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第26話 奴隷を連れて

奴隷達を解放しアリの巣の外へ


ヒャッハー!蹂躙だぜぃ! ←今ここ!

 死屍累々の災害跡に佇む一人の少年がいた。


 周囲に散らばるロックアントやアシッドアントの骸は数知れず、それだけこの巣の規模が計り知れないことを指し示す指標となる。


 しかし、これだけの数のアリを駆除しても未だにロックアント以上の上位個体が姿を現さない。


 ファルシナの知識によればアシッドアントがチェスでいうポーンならロックアントはルーク、ソルジャーアントはナイトの駒に相当する。


 別にチェスで例えなくてもと思うが、ファルシナの知識で当てはまりそうなのが将棋ではなくチェスの方がしっくりきたからで他意はない。


 この巣の周辺には未だに銀龍煌の龍鱗片が散らばっているので魔法特化型のルークは出てこないだろう。


 そうなるとソルジャーアントやその他の手勢はクイーンかその番のキングの警護に回っていると考えるべきか。


 どちらにせよしばらく増援は来ないように目に見える穴を塞いでおくべきか。


「奴隷達は周辺の死骸から取れる分だけ討伐報酬を掻き集めてくれ。帰ったら君たちと分配して少しでも奴隷解放手続きの資金に充てたいからな」


 自分達の奴隷解放の資金になると聞いて、奴隷達は付近に散らばるアシッドアントやロックアントの死骸から証明部位となる対の触覚とロックアントの甲殻を剥ぎ取っていく。


 その光景を見ながら隆一は、周囲に点在する洞窟への入口を土壁を盛り上げて塞いでいく。


 これで土壁が壊れたらそこに蟻達がいることが分かるはずだ。


「解放されたい気持ちはわかるが持ち運べる範囲だけにしておけ。大荷物で移動したんじゃ時間がかかるし何より死亡率が上がるだけだぞ」


 人間といのは欲深い。それは人族に限った話ではなく、どの種族も自分が助かるという一心で後先考えずに死骸から部位を剥ぎ取っていく。


 そこには到底個人で抱え込めないほどの量の討伐証明部位を抱え込んで一歩も動けずにいる奴隷達の姿があった。


「しかし、少しでも開放金額に届かせるにはこれでもまだ……」


 何人かの奴隷達は借金のカタに奴隷堕ちしたらしく、その返済に充てたいらしい。別に持っていくなとは言えないが、俺が助けてくれるとでも思っているのだろうか?」


「別に俺はお前たちの主とは言っても仮だからな? 最悪俺の命と天秤にかけた場合、お前たちは見捨てるつもりだ。それでもいいなら両手を塞がれ前も見えず足元もおぼつかない状態で俺についてくればいいさ」


 隆一の心無い言葉に奴隷達は落ち込みを見せるが、持ち運ぶのに必要な木材くらいはそこらにあるモノで適当に作れるだろう?との隆一の言葉に、思い出したかのように周囲の森へと走り始める。


 そんな奴隷達に必ず3人ひと組で行動するように言付けると、怪我をしている奴隷や未だに薄布を纏ったままの女性の奴隷達へと近寄っていく。


 森へと走っていったのは主に体力に自信がありそうな獣族や男連中だった為、いないうちに女性達へ体を隠すための衣服を提供しようと思ったのだ。


 女性の奴隷や子供の奴隷は男たちよりも力が弱いためか、アリたちの甲殻の中でも比較的小さめの分類や、中に時折含まれていた魔石を取り出しているようで、体内をほじくり回しているのか体中体液まみれで正直いたたまれない。


「女性と子供は男物の衣服で申し訳ないがこれで当面体を隠して欲しい。必要があれば国に戻ったあとで衣類程度なら提供しよう」


 隆一の言葉に、人並みに扱われたことに対して奴隷の女性たちは羞恥心からか顔を赤くしてイソイソと衣類を着始める。


 なにげに綺麗好きの隆一は、この国に来たときにノイマンの商店である程度の数の衣類を買い込んでいたのだ。


 基本的に古着が主流となっているこの世界において、実際に隆一が来て歩き回りたいと思えるデザインはないが、もう少し金が溜まったら新品の衣類を買い揃えようと心に決めていた。


 この際贅沢は言っていられないが、着たきりすずめは嫌なので古着の中でも比較的サイズの大きめの衣類を買ったので隆一の巾着の中には数十にも及ぶサイズの衣服が収納されていた。


