第32話 血の代償
王城は危険がいっぱいだぜ!
もうすぐ屋敷の完成だ!
衛生兵!衛生へーい! ← 今ここ!
それから半年、幸いにして城から呼び出されることも冒険者ギルドのマスターが怒鳴り込んでくることもなく、屋敷の改修工事が終わろうとしていた。
木工ギルドのギルドマスターであるレイにだけ隠し通路の旨を告げ、その箇所だけレイとレイの信頼のおける人物数名と俺自身が、相互監視しながら改修を終わらせた。
全体的な作りは変わっていないが、屋敷全体に施されていた歪みを正したうえで壁紙などを白で統一させることで日光の反射で昼間は明るく、夜は魔石を使用した明かりの反射を最大限利用し光源を確保した。
今以上奴隷を増やすことは考えていないので、いくつかの奴隷達をグループとして組ませ、ダンケと共に仕事のローテーションを考え出したりもした。
酷使するだけが奴隷の利用法じゃないという俺の考えにダンケは賛同し、この国では初の試みとされるシフト制が導入されたのだ。
正確には奴隷にシフト制が導入されたのが初の試みなのだがそもそも肉体労働を主に行わせる奴隷を日夜休まず働かせれば疲労と衰弱で効率は下がるが、最大効率で仕事をさせて適度な休憩と食事を行わせ、人道的な扱いをさせれば人というのはモチベーションが保たれるものである。
シフト制を試験的に導入したうちの奴隷達や屋敷で作業に来てくれていた木工ギルドの職員たちにダンケとレイで説明し、一定期間試したところ通常の作業効率よりも早い期間で仕事が終わることが判明した。
危険と隣り合わせの建築現場で体力と精神を常時すり減らして作業していく職場ほどやはり効率面では効果が大きいようだ。
欠点としては意識の切り替えが不十分だと事故率が上がる可能性があるということだが、そこは熟練の職人達ほど卓越しているのであまり心配はしていない。新人たちもその粋に達すればいいだけの話なのだ。
そして奴隷達の冒険者登録も無事済ませたのだが、奴隷達は奴隷ギルドへの借財の返済金の設定があるらしく、さらに俺とは違い冒険者ギルドのランクは上げることができないということだった。
最低ランクで受けられるクエストは薬草採取や街中でのお手伝い系のクエストが多く、たまに出る討伐系クエストも小銭程度の儲けしかならないものばかりであった。
考えれば当然なのだが、奴隷達が逃げ出さないようにする処置だということで、国外へ出て行う薬草の採取なども主人である俺がそばにいないとダメだというのだ。
なら今現在も国外で馬などと一緒にいる紅はどうなんだと問い詰めたら目線を逸らされた。
例外を認めるなら致し方なしと紅を国内へ招き入れようと行動を起こしたところでダンケと共に冒険者ギルドのギルドマスター(名前をアーカードというらしい)がやって来て話し合いとなった。
以前ダンケに紅を屋敷に住まわせることができるように根回しをお願いしていたのだが、どうやら目の届かない場所で色々ときな臭い動きがあったようだ。
夜な夜な紅の竜鱗を手に入れようと冒険者ギルドの馬鹿共が忍び込んでいたようで、二桁の数の冒険者が炭になったようだ。
最初こそ生き残った冒険者たちが俺のもとへ賠償金をせびろうとやってこようとしたが、一応のため仕掛けていた奴隷ギルドと冒険者ギルドの密偵たちがそれを阻止し、俺のところへ報告が来たのは事後報告だけであった。
そして結局のところ、紅もしくは俺と一緒なら上位のクエスト受注も可という条件にもって行くことができた。
そしてダンケとアーカードとの協議の結果、街の防衛戦力として紅を必要に応じて借り受けることができるという契約も結ぶことになった。
なんでも『貴族の努め(ノブレス・オブ・リージュ)』とかいうやつらしいが、俺は貴族じゃないので関係ないな。
王城地下で契約した軍隊鼠は奴隷達に何匹かずつ付けさせ、クエストにも同行させることにした。
小回りの効く斥候はなにかと重宝すると思ったからだ。
虎族の奴隷がそわそわしていたのはネコ科だからだろうか?
