立石海の悪性
長ーいタグ無視日常話、ここらでひとまずおしまいです。ついて来れている読者の皆様、お疲れ様です、そしてありがとうございます。あ、でも性転換の話はまだ当分先です、ゴメンナサイ。
「あー、マジで最悪」
市営プールからほど近い公園。私、立石 海はふてくされながらその道を歩いていた。
私の名前はいわゆるDQNネームってやつで、そのせいで周りから変な目で見られてきた。どっかの雑誌が「キラキラネーム」とかいう名称で呼ぼう、なんて活動をやっているが、そんな物は無意味だと私は主張したい。どんな名称でも周りからバカにされるのは同じだからだ。
ただアイドルのような可愛い・かっこいい顔だったら、中年以降を除けばまだ「似合ってる名前だね」とか言われたりするので救いようがある。しかし残念ながら私の顔は中の下。はっきり言って名前負けだ。
だからそんな見た目を隠すために、つけまつげとかファンデとか、色々化粧をして学校に行ってる。正直、一昔前のガングロギャルぐらいにしている。そんな訳で先生から問題生扱いされているが、譲ることなんて考えられない。だってすっぴんじゃ誰も私の相手なんかしてくれないからだ。
だから、私はプールとか海とか、化粧が落ちる場所に極力行かないようにしていた。……それ以前に別の理由もあるのだが。
でも、そうは言ってられない事態が発生してしまった。私が入ってるグループでこの週末にプールに行くことになってしまったのだ。ここで断れば、ハブられるのは目に見えている。
私はOKしつつも、当日雨が降ったり、プールが事故で閉鎖されることを願った。
しかし神様は残酷だ。明日の降水確率は0%。事故も起きなかった。
ふと横を見ると、池の中を鯉の群れがゆうゆうと泳いでいる。私はなんとなくムカついて、足元にあった石を投げ入れた。
「いいよな、お前達は。生まれつき好きに泳げるんだからな!」
餌がもらえると思って近づいてきたのか、集まった鯉達が慌てて逃げ惑う。ははっ、いい気味だ。
「おい、君! 池に向かって石を投げるのはやめなさい!」
13個目の石を掴んだ所で、警備員のおっさんが近寄ってきて注意し始めた。ああもう、スッキリしかけてた気分が台無しだ。
「……うるせーな」
私が舌打ちしながら石を手放したが、おっさんはこっちに近づいてきた。
「何だよ、やる気かおっさん?」
「……ロクな力も考えも持たないくせに一丁前のフリをしますか。あなたは最低の人種に育ってしまったのですね」
おっさんが哀れむような目で私を見る。その目つきに私はカチンときた。
「ふざけんなよテメェ!」
私は思わずおっさんを殴ろうと一歩踏み出した。しかしその時にはおっさんは私の懐に入って一本背負いのようにして私を放り投げていた。受け身が取れなかった私は何の対策も取れずに地面に叩きつけられた。
「がはっ……」
「その腐った性根、捧げ物に向いているでしょうかねぇ? 一部の物はそういう者を好んで食うと言われてますが」
「な、何を言って、うぐっ!?」
おっさんは横たわってる私の首に注射器をうつと、その中の薬を私の体に入れ始めた。
「や、やめろ……」
「おやおや、暴れたら行けませんよ? あの世に行っちゃいますから」
そう気軽にいいながら、おっさんは空になった注射器を外した。
「お、まえ、な、にを、した……!」
薬を入れられてから私の口はなぜか呂律が回らなくなり始めていた。
「ふふふ、すぐに分かりますよ……」
おっさんが笑いながら言うと、私の体中に激痛がはしった。
「い、ぎゃあぁぁぁぁ!?」
私が痛みに耐えきれずその場に転がり出すと、両腕両脚が縮み出した。
「あ、は、うが、うお、ごわ」
私の歯が巨大化していくとただでさえ低かった鼻がさらに低くなり周りに白いヒゲのような物が生えてきた。
そして綺麗に手入れしていた肌には満遍なく焦げ茶色に似た色の毛が生え始めた。できることなら引き抜きたかったが、指が縮こまり、何か黒い物に覆われ始めた手でそんなことができるわけがなかった。
腕が肘まで、脚が膝まで私の体の中に埋まると、代わりとばかりにお尻から平らな何かが生え出した。もちろん何かにも焦げ茶色の毛が生えていた。
「ううっ……どうなってんのこれぇ……」
いつの間にか大きくなって、体に覆いかぶさっていた服から私はなんとか這い出した。すると私の姿を見たおっさんは唖然とした様子でつぶやいた。
「……なんだこれは? とんだ失敗作だな」
「はぁ!? 誰が失敗作だって!」
私は思いっきり叫んだが、おっさんは全く聞く耳を持っていなかった。
「……全く、これじゃあ捧げ物に使える使えない以前の問題じゃないか。なんでこんな全く関係ない物に変化したんだ? 心が醜かったからこういう結果になるのか?」
「誰が醜いだって!?」
「……できればなかったことにしたいのですが。言葉も喋れなくなってるようだし……しかしこんな希少な生物となると……」
「おい、聞いてんのかジジイ!」
「……仕方ない。ここに放って置いたらニュースになって、ミーハーな人がきて、実験がしにくくなりますからね……。持ち帰るとしますか」
「え……は、離せ! ってうわっ!」
おっさんは私の体を掴むと、おもむろにどこから取り出したのかわからない布袋の中に私を放り込んだ。
「お、おい! どこに連れて行く気だよ! ここから出せぇ!!」
そうして私がいくら喚いて暴れても、袋が切れることはなかった。
ーーー
それから数日が経ち、立石は森の中にいた。
「ううっ……どこなの……ここぉ……」
慣れない4本足で立石は草をかき分けながら進んでいた。小さくなった上に4足歩行となり視点が大きく下がったためため、普通の人にとってはただの森でも今の彼女にとってはテレビでしか見たことがない南米のジャングルのような物になっていた。
「パパァ、ママァ、みんなぁ、誰か助けてよぉ……」
泣きじゃくりながら歩を進める立石の姿からはかつての勝気な態度は見る影もなかった。
「お腹すいたよぉ……のど渇いたよぉ……」
昨日ここに離されるまで、水しか与えられなかった。そのせいか、立石の脇腹には皮が大量に余っていた。
「だ、誰かぁ……って、あれ? この匂い……」
立石は向かう方から流れてきた香りに鼻をヒクヒクさせると、匂いのする方へ足をもつれさせながら走り出した。
そうしてたどり着いた先には大きな泉が広がっていた。周りには白い物が付着した岩がゴロゴロと転がっている。
「み、水……」
立石は周りを見ることなく水がある所へと直行し、おもむろに口につけた。
「はぁ、はぁ、助かった……」
水を満足するまで飲み切ると、のどの渇きが落ち着いたからか、ホッとしたからか、立石の腹から大きな音が鳴った。
(うう、この近くに食べれる物、あるかなぁ)
立石はお腹を小さな手でおさえながらちらりと泉の中を見た。泉の中には魚の姿がなかったが、大小様々な貝や小さなカニの姿はたくさんあった。それを見つけた立石はゴクリとツバを飲んだ。
(あ、あれおいしそう、でもどうすれば捕まえられるかな)
立石はしばらくその場で考えると何かを思いついたのか、再び森の中へ入っていった。そしてしばらくすると大量の石を脇腹の皮にくるんで戻ってきた。
(さぁて、いっぱい採るぞぉ)
立石は持ってきた石の中から手にしっくりきた物を持って、水の中へ飛び込んでいった。




