それはきっと白昼夢
昨日図書室で見たクロッキー帳の絵。
私はそれが忘れられなくて、今日も自習コーナーを覗きたくなった。
だけど昨日と違って今日の私は図書委員の当番ではない。
何か本を探すふりをしてそちらに行けばいいだけのことだけれど、理由がないのに覗きに行くことをさりげなく出来る自信がなくて、私は結局そのまま文芸部室に入ってしまった。
今日は文芸部の定例読書会の日。いつもの様に部員それぞれ好きな本を読んでいる。
私も読書会用に持参した本を開いている。だけどどうしたって気持ちはあの絵に向かってしまう。
私の頭は昨日からずっとあの絵のことでいっぱいだ。
あれは…あの絵は…やっぱり私の小説を読んで描いたのだろうか。
どう考えたってそうだとしか思えない。だからきっとそうなのだろう。だけどそれでも私には、むしろ私があれを見て文字を書き記したように思えてしまうのだ。
私は、私が思い描いている物語の世界をなかなか上手く書き表すことが出来ない。
文芸部誌で長編を書くわけにもいかないけれど、もしも長編を載せることが出来たとしても書き表すだけの技量がない。そして短編であったとしても、やっぱりそれを表し切れるだけの技量はないのだ。
ただの高校生なのだから出来ないのは当たり前のことだろうとは思う。だけど頭の中に広がっていくあの世界をなんとか目の前に持ってきたい。私があそこには行けないから、あれを外に持ち出さないと見ることが出来ないから、だから私は書いているのだ。私が見たいもののほんの僅かしか書き表せないけれど、それでもその少しを取り出したくて書いているのだ。
あの絵は本当に私が書いた文章を読んで、描いたものだろうか? だって私が書き表す以上に、あの絵は私の思い描いたものそのものだった。
あの絵を描いた人は私が思い描いている世界を、むしろ直接見て描いているのではないか。
そんなことが出来るはずもなく、だからやっぱり私の小説を読んで描いたのだろうとは分かっているけれど、それでもやっぱりそんな風に感じてしまって…。
もし、今、私が図書室に行ったら、今日も絵を描いているだろうか。
そう思うと、途端にドキドキしてしまってむしろ図書室になんてとても行けそうにない。
昨日は絵ばかり見ていて、描いていた人までは見る余裕がなかった。
ただ男子生徒だったのは分かっている。だけど顔までは分からなかったし、見えたとしても絵を見た瞬間に忘れてしまっていただろう。
私はこの先、後悔するかもしれない。どうしても見たくて仕方がなかったものが目の前にあったのに、それに手を伸ばす勇気が持てなかったことを。
だけど今の私はまだ後悔する余裕を持てるほど、昨日の出会いを実感出来てはいなかった。
頭の中にしかないはずのものを見ただなんて、そんなものをきっと白昼夢というのだろう。