紅も最終的には俺の屋敷に住まわせることが可能になり、庭でのんびりと昼寝をしていることが多い。
最強の番犬を手に入れたはずなのだが食費が馬鹿にならないという欠点は改善されていない。
なので手漉きの奴隷を連れて戦闘の経験を積ませるとともにその日食べる食材を調達するのが俺のライフワークになっていた。
主たる者奴隷達を飢えさせるなかれだな。
毎日何かに連れ外へ出て行く俺の姿はよそから見れば異様なようで、討伐系のクエストを済ませた冒険者は何日か休養をはさむのが普通らしい。
しかし体力も魔力も常人とはけた違いの俺は気ままに外へ出て狩りをして帰ってくる。
たまに高級肉などが手に入ると国外の開けた場所でその日連れ出した奴隷達とBBQしていたりもする。
少し前にそれを目撃された冒険者たちからイカれてる。と言われたが、肉は新鮮なうちに食べるのと熟成してから食べるのとで二度おいしいではないか!と豪語すると考えられないといった表情でその場を去っていった。
それにこの匂いに釣られてやってくる他の肉も確保できるし一石二鳥だな。いや、奴隷達の戦闘経験を加味するなら三鳥にもなるな!
結局食事中に戦闘行動を行いながらも充実した日々を続け、奴隷達も戦闘に慣れ、屋敷が完成間近になったある日、事件は起こった。
きっかけはウチの奴隷が冒険者ギルドにおいて一人の冒険者とぶつかったことから始まった。
「おい! 奴隷風情がどこ見て俺の歩く道を邪魔してやがる!」
その日連れ出していたのは年少組の中でも比較的年齢層の高い子達(それでも俺よりも年上のが多いのだが)で、いつもならダンケの下で座学をしている年齢の子達だった。
ダンケから「たまには外で体を動かすのも気持ちのリフレッシュになるものだよ」との勧めで以前から冒険者登録を行いたいと言っていた子達を中心に登録の最中であった。
ぶつかった本人(名をマルスという)はすぐさま頭を下げ、丁寧な所作で謝罪を口にしていたが、ぶつかった側の冒険者はおもむろに剣の鞘でマルスを殴り飛ばすと倒れ込んだマルスの鳩尾をこれでもかというくらい蹴り上げたのだった。
血反吐を吐きながらも謝罪を口にするマルスに唾を吐きながら、冒険者は堂々と「俺は王族の次に偉い『マールボーロ公爵家の次男』である。不敬罪だが殺さないだけありがたく思え」と告げ、取り巻きの恐らく貴族の仲間であろう者たちを連れて冒険者ギルドから出て行った。
マールボーロ家の次男と言う奴がギルドから出て行ったのを見計らって幾人かの冒険者がマルスの下へ駆け寄り傷の具合を確かめる。
「これはひどいな。アバラが肺に刺さっている。とりあえず誰か回復魔法か治療術師を!」
隆一が冒険者登録の立会の最中騒ぎを聞きつけのはちょうどその時であった。
隆一の目の前で隆一の所有物である奴隷が血を流している。
「マルス……」
傍らに座り込みマルスの目を見る。素早く状態を確認し、巾着から高級ポーションを取り出し傷口にぶっかける。
幾分か血色が戻ったのを確認してから両手を握り、ファルシナの記憶から回復魔法を引っ張り出して諳んじる。
「直れ、治れ、我が魔力を糧に今一度奇跡の御技をここに、ツヴァイト・ヒール!!」
自身を中心に展開された魔力で作られた魔法陣と、読み上げた詠唱の速度に目を見張る冒険者たちを他所に傷が治ったことを確認してマルスを立ち上がらせる。
先程までの激痛が嘘のようになくなっている自分の体に驚きながらも、マルスは先程までの経緯をかいつまんで話してくれた。
曰く、隆一の指示通りに本日受ける予定のクエストを受領し受付へ持っていく最中、マルスを傷つけた公爵家次男様とやらがこれみよがしにぶつかってきた。
