第30話 王城潜入大作戦 前編
とりあえず屋敷改修中の間住む場所を探そう!
大佐!今から潜入に移る! ←今ここ
買い取った元王族所有の屋敷だった庭には所狭しと回収用の木材が並べられていた。屋敷の周囲には既に作業用の足場が組まれており、レイの号令一つで作業が始められる状態まできていた。
作業現場にいる職員たちは皆一様に捻りハチマキをしており、どことなく雰囲気から入っているとも言える。
「おうきたか。一応後で倉庫として使うってんで景観を損ねないように場所だけは決めさせて仮組みさせておいたぞ」
現場監督らしき職員の指差す方にはロープで位置取りされた箇所とすぐに組めるようにある程度形になっているブロック体がいくつか置かれていた。一緒に手渡された書類には建物の寸法が細かく記載されている。
「仕事が早い。レイもいい人材を抱え込んでいるな。それじゃあ俺が土台を作るからお前らはブロック体を土台に設置させる作業に移れ。それがなければ今日の寝床はないからな?」
隆一の号令で奴隷達はブロック体のところへ、そして俺は頭の中で必要な魔法を選択する。
今回はしっかりとした土台を作る必要があるため、即席だが魔法陣を作成して正確に同じ高さで発動させる。
生活魔法で作成しようとすると、元が園芸用なためどうしても地盤を固めることができなくなる。故に普通にファルシナの記憶の中にあった地属性魔法を用いて魔法陣を作成する。
綺麗な円を描き、そこに必要な属性、必要魔力と形状、そしてそれらを求めるための数式のようなものを外側から内側に向かい螺旋を描くように記入していく。
魔法陣だからといって円の中に五芒星や六芒星を描く必要はない。必要なのは何をどう起こしたいのかの願望とそれにたどり着くまでの過程の式だ。
義務教育しか受けていないが、この世界の魔法陣の数式はあくまで四則演算の範囲を超えないようなので、計算ミスさえ起こさなければ十分に使用可能だ。細かい数式などはなぜか完成のイメージを浮かばせるとそれに対応した数式が脳内に浮かび上がるので、それを記入し答えを導くという感じだ。
もっとも、魔力にモノを云わせての高出力の生活魔法の方が魔力の供給とイメージだけで済むので楽ではあるが。
完成された魔法陣に魔力を流し、一息に地盤を固め、住居替わりとなる建物の寸法に合わせた土台を完成させる。その後一気に完成させた俺の姿に唖然としている現場監督らしき職員に完成した土台を見てもらい、完璧すぎるというお墨付きをもらってから建物の取り付け作業に移る。
ブロック体としか表現できないが、実際は骨組みが組まれているだけの状態なので屋根も壁も存在しない。
よって重量はそこまで重くなく、男衆総出で骨組みを持ち上げ土台の上に乗せていく。
3棟全ての骨組みが土台に乗ったところで再度魔法陣を発動させて骨組みを土台と組み合わせ、外れないように固定した。
そこまでで実質1時間も立っていないだろう。
「とりあえずはこれでいいか。身軽なものは屋根の取り付け。それ以外の者は壁と床の取り付け。悪いがアリサ、何人か人数を集めてこれで食事の用意をしてくれ」
そうして手渡したのは黒毛の残っている部位と武御雷から渡された調味料各種、そして帰り道で採ってきた山菜や果実などといった植物類だ。
以前食べた黒毛の味を思い出したのか、何人かが唾を飲み込むのが見える。お前ら仕事しろ。
「了解しましたご主人様。調理器具などはありますのですぐにご用意させていただきます」
貴族らしく丁寧なお辞儀をして何人かの女性の奴隷仲間に声をかけ食事の支度に移るアリサ達。
それらの後ろ姿、正確には黒毛の肉に目線が行く奴隷達に大声で喝を入れて作業を再開させていく。
それから幾ばくかの時が過ぎ、屋敷の周囲は宴会場と化していた。
理由は言わずもがな黒毛の肉を用いたビュッフェ形式の焼肉大会だ。
明日から本格的に改修に入るので酒の類は禁止し、全員持っているのは果実水だ。しかしこれから生活する基盤となる屋敷の規模と、それにかかる費用をポンと出してしまえる隆一の気前の良さに奴隷達は皆明るい顔をしてこの先の生活に思いを馳せていられる。
