第33話 触れてはいけないもの
さぁ、報復!報復!
この冒険者べぇよ!マジべぇよ! ←今ここ
メントスが騎士団に引き渡されたのと同じ頃、エインズワーグ内のマールボーロ公爵家とそれに連なる貴族の家に対し騎士団が強制的に搜索に入っていた。
きっかけは隆一の奴隷が被害を受けた一件に由来するのだが、正確には公爵家の起こした不祥事に対し、国王自身が我慢の限界を超えたことにある。
タイミング的には同じ時期だが、メントスの他に公爵家当主の隣国への情報漏えいが問題になっていた。
しかも軍事情報だけではなく、違法な金銭取引もあったのだ。
相次ぐ不祥事に、今までも国王が注意していたにもかかわらず起こった問題、更にはメントスが、飛竜を使役しているという若き赤縁の冒険者の所有している奴隷に無礼を働いたこと。それに対してその冒険者が報復行動を起こしたこと。
その冒険者が必要とあらば簡単に命を奪う性格だということ。
このまま放置し公爵家ほか連なる者たちを処分する分には構わないのだが、王家は下の公爵家に対して下手に出て顔色伺っているばかりの弱い国だという噂が流れたら威信が落ちてしまう。
幸いにして冒険者ギルドのギルドマスターと奴隷ギルドのギルドマスターによる情報提供があったことから赤縁の冒険者(名をリューイチというのを冒険者ギルドのマスターから聞いた)がメントスを処分する前に身元を確保することができれば御の字だろう
どちらにせよ処刑は確実なのだが、王家の次に位の高い公爵家の起こした問題について、このまま公開処刑をするだけだと民衆から支持は得られない。
元より王家の威光を傘に着て好き放題していた奴らに対し何もできなかった王家が何を言ったところで民衆は見向きもしないであろう。
エインズワーグの王『アレハンドル・エインズワーグ』は考える。
アレハンドルは決して無能な王ではない。政治に戦に長け、頭の回転も早い。しかし周囲に信頼できる部下が少なすぎた。
知恵は回るが応用が利かず、公爵家の口先三寸に騙されるくらいに人をたやすく信じてしまう。
公爵家を擁護する城勤めの文官たちにより情報操作され、直に来た公爵家に対しての苦情以外の問題を知ることがつい最近までできなかった。
きっかけは紅の飛竜が城に近い屋敷の庭で目撃されるようになった頃。
聞けば若くして赤縁の魔力量を持つ冒険者が従えた飛竜だという。
そしてそこから話は進み始めたのだ。
情報を得るために個人で信頼できる人間を冒険者ギルドへ使いとして出し、ギルドマスターから冒険者の情報を引き出した。そんな折り、ギルドの受付嬢から渡された書類の中に公爵家の起こした不祥事が在りありと記載されていたのだ。
そして得た情報を元に証拠を集め、いざ検挙に踏み切ろうとしたところで今回の隆一が所有する奴隷への暴行事件が発生した。
すぐさま情報収集を行っていなければ少なくともメントスはこの世にいなかったのかもしれない。
「王よ!アレハンドル王!王家に連なる公爵家である私たちが何をしたというのですか!?」
今現在、玉座の間には王と近衛騎士団長が、そして謁見の間に転がされているのは“元”がつく公爵家の面々だ。
全員両手足が縛られ、更には魔術師用の封印枷が嵌められ身動きも魔力も出すことができない。
目の前で喚いているのが公爵家現当主であった男のはずだが、その男からはいかに自分たちが王を敬い尊敬し、崇め、国のために王家のために尽くしてきたかという話をさも英雄譚のように話している。
そして一通り話し終えて満足したのかこの縄をほどいて自由にするように要求してきた。
一国の主を目の前にしてあたかも自分の方が偉いかのような口ぶりだ。
仕方がないので一つ一つ国王自身が集めた不祥事の内容を、日付と時間込みで長々と公爵家の人間全員に聞かせてやることにした。
最初は国王も知っているという情報を得ていた不祥事の内容を話され対応していた公爵家当主だったが、話が当主しか知らないはずの内容になってくると態度が変わり始め、メントスや公爵家全体が隠してきた違法取引の情報が出来た時には身内同士で罵り合いが始まった。