主である俺のメンツを潰させないように即座にダンケに教わった通りの作法で謝罪をした。
しかし、突然剣の鞘で殴られ、倒れたところに思い切り腹を蹴られたというのだ。
話をしているうちに周囲の空気が張り詰めているのをマルスは感じとった。
感の良い冒険者は既にギルドの外からこちらを覗いている始末だ。
「リューイチさん。ギルドで威圧行為はやめてください。仕事ができないじゃないですか?」
隆一の背後の扉から冒険者登録に付き合ってもらっていた受付嬢のコノカが狐耳をペタンと垂れさせながら仲裁に入る。
「ああ、コノカさん。登録につきあせてごめん。んでありがとう。そしてすまないけどアーカードに話があるんだけど取り次いでもらえるかな?もらえるよね?」
見た目にこやかにコノカに話しかけているが、イラつきで魔力制御が乱れ、体内で循環させている魔力が視認できるレベルで周囲に漏れ出している。
その状況を契約した紅とラトは即座に感じ取り、魔力の余波に当てられた馬車や馬房に繋がれた馬たちは暴れだし、道行く魔力に敏感な人や気配に敏感な冒険者たちは即座に戦闘体制や逃げ出す体制に入る。
「おいリューイチ。何があったかは知らんがその魔力を抑えろ。近所迷惑だろうが!」
上からアーカードが降りてきて隆一に対して怒鳴りつける。
「ああ、ちょうど良かった。ウチの奴隷が公爵家の次男坊とやらに喧嘩を売られたみたいなんでちょっと行って公爵家潰してくるから各所に連絡しといて。今日で公爵家が一家断絶しますって」
それだけ告げて冒険者ギルドを出て行こうとする隆一の両肩を掴んで出ていこうとするのを阻止するアーカード。
「ちょっと待て!なんで貴族筆頭の公爵家がなんで冒険者ギルドにいるんだ?クエスト発注か?公爵家なら上層区の出張所で手続きできるはずなのだが」
アーカードの言葉に一人の受付嬢が一枚の羊皮紙を見せてくる。
どうやらその公爵家次男坊の個人情報らしい。
内容を見るに連れあからさまに嫌悪感剥きだしな顔をするアーカードの様子を見て、アーカードから羊皮紙をひったくって内容を確認した。
内容はギルド内におけるマールボーロ公爵家次男『マールボーロ・メントス』の冒険者ギルド登録後における素行調査の結果であった。
公にできない不祥事は数知れず、公爵家の圧力によってもみ消された事件の詳細や不正な依頼報酬や討伐数の水増しの記録などが詳細に書かれていた。
「なぜこれだけの罪科があって国が動かない?」
冒険者ギルドが把握しているだけでもこれだけあるのに未だに奴は大腕振って街中を歩いている。
中には新米の女性冒険者や若い女性を狙った強姦事件すら起こしている。
公爵家というだけでまかり通る世の中ならいっそ滅ぶべきはこの国ではなかろうか?
「仮にも王族の血を引く一家だからこそ周囲の人間は弓引くことができなかったのだ。公爵家に対して何かことを起こせば冒険者ギルド全体の存続すら危うくなり、関係者郎党に処分が下るだろう。無論公爵家側は被害者ヅラをしてこちらへ罪を擦り付ける形でだ。司法も行政も一度ことが起これば公爵家につくだろう。辛いだろうが皆我慢してきたのが実情だ」
ならそれを今日終わらせてやろう。ファルシナが何回も時間をやり直しても上手くいかない世界に存在する膿ならここで永久に存在を消してやるのも俺の役目だろう。
「ギャ~!(主来たよ~!)」
「ちゅ~!(御用でありますか主殿!)」
外の広場に俺の魔力に反応したのか紅が舞い降り、戸口からは指揮官鼠のラトが現れた。最近二匹の言葉が理解できるようになったのはファルシナの知識のおかげか契約の効果か?