アリサは最初屋敷を見た瞬間にこの屋敷の噂を思い出したらしく青い顔をしていたが、屋敷のからくりを教え、その改修を主に行う旨を告げるとようやく調子を取り戻していた。
そうでなければ黒毛の肉が黒い肉に変わっていたことだろう。
「しかし良いのかリューイチよ?私達まで相伴に預からせてもらって」
木工ギルドの職員たちが奴隷達と肉を食いながら談笑している中、ギルドマスターであるレイが代表してなのかこちらへ近づきつつ話しかけてきた。
「明日から結構大変な作業になるんですから今日は英気を養ってもらわないと。食い過ぎで動けなくならないようにだけ注意させてください。食い過ぎで作業中止とか笑えませんから」
隆一の言葉に気をつけるよ。と返して苦笑しながらレイは職員たちの輪の中へと戻っていく。
「さて、今日の内に屋敷のあそこをどうにかしないとな」
隆一は厨房に続く隠し通路を見据えてため息をつく。
どうせ行き先は王城。それもある程度の地位にある人の部屋に通じているのであろうその隠し通路を見てうんざりと思い、しかし対処しなければこれから先奴隷達の誰かが発見し問題にしてしまったり、余計なことで濡れ衣を着せられたりするのかもしれない。
「対処は早めのほうがいいよなぁ……」
本当ならアリの巣駆除の前にどうにかする予定だったが意外と時間がかかってしまったためここまで先延ばしにしてしまった。
というよりも忘れていた(笑)
ひとしきり自分の愚かさを笑って気が済んだので、隆一はもうその場で対処すればいいと結論づけて皆が寝静まった深夜、隠し通路から厨房へと向かい、その先へ続くおそらく王城へと続く道を進み始めた。
暗い道の先、湿った空気とかび臭い匂いが鼻につく。
下りのはしごは長く、明らかに下水が通っていると思しき水の音を上に、俺は下へと降りてゆく。有名な心を折るゲームで言うなら巨○墓場や餅底などに近い雰囲気だ。
下っているだけなのに……。
どこまで降りたかわからないほど深い底に辿り着き、見渡した景色はどう見ても時代錯誤な作りの真新しいコンクリート舗装された通路であった。
ファルシナの知識にはない。草薙も沈黙を保っている。
知らないだけか? それとも他の要因があるのか?
先へ進めば答えがあるのか。
火種を自身の周囲へ展開させ、光源を確保して先へと進む。
どちらにせよこの通路の行き先は城であろうから、おそらく追っ手を撒くためにあそこまで深く掘り下げたのであろう。
人は先の見えない行動に恐怖を覚えてしまう生き物なのだから、あの屋敷を作らせた国王は相当に人心に長けた人物だったのだろう。
先へ進むにつれ、道は緩やかにカーブを繰り返したり、蛇行したりして明らかに距離感や方向感覚を失っていく。
今自分がどこにいるのかもわからなくなってきた頃、ようやくゴールと思しき梯子が見えてきた。
道中、明らかに避難所というよりも罠ですよと言わんばかりの宝箱が配置されている部屋を数箇所見つけたが、調べるまでもなく随所に罠に掛かったであろう盗賊と思しき白骨が散らかっていた。
人が住まなくなってからもあの屋敷に厄介になっていた人達がいたようだな。
梯子の場所まで到着したものの、どう見ても梯子という表現は似つかわしくない。
正しくは異常に突き出たボルダリングの壁とでも表現するべきだろうか?
明らかに心を折りに来てるとしか思えないほどにメンドくさい通路だな!
身体能力にモノを言わせて僅かなとっかかりすら足場に力任せに上へと駆け上がる。
やはりここにも足を滑らせたのかこちらへ降りようとして失敗したのか白骨が所々に点在しているが、とにかくともかく落ちることなく上がりきった俺は、四方に扉が配置された小さな部屋の真ん中から這い出ることになったわけだが、やはりこの通路作った国王頭が狂ってやがる。
仮にも王族が逃げるための道であろうにこんなに難しく作ったら本人でさえ逃げられないであろうに。どう見てもダンジョンじゃねえか!?
