捕まえて四肢を文字通り折りたたんだ上リボンで包装して城まで送り届けてやることにした。


 今では別の意味で曰くつきになっている。


 最も信頼のおける人間以外寄ってこられても困るのでこちらとしては都合がいい。


「あと何回この天井を見続ければいいのだろうか?」


 ふとこぼれた言葉。


 別に深い意味はない。


 元の世界の接点は武御雷とだけ、それも通話越しでしか話せない。


 別にそのやり取りが嫌なわけじゃない。


 この世界で生きていくと決めた。


 それは成り行きでも自分で決めたことだ。


「うん。肉体が元に戻らない以上この世界での目標は創造主に肉体をもらうことだな」


 ファルシナの目標はこの世界の存続だが、創造主の思惑を確かめてからでもその目標は果たせるはずだ。


 それに最近どうにもアリサとアリシアが感づき始めているフシがある。


「この仮面で騙すのも限界が近いしな。餅に表面肉付けしてもらっても顔までは覆えないし。どうするか」


 いっそのことフルフェイスのマスクをゲイルに作成してもらうのはどうだろうか?


「遺跡に行けば出てくるかな?」


 三年間屋敷の中にいる誰にも俺の素顔を見せたことはない。常に何かしらの仮面や布切れで顔を覆うなどして周囲に気を配っていた。


 来ている衣類は透けずに残っているので表面を餅に覆い隠してもらい肌色を表現するだけで今までは気づかれずに来れたのだ。


 戦闘系の技能としてよりも隠蔽的な技能に特化している餅の能力は、ほんとにありがたい。


「主様。失礼します」


 部屋扉を叩く音、そしてかけられた言葉。先程から気配が近づいていたのはわかるが未だに礼儀作法は苦手なようで、返答を待たずにドアを開けて入ってくる妙齢の黒髪の女性。


「黒。返答を待ってからドアは開けるように。それで何の用だ?」


 見た目は日本人そのもの。黒色の長髪をポニテに纒め、ダンケとノイマンと三人がかりで造り上げたフリフリなメイド服(巷の貴族に大流行な上に版権で大儲け)を着こなした女性が目の前にいる。


「申し訳ありません。緊急の要件でして、遺跡の『大暴走スタンピード』の兆候が斥候より観測されました」


 目の前で報告している黒髪の女性。実は三年前に銀龍煌を飛ばした跡の穴にいた女王蟻であったりする。


 これには深い事情があるが、要約すると餅、紅、ラトに続く4番目の俺と契約した魔獣?になる。


 餅や紅を魔獣と定義するのもどうかと思うが、黒は元々銀龍煌を飛ばした場所の下で巣を作り暮らしていたのだという。


 そこから紆余曲折を得てまぁウチの子になったわけなのだが、一応国王には冒険者ギルドのアーカード経由で知らせ、了解をもらっている。


 黒が言うにはちょうどいい魔力溜まりに巣を張っていたのはいいが、銀龍煌の龍鱗のせいで魔力が霧散、その上冒険者連中(俺も含まれる)の襲撃で疲労困憊だったそうだ。


 その様子を見かねたキングアントがちょうど奴隷を連れて攻略に来た俺と鉢合わせし、俺の潜在魔力にビビった上で全面降伏。何故か会話の通じる餅を仲介に文字として言葉を起こしてもらいながら会話をこなし、女王蟻である黒を治療したのだ。


 黒のユニークスキルは魔力を消費しての眷属召喚。それも大量に魔力を消費しても生まれてくるのは通常個体のアシッドアントのみなので魔力溜りがなければ群れを作れないのだとか。故にアシッドアントが出る場所は良質な魔力溜りが存在するのだとか。