これ以上話しても埒があかないと判断し、一族を爵位を剥奪の上全員処刑、しかも罪状を国民に読み上げての公開処刑という形をとることにした。
どれだけ自分たちがしてきたことが重い罪なのかを死ぬまでの短い期間で骨身に染み込ませなくてはならない。
「王家に連なるというだけで温情を与えられると思ったらそれは大きな間違いである。王家に連なればこそ与えられる罰も大きいことを知らしめねばならん。これは貴様に限ったことではない。貴族全てに言えることである。無論貴様の暴挙を把握しきれていなかった我にも責任はあろう。しかし、だからこそ私は一国の王として罪を認めそれを償うために国を動かさねばならぬのだ!」
後日,メントスを含めた公爵家および組みしていた貴族は冒険者ギルド前の広間にて絞首刑及び斬首刑に処せられた。一国の王が自分の身内を処分するという行動に国民の中でも意見が分かれたが、公爵家が起こした所業を知った国民は、逆に国王を支持する声が高まったのは事前に根回しを行っていた国王のなせる技であろう。
隆一のあずかり知らぬところで勝手に決着がついてしまった今回の事件。しかし隆一は、メントス達を騎士団に引き渡す際ある交渉をしていた。
王家勅命である捕縛任務を与えられていた騎士団は、全員捕縛が任務なのだと説明したが、隆一は最初、断固としてメントスを引き渡そうとはしなかった。
痺れを切らした騎士団が抜剣をしようと柄に手を添えたとき、隆一は抑えていた魔力を一気に開放した。
循環させていた魔力が色を纏って隆一から漏れ出し地面を侵食する。
全員が一瞬で彼我の戦力差を実感し両手を上げる。魔力に当てられて両膝をつく騎士もいるほどだ。
「取引をしよう。一つは俺がここにいたことを王以外の誰にも伝えないこと。二つ目はこの商人は俺が引き取る。三つ目は王に伝えろ、『次はない』とな」
このあと国王が騎士から隆一のセリフを聞いて国王は深い溜息とともにその商人の情報を集めるのであった。
「ここは?」
商人は暗い部屋の中で目を覚ました。
体中を身動きできないように土で固められ、首だけ出ている状態で彼はそこにいた。
辺りには明かりがなく、時折聞こえてくる小さな水滴の音がどこかの地下室なのだろうと憶測を生む。
ネズミの鳴き声が聞こえるが姿は見えず、ひたすら水滴の音と自分の息遣いがこの場を支配する。
静寂……。
水音……。
日の当たらない暗い部屋では時間の感覚さえわからない。
喉が渇く。
腹が減る。
誰も来ない。
どれだけの時間が経ったのだろうか?
次第に商人は独り言をつぶやくようになった。
最初は恐怖から逃げるために色々と考えては口に出していた。
しかしそれも時間をすぎれば無意味と知り、次第に自身の不幸を呪い始める。
声も次第に小さくなり始めた頃、商人の耳に足音が聞こえた。
幻聴か? すでに精神に来ている商人にとって、それは遠くから消えてくる幻聴に聞こえる。
大きな水滴の音と間違えたのではないかとさえ勘ぐってしまう。
その音は次第に大きくなり、商人の近くで止む。
光源の無い暗闇の中で迷わず歩いてくる目の前の存在に商人は知らず恐怖する。
「たすけて……」
商人は懇願する。目の前の存在が誰かなど知らない。ただこの地獄から出して欲しい。
「お前はどこの国の人間だ?」
「みずをくれ…」
「お前はどこの国の人間だ?」
「だしてくれ……」
「お前はどこの国の人間だ?」
「…すていめん…」
「なぜここに来た?」
「どれいを…買うため」
「ほかの奴隷はどうした?」
「すでに売った。ここには…補充に来た」
「なぜお前がこうなったかわかるか?」
「魔術師と戦い、敗れた。ここはどこだ?」
「知る必要はない。そして未来もない。ここは終わりの場所だ」
「お前が、殺すのか?」
「違う。時がお前を殺す。待てば死ぬ相手に手はかけない」
「水を…」
「飲ませてやろう少しずつな」
商人は自身が固められたまま後方にスライドした感覚を得た。
額に一滴の水が落ちる。
「水だ……」
上を向き口を開ける。