大声で叫びたい気持ちに襲われたが、心を強く持ってこの部屋から出ることにする。
幸いに先程落ちていた骸骨が通って来た道と思しき扉が開いた状態で放置されていたのでそこから先へ進むことにしよう。
『音波反響』を使い現在地から周囲のマッピングを行うと、ここは王城よりやや離れている共同墓地の一角の地下らしい。
地下に降りてからの方向感覚を失わせる通路のせいで思ったよりも距離を歩かされたようだ。さらにここから歩いて王城の地下まで続いているのが把握できたのでとにかく先へ進むとしよう。
道中いくつかの小部屋もあるようで、さらに言えば何やら生物の反応もあった。
「バイオじゃないんだからゾンビモノとか生で観ませんように」
音波反響だとなんの生物かまではわからないので、現物を拝まないことには把握しようがない。墓地の地下とかマジで勘弁……
やはりこの通路はあの四方に扉のある部屋からどの扉を開けても王城へはたどり着くように作られていたようだ。
いや、逃げ出すことを考えたら逆なのだろう。王城から逃げる際色々な場所から複数の分岐を通り、最終的にあの屋敷にたどり着く。そういった作りの通路なのかもしれないが、双方向の通路も侵入者がいた場合は良い時間稼ぎになることであろう。
いくつかの小部屋を覗くと、中には墓地に埋められた遺品を盗掘したモノと思われる宝石の類が箱に収められていたので、回収したい気持ちを抑えて壁を一部崩してその中へ箱をしまいこみ、土をきれいに元に戻して埋めた。
あくまで遺族が死者への手向けとして入れたものであろうから、それは遺骨とともに土の中で果てるべきだと思ったからだ。
決して遺族が見つけて犯人探しが始まるのを恐れたからじゃない。
再び歩き始めること数分、再び目の前には小部屋、しかし今度は明らかに戦闘が予想される気配が部屋の中から伝わってくる。
大型とはいかないまでも明らかにジェノグリズリーぐらいありそうな大きさの生物が部屋の奥で待ち構えているのだ。
「これあれじゃないか?キメラとかそういうオチじゃないだろうな?」
地下で番人ならケルベロスかキメラあたりが王道だろうと勝手に決めつけて草薙を片手にそっと扉を開けて部屋の中を覗き見る。
「「「「「「「「「「「「「「「ちゅ~!」」」」」」」」」」」」」」」
軍隊がそこにいた。
いや言っている意味はわからないだろうが、表現としてはおそらくあっているだろう。
正確には『群体』であり『軍隊』である大量のねずみの集合体なのだから。
『群体』を形成しているねずみが『軍隊』並みの統率力で巨大な一生命体を形成していると考えれば理解できるであろうか?
正直あれに群がられたら一瞬で骨になる自信がある。
肉体ないけど……
「へぇ『軍隊鼠』か、この時代だとこんなところに住処を移していたのか」
今まで口を開かなかった草薙が小さな声で呟いた。
「知っているのか雷○」
お約束のネタを合間に挟んで草薙から軍隊鼠の情報を教えてもらった。
軍隊鼠とは、人間並みに優れた知能を持つ鼠『指揮官鼠』を長に持つ統率力溢れた鼠の軍団で、自身達が非力であることを理解しているためまず人里には降りてこないし、複数で群れている動物たちには近づくことはない。
群れを率いている長は主に魔力の高い食事を続けた結果、突然変異した個体が多く、そのほとんどが魔法を行使できるぐらいの力を持っている。
そして大事なことだが、俺はこいつらを使役して情報収集を行っていたらしい。
「確かにそれだけ優れた能力を持つ鼠の利用価値は計り知れないが、どう見てもあれ王城の誰かに使役されてるんじゃないのか?」
未だ扉の向こうでは「「「「「ちゅ~」」」」」という鳴き声が時折聞こえてくるのだが、あそこから動き出すことがないということは誰かに命じられてあそこを守っているか、あの場所がネズミ達の巣と化しているかだ。
ネズミって病原菌の苗床だからあまり触りたくはないのだけれど。
とりあえず魔力を全開にして軽く扉を開く。一斉にネズミたちが侵入者である俺を見るが、身にまとう魔力に当てられたのか巨大な個として形作られていた群体はその身を恐怖で凍らせる。
ピクリとも動かなくなったネズミたちの姿を見て少しやりすぎたかと魔力を抑えてみる。
魔力による威圧がなくなったことによって徐々に落ち着きを取り戻したネズミたちだが、そのつぶらな目には素人目にもわかるぐらい恐怖の色が見て取れる。
知能の高い鼠に率いられているからといっても、所詮食物連鎖の底辺に位置しているだけあって強いものの前には震えるだけしかないのだろう。
そんな震えるネズミたちの中から片耳の取れた歴戦の戦士を思わせるネズミが一匹俺の前に姿を現した。
きっとコマンダーラットであろう。わずかだが他のネズミたちよりも強い魔力を帯びているのがわかる。
しかし、魔力を帯びているということはやはり魔獣の類に分類されるのであろうか?
「ちゅ~!」
高く可愛い鳴き声とともにネズミが何か号令をかけたようで、一つの塊だったネズミが崩れて地面に散らばると、綺麗に整列した状態でこちらに正対した。
「ちゅ!」
「「「「「「「「「「ちゅ!」」」」」」」」」」」
立ち上がり前足を上げたネズミと共に全てのネズミが同じ動作で一糸乱れぬ動きをみせる。
これは一体何をしているのだろうか?