 キングアントはレアスキルで軍隊統括という将軍職なら涎が出るくらい便利な群れの統率をしやすくなるスキルを持っているらしい。


 なんか三国志のゲームみたいなのが脳裏に浮かんだのだが、こちらのユニークスキルの最適解が導き出した結果だとしたらきっとそうなのだろう。


 自分自身のスキル構成などあまり深く把握してこなかったので、この三年間はそれらも含めて身の回りの地盤を固めていく作業だった。


 今のギルドカードに記載されている内容はこうだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――

リューイチ・リューガサキ 年齢:16 性別:男 


職業:魔法使い 二つ名:竜を統べる者、畏怖の館の主、etc

適性:all

ギルドランク:A

ステータス:unknown

ギフト:ファルシナの希望、異世界神族の加護

スキル一覧

ユニーク:鍛冶槌の極、最適解、遅滞推参、異世界の知識、女神の知識

レア:鍛冶、体内循環、魔力操作、気力操作 眷属化

ノーマル:大剣術、剣闘術、拳闘術、全属性魔術、全属性耐性、全状態異常耐性、眷属召喚レンタル軍隊統括レンタル

称号:託された者、神と対話した者、剣と対話する者、

所持金:白金貨168枚、金貨684枚、銀貨64枚、銅貨98枚

――――――――――――――――――――――――――――――――


この中でもステータスとギフト、スキル一覧は表示しないようにしてあるので一見して目を見張るのはAランクと適正allの文字だろうか?


 白金貨など一見して多いように見えるが話を聞くとランクの高い貯蓄している冒険者だとそう珍しいものでもないらしい。それでも他の冒険者よりは群を抜いて多いのは間違いないのだが。


 隆一のような年齢でそれだけ稼いでいる冒険者はいないらしいが、メイド服の版権の他に定期的に特許を開発しているのでそれの臨時収入もあり、金は日々増えていくのだ。


 濡れ手に粟とはこのことだな。


 そのせいで子供の俺に対して甘く見ているのか突然来訪してくる認知していない親戚や両親、はてまた生き別れた兄弟が多数。


 その上結婚してやろうという馬鹿な貴族に結婚させてやろうという阿呆な貴族。何が違うのかわからないし俺も何を言いたいのかわからない。


 とりあえず腹が立ったので最初に口に出してきた貴族を軒に吊るしたら、また王城から近衛騎士団長がやってきてこれ以上貴族が減るのは喜ばしくないとか言われたのでそれ以来丁寧に折りたたんで以下略。


 そんなわけだが、レンタルと書いてあるキングアントとクイーンアントの持っているスキルは俺の新たに得たスキル『眷属化』の影響であろう。


 どうやら紅と契約して以降手に入れたスキルみたいなのだが、こちらは奴隷紋の契約なしで両者合意の上ならどんな種族でも自身の配下へ加えることができるスキルとなる。


 なので、現在隆一は全ての奴隷の奴隷紋を解除し、眷属化によって配下へと置き換えている。


 無論全てといっても本人の了承が貰えた者のみなので、それ以外の奴隷は相変わらず奴隷紋での契約となっている。


 なぜキングとクイーンのスキルだけしかレンタルできないのかについては不明だが、恐らく何かしらの制約が存在するのだろう。


 それよりも二つ名がAランクに上がった途端に項目に新規に現れた。


 なんでも、巷で囁かれている俺自身の呼び名を自動で表示されるらしく、その呼び名が多い順に表示されるそうだ。


 つまり世間で俺は『竜を統べる者』『畏怖の館の主』と呼ばれているのだ。


 竜を統べる者はかっこいいから許せるが、畏怖の館の主とか完全に俺の行いのせいですね分かります!


 色々とツッコミ要素はあるが、とりあえず今はこれが最近の俺事情だろうか。それよりも黒の報告があったな。


「すまない。遺跡の大暴走?どこのだ?」


 エインズワーグには大小様々な遺跡が点在し、実はエインズワーグ自体も遺跡の上に建てられた国だったりする。


 屋敷の地下にあった古い下水道跡はその名残だ。


「場所はここから北東へ10日ほど先にある湖底遺跡、名称はスピネルでしたか?水性系の魔獣の出現頻度がここ数日で十倍ほどに膨れ上がった模様です。先程国王及び冒険者ギルドマスター両名の連名による指名依頼の文が届きました。期間は他の冒険者が現地に到着し、態勢を整えるまでの間の時間稼ぎとのことです。なお今回は他に冒険者ギルド所属の赤縁が2グループ同様に対処に当たるとのことですので共闘を推薦するようにとの言伝です」


