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人獣牢獄  作者: 臼杵 碧
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月村悠貴の探索

「……ここは……?」

 目を覚ますと、そこには何もなかった。ただ見えるのは白い光に満たされた部屋のような場所。

「俺は……そうだ、変な煙を吸って、気を失……ってなんだこれ!!」

 思わず俺は自分の手を見て叫んだ。よく見ると手だけでなく、体も、足も、頭もみんなウサギになってしまっていた。

「え、まさか、あの煙は薬で……完全に変体させるやつだったのか……って、ん、あれは……?」

 目を凝らすと奥から4本足の獣らしき物が近づいているのに気づいた。しかしその獣の見た目は凄まじい物だった。

 頭はサル、足は虎、尻尾はヘビ、……胴体は何かわからないけど茶色の毛に覆われている。誰が見てもキメラである。

「…………!」

 キメラは唖然としている俺のそばに来ると、突然匂いを嗅ぎ始めた。俺は一ミリも動けなかった。動いたら、食べられそうで。

「……そなたは」

 キメラは充分に匂いを嗅いだ後、顔をあげると優しそうな微笑みを浮かべながら、まるで笛のようなキレイな声で話しかけてきた。

「こちらに来るべきではない」


ーーー


「…………っは!!」

 目を覚ますと、そこは意味不明な場所だった。床には変な魔法陣のような模様、周りには気絶した10匹の動物達と恭しく置かれたティアラ。男の姿は無い。

「……なんか知らないけど、ここは逃げた方が良さそうだな」

 俺は後ろ足に力を入れると開きっ放しになっていた扉から通路に入った。ウサギになってしまっているのは、夢で終わらなかった。

「とりあえず、今の第一目標は外に出ることじゃなくて元に戻れる薬を見つけることだからな……」

 ピョンピョン飛び跳ねながら通路を右に進んで行くと、偶然この建物の出口にたどり着いた。ここの持ち主か白衣の男は不用心なのか、鍵はかかってなかった。ウサギの小ささと軽い体重でも自動で横に動いたところを見ると。

「……でもずっと部屋の中にいたわけじゃないから、感動とか起きないな」

 そうボヤきながら近くの扉を体当たりで開ける。すると中から怯えたような声が聞こえた。

「ん……?」

 暗い部屋の中には鉄格子がはめ込まれ、中にはあの光の部屋で見たキメラそっくりの獣がいた。違うのはサルだった顔が人間の少女に変わっているところだけか。

「ヒ、ヒュゥ?」

 獣が困ったような顔をしながら鉄格子のそばまで近づいてくる。

「あ、えーと、言葉わかる?」

 獣は少し考えたあと、縦にブンブン首を振った。そして床に何か文字を書き出した。

「1、6、0、8?」

 すると獣は上を指差した。見上げた先には文字盤があった。

「……開けて欲しいの?」

 獣は再び首を縦に振る。俺は軽くその場で跳んでみた……うん、ギリギリ届く。

 俺は変な所を押さないように注意しながら飛び跳ね、指定されたボタンを押した。すると鉄格子が音を立てて地中に埋まった。

「ヒューッ!」

 獣は嬉しさを顔全体に表しながら飛び込んできた。小さい体の俺は、当然ながら潰された。

「お、重い……っ!」

「ヒュ?」



 キメラののしかかりから脱出した俺は部屋の中にあった別の扉を開いた。すると色々な液体や薬が置かれた部屋に出た。

「……ここに薬があれば良いんだけどっ」

 机の上に飛び乗るとすぐそばに瓶に大量に入った透明な液体を見つけた。……どうしよ。飲んでみるか?

 瓶の蓋自体は口で開けられた。でもこれ毒物だったら怖いし……と思って下を見ると、さっきのキメラがじっとこっちを見ていた。

 近くにはなぜかストローもある。……うん。そうだな。

「キメラー、登ってきて」

 そう手招きしながら言うとキメラは引き出しを出して、階段状にして登ってきた。うわー、頭脳的。

「ちょっとこれ、飲んでみて」

 俺はストローを瓶に挿し、キメラの前に置いた。キメラは首をかしげながらストローを口でつまんだ。

「ヒュ?…………がっ!? なんですかこれ!?」

 液体を飲んだキメラの口から人間の言葉が飛び出す。……当たりだ!

 俺はキメラの元から即座に瓶を戻すと、すぐに口をつけた……ってマズイ……でも戻らな……

「うぐっ!?」

 体中に激痛が走り、俺は机から転落した。体から白い毛が一気に抜け落ちる。そして見慣れた色の肌が現れると小さくまとまっていた手と足が伸び始め、指が大きく、5つに分かれていく。

「す、すごい! ウサギさんが人間になった!」

 キメラがそう言った時、俺の視界は黒い髪の毛で覆われていた。

「いったぁ……」

 髪を掻き分け、強く打った場所をさすりながら起き上がる。すると丸々と大きい胸が視界に入った。……男に戻るまではいかなかったか。

「あ、ウサギさんが言葉しゃべりだした!」

 キメラが驚いた顔をしながら降りてくる。……ってちょっと待て。

「言葉しゃべりだしたって、俺の言葉通じてなかったのに頷いたの?」

「いや、なんとなくニュアンスでこういうこと言ってるかなって……」

 ……キメラが困ったような笑みを見せる。ま、いいや、結果的に通じてたんだし。

「……とりあえず、みんなの所に戻ってこの薬飲ませないと」

 瓶片手に部屋を出ると、右の通路から馬と羊が走ってきた。

「うわっ、馬さんと羊さんが併走している! なんという脚力!」

「いや、たぶん違う……倉木! 皆藤さん! 薬見つけたぞ!」

 こちらに気づいて音を立てながら止まった2匹に薬を飲ませる。すると2匹は悲鳴をあげながら半人半獣の姿になった。

「はぁ、はぁ、つ、月村先輩、早く、戻ってください……!」

 下半身が馬のフォルムを残している倉木が息を切らしながら俺の肩を掴む。

「ど、どうした!? 何があったんだ!?」

「と、虎が襲いかかってきたんです!」

 体全体がモコモコの白色の毛に覆われた皆藤さんが叫ぶ。

「今、錦戸さんと、服部さんと、犬飼さん……だと思う3匹が必死に止めてるんです! 早くしないと、彼女たちが、喰われて……!」

「わかった! 皆藤さん、一緒に戻ろう! で、倉木はあっちに出口があったから、そこから助けを呼んできてくれ!」

「先輩!? でも、虎相手に生身じゃ!」

「いや、多分虎も元人間だ! ならこの薬を飲ませれば一発だろう!」

「そ、そうですね! じゃあ行ってきます!」

 倉木は猛ダッシュで出口のある方へ走っていった。

「あ、あの、私は……」

 キメラがおどおどした様子で右前足をあげる。

「……月村さん、これは一体?」

「……俺も知らん。なんか捕まってたから助けた。……キメラも一緒に来るか?」

「は、はい! あと『キメラ』じゃなくて名前で呼んでください!」

「わかったよ……じゃあ、走りながらでいいから名前教えてくれ」

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