今描きたいもの
描こう。
そう思って俺は放課後、図書室に向かった。
校内資料の棚に直行して、文芸部誌に手を伸ばす。
手にしたのは文芸部誌の4年度秋号。開いたのは『雪の中で』。
俺はクロッキー帳を開いて『雪の中で』を読み始める。
雪の山、少女、ドラゴン、卵。クロッキー帳には小説の場面が写し取られていく。
描き込まれたクロッキー帳を捲って俺は考え込む。
そしてもう一度小説を読む。
少女が食事をしている場面で、弁当を食べる安藤さんが思い浮かんだ。ここは読む度に何故だか引っ掛かりを感じるけれど、何で安藤さんを思い出したんだ?少女の外見は髪も長くて、安藤さんとは似ていないのに。
もう一度食事の場面を読み返して、俺はあの小説を思い出した。少女の食事をリスに例えているところがあの小説に似ている。だから安藤さんを思い出したのか…。
納得しかけて俺は首を振る。
あの小説の女子が安藤さんをモデルにしているのかしてないのかは知らないけれど、あれは安藤さんじゃない。…ああ、もう俺は森くんかよ!
気を取り直して小説の続きを読む。
読み終えてまたクロッキー帳に絵を描く。
いくつか絵を描いてそれを見比べる。
俺はじっとクロッキー帳を見つめて、そして満足して立ち上がった。
次の日の昼飯も俺は美術部室で食べた。
そして食べ終わると新しい水張りパネルを取り出した。
『空を飛ぶ城』は、あと3日…いや2日あれば完成するはずだ。だから本当なら『空を飛ぶ城』を先に完成させるべきだって分かってる。
だけど俺はどうしても今描きたいものがある。
文化祭まであと1ヶ月。間に合わなければ諦めて『空を飛ぶ城』を完成させよう。
でも今は他の絵なんか描いていられない。俺には今、他の絵のこと何か考えることが出来ない。
だって俺が今どうしても描きたいのは『霞日和』の小説の絵だけだから。