 協調性を持つようにと遠まわしに言われてますね? と黒はジト目で隆一を見据えているが、本人はどこ吹く風で遠征の準備を始めている。


「とりあえず斥候は戻していいや。出撃は午後に参加メンバーは餅と紅、ラト、黒、あとお供に適当に見繕っといて。あと食事と寝具類は纏めといてくれればしまい込むから準備しといて」


 簡単な事付を頼んだ隆一は、草薙を腰に落ち着けると更にひと振りの日本刀を腰の後ろに挿す。


 これは銘を雪城。以前遺跡から出土した鉱石を使用し、ゲイルとともに造り上げた渾身のひと振りだ。


 刀身は純白、反りのない鋒諸刃の忍者刀のような拵えだ。未知の鉱石だけあってゲイルの心は踊り、隆一のテンションは上がり、二人とも嬉々として制作にとりかかったのが一年ほど前のことだ。


 魔力を載せやすい鉱石らしく、魔術師が使用する魔道書のように陣を書かずに魔力をバイパスさせて発動させることが容易となるよう隆一が考え、鉱石を薄い板状にして応用の効く基本魔法陣を何十にも重ね合わせたのを圧縮させ、それを細心の注意を払いながらゲイルとともに打ち上げた刀であり。理論上魔術の行使に魔道書を持ち歩く必要がなくなるよう設計されている。


 隆一自身魔力のみで魔法をなすのでただ効率性が上がっただけのようにも思えるが、魔道書を手元から離してしまった魔術師が使用するサブウェポンとしては闇器の部類に当たるのかもしれない。

 

 手持ちのローブなどはこれ以上がないため着回しとなるが、ほつれることなく常に清潔な状態を保っている素晴らしい逸品ものだ。


 話が逸れたが、隆一の配下にいる奴隷達はゲイル達鍛冶ギルドが作った試作品装備のテスターとして日々冒険者稼業に勤しんでいる。


 最初期のメンバーは早々に目標金額に到達し、それでも隆一の下で働きたいという奴隷が残った。


 ダンケの勧めで定期的に奴隷を購入し、社会復帰のようなものをさせているのも隆一がここ3年で新しく始めた仕事なのかもしれない。


 軽い調子で黒に後を任せ、隆一は街へと繰り出した。


 向かう先は鍛冶ギルド。ゲイルの元だ。


「おう、お前さんか。アーカードから話は聞いている。急ぎの研ぎの依頼だな?」


 腰に差してあるうち雪城をゲイルへ渡し、草薙は隆一自身が手入れする。


 草薙は掃除しなくても常に新品の輝きを宿すが、草薙自身が手入れを要求するためゲイルにやり方を教わりながら手入れの方法を身につけた。


 さすがに草薙と違い、雪城はよく斬れる少し特殊なだけの刀なので、研ぎ方は専門職に投げているのだ。


「今回は水棲生物が相手だから防錆の処置もお願いしとくよ」


 隆一の注文にゲイルは相槌だけ返して素早く研ぎの準備に入る。


「さて草薙。今回の『大暴走スタンピード』も・・・」


「ああ、今までの記録には存在しない」


 どこかで歴史の分岐を変えたのだろうか? 紅を配下に加えたあたりから草薙が記録している歴史の流れが少しずつ変わり始めた。


 原因は紅、いやそれよりも以前。おそらく餅と出会った辺りから変わり始めたのではないのだろうか?


 草薙が教えてくれた未来の知識も少しずつだがズレが生じ始めている


 それが今後どういう道に繋がるのかはわからない。


 少なくとも魔王が生まれ、グレイラットが俺と同じ年齢まで成長するかまでの期間、先は長く感じるがこんな生活が続けばいずれ慣れるのだろうか?