「こんなにも大量の衣類を何処に?」


アリサのつぶやきが聞こえてきたが、無視して全員に衣類を渡す前にその体液まみれの体を洗浄させるために手のひらに巨大な水球を出現させる。


本来非常用の水を生み出す生活魔法だが、イメージをバスケットボールの大きさで固定して、内部を洗濯機のように回転させるイメージで緩やかに回転させることで体を傷つけることなく洗い流そうと考えたのである。


込める魔力を次第に上げていき、水球が隆一と同じくらいの大きさになったところで奴隷達にこの中をくぐっていくように促す。


皆呆気にとられた顔で、恐る恐る水球をくぐっていくが、水球が体を覆った瞬間思わず声を上げてしまうくらいにお湯が気持ちよかった事に驚きを隠せないでいた。


 魔法はイメージのとおり、お風呂よりも少しぬるいくらいの温度で体を洗い流せば気持ちよくて声も出るだろう。


 綺麗になった女性から渡された衣類を着込み、再度剥ぎ取りに向かおうとした奴隷を馬鹿か!と叫んで引き止め、後は男連中が帰ってくるまで休憩するように指示を出してどんどん奴隷達を洗浄していく。


 程なくして奴隷服の上から一緒くたに洗われた奴隷達が出来上がり、身奇麗になったところで男連中がこれまた大量の木材を掴んで戻ってきた。


 銀龍煌の活動した余波で倒れた倒木が多かったらしく、伐採の手間が省けたと喜んでいた。


 戻ってくるなり服装が変わっている女性の姿を見てずるいと叫んでいる男奴隷がいたが、どう見ても男の視線は女性の象徴とも言える胸や臀部に視線が集中していた。


 男連中に回すほど手持ちの衣服は持っていなかったので、大丈夫だという何人かの男連中には衣類の代わりにアリの巣で鹵獲した反物を適当に斬ってつないだインドの民族衣装『サリー』のようにして体に巻きつけもらい、戦闘技能のある獣人の奴隷には冒険者が身につけていたと思われる革鎧と武器を手渡し納得させた。


 更に討伐証明部位を乗せた即席のソリモドキが意外に重くて常時奴隷の半数が引っ張らなくてはいけないとわかると流石にこれ以上つもうとしていた奴隷達を黙らせて出発することにした。


 未だにアリの巣のど真ん中にいるというのに、主に男連中の意地汚さには目を見張るものがある。


 仮にも主人が目の間で撤収指示を出しているのに、幾人かの奴隷は更に両手に討伐証明部位を持った状態で後を追おうとしていた。


「はぁ、まぁ別に死にたきゃ勝手にしてろ」


 歩き出す隆一の速度に合わせるべく奴隷達は動き出すが、その動きはどうしても遅く、結局アリの巣からわずか数百メートル離れたところで休憩を挟むことになった。


 奴隷達は与えられた武器を使い上手い具合に獲物を捕り、みんなで飢えを凌いでいるが、隆一は初日に作成した干し肉と生活魔法で出した水を飲んで休憩を取りながら今後の動きを再確認していた。


 なぜか近くにアリサとアリシアの姉妹コンビがいるが、気にせずに同じく生活魔法で出した焚き火で干し肉炙りながら食べる。


 姉妹も分けられた肉を生活魔法で起こした種火で火をつけ、焚き火のようにして肉を炙っている。


 アリシアよりもアリサの方がこういった行為に慣れているように感じられる。


 貴族の出自だと言っていたが、よくある貧乏貴族なのであろうか?


 本人に確認しようにも、流石に面と向かって理由を聞くのはマナー違反だと思っているし、今いる奴隷達は今後屋敷の改修が終わるまでなるべく金のなる木として生活させ、あわよくば見繕って屋敷の使用人にしてしまおうかとも考えている。


 結局今回は聞かずに思考を帰りまでの道程に振り分ける。


 普通に歩いて二、三日かかる道のりをこの遅さなら半月はかかるのではないだろうか?


