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文芸部長の謝罪は続く

森くんの言いがかりの謝罪に来たという黒木くんは、「そもそも僕が悪いんだ」と話を続けた。


「文芸部員の一人が交通事故で入院したんだ。怪我は問題なく治るそうなんだけど、事故の時に原稿のデータが壊れてしまって文芸部誌の秋号に載せられなくなってしまった。

えっと、文芸部は部長が編集長みたいな役割なんだけど、春号の時は前部長が手伝ってくれたから、今回僕は初めて一人でやることになってて、だけど急に原稿に穴が空いてしまったから焦っちゃって…。

その時ちょうど、あの小説を見る機会があって、これがあれば穴が埋められると思って文芸部誌に載せさせて欲しいと頼んだんだ。だけどその作者は載せるのを嫌がって。でも僕は無事に文芸部誌を出すためにはどうしても掲載させてもらわなくっちゃって思ってしまって、それで匿名でと頼み込んでしまって…」

「…あー…」

「匿名という約束で無理を言って載せた原稿だから、公平くんにも誰にも作者は教えられなくて。

だけどそのせいで足立くんに迷惑掛けることになるなんて想像出来なくて、本当にごめん」

「いや、その想像は誰にも出来ないと思う」


わざわざ謝りに来てくれた黒木くんを見ていたら、美術部長も文化祭に向けて大変なのかもしれないなと思った。そう思うとヒラの部員の俺は負担をかけないようにするべきだ。

それにおかげで楽しい週末だったんだ。


「まあ気にしないでいいよ。確かに困ったけどさ、もう分かったし。

…それに文芸部誌、結構楽しかったよ」

俺がそういうと黒木くんが驚いたように俺の顔を見た。

「え!部誌読んでくれたの!?」

「ははっ…まあ、気になって読んだ」

俺は苦笑して答えた。

「普段読まないような話が読めたし、読んでたら絵を描きたくなってさ、最近、絵を描くのにちょっと行き詰まってるみたいなところがあったから、なんていうか気分転換になったというか…参考になったよ」

「足立くんが、いい人すぎる…。

…そうか、足立くん美術部だったっけ?…そうか…うん、役に立ったのなら嬉しいよ」

「あ…」

俺はクロッキー帳に増やした絵を思い出した。

「ん?」

黒木くんが俺の口から漏れた声に返事をくれる。


例の小説は匿名ということだそうだけれど、他の小説の作者については聞いてもいいんだろうか?

ペンネーム使っている場合詮索するのはNGなのかな…美術部では本名で作品の展示をするからペンネームを使う機微については自信がない。

「聞いていいことなのかよく分からないんだけど、文芸部員がペンネームを使っているのは作者を隠すため?」

「え?うーん、まあそれもあるけれど慣例的なところもあるかな。ペンネームを使ってはいるけど特に隠す気がない人もいるし、部外者には秘密にしている人もいるかな」

「そうか…」

「誰か気になる人でもいた?」

「えっと…霞日和かすみひよりって…どんな人?」

『夜の街』を書いたのはどんな人なんだろう。

黒木くんは言葉を詰まらせた。

「え…?…何で…霞日和…」

「いや、…どんな人が書いたのかちょっと気になって、あー失礼なこと聞いた?」

「え、え、えっと」

焦ったような黒木くんに、やはり詮索するのは失礼だったかと反省する。

「ああ、いや、どうしても知りたいとかじゃないから大丈夫。本当にちょっと気になっただけだから」

そう伝えて質問を収める。

「そう…」

黒木くんはほっとしたような顔をしてから続けた。

「えっと、本人に話していいか聞いてみよう…か?」

「ああ、本当に大丈夫だから。気にしないで」


普段本を読んでいて作者がどんな人なのか気になったことなんかないのに、『夜の街』を書いたのがどんな人か知りたくなったのは、同じ高校に通っていると分かっていることが原因だろうか。

身近にいることが分かっていると手を伸ばしたくなるのかもしれない。何だか不思議だ。


そういえば黒木くんが書いたのはどれだろう。

そう考えたところで俺は、黒木くんが『霞日和』という可能性もあるのか?と思いつく。

…いや、それなら本人に話していいか聞こうか、とは言わないか。

俺は思いついた『黒木くん=霞日和説』をすぐに否定する。


他の文芸部員は森くんくらいしか知らない。そして森くんは本名で書いてるから『霞日和』ではない。


「あ…もしかして安藤さんも文芸部?」

「え?…そうか、誰が文芸部とか知らないよね。…そう、美月みつきちゃんも文芸部」

忘れそうだったけれど、安藤さんは諸々どう思っているかちょっと心配だったことを思い出した。

「なるほど。えっと、あー…安藤さんはあの小説のこと…というか俺のことはどう思ってるんだろう」

言葉に出してから『俺のことどう思ってる』はちょっと語弊を招きそうだと焦りかける。

「あ、美月ちゃんは全く気にしてないから心配しなくても大丈夫」

「…全く気にしてない?」

自分のことっぽい小説だと話題になってて気にしてない?…でも確かに安藤さんは気にしなそうかも?

「美月ちゃんってホラーしか読まないんだよ。だからあの小説も、公平くんが美月ちゃんらしい女子が出てくるって騒いでも、ホラーじゃないなら読む気ないってさ」

「それは…」

安藤さんらしい気もするけれど、いくらなんでも割り切りが良すぎないか?

そう言えば文芸部誌に載っていた書評はホラーだったな、名前は…思い出せないけど…もしかしてあれが安藤さんなんだろうか?

「公平くんが内容について美月ちゃんに話しても身に覚えがないらしいし、本当に興味ないみたい。あれだけ興味持たないのもなかなかすごいと思う」

「そうか…それならまあ良かった?」

「うん。本当に公平くんが一人で騒いでいただけなんだ…本当にご迷惑をおかけしました」

また謝り出した黒木くんを俺が苦笑して止めているところで予鈴が鳴った。


俺は謎イベントの裏事情が概ね分かったし、黒木くんは自分が原因で俺に迷惑を掛けてしまったと気にしていた気持ちが軽くなったようだ。

俺たちはお互いの心配事を減らせたことを喜んで、それぞれの教室へと戻って行った。

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