 草薙と雪城の手入れも終わり、装具の点検を終えた隆一はゲイルに代金を支払い今度は冒険者ギルドへ足を向ける。


 道行く人々に手を振られる中、隆一は器用に挨拶しながら通りを駆け抜ける。


 3年の間にこの国や近隣の村々の人々とも交流ができた。


 隆一の冒険者ギルドでの一件を知る昔からの人たちはある種開き直って挨拶してくるが、それを知ってもなお笑顔で挨拶をくれる人たちは、隆一と奴隷達が日頃冒険者ギルドの依頼でお世話になっている人たちだ。


 本来隆一のランクになれば遺跡や指名依頼で食い扶持を稼ぐのが基本なのだが、ランクの低い冒険者が受けるべき依頼が溜まっているような時は率先して消化しているのが原因だったりする。


 溜まっている原因が実は隆一にあり、ランクBになったあたりで幼い子がそれだけできるなら夢はあるかもと、こぞって討伐系クエストや遺跡調査などに注文が殺到したせいで国内や近隣の村が依頼しているクエストにお撥が回ってきたのが事の発端だったりする。


 しかし、奴隷達を駆使した人海戦術で人助けをする隆一の姿を見て、何人かの冒険者は自分の行いを恥、しばらくするとその熱は徐々に冷めていったのも事実である。


 起こしたのも本人なら解決したのも本人という話なのだが、副産物として国民からの信頼を得られた点に関しては得したのは結局隆一だけになるのだからおかしなものだ。


 冒険者ギルドに入ると皆が一斉にこちらに振り返り、そして一斉に目を背ける。


 中には脂汗を流し始める者いるが隆一はその一連の動作に慣れているのか足早にカウンターの一つに歩み寄る。


 今日の受付は三年前、初めてエインズワーグに来た時にギルドカードを発行してくれたサリアが受付であった。


「久しぶり。悪いけどアーカードに会いたいんだ。時間大丈夫?」


 単刀直入、挨拶もそこそこに話題を切り出すも、サリアも慣れたものなのかすぐに呼んできますと告げて席を離れる。


 遠巻きにその光景を見ていた冒険者からは「ギルマスを呼び捨て」「俺のサリアに馴れ馴れしい!」「だれがお前のじゃ!彼女は俺の嫁だ!」「誰が貴様の嫁じゃ!彼女は皆のアイドルじゃ!」


「「「「「「「「確かに!」」」」」」」」


 サリアが聞いたらなんて言うだろうな?


「リューイチさん。ギルマスがお会いになるそうです。というよりも騒ぎになる前に早く来いとの」


 苦笑しながら告げるサリアは後ろの喧騒を聞いて「もう遅いか」と諦めムードだ。


 悪いなと一言詫びてアーカードのいる部屋へとノックもなしに入っていく。


「ノックをしろ。Aランカーとして以前に常識の作法だぞ?」


 入って早々に苦言を呈するアーカードにハイハイと手を振り本題の情報収集に移る。


「早速だが俺の他に派遣される赤縁の冒険者の情報が欲しい。正確には個人名と主に使用する魔術とかだな。部外秘の情報なら知れる内容だけでいい」


 共闘するなら相手の情報を知るのは当然だろ?という隆一の言葉にアーカードはため息をつきながらも二人の赤縁冒険者の名前を挙げた。


「一人目はお前も見たことくらいはあるだろうが現宮廷魔術師である『ルカルス・キャラメル』。一応冒険者登録はしているが、宮廷魔術師が本職のため義務ということで登録しているだけだな。詳細な魔術の情報は話せないし俺自身詳しくないが、無機質の物体。まぁモノを操作する魔術を得手としている。本人が宮廷魔術師になったのもそれを利用した魔術運用に関しての論文が学会に評価されたのが原因だからな。もう一人はお前と同じAランカーで、今回大暴走が確認された湖底遺跡スピネルに程近い国『ステイン』出身の冒険者グループ『ウインドミル』。そのリーダーである『ジャマイカ・ジャマイカス』が赤縁魔術師だ。特徴は黒色の皮膚に対称的な白い長髪、グループ名の由来となった風属性の魔術を好んで使用する。まぁ二人共性格に多少の難はあるがお前さんほどでもないだろう?」