「マスター。どうやら、あちらさんはマスターの魔力に当てられて配下に就きたいみたいだぞ」
草薙の言った言葉にコマンダーラットは小さな身ながら頷きを返す。
頭が良いというのは本当らしい。これなら色々と情報収集に使えそうではあるが、意思疎通ができないのは辛いところだ。
草薙がなんか理解してるみたいだし別に構わないか。餅もぶっちゃけ会話できないしな。
体の表面を覆っている餅に申し訳ないと思いつつも、別段会話できなくて不便に思ったことなどないので、後で翻訳できるような魔道具を探してみるのもイイかもしれない。
「じゃあ、これからよろしく頼む。あぁ、名前は付けた方が良いのかこういう場合は?」
草薙に問いかけたつもりだったのだが、ネズミたちの「ちゅ!」という合唱で名付けは必要だということがわかった。
「一匹ずつ名前をつけても俺が見分けらんないし、とりあえずコマンダーラットのお前だけ名前をつけて、他は各奴隷達に数匹ずつ割り当てて使い勝手を見てもらうか。小さいから用途は限られるけど何かしらの役に立つ時もあるだろう」
そうして隆一はコマンダーラットに『ラト』と安直な名前付をして先へと進むことにした。
部屋の中にはネズミ以外にはいくつかの骨の残骸と一冊の本が置いてあり、どうやらコマンダーラットたちの前の主人の遺物だったらしく。
各ネズミたちの好みや性格、相性や体重管理にいたるまで事細かに記載されており、正直ネズミ好きだったんだなと一言呟いて燃やしてしまうことにした。
正直あれを元にあいつらを使役したくないし、あの内容がどのネズミかなんて俺に分かるはずもない。
「門番替わりだったんだろうかあのネズミたちは?」
そこまで深く本を読まずに燃やしたので真相は知る由もないが、先の未来で俺が使役していたのだとすれば、何らかの形でこの通路かどこか別の場所で出会っていたのだろう。
過去は過去、現在は現在、切り替えていこう。
部屋を抜け先へと進むと、上へと伸びる螺旋状の階段が姿を現す。灯台の階段みたいだなとボヤきながらも足は進まざるを得ない。
一体自分が何のためにここに来たのかもわからなくなるほどメンドくさい行程を乗り越え、ネズミを配下にしてたどり着いた先は、王城の地下にある、重犯罪者を収容する独房が並ぶ一室、看守部屋のベッドの下へと通じていた。
静かに天板を押し上げ、周りを確認すると看守は深酒をしたのか眠りこけ、周囲には酒の空き瓶が無数に転がっている。
こんな辛気臭い場所に長時間いたらこうもなるか。
なんとかスペースを開けて出ようとするが、行動に移る前に部屋の扉がノックされ、慌てて開けようとしていた天板を降ろして少しだけ部屋の中を確認できる状態へ持っていく。
裸になれば姿見えないんじゃないのかとも思ったが、そこまで人間捨てたくありません。
ノックに反応がないのが気になったのか、おそらく合鍵であろうガチャガチャという音がして扉が開き、一人の兵士が室内へと入ってきた。
身なりからして相当地位の高い兵士、いや騎士のようだ。
胸にエンブレムがついてるのを確認したが、それが部隊章なのかどうかもわからない。下調べができていないとこんなものだ。
騎士はどうやら女性のようで、酔っ払って寝ている看守を乱暴に剣の鞘で殴りつけた。
かなり鈍い音が聞こえてきたが、看守は起きる気配がない。というよりも意識飛ばしてないかあれ?
「まったく」と声が聞こえてきて女性の騎士は泥酔?している看守を抱えて俺のいるベッドまで近づいてくる。
少しだけ天板を下げて声だけ聞こえるようにした。
「まったく。自分の失敗だからといってここの看守に就いたのにこれでは罰ではなくご褒美ではないか。日がな一日酒ばっかり飲んで、あの頃の貴方はどこへ行ってしまったというの……」
なんか火サスっぽい雰囲気の所申し訳ないが、早くどこか行ってくれないかな? それとも一旦あの四方に扉がある部屋まで戻って別ルートを探索していみるべきか?
上の二人はしばらくこのままみたいだし、しょうがないから他の3つあるルートを探索することにしよう。
おばんです。
もうすぐ年末そろそろ大掃除の時期でありますね。
年末年始は更新時期を少しでも早めてお茶の間の皆さんへ提供できたらと思います。まだ早いですが笑
餅底はスライムの『餅』の由来を思い出して頂ければ理解できるかと思います。




