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それは誰の視線か

中間テストが終わった。

つまりようやく絵に集中出来る。

俺は月曜日の学校に、絵を持ってきていた。


この絵を描き始めてすぐ三連休に入った。だから俺は絵を家に持ち帰って、ずっと描き続けた。

三連休が終わるとすぐにテスト前の部活停止期間に入ってしまう。俺はちょっと悩んだけれど、そのまま家で絵を描いていた。

もちろん勉強をしなかったわけじゃない。万一赤点でも取って補習を受ける羽目になったら、絵を描く時間が減ってしまう。そんな事態になるわけにはいかないから、絵は気分転換程度に何とか収めて勉強を頑張った。

だけどテストも終わった。絵は家で描き続けるべきかとも思ったけれど、学校に持ってくることにした。

何というか、この絵は学校で描きたいと思ったから。


昼飯を美術部室で食べてそのまま絵を描く。いつも部室に来ていた高坂先輩は今日は来ていない。

そのうち来るだろうかと思っていたが、先輩が来ないまま休憩時間は終わってしまった。

何か用事があったのか、それとも既に絵を描き終わってしまったのかもしれない。

俺は絵を家で描いていたから、しばらく美術部室に来る必要がなかった。久々の美術部室はとても静かだった。


部活停止期間中は教室で昼飯を食べていたけれど、森くんは毎日安藤さんのところへやって来ていた。

そして、とうとう前田さんも追い返すことを諦めたようで、最近は3人で昼飯を食べるようになった。おそらく今日も3人で食べたのではないだろうか。



午後の授業が終わると、すぐに美術部室に向かう。

絵は順調に描き進んでいて、文化祭までとは言わず、今月中には仕上がるのではないだろうか。

俺は弾んだ気持ちで部室の扉を開けた。


そこに高坂先輩がいた。

「あ!足立くん、いいところに!」

高坂先輩が俺に良い笑顔を向けた。

他の部員はまだ来ていないようだ。テストが終わったばかりなので何か色々あるのかもしれない。


「絵も描き終わったから、今日は荷物を持ち帰るの」

高坂先輩が先日まとめていた荷物を指す。

やっぱり先輩は絵を描き終えたんだなと思いながら、俺は先輩の手招きに応える。

「お母さんが裏門まで車で来てくれてるから、荷物運ぶの手伝ってもらってもいい?」

「もちろんです。これを運べばいいですか?」

「お願い。私はこっちの絵を運ぶから、足立くんはそのダンボールをお願い」


俺は言われた通りにダンボール箱を持って、先輩と連れ立って裏門へと向かった。

「もう荷物を持ち帰っちゃうんですね」

なんだかんだで先輩とはしばらく一緒に昼を過ごしていたから、寂しさが湧き上がる。

「うん。まだ文化祭展示用の絵は部室にあるけどね」

「確かに」

まだお別れではないと言われたようで、少しだけ寂しさは和らいだ。


「足元気を付けてね」

階段を降りる時に先輩が声を掛けてくれる。

ダンボール箱を抱えていると足元が見えないから、確かに注意が必要だ。

俺は慎重に足を運んで、階段を踏み外さないように降りる。


俺は降りながら、先日荷物を抱えて階段を踏み外していた1年生を思い出した。

確かに荷物を抱えていると足元が見えない…


俺の頭に小説の場面が思い浮かんだ。けれど頭に浮かんだことを俺は一旦保留する。

降りている途中で考え込んでしまうと、俺も階段を踏み外してしまうかもしれない。

思い浮かんだことを無視するように階段を降り切る。


荷物を持っていると足元が見えない。高坂先輩は俺の横を歩いているけれど、先輩のスカートなんて抱えたダンボール箱に遮られて全く見えない。

1年生たちは荷物を4人で運んでいた。1人は手ぶらだったけれど2人で運ぶには教材の量が多いように思った。去年の授業も同じ教材の量だっただろうか?

あの小説、男子と女子が二人で教材を片付ける場面だと思って読んだけれど、本当に二人だけだっただろうか。後ろにもう一人いたのではないだろうか。

俺はあの小説を実際の学校での出来事を参考に創作したものではないかと思っているけれど、だとしたら匿名の作者は教材を運んだか、運ぶのを見ていたはずだ。だったら…

いや、別に忠実に書く必要はないか。

実際には三人の手が必要だったとしても、小説では二人で運ぶ分量ということにすればいいだけのことだ。


考えすぎだな…。

すっかりあの小説のことは忘れた気になっていても、ふとした時に思い出してしまう。

それはあの小説が、この学校を舞台にしているせいかもしれない。


でも隣から見ていると思っていた場面に、後ろからの目線があったと考えてみたら、中庭の目線にも別の考えが思い浮かんだ。

教室の窓からでは弁当の中身までは見えないと思うけれど、あの目線がもっと近くからのものであれば…。


例えば隣に座っていれば弁当の中身だって見えるよな。


結局のところあれは小説なのだから、目線がどうとかは、作者が上手く書けなかっただけのことかもしれないし、自分がしっかりと読めていないからかもしれない。


だけど俺の目線のように言われた小説の中のものに、違う解釈を思いつけたことは俺の気持ちをまた少し軽くした。



目線のことを意識したら、少しだけ森くんの気持ちも解る気がした。

安藤さんと森くんが付き合っているのかは、昼の様子を見ていてよく分からなくなったけれど、それはともかく。森くん的に安藤さんがモデルとしか思えない小説を読んで、しかもその小説を書いたのは黒木くんの知り合い。ということは自分も知っている人である可能性がある。そしてたまたま黒木くんが読んで無理を言って掲載したということは、人に見せる為に書かれたものではないということ。そんなものがあるのにそれを書いたのが誰なのか分からない。…って確かにちょっと落ち着かない気分になると思う。

あの小説通りのことがなかったとしても、誰が安藤さんをモデルに小説を書いたんだって思うよな。

俺が疑われたのでなければ同情したいところだ。

でもまあ、俺ではないわけで、そうするとまだ森くんは落ち着かない気持ちのままなんだろうな。



荷物を車まで持って行くと、高坂先輩はそのまま車で帰って行った。

俺は部室に戻って、絵の続きを描こう。

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