 アーカードの言葉にカチンとくるが、会ってもないのに第一印象だけで決め付けるのは良くないのでとりあえず実際に会うまでは参考程度に覚えておこう。


「わかった。アーカードの最期の言葉にギルド本部破壊しようかと考えたが今日はサリアが対応してくれたからとりあえず我慢しておいてやる。サリアに跪いて感謝するといい。午後すぐに出発する。メンバーは今のところ俺と契約している餅、紅、黒、後最近入った奴隷達を中心に連れて行く。念のため等間隔にラトとその配下達を配置しておくから何かあったらそれで連絡を取れるようにしておく。『ラト』」


 最期のラトという言葉にアーカードの部屋の隅から一匹の大きな鼠がやってくる。その気配に今まで気付かなかったアーカードは軽く驚きつつも隆一から聞いた情報に納得した。


 ここ3年で色々と修行?を積み重ね、指揮官鼠から将軍鼠という存在にいつの間にか変わっていたラト。何やら屋敷に忍び込んできた賊の類を単身で相手していたらしく。気がついたら以前よりも大きな姿で隆一の目の前に現れたのだった。


「将軍鼠か。さすがに初めて見るな。情報伝達能力に長けたウィスパーの固有スキルが使える個体だったか。そういや以前もある程度の情報戦をお前さんはそいつらで実演して見せていたな」


 ウィスパーとは将軍鼠になった個体が使用できる固有スキルで、配下の軍隊鼠個々に精密な指示を素早く送ることができるスキルである。


 これもキングアントがもつスキル『軍隊統括』と合わせて将軍職につく人間が土下座懇願してでも手に入れたいスキルの一つである。


 これら二つのスキルを持つだけで群れるだけの軍隊を一つの生命体のごとく操ることができるようになる。


 過去一度だけその二つのスキルを持って生まれた将軍職の人間はそのあまりの采配ぶりに逆に自国に恐れられたという逸話まである。


「情報連絡のやり方はウチのネズミを各所に数匹ずつ置いていく。仔細の伝達は以前特許を取った文字盤を使用しての伝達になる。トン・ツーはまだ普及できてないから少し伝達に時間がかかるが頑張って慣れてくれ。

 知りたい情報があるなら軍隊鼠とラトの間だと普通に話しかければ伝達が可能だしラトと俺は意思疎通ができるから必要があればいってくれ」


 文のやり取りのいらない情報伝達手段を考え出した隆一だが、勿論前提にラト達がいないとできないので他の人に真似できない。


 故にどうしてもこういった大事の際には隆一に頼らざるを得ない状況が続くことがあり、アーカードは頭を悩ませていた。


 一度便利を覚えてしまうと昔のやり方にもどかしく感じてしまう事が有り、そこも悩みの種であった。


「まぁ、そのうちラト達がいなくても簡易的に状況がわかる伝達手段でも考えてみるよ」


 部屋を出る去り際の隆一の言葉に済まなそうに「頼む」と呟いてアーカードは別処理の仕事に戻る。


「ちゅ?」


 執務机の上には情報連絡用のネズミが一匹、そしてアーカードの視線の先には文字盤の上に乗っている数匹のネズミ達。


「頼むぞお前ら。食事はチーズか?」


 アーカードの言葉に文字盤を順番に叩き「我々はグルメである!」と宣言するネズミ達。


 その『!』まで用意してある隆一の仕事の細かさに苦笑しつつ「わかった俺の知る上手い店のチーズを用意してやる」とアーカードは机の上にいるネズミを撫でる。


 前にリューイチが言っていた幼子や小動物を見てると癒されるというのはこういう感情か。


 緊張感を持たなければならない状況のはずなのにどこかほっこりとした空間がそこにはあった。








お久しぶりです。


一ヶ月ぶりの更新となりました。色々と立て込んでおりましてハイ・・・。


仕事と休日も何かしらイベントが重なり、フォールアウトも忙しく←ヲイ


初めて見た方も続きを待っていてくださった方々もこれからも応援よろしくお願いします!

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