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人獣牢獄  作者: 臼杵 碧
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猿島みゆきの快感

「……これが『竜眼皇冠头饰』ですか」

 そう言う白衣の男の手には白を基調とした土台にくすんだ琥珀色の大きな宝石がはめ込まれたティアラが握られていた。

 かつて中国の王妃が身につけていたといわれるこのティアラは本来、フランスの某超有名美術館に所蔵されているのだが、「東方伯楽展」のためにこの度初来日となった。しかし先日、これまた世界的に有名な窃盗団によって輸送中に強奪されてしまっていた。

「看板に偽り無し、だったな」

 安部が見るからに高そうな椅子に深く座りながら満足そうに頷く。……そう、窃盗団は安部からの依頼を受けてこの竜眼皇冠头饰を強奪したのだ。白衣の男は心配そうに安部に話しかける。

「彼らがこの情報(こと)を警察に売る、ということは無いんですか?」

「大丈夫だろう。あいつらだって札付きだ、そう簡単にノコノコと警察の前には出ていけないだろうし、それにあちらの言い値の1.5倍を払ったからな。……あとは君が残りの2つを揃えて、儀式を行うだけだ」

「……はい。あとは任せてください」

 白衣の男はニコリと、不気味な笑みを浮かべた。


ーーー


「ううっ、ぐすっ……」

 カウンターの端の方で、高そうなドレスを身にまとったショートカットの女性が泣きながら酒杯を煽っている。見ている限り、飲んでる酒はみんな度数が高いものばかりだ。僕は思わず前にいたバーテンダーに声をかけた。

「……どうしたんですか? 彼女」

「ああ……あの人ですか? どうやら悪い男に引っ掛けられてしまったらしくて……」

 失恋の悲しみを酒で誤魔化している、ということか。僕は懐の中身を確認した……うん、ちゃんと入っている。僕は再びバーテンダーに声をかけた。

「すいません、あの人にこれと同じ物を……」



 それからはチョロかった。酒の力もあっただろうが、適当に愚痴を聞いてあげたらすぐに落ちた。闇カジノ? みたいなのにはまっていたイケメンホストな彼氏に何百万と貢いだ末に捨てられたんだとか。こっちとしたら知ったこっちゃねぇが。

 そして彼女は自暴自棄になっているのか、体を交えることを要求してきた。酔った勢いなのか、ビッチなのか、そこら辺はわからないが。

 僕は喜んで受け入れた。だって自ら実験動物になってくれるというのだ、断る理由が見つからない。

 というわけで今、僕は王宮のような見た目のホテルにいる。パーテーションで仕切られたシャワールームからは水が噴き出す音が聞こえている。彼女が体を洗う音である。

 僕はその音をバックに、飲みかけのペットボトルのキャップを開けると懐から注射器を取り出し、中の薬を全部水の中に入れた。経口投与でもこの薬が効果を発揮するのは蛇の件ですでにわかっている。さらに今回の薬の濃度はかなり濃い。別に水で少しぐらい薄めたとしても大差無いだろう。

「上がったわ」

 僕がキャップを締め直すと同時期に、バスローブに身を包んだ彼女がシャワールームから出てきた。……水も滴る良い女、とはこのことか。

「うん。じゃあ僕も今から浴びるから。水でも飲んで待っててよ。酔っ払っててやってる途中で寝られたら興ざめだからね」

「そんなの、わかってるわよ」

 彼女は頷くと薬入りのペットボトルを手に取った。僕はそれを見てからシャワールームに入った。


 シャワーを止めると、パーテーション越しに喘ぎ声が聞こえ始めた。……始まったか。

 気づかれないように体を拭き、元の服を着て戻ると彼女は寝言を吐きながら寝ていた。……これだから酔っ払いはダメなのだ。

 しかし薬の効き目はしっかりと出ている。彼女の腕は会った時に比べて1.5倍くらいに伸び、他の部分は全体的に小さくなり始めていた。

「あぁ、何これ……こんな、気持ちいいの、始めて……」

 ……僕と交わっている夢でも見ているのか。ご苦労なこった。僕がせせら笑っていると彼女の体には次の変化が現れ始めた。

「あぁ、いぃ……っ、最高……」

 腕と脚に赤茶色の毛が生え始める。さらに大陰唇が大きく膨れ始め、鼻が垂れ下がる。

「う、うき、うきぃ」

 人間とよく似た生物のような鳴き声を発しながら女はベッドの上を転がる。するとバスローブがはだけ落ち、全身が露わになった。しかし体全体に赤茶色の毛が満遍なく生えていることで大事な部分は見えなくなっていた。

「うきぃぃぃぃぃっっ!!」

 頬に大きな頬袋ができた頃、女は顔を真っ赤に染めながら体を大きく反らし、大声で叫んだ。その頃にはもう、先ほどまでのいい女だった頃の面影は微塵も無くなっていた。

「ふふふ、ほんっとうに運がいいや。12回の実験に対して10回も成功するなんて、神様だってビックリするよ」

 僕は持ってきたバッグから折りたたみ式の檻を取り出すと、絶頂に行き当たったのか大人しくなった人間の女だった物をそれに放り込み、さらにそれをバックに入れ直した。

 僕は明らかに体積が増し、大きくなったバッグ片手にカウンターでチェックアウトの手続きを行った。わずか30分の滞在時間にボーイの人は不審そうに僕を見たが「些細なことで口喧嘩になってしまい、彼女が裏口から出て行ってしまった」と言うと、納得したように頷き、今度は僕を哀れむような目をしながら「ありがとうございました」と頭を下げた。

「これで残すは一つ……。このままテンポよく終わらせたいね」

 外に出るとネオンとLEDの光がさんざんと周りを照らしていた。この街の夜はまだ始まったばかりなのだろう。僕は次々と現れるめんどくさい客引きを軽くあしらいながら駅へと急いだ。


 この時間ならまだ終電に間に合うだろう。

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