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人獣牢獄  作者: 臼杵 碧
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前触れの銃

「まずいことになったなぁ」

 白衣の男は幾つもあるモニター画面を見ながらつぶやいた。それには安部が竜眼皇冠头饰の窃盗に関与した疑いで逮捕されたことを伝えるニュースが流れていた。

「まさか窃盗団の1人が捕まっちゃうなんて、想定外だよ。しかも同僚の居場所にぃ雇い主の素性まであっさり吐いちゃうなんて。何が世界的に有名な窃盗団だよ」

 そう毒づくと白衣の男は施錠されていたロッカーから狩猟用の銃を取り出した。

「こうなったらさっさと儀式を済ませて安部さんを助けないと。あの薬がうまく効くかはわからないけど、うまくいくことを期待するしかないよね……」

 その時、ガンッ、と大きな音がなった。檻の中の虎が鉄格子に向かって突進してぶつかった音だった。

「暴れたって出してあげないよー。君をうっかり放逐しちゃったら他の捧げ物を食べちゃいそうだからね」

 そうして白衣の男は「30%OFF」とデカデカと書かれたシールがついたビニールの中に入ったブロック肉を檻の中へ投げ入れた。


ーーー


「ん〜……。やっぱりダメだ、押しても引いても開かねぇわ」

 金庫扉部屋の壁の上の方を押していた月村はそう言って倉木の背から飛び降りた。

「悪かったな、踏み台にして」

「別にいいですよ、これくらい」

 今から約一週間ほど前のこと、金庫扉部屋に偶然服部と錦戸がいた。

 その時、上の方の壁が音をたてながら開き、そこから犬が滑り落ちてきたのだ。


 金庫扉部屋に外へと繋がる別の扉があるのではないか、と前から考えていた月村はその話を聞いて、こちら側からも開けることが出来るのではないかと考えたのだ。しかし錦戸達の話で出てきた穴は月村の手が届く高さになかった。そのため4本足で安定感があり、さらに1番背が高い倉木に協力してもらっていたのだ。

「手動でも動くなんてそんな甘い話はねぇか……」

「月村さん! 倉木さん!」

「キャンキャン!」

 月村が首をかしげながら金庫扉部屋を出ると皆藤と犬が猛ダッシュでリビングに駆け込んできた。

「どうした? そんなに慌てて」

「はぁ、はぁ、た、大変です、白衣が、あの男が……!」

「うん、わかった。ちゃんと聞くからとりあえず落ち着け」

 皆藤が息を整えていると、騒ぎを聞きつけた服部・錦戸・佐藤が浴室から戻ってきた。

「どうしたのー? 洋子がドタバタしながら戻ってきたみたいだけど」

「あ、服部さん……どうして浴室から?」

「あー、悠貴さんに頼まれて錦戸さんが変な真似しないように見張ってたの」

「疑われなくても変な真似なんかしないって……」

「「してただろ」でしょ」

 月村と佐藤のツッコミがほぼ同時に繰り出されて、錦戸は不満げな顔をしながら黙った。

「で、何があったの?」

「は、はい! 白衣を着た男が森の中を歩いてたんです!」



 皆藤の話をまとめるとこうなった。

 今朝、いつものように犬さん(仮)と散歩をしていたら銃を持った、白衣を着た男を森の近くで見つけた。出来ることなら追いかけたかったが、気づかれて撃たれてしまう可能性があったのですぐに離れて部屋に戻ってきた。

「……銃ってピストルの方? ライフルの方?」

「あの、猿騒動とか起きた時におじさん達が持ってるやつでした」

「となると猟銃、か……とりあえず、行き当たりばったりで追いかけたり捕まえようとしなかったのは大正解だな」

「あ、ありがとうございます」



「……先輩、どうかしましたか?」

 倉木が外に出ると入口のすぐそばで月村が寝っ転がっているのを見つけた。

「……何が?」

「いや、皆藤さんの話を聞いてから先輩の顔が険しくなっていたので……」

「……そっか」

 月村は苦笑するとむくりと起き上がった。

「……ちょっと色々考えててな」

「白衣の男のこと、ですか」

 月村は頷くと倉木の顔を見ながら言った。

「あの男が何でこの場所で銃を持って歩いていたのかな、ってさ」

「え?」

「思いついたのは単純に殺すため、それと捕まえるため」

「捕まえるため、って何をですか?」

「……あの森には立石さん、っていう人がいるんだけどさ……って倉木には話してなかったか」

「はい……誰なんですか、立石さんって」

「完全なラッコにされた元人間、って言えば伝わるか?」

 倉木は目を見張り、信じられない物を見るように月村を見た。

「あの森には他にも完全に変体させられた人がいるかもしれない。俺たちが会ってないだけでな」

「……で、でも一度ここに放したのを何で連れ戻そうと……」

「金庫扉の部屋の穴からだと入れることができない程の巨体だったり、入れたら俺たちに何らかの害を与えるやつ、とかなんじゃないのか? あの扉らしき板のサイズから見るにお前ぐらいの体格だと途中で詰まりそうだったから」

「…………」

 倉木は少し考えると、再び口を開いた。

「じゃあ、なんで今捕まえ始めたんでしょう?」

「そこなんだよな……。実験が別の段階に入ったのか、人語がわかる動物として売り出したのか、全然わからないんだよ。第一、捕まえる方じゃない方かもしれないしな」

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