既に俺の中の魔力はよどみなく循環されているが、先程までの魔力が漏れ出していた状態を察知し、俺に何かあったのだと感づいてきたのだろう。
「ラトは総出でマルスを傷つけた公爵家に縁のある人間を調べ上げろ。紅はマルスと他の奴隷達を屋敷まで連れて帰れ。何もないだろうが念のためな」
ちょっとまて!とアーカードが慌てるが、しょうがないんだ。喧嘩を売ってきたら買うのが礼儀だろう。
コノカは俺の本気具合がわかるようで、アーカードを宥めて引きずっていく。俺の方を見ながら「場所は提供しますけどギルドへ迷惑がかかったら除名ですからね?」と釘を刺して退場していく。
隆一はラトの配下たちからの情報が入りやすいように冒険者ギルドのデスクを一つ借りてそこで情報が入るまで待機することにした。
他の冒険者たちからは何故職員たちが使用するデスクに冒険者が座っているのか気にしていたが、その冒険者が俺だとわかると恐れるように視線を逸らして見ないふりをし始める。
この国に来たばかりの冒険者や依頼に来た人達は職員に質問したりしているが、都度先輩冒険者やコノカ等が場を取り次いでうやむやにしている。
そこまで恐れなくても標的は公爵家のあー、タバコの銘柄みたいな家だけなんだけど。
「ちゅ~!」
そんな人たちの反応を見ていた俺の前にラトと複数の軍隊鼠がやってきた。
突然現れた鼠に悲鳴を上げる女性職員がいたが、それが俺の契約している鼠だとわかると胸を撫でおろしながら悲鳴を聞いていた他の人たちの視線を受けたのを知ると顔を赤くして走り去ってしまう。
鼠達はギルドから借りてきた街の区画図にそれぞれが仕入れてきた公爵家と関係のあると思われる場所にインクを付けた足でマークを入れていく。
主に上層区の一角に集中しているが、そのどれもが王城の近くに位置していることから公爵家の親戚筋か配下の家々だと考える。
とりあえず件の次男坊はどこにいるかというと、エインズワーグから少し離れた森の中にいた。
軍隊鼠によると、次男坊を筆頭に数人の男が子供や若い女性を数珠つなぎにして連れ歩いているらしい。
奴隷を連れて森へ素材採取に行くにしてもすでに日は落ちて周囲は暗くなっている。
もしかしたら違法な奴隷の売買に繋がるのかもしれない。
隆一は何故か仕事を外されて隆一のお目付け役としてずっと隣で様子を見ているコノカにダンケへの言伝を頼む。
「コノカさん。奴隷ギルドのギルマスに言伝を、『違法な奴隷売買が行われる可能性有り。場所はエインズワーグの外、正門から北西へ数キロ離れた地点』と」
コノカは言われた内容を即座に暗唱し、奴隷ギルドへ向けて走り出していく。お目付け役がいなくなっちゃダメだと思うけど。
言わぬが花、というよりも隆一のせいなのだがあえて気にしないでおく。
「とりあえず犯罪の現場でも抑えて処断の権利でも握っておこうか」
現行犯逮捕という大義名分を掲げて隆一は動き出す。
後々コノカが帰ってきて隆一がいないことを知って焦るのはお約束だろう。
ラトの配下が道中に道標のようにいるので尾行は容易であった。気配を消しながら公爵家次男坊御一行を観察し続けること数分。
暗闇からフードを目深に被った商人風の小男が現れた。護衛の一人もつけずわずかに見える口元は引き攣るような笑みを浮かべている。
「ほ、本日はお日柄もよく、メントス様もご機嫌麗しゅうふ、ふふ!」
気持ち悪い猫なで声で挨拶をする男にメントスはイラつきを隠さずに怒鳴り散らす。
「その気持ち悪い声をやめろ! 手早く用件を済ませろよ!こんなところを奴隷売買の指定場所にしやがって!」
苛立ちからか語気が荒い。見れば連れて歩いていた奴隷のうち何人かが体に痣ができていた。
それに商人も気づいたのか、ニヤついた笑いで
「商品をキズモノにしちゃったらねぇ、価値は下がるんですがねぇ?」
一番近くにいた奴隷に手を当てると、俺と同じように呪文詠唱による魔法で痣を消していた。
魔道書を用いない魔術ではない魔法の行使。この商人、見た目とは違って実力は確かなようだ。
