文化祭に向けて
「あ、副部長!もう大丈夫なんですか!」
久しぶりに読書会に来ることが出来た文芸部副部長に、1年生が弾んだ声を掛けた。
「あー、大丈夫…だけど大丈夫ではない…」
文芸部副部長は疲れ果てた声で返した。
「えっ…まだ痛みとか…」
「あー…もう痛みはないよ。じゃなくて…ただ…補習が…」
副部長が弱々しく言う。
2学期が始まってすぐに交通事故にあった副部長は、先週無事に退院したものの、休んでいた期間が長かった為、放課後特別に補習を受けていた。でもそれも終わり、今日はようやく文芸部の読書会に来ていた。
「でも無事補習も終わったんですよね!今日は存分に本を読みましょう!」
明るくそう言う1年生に「だけどすぐ中間テストじゃないか…」と副部長が呻く。
中間テストまではあと2週間。だけど来週の木曜日からはテスト前の部活動停止期間に入るし、副部長からしたら休む暇もなく勉強…という気持ちになるのも分かる。
「そういえば副部長、原稿のデータはお家にあったんですか?」
交通事故では、文芸部誌のための原稿のデータが入ったUSBメモリも壊れてしまっていたけれど、そのバックアップデータは彼の家に残っていたのだろうか。
「あー、あったといえばあったんだけど…」
副部長は眉を寄せた。
「最終稿は残ってなかったんだよ。だから書き直し」
「あー…」
同情的な声が上がるけれど、
「でも、何も残ってないより良いですよね!」
慰めの言葉も同時に上がった。
「まあなー」
副部長は溜息混じりに言うと、
「まあ、前より良いもの書くよ」と苦笑した。
そんな風に副部長の復帰を喜んでいたところに、文芸部長が声を掛けた。
「えー、皆んなに聞きたいことがあるんだけど…」
部室でおしゃべりしていた人も、早速本を読んでいた人も文芸部長の方を見た。
ただし美月ちゃん以外。
公平くんが部長の方を見てから、美月ちゃんにヘッドホンを外すように促している。
美月ちゃんがヘッドホンを外して、今度こそ本当に部員全員が部長に注目した。
「来月の文化祭の準備は、それぞれしていると思うんだけど」
文芸部では、各部員がそれぞれお勧めの作家について調べて展示をする。昨年の文化祭もそうだったし、その前も同じような展示をしたと聞いている。
「今年は何か、文芸部全体の企画もやれないかな…と思って」
「はっ?文化祭まであと1ヶ月なのに?今から何かやりたいって?」
何も聞いていなかったようで副部長が驚いたように声を上げた。
「あー…だよねえ…僕も先週色々考えてみたんだけど、良いアイデアが出なくって、皆んなにも聞いてみようかなと…」
部長が目を泳がせた。
1年生が顔を見合わせて目を瞬かせ、一人が「読書喫茶!」と手を挙げた。
「飲食は今からじゃ許可取れない」
すぐに副部長が却下する。
「ですよねー」
予想通りだったようで笑って返事が返る。
「じゃあ朗読劇」
「んー。それなら許可は取らなくて良いけど…」
副部長がちょっと考えて、「何を読むか決めて、セットとかはいらない?…朗読劇って朗読とは違うのか?椅子と本以外に何かいるものある?」と検討事項を挙げ始める。
「でも…まず、誰が朗読するんだ?」と言う一番大事な副部長の質問に部員は誰も反応しない。
「朗読…いいかも…でも僕そんなことしたことないし…下手な朗読したら台無しだよな…やるべきか…やらないべきか…」
部長が一人ぶつぶつと呟いている。
それを見て副部長は溜息を吐いた。
「なんで突然そんなこと言い出した?」
「えっ?…あー…僕も文芸部長だし…何かこうやった方がいいんじゃないかって思って…」
「遅いよ…だったらもっと早く企画しろ!」
副部長はそう返してからハッとしたように続けた。
「…もしかして俺が事故ったから戻るのを待ってた?」
「ち、違う違う!」
部長が慌てたように両手を振った。
「たまたま今日聞こうと思っただけで…あー…だよね、遅いよね。ごめん」
部長がしょんぼりと俯いた。
「皆んなもごめんね。突然こんなこと言い出して。えっと、朗読は出来そうかちょっと考えてみるね。もしも他に何かアイデアあったら次回の時に教えて。でももちろん無理のない範囲で、何か思いついたらで大丈夫だから」
皆んなは顔を見合わせて、そしてそこからは読書の時間が始まった。
私は、今からでも出来そうな文芸部の企画を少しだけ考えてみた。
だけど文化祭まではあと1ヶ月。しかも2週間後には中間テストもある。そんな中で出来そうな企画なんか思い浮かぶだろうか。
私は文芸部長の様子を伺った。
本を開いてはいるが、目は文字を滑っているように見える。
きっと部長は文芸部誌のトラブルを埋め合わせるようなことをしたいのだろう。それならば何か力になりたい。
とはいえ、朗読するのは気が進まないし、そんな簡単にアイデアなど出そうにない。
大体、文芸部長が考えても思いつかなかったものが私に思いつくとも思えない。
だけど仕方がない。私も来週までに少しだけ考えてみよう。
私はそう決めると、まずは目の前の本を読むことにした。




