表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

空を飛ぶ城

色を筆に乗せる。筆に乗せた色を絵に重ねる。頭の中にあった光景が紙の上に少しずつ写し取られる。

何を描くか決めているのは自分で、だから自分が描くものは自分の頭の中から生まれるものであるはず。だけど絵を描いていると自分が考えていたものと違ったものが生まれることがある。もちろんそれは思っていたように描けないという技量の問題ではなくて、描いて初めて自分の頭の中の風景に気づくかのような体験。


きっと考えるというのは頭の中にある光景にアクセスする行為でもあるのだろう。考えることでその光景を認識することが出来る。

絵は時にそのアクセスの過程を飛ばしてダイレクトに繋いでしまう。


意図した通りに描けることは満足感を与えてくれる。けれど意図せず不意に現れる絵に、気づかず見入ってしまうこともある。もちろん意図した通りに筆が動かず苛立ちを感じることもある。


最近は意図した通りに描けているのに何となく満たされない感覚があった。だけど今はそんな気持ちはどこかに行ってしまった。『空を飛ぶ城』へ色を乗せる。遠くに感じていた城をとても近くに感じる。紙の上でぼんやりとしていた城は、徐々に鮮やかな存在感を増してきている。


筆を動かしながら俺はふと、この城の中にあの照明は置けるだろうかと考えた。クロッキー帳にたくさん描いたあの照明たち。あれを城の部屋に置いたとしたら楽しいのではないだろうか。

城の内部は絵では見えないところだ。考える必要はないが、考えるのが少し楽しくなってくる。

あの照明は広間向きではないな、寝室だろうか、客間?食堂?あれこれと頭の中で置いてはみるが何となくしっくりこない。では寝室に置くとしたらどの照明がいいだろうか。頭の中でクロッキー帳を捲る。

どうにも似合うものが見つけられない。

やはりあれは夜の街にこそ似合うものなのだ。そう結論付けるまでに頭の中の城の部屋は幾度も模様替えをされた。考えてみればあれらは俺が夜の街に置くために考えたものだ。夜の街にしか似合わないのも当然だ。それなら今度はこの城のための照明を考えてみよう。照明だけでなく家具も壁紙も絵画も彫刻もきっと花も飾ってあるはずだ。

俺は再び、城の模様替えを脳内で始める。

城の部屋の内装は幾度も替えられたが、これこそがこの城に似合うというものは見つけることが出来なかった。しかし城の内装はあくまで脳内で展開されている戯れに過ぎない。それが決まらなくとも城の絵は完成に近づいて行く。絵が完成するまであと一週間もかからないはずだ。

予定よりも進みが早いのは昼も描いているためだろう。

高坂先輩の絵も完成に近づいて行っている。完成は楽しみだけれど少しだけ寂しいような気もする。

昼だけ描いてる高坂先輩の絵は、俺の絵よりも後に完成するだろう。俺は自分の絵が完成しても昼に部室に来るだろうか。


そんなことを思ったけれど、考えてみれば今だって何となく昼に美術部室に足が向いているだけなのだ。絵を描くために部室に来ているわけではない。

だからこれからもきっと、俺の足が向くならば昼も部室に来ることだろう。




何となく感じていたモヤモヤを忘れ、昼も放課後も絵を描き続けるというのは、久々に得た充足感だ。

俺は絵の進捗に満足して道具を片付ける。切りがいいところで切り上げたので少しだけ時間が早い。

帰りにどこか寄り道をしてみようか。

そう思いながら鞄を開け、そしてその中に本を見つけ、それを借りていたことを思い出した。


今日は週の半ば過ぎ、貸出期間はまだ来週まであるけれど、本は先週末に読んでしまったし、忘れないうちに返しておこう。

俺はそう決めると荷物をまとめて美術部室を後にした。


図書室への廊下を歩きながら、

そういえばあの城は夜の街の上も飛ぶだろうか

俺はそんなことをぼんやりと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