 めんどくさいから一気にエインズワーグに跳ぼうかとも考えたが、なるべくならこの奴隷達がどれだけ俺の役に立つのかを見極めたいとも思う。


 俺の言いつけを守らずに両手いっぱいに抱えて歩いてきた奴隷達数人は、みんなで引いているソリを手伝おうともせず、自身が疲れてきたら姑息にもツマづいたフリしてこちらの同情を引いてこようとする。


 流石に2回目以降は全員が無視して歩いたため、舌打ち一つで追いすがってきたが、みんなで引いていたためにそこまで重くないソリと、一人でロックアントを中心にした重量のある素材を抱えている一個人では疲労度に雲泥の差が生まれていた。


 無論そこで助けてやるメリットもないため隆一は再びエインズワーグへ向けて歩き出す。


 号令の一つもかけずに歩くのも奴隷達が本当に行きたいのかを確かめるためでもある。


 仮の契約だとしても、全員に奴隷紋が刻まれている以上は他国へ逃げても関所で止められるため、奴隷達はただひたすらに隆一の後ろに追いすがるしか道は残されていないのだ。


 そしてこういった行為を続けること何回だろうか?


 幾度目のかの休憩のあと、出発する時になって何人かの奴隷がいないことにアリサが気づいて告げてきた。


「ご主人様。個人で荷を抱えていた奴隷たちの姿が見えないようです。それに運んでいた荷のうち武具とわずかばかりの保存食が消えています」


 奴隷契約を施しているとは言え、今目の前にいる奴隷達へは逃げるなという命令をわざと出していなかった。


 仮とは言え主従の契約を用いているなら、反抗させない。逃げられない。絶対服従の3項目は契約時に真っ先に登録しておかなければならない内容らしい。


 草薙からその事を聞いたとき、間引きするのにちょうどいいと考えたのだ。


「気にしなくていい。どうせ国には入れないだろうし、今の時期はジェノグリズリーが繁殖期で徘徊している上にダークパンサーも生息している。運がよければ生きられるし悪ければ死ぬ。ここはそういう森でここはそういう場所であの奴隷達はそれを承知で消えていった。ただそれだけだ」


 隆一はそれだけ告げるとまたふらりと歩き始める。


 休憩は終わりだと休んでいた奴隷達はソリを引き始める。


 予定よりも速度は出ず。いつ来るかわからない魔獣たちの影に怯え、僅かな食料を皆で分け、それでも奴隷達は国へと、助けてくれた隆一の後ろを懸命に追い、泣き言を言わずに歩き続けた。



『アリサ・ミズーリ視点』


 アリサは、隆一のすぐ後ろをアリシアと手をつないで追いかけているが、見ていると隆一は立ち止まることが多い。


 それは方角を確認する目的なのか、周囲を警戒する素振りはないのに辺りを見回し、ある一方向をしばらく見つめたあとまた方向を変えずに歩き出すのです。


 一連の動作は不明ですが、隆一が先頭を歩いている間は襲撃してくる魔獣や獣は小物ばかりなのも確かですし、休憩中はダークパンサーやフォレストドッグなどに襲われることがありましたが、どれも休憩の中盤から終盤にむけて体力が回復したあたりに襲われることが多かったのです。


 つまりあの動きは何らかの方法で敵を察知し私たちに気づかせずに敵を排除しているのではと思いました。


 そしてその考えは正しかったのだと知りました。


 あれは日をまたいだ夕方のことです。


 ペースを落としていた私たちを見かねてご主人様が本日の野営地として周囲を散策すると告げてその場を立ち去った時でした。


 しばらく辺りを警戒しながらご主人様の帰りを待っていると、不意に獣人の方々が震えだすのが分かりました。


 聞くと近い場所で恐ろしい程の敵意と魔力が渦巻いているのを感じたというのです。


 私はその魔力がご主人様のものではないか。ご主人様の身に危険が迫っているのではないかと危ぶみました。


 一時は冒険者業で生計を支えていた身、ある程度の心得はあるつもりです。


 素早く荷車に積まれていた冒険者たちが使用していたサイズの合わない革鎧を付け、冒険者時代多用していたのと同じくらいのサイズの短剣を二本腰に差し、アリシアを同じ女奴隷の人に預けてその場を駆け出しました。


