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文芸部長からの謝罪

翌日はクロッキー帳を捲りながら『夜の街』のことを考えた。

夜の街の風景を考えると、暗い中に浮かぶ灯というイメージがまず思い浮かぶ。思いつく端から描いていたら、クロッキー帳には更に街灯や照明の絵が増えた。

思いついたものを描き尽くしたところで、文芸部誌の残りも読んでみた。

面白かったものも、興味が持てなかったものも、しっかり読んだものも、ななめ読んだものも、途中までで飛ばしてしまったものもあったけれど、おかげで久しぶりに楽しく絵を描くことが出来た。

作品を描くのではなくて、遊びで描けたのが良かったのかもしれない。

描かずにはいられないという気分になったのは本当に久しぶりだったので、俺はなんだかすっきりとして月曜日を迎えることが出来た。





「ごめんね足立くん、時間貰っちゃって」


月曜日の朝、教室に行くと1年の時に同じクラスだった黒木くんから、昼か放課後に時間が貰えないかと声を掛けられた。

じゃあ昼飯を一緒に食おうかということで、場所に悩んだけれど美術室に行くことにした。美術準備室は高坂先輩が今日も絵を描いているはずだから、流石に黒木くんを連れては行けない。俺の行動範囲ではあとは美術室くらいしか思い浮かばなかった。


「いや、大丈夫だから」

俺は軽く返すけれど、黒木くんは眉を下げて申し訳なさそうな顔をしている。


黒木くんとは1年の時のクラスメイトとはいえ特別に仲が良かったわけでもなく、2年でクラスが別れてから話すのは初めてのこと。俺に何の用事があるのか朝から不思議に思っていた。


「僕、文芸部長なんだ」

「え?」

「それで公平くんが足立くんに迷惑を掛けたことを聞いて、謝りに来たんだ」

黒木くんはそう言うと俺に頭を下げた。

「迷惑掛けてごめんなさい」

「え…えっとー…」

文芸部長だから謝りに来た?

俺が戸惑っていると黒木くんは頭を上げて言葉を続けた。

「公平くん、美月みつきちゃんの小説書いたのは足立くんじゃないかって言いがかりつけたんだよね?」

「あ、あー…」

俺は何て返したものか迷って、口篭ってしまった。


黒木くんはそんな俺に事情を説明してくれる。

「今月発行した文芸部誌に掲載された小説を読んだ公平くんが、登場する女の子が美月ちゃんだとしか思えないって言っていて…」

「ああ、そう言ってた」

「うん…」黒木くんは少し目を伏せて続ける。

「それで…公平くんは…美月ちゃんをモデルに小説書いたのは誰だ?って思ったみたいなんだ」

「うん」

「だけどその小説の作者は匿名だったから、僕は公平くんに作者を聞かれても教えることが出来なかった。

でも公平くんはどうしても作者が知りたくて、美月ちゃんがモデルなら小説の他の人物もモデルがいるんじゃないかと考えたんだと思う」

「あーなるほど?」

「それで小説の出来事が実際にあったと仮定してモデルを探してみたところ、たまたま足立くんが合致してしまったみたいな感じ…」

「あー…」

「僕は、美月ちゃんを書いたと特定出来る描写はないって言ったんだけど…公平くんにとっては美月ちゃんなのは確定らしくって、だから美月ちゃんをモデルにするヤツは誰だ?美月ちゃんにちょっかい出すなよ?ってたぶん思ってて…あー、まあ…つまり、ヤキモチだね。…本当にごめん」

黒木くんはまた頭を下げる。

「でも足立くんが関係ないのは説明したから。もう大丈夫だと思うけど、もしまた公平くんが迷惑掛けたら僕に言って。何とかするから」


森くんの言動に疑問がなくなったとは言い切れないけれど、休みが明けたら気持ちも割と落ち着いていた俺と違って、黒木くんは何というか苦労してそうだ。


「…何となく分かった。

あー…まあ、意味が分からないと思ってたから説明してくれて助かるよ」

俺はそう答えて「でも黒木くんが謝ることでもないだろう?」と続けた。

「あー…」黒木くんは気まずそうに目を泳がせて「そもそも僕が悪いんだ」と言った。

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