そんな商人の実力に気づいていないのか、メントスは早く金を払えと言わんばかりに商人に詰め寄ってくる。
「確認が済んだなら早く金を払えよ!俺様を誰だと思ってやがる!マールボーロ公爵家が次男、メントス様だぞ!本来ならお前ごとき卑しい商人が声を聞けることさえ栄誉なことだということをわかっているのか!?」
馬鹿の一つ覚えのように公爵家の家柄を誇張するメントスに呆れつつも、商人はそれを顔には出さずに各奴隷達の体の傷を確認して傷を癒していく。
やがて全ての奴隷達の傷を癒し、懐から算盤らしき道具を取り出すと慣れた手つきで金額の計算を始めた。
「はいはい、奴隷が全部で十人いまして、そのうち子供が五人、内訳男子が二人女子が三人、大人の男が二人、女性が三人、傷を負っていたのがそのうち六人でしたと。その治療費分を差っ引きまして、子供が一人銀貨一枚、大人が銀貨二枚、そのうち女子は子供が二枚、大人が三枚で占めて合計銀貨二十一枚ですがいかがでしょうか?」
あまりにも安い商人の付けた値段にメントスはキレた。
「ふざけろ貴様!これだけの奴隷なら金貨の五枚は取れるはずだろう!?こちらがおとなしくしていればつけ上がりおって!」
まったく大人しくはしていないと思うのだが、これで言質は取れたし、そろそろ捕縛に移ろうか。
「とりあえず、『底深き泥沼』」
小さく声に出して魔法名を告げる。ファルシナの知識で得た魔法を死蔵させておくのも勿体ないので、生活魔法だけではなくこれからはどんどん魔法を使用して場数をこなしていこうかと思う。
範囲はメントスを含む冒険者連中と奴隷商人と思われる小男だ。
冒険者連中は面白いくらいに一瞬で首まで泥沼に飲まれたが、商人はやはりやり手のようで、地面に走った魔力にいち早く気づいて素早く後方へと下がった。
「おやおや? どうやら尾けられていたようですねぇ?」
ニヤニヤした笑いは一層濃くなり、商人はメントスに向かって「取引は中止ですねぇ。非常に残念ですが」と告げて逃げ出そうとする。
そう簡単に逃すと思うか?
「喰らえ『岩壁の大鋏』
逃げ出した商人の行先、一直線に巨大な壁が左右に展開される。
「何と!」
壁は商人を押さえ込むように倒れていき、小男はそれを察し咄嗟に手が出てしまった。どうやら戦闘技能はそこまで高くはないようだな。
壁を押さえ込むのに精一杯で商人の顔に焦りが浮かぶ。
そのまま商人の足元に再度泥沼を発生させて同じように首まで埋める。両手は未だに壁を支えた状態なので商人の身動きが取れないように、さらに壁の一部を沼化させて両手を完全に封じ込める。
これで全員の捕縛が完了した。魔力を無駄遣いした芸のない捕物劇だが、これから起こることに関しては少しは楽しめるだろうか?
「ここから出せ!貴様何者だ!俺を公爵家次男のメントス様と知っての狼藉か!?早くここから出せ!」
うるさく騒ぐメントスだが、他の冒険者の中には俺の顔を見知っている者もいたのか顔を青くし、これから起こるであろう惨劇を想像しているのか顔だけ震えている。
それにしてもメントスはうるさいな。
再度メントスだけ泥沼化させて口までを覆い隠す。口内に泥が入ったのかブクブク言っていたが、硬化した土で完全に口を塞いだので鼻息だけ荒くして射殺さんばかりの目つきで俺を睨んでいる。
「これで静かになったな。あー誰だっけお前?まぁ別にいいか。さっきは俺の奴隷が失礼をしたみたいですまなかったな。ダンケに教わった通りに貴族の作法で謝らせたはずだがお前さんはお気に召さなかったようで?随分と甚振ってくれたみたいだな?俺は主だから本来ならお前に謝るのが筋なんだろうが」
顔をメントスの前まで近づけて耳元で囁いてやる。
「俺の家来に手を出して一族がどうなっても責任は持てんぞ?」
言葉の意味を理解していないのか困惑と怒りの表情(顔は上半分だけしか見えないが)が浮かんでいる。