ただ一滴の、飲めるかもわからない水滴が甘露のように美味しく感じる。
気がつくと目の前の気配は消えていた。水滴は一定の間隔で商人の喉を潤す。
甘露と思っていた水滴も、度を超えればうっとおしくなり水滴を避けようにも移動できない身では避けようがない。
甘んじて受け入れるものの、落ちてくる水滴のせいで眠ることができない。
そして地味に体温が奪われる。
ただでさえ体が固定されて糞便垂れ流しの状態で不衛生だというのにこれではたまったものではない。
そして次第に商人は壊れていく。
それから数日後、商人だったものが出来上がった。
地下深く、王城へ向かう小部屋の一つに捉えられていた商人は、隆一の手によって看守のいない間に独房の一つに入れられた状態で放置され、戻ってきた看守に発見されることになる。
異常な姿で発見された死体が、国王が調べさせていた商人だとわかると、城の内部は騒然となった。
しかし、侵入の痕跡もなく国王自身が事件後、話が城外へ漏れる前に箝口令を敷いたのでこの件について深く知る者はいなかった。
さらに数週間後、玉座の間では国王以下、主だった国の重鎮が集まり緊急の会議が開かれていた。
表向きは今後の国の指針を決めるための会議だが、実際は独房で発見された商人の死体と一人の赤縁冒険者に関しての報告だった。
「……以上が独房で発見された商人が今までに行ったとされる誘拐事件に関する報告になります」
周辺諸国に忍ばせていた密偵達から情報を吸い上げ商人の身元を特定、そしてその商人がマールボーロ元公爵家と癒着し、違法奴隷売買に手を染めていた物的証拠を集め今に至る。
無論すでに公爵家からは証拠となる諸々を差し押さえ、今回の商人に対して手に入れてきた状況と照らし合わせての報告となるため信憑性は極めて高い。
「まさか友好国だと思っていた魔術国家『ステイメン』が違法な奴隷売買で国税を潤していたとは……」
エインズワーグの年老いた宰相『フレイ・キャラメル』は思わず頭を押さえてうなる。
隆一はまだ知らないが、この世界における人族の領域は内陸に大きく偏った形で点在している。理由は海際には他国に通じる海があり、侵略の危険性が高いためである。
最も、龍族と魔族を除いた種族は基本的に不可侵の条約を結んでいるため、その二つの大陸に面した海沿いの場所を除いたひょうたん型の領域、それが人族が現在、開拓している地域となる。
勿論隆一が一番最初に落ちてきたのは龍族が支配している大陸に面しているため、付近には龍族の侵入を国に伝えるための国境警備隊のような組織が駐在しており、そこから銀龍煌の出現がもたらされたのは言うまでもないだろう。
余談だが、龍族に対しての防波堤となっているのがエインズワーグであるように、魔族の住む大陸側にも同じような組織があり、沿岸から一番近い国が担当している。
話を戻す。
歪な瓢箪のような形をした人族の領域において、内陸に行くほど人口が多く比較的平和な国々、海に近いほど実力者が多く強者が集う国として機能している。
なぜ強者が多い国が他国を支配しないのかについては言わずもがな他大陸の魔族や龍族が度々攻めてくるからである。
龍族については縄張り争いに負けた飛竜たちが餌を求めてくるし、魔族に至っては魔王が生まれる時期になると何故か人族やほかの大陸へと侵攻を開始する。
そんな関係が続く中で強国が軽々しく動けるわけがない。
しかし内陸の国々はこれ幸いと強国に対して喧嘩を売る時もある。
今回の友好国である魔術国家『ステイメン』もその一つであった。
国境警備に回している魔術師の多くはステイメンで勉学を学んだ者が多く、単純な地力では負けないものの魔術が絡む勝負事になるとステイメンには遠く及ばない。
一方で内陸国家であるステイメンも魔術以外は特筆すべき点がなく、また国家の規模としても内陸の他の国々よりも小さいため、どこかの国に何かしら依存する体制を築いてきた。
エインズワーグは先代国王が和平を結び、領土不可侵を結んで以来良好な関係を築いてきたはずなのだが、どうしてこの時期に?
