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家に帰って、俺は少しだけ落ち着いた。


文化祭の絵だって完成させなければいけないし、元々いつまでも図書室に通ってばかりはいられなかったのだ。

楽しすぎて浮かれていて思い当たってなかっただけで、物語の初めはそりゃあるものだし、ずっと続くはずもない。


机の上には文芸部誌がある。最近はいつも机の上に置いてある。

クロッキー帳を開く。


クロッキー帳を捲っていると浮かれた気持ちが戻ってきて少し楽しくなる。だけど寂しさは抜けきれない。

なんで寂しいんだろうか。俺が読んだ小説の世界はここに描いたからなくなったりはしないのに。


文芸部誌を開く。


俺が『霞日和かすみひより』の小説を読めたのは、とても幸運なことだった。

今なら森くんに感謝してもいいくらいだ。

森くんを目の前にしても感謝出来るかはともかくとして。


俺は目次を開く。

『霞日和』の名前を見て、『森公平』の名前を見た。名前がないのはあの匿名小説の作者の箇所だ。

『moon』はたぶん安藤さん。そして黒木くんは…と思ったところで俺はあれ?と首を傾げた。

図書室で文芸部誌を見ていて、俺が文芸部の2年生だろうと思っていた名前はあと二つ。

『小栗灯』と『駒井将』。

だけど『灯』はなんとなく女性っぽい名前だったから、黒木くんは『駒井将』なのではないかと思っていたのだ。なのに文芸部誌5年度秋号には『駒井将』の名前がない。

黒木くんが『駒井将』ではなかったとしても、どうして『駒井将』はないんだろう?

と思ったところで思い出した。


そうだった。交通事故で原稿を出せなくなった部員がいて、その代わりに匿名のあの小説を載せることになったと聞いたっけ。


じゃあ『駒井将』がその交通事故にあった部員か?

ということは『小栗灯』が黒木くんか?


つい考え込んでしまってから俺は溜息を吐いた。

文芸部誌すらこの間初めて知った俺が、文芸部員のことを分からないのは当たり前のことだけれど、同じ2年と思われる部員の中で『霞日和』のことだけが全く見えてこない。

黒木くんが『小栗灯』ならば、俺が知らない部員はあと二人『霞日和』と『駒井将』。

でも『駒井将』のことは知らないけれど、交通事故にあったことを知っている。まあ想像通りならだけど。

だけど『霞日和』のことは一つも分からない。

…ああ、分かることが一つだけある。たぶん2年生。それだけ。

本当に『霞』みたいだな。


俺は指で『霞日和』の名前をなぞった。そして『夜の街』を開く。

これを読んだら今日は寝よう。


夢の中でなら、もしかしたら物語の続きを見ることも叶うかもしれない。

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