見えない状況
街に戻ると昼間なのに、北区の城門が閉まっている。そしてその門前には複数の馬車が止まり、商人達が集まっていた。
「何かあったのですか?」
尋ねたダメルを商人達が振り返る。そして皆が首を振った。
「分からないんだよ」
「どうやら一昨日から門が閉まっている様なのだがね」
「中と行き来が出来なくて、情報も伝わって来ないんだ」
「入るのも出るのも出来ないって事ですか」
「どうやらそうらしい」
「困ったよな。引き返す訳にもいかないし」
「何組かは東区に回って帰って来ていないけど、そのまま東区の門からの街道を進んだみたいだ」
「私は東区から回って来たけれど、向こうも門が閉ざされていたからね」
商人達は理由が分からないまま、対応も取れずに門が開くのを待っていた。
ローザがダメルに囁く。
「西区の城門は閉まっていると思う?」
「開いているかも知れないけれど、今はここで商売をしようか」
そう言うとダメルは、途中で狩った魔獣の肉を取り出した。
「皆さん、食料は大丈夫ですか?私達は魔獣肉を持っているので、欲しい人がいれば売りますよ?」
「買った」
「売ってくれ」
「私もだ」
「私も、まだ余裕はあるが、いつまで待たされるか分からないから、買わせてくれ」
「私も頼む」
ダメルが出した魔獣の肉は、直ぐに売り切れた。
「もうないのか?」
「手持ちはありませんけれど、まだ欲しい人がいる様ですから、仕入れて来ましょう」
「仕入れる?」
「どこから?」
「街道を少し外れれば、魔獣は捕まえられますから」
「あなた一人で?」
「いえ。私達二人でです」
「え?」
「この娘さんと?」
「ええ。この子も魔獣を捕まえるのは上手ですよ」
「まだ若いのに」
「大したものだな」
「ああ、凄いね」
「余っても買い取るから、多めに仕入れて貰って良いかな?」
「私も頼む」
「私もだ」
「分かりました。では仕入れて来ますね」
そう答えるとダメルはローザを促して、来た道を戻って行った。
その日と翌日はダメルとローザが狩った魔獣を商人達に売って、門前の人々は食べ物には困らないで済んだ。そしてその次の日になって、ようやく北区の城門が開く。
開門と同時に王都の方向に、数人の兵士が騎馬で向かって行った。その後に門前に待たされていた商人達が街中に入る事が出来る様になり、ローザとダメルも街の北区に入る。
北区の道にはあちらこちらに兵士が立っていた。他の区に比べたら北区はいつも警備がしっかりとされているのだけれど、そのいつもよりも兵士の姿が目立つ。
東区に向かう商人達とは別れ、ローザとダメルはまた城壁沿いを辿って西区に戻る。
西区の端のダメルとローザの家は、防御魔法を掛けた周囲に魔法攻撃を受けた痕跡があったけれど、家自体は無事だった。
ローザは家に帰ると、その日はそのまま自分の部屋のベッドで寝てしまった。
翌朝。
ローザが目覚めた時には、ダメルは既に家にいなかった。
一人で街の様子を確認するとは言っていたのだけれど、自分に声も掛けずに出掛けたのかと、ローザは少し腹を立てる。
確かにローザも付いて行きたがったけれど、危険かも知れないと言うダメルの説得を受け入れていた。それなのに、ローザに気付かれない様にダメルが出掛けた様に思えて、また子供扱いされたとローザは感じる。
朝食を作って、一人で食べて食べ終わって、片付け終わって、ローザは少しずつ不安になって来た。
留守にしている間に、誰かに家を攻撃されていたのだ。あの冒険者達なら良いけれど、いや良くないけれど、でも別の誰かだったらもっと良くない。
もしかしたらダメルが街道の調査依頼を引き受けたのは、家が襲撃される事を予め知っていたからかも知れない。あるいは調査依頼はダメルの嘘で、単に家から離れる理由を作りたかったのかも知れない。
どちらにしてもダメル一人で済まさずに、もう少し相談してくれたり頼ってくれたりしても良いのに、とローザは思う。それは怒りではなく、気分が沈む考えだった。
昨日帰って来た時は良く確認出来なかったから、どの様な攻撃を受けたのか調べてみようと考えて、ローザは家の外に出た。
そして家のすぐ近くの、草原へと繋がる城門が閉まっている事に気付く。
「あの門、本当に閉められるのね」
門兵は見当たらないけれど、初めて経験する事態にローザは嫌な予感しかしない。
「大丈夫。北区の外門は開かれたのだから、問題は解決している筈。問題が何か分からないから気になるだけ。大丈夫」
何があったのか調べて来るだろうから、ダメルが帰ってくれば知る事は出来るだろう。
しかし不安と好奇心がローザの心を揺さぶる。
普段草原で魔獣狩りをしている時に、気になる事が起これば自分で確認して対処している習慣も、分からないままで事態を置いておく事に対し、ローザに抵抗を感じさせる。
「・・・南区の内門のところまで様子を見に行こう。普段は開いている西区と南区の間の内門が開いていれば、そう大した問題は起こっていない筈」
そう独り言を口にしながら口にしていない、南区への城門が閉じていた時の事をローザは考えていた。
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