牢獄の異変
「じゃない方、って殺人、ってことですか……?」
青くなった倉木をよそに月村は平然と立ち上がるとズボンについていた草を払った。
「たぶん違うだろうけどな。そんな狩りの標的にするためにさらってきたんなら『実験動物になれ』なんて言ってこないだろうし。……でも万が一、ってことがあるから」
月村は大きくのびをすると通路の中へと入った。
「でも何かしらのことが動き出したのは間違いない。実験動物言われてても今まで何にもされてこなかったからな」
「そ、そうなんですか」
後を追ってきた倉木が意外そうに月村を見る。
「……なんだよ」
「い、いや、2ヶ月も閉じ込められてたら1回くらい解剖とか実験台とかにされてたんじゃないかな、って……」
「誰がされるか。……ま、修羅場は何回も経験したけどな」
「修羅場?」
「あれだよ、あれ。血が噴き出すやつ」
「あー」
倉木が納得したように頷く。
「先輩も経験しましたか」
「俺じゃなくて皆藤さんとか服部さんとか佐藤さんのだよ。知識も道具も何もないから大変だった」
「……あれ、先輩と錦戸さんは……?」
「……今のところ無い、というか永遠に来ないで欲しいよ。あと錦戸さんは下半身蛇だからかなー。蛇は卵生だし修羅場自体ないんじゃねぇの?」
「あのー、さっきから修羅場修羅場言ってますけど、ストレートに言ってもいいですよ?」
そんな話をしている間に部屋の中に到達した。
「……もうそろそろ昼食が出てくる頃かな」
「……そう、ですね……」
大量の牧草が出てくるのを想像したのだろう、倉木の声のトーンが一つ落ちる。
「心配しなくても、ニンジンくらい譲ってやるよ」
「いや、譲ってもらえるのは嬉しいですけど、結局お腹が減って食べざるを得なくなりますもん……」
「……確かにそうだったな」
そんな話をしながら月村は皆が仲良くもう食事を始めているであろうリビングへと繋がる扉を開けた。
しかし扉の先にあったのは、部屋の中にいた人達全員が倒れている光景だった。
「み、みんな、どうし……」
慌てて部屋に入ろうとした瞬間、月村の意識は飛んだ。
ーーー
重そうな金庫扉が静かに、横にスライドさせる。そこから顔面全てを覆うガスマスクを身につけた僕は部屋の中に入った。
「……薬を流してから1時間。ちゃんと効いているかなぁ?」
出来るだけ音をたてないように正面の扉を開ける。するとその先の部屋の床に人と獣を混ぜた姿をした少女6人と犬が1匹が転がっていた。彼女らの口の近くに耳を持っていくと全員スヤスヤと寝息をたてているのがわかった。……ちゃんと薬は効いているようだ。
「さて、起きちゃう前にさっさと作業を終わらせますか」
僕は試作品の獣化薬と注射器を取り出すと、注射器の中に薬を注ぎ入れた。
「次にー、誰から入れようかな〜?」
僕は周りにいる少女達を見渡した。そこであることを思い出した。
「……そうだ、こいつにはヒドイ目に合わされたんだったな」
僕は蛇の少女のそばに寄り、そしてその首元に注射器をさした。
「……うっ、ゲホッ」
薬を注ぎ入れてしばらくすると、蛇の少女が苦悶に満ちた表情になり始めた。すると上半身中に下半身と同じような鱗が現れ始め、その鱗に押し出されるように体中の毛という毛が全て抜け出した。そして鱗に覆われていた腕が少しずつ小さくなっていき、体の中に吸収されていった。
さらに頭が平らになりながら少しずつ、細く伸びていく。それに合わせて閉じていた目が開き出した。ただし眠りからはまだ覚めてない。
「……さて、口の中はどうなってるかな?」
僕が蛇の少女の口を開かせると中からパラパラと人間の歯が大量にこぼれ落ちてきた。歯を全部掻き出して、180度近くまで開かせた口には鋭く尖った歯が2本だけ残っていた。そして舌は細くなり、先が2つに分かれていた。
「……動いてる所が見れないのが残念だけど、ひとまずは大丈夫そうだね」
僕は薬がちゃんと効いていることに安堵すると、蛇の少女から手を放し、次のターゲットを選んでいった。