「俺は俺の身内に手を出したものには関連した家柄、一族全てに対し殲滅戦を行うことを辞さない性分だ。別にあんたが公爵家だか王家に連なるとかそこらへんは一切考慮しない。これから始まるのがただ一人の冒険者が身内へ与えられた痛みを一族一人ひとりに対して倍返しで返品しようかというだけの話だよ。君はその第一号というわけだ。光栄だね?」
当事者であるメントスは目の前の少年が言っている意味が理解できなかった。
生まれて今まで公爵家という家柄を表に出して拒絶されたことなどなかったからである。
彼の口癖である公爵家というブランドは、王家が後継に位置されているから好き勝手に名乗り、振舞うことが許された。いや、正確には黙認されていたに過ぎない。
それが目の前の少年には通じない。
目の前の少年には『公爵家』も『王家の後継』も彼が今まで縋り、利用してきたすべてが「だからなに?」に集約されてしまうのだ。
メントスは少しずつ理解する。
権力にすがってきた今までの人生、反抗される事がなかった今までの人生。根底が崩された自分に残されたものなどちっぽけな、矮小な、ゴミみたいな、そんな誇りしかないのだと。
そんな時、同じように土の中に沈められていた昔からつるんでいた貴族の冒険者仲間が声を上げた。
そうだ。家柄などなくてもいつもそばにいて助け合ってきた仲間がいた。
仲間さえいれば俺たちはコイツに一泡吹かせることだってできるはずだ。
喋っているのは魔術師のアフガンか!早く俺たちを助けてこのクソ生意気なガキに大人の怖さを教えてやろうぜ!
メントスが視線だけ動かしてアフガンという魔術師の姿を見ようとすると、そこには口から後頭部にかけて細い金属の槍に貫かれたアフガンの姿があった。
「ん?なんだ?うるさいから黙らせただけだが文句あるのか?」
まるで飛んでたハエを叩き潰した後のように、感情の色さえ見えず告げてくる隆一に、今度こそ他の冒険者仲間も声を上げる。
「俺たちは悪くない!メントスに唆されて、だって公爵家の人間に逆らえるわけないじゃないか!」
なにを言ってるんだ?
メントスは自分について来てくれた貴族たちの言葉に目を疑った。
先程まで俺と一緒にバカ笑いしながら生活してきた子供の頃からのかけがえのない友だと信じてきたのに。
メントスの耳に入ってくるのは自身をボロカスに貶す友だと信じていた者たちの罵声。
聞きたくない。耳を塞ごうにも両手も土の中、せめてそんな友の姿を見たくないと必死に目をつぶり、現実から逃避する。
罵声は悲鳴に代わり、次第にそれは小さくなり、そして静かになった。
「さて、これで後はお前たち二人になったわけだが、ここらで迎えが来たみたいだな?」
響いてきた声は先程のガキの声だ。他には複数の足音が聞こえてくるのがわかった。これで助かる。目の前のガキに死んだほうがマシだというほどの地獄を味あわせてやる。
目の前の隆一の顔を拝んでやろうと目を開けた先には、首を切断されたかつて『友』であったはずの者たちの首が並んでいた。
誰もが苦痛を顔に表した悲惨な状態でメントスの周りに配置されている。
思わず吐きそうになったが、口が塞がれているため必死に吐き気を飲み込んだ。
全ての目線が自分に向いている事に恐怖し、土の中の下腹部が濡れているのを感じ取る。
知らず知らず失禁してしまったようだ。
それでもまだ隆一の気分は優れないようだ。
「わかったか?お前が蒔いた種でまずこれだけの人が死んだ。お前が原因で死んだ。そしてこれからもお前が原因で人が死ぬ。それはお前の身内であったり親戚であったり友であったり、恋人であったりペットであったりするのかもしれない。それら全てを殺す。お前の目の前で様々な工夫趣向を凝らして酷く、醜く、残虐に。お前の生きてきた全てを否定する。お前が築いてきた全てを破壊する。お前はもっと貴族らしい振る舞いを心がけるべきだった」
もはや遅いが……。
最後の言葉をかろうじて聞き取れたが、このあとすぐに隆一に気絶させられ、メントスは城からやってきた騎士団に引き渡されることになった。
新年あけましておめでとうございます。
今年もまったり不定期に更新しますので気長によろしくお願いします。