「悩んでいても仕方あるまい。幸いにしてこれ以上の被害の拡大を防げただけでも御の字よ。あちらには仔細を詰めた抗議文を正式に送るとしてなるべくことが大きくならないようにするとして、問題はメントスを捉えた冒険者の方よ」
今でこそ“元”がつくとはいえ、公爵家の人間が平民に害されたとあっては一大事である。
元はといえばメントス自身の過失が生んだ事件だが、それでも国として何かしらの処置言い渡しをしないと他の貴族から苦情が来るであろう。
「一度王城に召喚し、この度の沙汰を言い渡せば住むのでは?」
ある上級貴族の言葉に国王と宰相は首を横に振る。
「なんでも件の冒険者は自分の身の回りに被害が及ぶと容赦がなくなるらしいとの報告を受けている。一番初めは冒険者ギルドで行われた決闘システムを利用した殺人。奴隷としている飛竜に手を出した者たちも飛竜自身によって炭となるか気がつくと消えているとの噂もある。奴隷を含めた身内に対し、情が厚いといえばそうなのだろうが、あまりにもやり方が凄惨すぎるとの声もある」
他者のせいで被った被害に対し何故呼ばれなくてはいけないのか?
事件が終わったなら関係ない。
「おそらくはそんな言葉が出るであろうよ」
一国の王の召喚に応じないとは不敬罪ではないのか?
口々に飛び交う貴族の言葉に、国王は追加で言葉を発した。捉えに行った騎士から聞いた言伝だ。
「『次はない』そうだ。国の貴族が起こした事件であろうと公爵家が起こした事件であろうとその者には等しく関係ない。もしも不敬罪を口実に何か事を起こそうというのならやめておけ。本来なら公爵家やそれに組みしていた貴族一党は彼の手によって消されている予定であったのだから」
あれを。と宰相に命じて持ってこさせたのは一枚の国内の地図であった。
所々鼠の足跡が付いているがそれ自体に特に特別性は感じられない物だ。
皆が地図を眺めている中、重鎮の中でも若い新興貴族が声を漏らす。
「今回の粛清にあった貴族の家に足跡?」
その言葉は玉座の間に静かに響いた。
「左様。彼の冒険者がギルドにて情報を集めていた際に使用していた地図だ。彼は飛竜の他にも情報を収集できる魔物を使役しているらしい」
ギルドでも鼠の大群が押し寄せてひと騒動起きた事案があったのを宰相が付け足す。
「軍隊鼠か。契約すれば意思疎通がこなせるのならばこれほど役に立つ斥候はいないであろう」
軍事的利用を示唆する年老いた将軍の言葉に国王は重く頷く。
「それほどの冒険者が国外へ出たとあれば驚異以外の何者でもない。なるべく早急に国に取り込まねば危険すぎます!」
重鎮全員が同じ意見のようだが、宰相は静かに王を見据える。
「皆の意見もわかる。しかし冒険者は縛られるのを嫌う者たちだ。彼として同じであろうし、その力を知る者としてはいたずらに事を大きくすることはできない。故に大事あるまでは静観とする。もしも何か事を起こそうというのならその時は国が先に相手になることを忘れるな」
以上だ!
王の言葉でこの集まりは解散した。
無論王の言葉は絶対だがほとんどの貴族は未だその冒険者の実力を測りかねていた。
何かしらにつけて情報を得られるのなら自分の家臣へ引き立ててやろうと考えている者さえいる。
いずれにせよ行動を起こした貴族がどうなるかなど誰も知らない。
だって自業自得なのだから・・・・・・。
正月ぶりです。
今回は少し暗い雰囲気で書いてみました。隆一のこの国における立ち位置を決める転機かもしれません。
次回は屋敷の完成する話になる予定です!