 一緒に付いて来てくれたのは最初にご主人様から武器を渡され周辺の見張りをしていた熊族の獣人でした。


 熊族の方の指示通りに気配のするという方へかけること数十分。未だに向けられてくる強烈な敵意は私でも感じられるほど恐ろしく、そして強大でした。


 低く見積もっても飛竜種、それも純色の竜種に相当するのではないかと熊族の方は告げてきます。


 魔力の質から相対しているのはご主人様で間違いないはずなのですが、気配を感じ始めてはや半時ほど時間が経過している現状、ご主人様の身が危ぶまれているのも事実。


「いたぞ!あそこだ!」


 熊族の方が指差した先には、煌々と燃え盛る炎と、立ち上がる煙、明らかに火竜が放つ息吹によるモノと分かりました。


 人族の大陸に竜種が来るのはそんなに珍しいことではありませんが、ここまで内陸に入られたのは危惧すべきことです。


 沿岸教導隊と呼ばれる大陸沿岸部を守護する魔術師の集団は、上位竜の猛攻すら凌いで見せると言われている程の技術屋の部隊。


 それが一頭の火竜を見逃すとは思えません。


 しかし、私はつい最近その見逃してしまう要因を思い出しました。


 銀龍煌です。


 あの龍が来た事によって意識をそちらに割かれ見逃してしまったのでしょう。


 ウロコの色は炎の照り返しでわかりづらいですが恐らくは紅色。純色よりも濃いということはそれだけ火の適性が高いという証。


 しかしまだ幼生なのかサイズはそこまで大きくないようです。


 これならご主人様を救出するチャンスはあるはず。


 肝心のご主人様を探しますが、どこにもその姿は見当たりません。


「ご主人様は何処に?」


 辺りは火炎に包まれ、うかつに近寄れないほどの熱量をあたりに放っており、とても生き物が生きていられるとは思えません。


 奴隷紋に魔力が通っているということはご主人様は生きているはずなのですが、とても目を開けていられる状況ではないのです。


 私と同じようにご主人様を探していた熊族の方は毛に火が燃え移るのが怖いのか私よりも後方でご主人様を探しているようですがそんなに離れていては木々が邪魔してわからないでしょうに。


 伏せた状態で私と熊族の方は木の後ろに隠れながら紅竜が放つ火炎の先を凝視しました。


 放たれた炎は、ある距離を境に二つに分かれて後方へと抜けていくのが見えました。


 きっとアリの巣で助けてくれたように氷壁で身を守っているに違いありません。


 しかしそれでは防戦一方、氷壁に隠れてはいずれ溶かされ火に塗れてしまう事でしょう。それを阻止するためにもなんとかご主人様をお助けしなければ。


「熊族の方、相手は竜とはいえまだ幼生体と思われます。龍鱗とて強度はないはず。私が水魔法で龍鱗を弱めますので、その隙に一撃をお願いします!」


 熊族の方は私の決死の顔を見て決心したのか強く頷いてくれました。


 二人の決意が決まったところで私は素早く魔法陣を描き、陣に魔力を込めながら詠唱を始めます。


 複雑な魔法陣を描くには時間が足りず、冒険者時代に使用していた魔道書は借金のカタに取られてしまったので即席ですが水と威力と必要魔力量を式にいれ、残りの弾道計算や射程距離の計算を詠唱中に追加していきます。


 これでも冒険者時代は二つ名持ちになりかけたほどの魔術師だったのです。これくらいの計算式はお手の素です。


 詠唱を含め二分ほどで術式を完成させた私は、高まる魔力を押さえつけながら熊族の方に頷いてみせます。


 相手も察してくれたのか頷き返し、いつでも飛び出せるように前傾姿勢に体を持っていきます。


「濡れぼそれ!天下る雫の波紋!ショットアクア!」


 貯めた魔力を水へと変換し、降り注ぐ矢のように敵へと叩きつける範囲系魔法ショットアクア。


 一撃の威力は精々が石をぶつけられた程度の痛みしか出ない足止め用の魔法だが、火属性の敵に対してはその耐性を著しく損なわせるくらいに役に立つ術式である。


 達人級になるとまさに矢の威力で敵に降らせることができるらしいが未だにその領域には達していない。


 紅竜はいきなり叩きつけられた水に驚き、吐き出していた炎が途切れ、水蒸気が辺りを包み込む。


 その隙をついて熊族の方が全力で前へと躍り出た。


 目を見張る速度で振るわれる斧槍の一撃は鱗に傷こそ残したものの竜の意識を逸らすことに成功。


 足元を見る竜だが、そこにはすでに熊はおらず、その速度のまま隆一の前まで来て壁のごとく立ちふさがった。


「ご無事でありますか若殿!」


 若と呼ばれた当の隆一はといえば


「あっ芋半生だ」


 紅竜の炎で芋を焼いていた。



短いスパン?で更新できたかな?


不定期更新ここに極まれりですいません。


読んでくださったみなさまもいきなり最新話を読んでくださった方々も

どうか末永くご贔屓に


後書きまで目を通して下さりありがとうございました。

次回も見てください

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