喜べぬ再会
「おい、おい! 起きろ、目を覚ませ!」
驚愕から立ち直った月村はペチペチと牛娘の頬を引っぱたきまくった。無理やり錦戸の体を引っ張り出すよりも牛娘を起こして離れてもらう方が楽だと判断したのだろう。
「う、うう……」
そんな思いが通じたのか、決死の往復ビンタが効いたのかは定かではないが、とにかく牛娘は目を覚ました。
「あ、あれ……ここは……」
「後で話してやるからさっさとそこから離れろ!」
「は、はい、ってうわっ!」
月村のあまりの気迫におののいていた牛娘は自分の体の下に潰れて気絶している錦戸に気づくと慌てて飛び退いた。
「へ、蛇っ!?」
「おい、大丈夫か錦戸さん!」
牛娘の悲鳴をよそに月村は今度は錦戸の腕をとって脈を取り始めた。
「よし、脈はあるな……。あとは内出血が起きて無いことを祈るしか……」
「あ、あの、錦戸さんって」
「え? こいつの名前だけど?」
そう月村が言うと牛娘は恐る恐る2人に近づいてきた。そして錦戸の顔を見た瞬間に悲鳴を上げた。
ーーー
「へぇー。佐藤さんと錦戸さんってクラスメイトなんだ」
「は、はい!」
あれから俺は「自分が錦戸さんを下敷きにして気絶させた」という事実からのショックから復活した牛娘ーー佐藤さんと水道水の入ったコップを挟んで座り、現在の外の状況を聞き出していた。ちなみに錦戸さんは部屋の隅でいまだに伸びている。
「皆藤さんと服部さんの事件と錦戸さんの事件は一緒に捜査されてるんだ……警察も無能じゃないんだな」
「そ、そうですね……。ちなみにその皆藤さんと服部さんは……?」
「そこの部屋で寝てる。こんなドンチャンしてても出てこないってことは今もグースカ寝てんじゃないの?」
「う、うう……」
そんな話をしているとうめき声を上げながら錦戸さんがむくっと顔をあげた。
「あ、錦戸さん!」
それに気づいた佐藤さんはすぐに立ち上がって駆け寄ろうとしたが、足を出そうとした瞬間にズデーン、と大きな音をたててその場で転んだ。
「だ、大丈夫か!?」
俺が慌てて抱き起こすと佐藤さんの顔を見た錦戸さんは驚愕の表情を見せた。
「え、翔子!?」
「や、やっほー……」
錦戸さんの大声に対し、佐藤さんは気恥ずかしさからか、頬を真っ赤に染めながら弱々しく手をあげて応えた。
「まさか錦戸さんが動物にされて監禁されてたなんて……私もだけど」
「まぁね……。それにしてもさ、胸大きいからってイメージそのまんまの動物になる? 普通」
「知らないよそんなの……」
「……ちょっといいか?」
会話の輪が3人に増えてから、すっかり話すタイミングを失いかけていた俺が手をあげると2人がこっちを目をパチクリさせながら見てきた。
「……突然で悪いけどさ、佐藤さん、ちょっと立ってみてくれないか?」
「え? いいですけど……」
と、佐藤さんは若干戸惑いつつ腰をあげると、すぐにバランスを崩して尻もちをついた。
「あ、あれ……? おかしいな……」
佐藤さんは首を傾げながらもう一度立とうとしたが、やっぱり立つことが出来ず今度は仰向けに倒れてしまった。
「え、な、なんで……」
「しょ、翔子……?」
予想通りの展開に俺は頭を押さえた。
「……やっぱりか」
「やっぱり、ってどうしてですか?」
錦戸さんが俺のつぶやきに反応する。俺は2人にとって残酷な予想を言い放った。
「俺の予想でしかないけど……たぶん佐藤さんはもう2足歩行が出来ない体になってる」
ーーー
「え……?」
月村の予想を聞いた翔子の顔がどんどん青くなっていく。私は思わず月村に噛み付いていた。
「ど、どういうことですか!?」
「……脚の位置がおかしいんだよ」
月村は突然立つと自分の腰と足を順番に触り出した。
「こんな感じで人間の腰と脚は2足歩行が出来るように垂直になってるんだけど……佐藤さんの脚は曲がってる、っていうか直角になってるんだよな」
そして次に月村はこちらに来ると倒れたままの翔子の左脚を掴んだ。
「ちょっと垂直になるように動かすぞ。痛かったらすぐに言え。骨折するかもしれないから」
そう言うと月村は脚を上に引っ張った。
「い、痛いいた……!」
翔子がすぐに悲鳴をあげると月村はあっさり手を離した。翔子は涙目になりつつ、引っ張られた脚をさすった。
「うう……」
「垂直にしようとしたら激痛が走る。つまり垂直の位置が脚の可動域に入ってない、ってことなんだよ」
そこまで言うと月村は心配そうな顔になった。
「……錦戸さん、ついてこれてる?」
「……なんとなく。つまり佐藤さんの脚はもう完全に牛になっちゃってる、って言いたいわけ?」
「簡単にまとめるとそうだな」
「……あの……じゃあ、私はもう歩けない……んですか?」
「2足歩行ではな」
月村からの返答に翔子が下を向く。床に涙がポタポタと落ちていた。
「でも個人的には無理をせずに4足歩行してくれると嬉しい。体への負担も少ないし、それに……」
「え?」
翔子が赤い目で月村を睨みつける。月村は座り直すとものすごく申し訳なさそうに続けた。
「俺、今はこんな姿だけど本当は男だからさ……目のやり場に困るんだよ。その……今はこんな状態だけど本当はこんなんだったんだろうな、とか想像しちゃうというか、なんというか……」
月村のカミングアウトを聞いて、翔子はあっけにとられた様子であんぐりと口を開けて私を見た。そんな助けを求める目で見られても、私自身も初めて聞く話なので横にぶんぶんと顔と手を振る。
そうしてる内にあることに気づいた私は、仕返しとばかりに月村に問いかけた。
「じゃあ、今まで皆藤さんや服部さんの裸とか想像しながら生活してたんだ?」
「誰がするか! 佐藤さんの場合は覆う物無くて、むき出しだからドキドキしそうなだけであって、あの2人は毛とか羽に隠れてるから大丈夫だったの!」
すると月村は頬を真っ赤に染めながらそっぽを向いた。私は面白くなって、未練がましく着ていた制服を脱ぐと月村に抱きついた。横目で私の下着姿を見た月村はものすごく焦った様子で叫んだ。
「ばっ、あ、当たってるから! やめろ!」
「ふふふ……そんなこといつまで言えるかなー?」
「……お前っ、いいかげんにしろー!!」
私は嫌がる月村の体に、佐藤さんの敵とばかりに体を巻きつかせてさらに密着した。そんな私達を見て佐藤さんはクスクス笑い出した。




