文化祭に向けて
「今日、美月ちゃん遅れるって」
文芸部室に入ってきた公平くんがそう言った。
「そうなんだ、文化祭の準備?」
「そう…」
中間テストも終わると文化祭まで一直線。
文芸部でも活動日を読書会と銘打ってはいるが、読書ではなく文化祭の準備をする部員も現れ始める。だけど準備が必要なのは文芸部だけではない。クラスでだって文化祭の準備がある。
文芸部員は、部活のない日にクラスの準備に参加している部員が多いけれど、そろそろクラスの準備に比重が傾く時期だ。
「そういや美月ちゃんのクラスは何やるの?」
「…お化け屋敷だって」
「お化け屋敷!?それは美月ちゃん向き!…でもないか?」
公平くんに話しかけた副部長が首を捻った。
「すっごく楽しそうにしてる」
「そうなのか?公平、美月ちゃんとお化け屋敷一緒に行ったけど、ダメだったって言ってなかった?」
「美月ちゃんが言うには、ホラーは被害者の視点と同時に外からの視点を味わえるところがいいんだって。だけどお化け屋敷は完全に被害者として楽しむものじゃん。そこが楽しくないらしい」
「なるほど。あー、つまりお化け屋敷を作る方なら、被害者の視点を想像しつつ脅かす方の視点に立てるところが楽しいのか」
副部長が感心したように公平くんと話しているけれど、美月ちゃんがそばにいない公平くんを見るのは久々で、私はちょっとだけ戸惑った。本を読んでる美月ちゃんを見ている公平くんは、口数も少ないから何だか見慣れない。
「それで放っておかれて不貞腐れてるのか?」
副部長が公平くんを揶揄う。
「違うよ。美月ちゃんが楽しそうなのは嬉しいけど、別のクラスのやつは出てけってC組の奴らに追い出された…当日来いって」
「それは仕方ない」
副部長が苦笑して公平くんの顔を見た。
「公平のクラスは何やるの?」
「なんかミニゲームみたいなやつ」
「準備はいいの?」
「準備は来れるやつだけでしてる。俺は明日から手伝う予定。あとは当日順番に店番」
「なるほど」
「あんなに楽しそうにしてる美月ちゃん見させてもらえないとか酷すぎる」
副部長が呆れたような顔を公平くんに向けた。
「じゃあお前、今日は本読む?それとも展示準備する?」
「…」
公平くんは少し考えるように部室を見渡した。
「展示準備する。パソコン使っていい?」
そう言うと作りかけの展示用のデータを文芸部のパソコンに呼び出した。
ちなみに公平くんが文化祭で発表する展示内容は、ホラー小説を書いている3年生の先輩の文芸部誌掲載作品の書評と先輩へのインタビュー。
美月ちゃんが文芸部に入部する決め手となった先輩を題材に選ぶっていうのは、なかなか公平くんらしい。
私たちは、文化祭で発表するならプロの作家を題材にしなくてはと思い込んでいたけれど、公平くんにとっては、読んでいる小説にプロの作品とかアマチュアの作品とかいう区分はないようだ。
文芸部に入るまでほとんど読書をしたことがなかったみたいで、文芸部誌への掲載作品もとてもユニークだ。最初はホラー小説を書いて。だけどホラーというにはアクションっぽさが多い仕上がりになっていて。それで小説書くのは諦めて、ホラー小説の書評を書いて、ホラー映画の批評を書いて、この間はお化け屋敷の体験記を書いていた。
美月ちゃんを初めてのお化け屋敷に誘ったのに、美月ちゃんには楽しくなかったからお化け屋敷はもう行かないと言われてしまい…だけどその体験記を部誌に載せようと思う公平くんは、本当に予想が出来ない。
副部長は読書を始め、公平くんは展示準備を始めた。私も今日は展示準備をしている。
1年生たちは読書と展示準備と半々だ。
文芸部長は読書をしている。
テスト前は少し思い詰めていたように見えたけれど、今は落ち着いたようだ。そして落ち着いているということは、まだ告白もしていないのだろう。
まあテストがあったしタイミングが悪いか。
橘前部長が良い返事をくれるのかは分からないけれど、せっかく告白しようと決意したのだから、しないで終わることにはならないで欲しい。
文化祭が告白するきっかけになるといいのだけれど。
私はそう思いながら、自分の展示準備にも気合いを入れることにした。




