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街道沿い

 王都に続く街道の周囲を魔獣を探して進む。

 街道から脇にそれると、西区に繋がる草原にいるのと同じ様な小さい魔獣が見つかった。

 それらの種類と数を確認しながら地図に記す。草原とは少し違う種類の魔獣も見掛けるけれど、強さも数も異常がある様にはローザには思えなかった。


 本来は街道を行き来する人達も多い筈なのだけれど、たまに馬車が凄い速度を出して通り過ぎるだけで、徒歩はおろか騎馬で街道を通る人もいない。

 街道から外れて調査をしていると、馬車に気付いても呼び止める事は出来ず、どうしてそれ程急いでいるのかに付いてはローザとダメルには分からなかった。


「もしかしたら、街道に魔獣が出るとの噂が、誇張して伝わっているのかも知れないね」


 通り過ぎる馬車を遠くに見ながら、ダメルがのんびりとした口調でそう言った。


「この先に強い魔獣がいる可能性はない?それから逃げて来ているとか?」

「どうだろうね?それなら街に着いた馬車からの情報で、討伐隊が派遣されて来ても良いと思うけれど」

「そうか。そうね」

「それに強い魔獣がいたら、その近くの弱い魔獣は逃げる筈だけれど」

「そうね。普通に小さな魔獣がいるものね。強い魔獣がいるとしても、かなり遠くだと言う事ね」

「ああ。私もそう思うよ」


 元々ダメルは慌てるタイプではないけれど、こうものんびりとされると、ローザも緊張感が薄れてしまう。


「でも弱くても魔獣は魔獣だから。油断しないでよ?」

「ああ。ローザは本当にしっかりと育ったね。本当に嬉しいよ」


 そう言うダメルの様子には緊張感など微塵も見えず、ローザは褒められても素直に喜べなかった。


「だから、ここは外なのだから、もっと緊張して」

「分かったよ。ローザの言う通りだよね」


 そう言いながらのんびりとした様子で、魔獣の探索を続けるダメルに、ローザはいつもより焦れている。

 万が一の事だってあると考えて、ローザは普段より気持ちを擦り減らしていた。



 弱いと言っても相手は魔獣だから、さすがにダメルも野営の準備はしっかりとする。

 土魔法でドームを作り固め、その周囲に防御魔法と探知魔法と隠蔽魔法を張り巡らせた。

 それをローズは真似をする。


「中々良いね」


 ローザのドームの仕上がりを見てダメルは褒めるけれど、ローザは不満だ。どの魔法一つ取っても、ダメルほど上手く掛けられていない。


「こんなの、駄目よ」

「充分だよ」

「全然駄目よ。だってダメルみたいに魔力を無駄にせずには出来ていないし」

「それは仕方ないよ。私はローザより魔力が弱いからね。少しでも無駄にしない様に工夫しながら、今日まで魔法を使って来たのだから。いくらローザでも、簡単に真似をされたら、私の立つ瀬がないよ」


 そう言ってダメルはローザの頭を撫でた。


「それに私だって、まだ魔力を完璧に無駄にしない様には出来ないし」

「でもダメルが魔法を使う時って、全然魔力が漏れていないじゃない」

「それはあれだね。ローザの魔力検知がまだまだ伸びる余地があると言う事だね」


 そう言って口元に微笑みを浮かべながら頭を撫でるダメルの手をローザは掴んだ。


「結局、ダメルから見たら、私は駄目だと言う事なのでしょう?」


 ダメルの顔をローザは僅かに潤んだ目で睨み付ける様に見上げる。


「駄目ではないよ。ローザはちゃんと成長しているさ」

「そうやって直ぐに子供扱いする」


 ローザはダメルの手を放し、自分の作ったドームに潜り込んで、入り口を閉じた。

 ダメルは小さく息を吐くと、ローザのドームの魔法を手直しする。


 上着を枕代わりにして顔を(うず)めていたローザは、自分の魔法が書き換えられていくのを感じて、小さな呻き声を漏らした。




 ずっとドームに引き籠もっている訳にもいかないし、お腹も空いたので、次の日の朝にはローザはちゃんと外に出て来た。

 ダメルの魔法が硬くて、出るのに少し手間取っていたけれど、ローザは何事もなかった様な顔をする。

 ダメルも何事もなかった様にローザに朝の挨拶をして、何事もなかったかの様にその日が始まった。


 そして領地の境界まで来たけれど、強い魔獣の痕跡は結局見当たらない。


「さて。では街に戻ろうか」


 気負いなくそう言うダメルをローザは見上げる。


「手掛かりが何もないけれど、良いのかな?」

「今回の私達の仕事は現状の調査だからね。魔獣の種類と数を書いた地図を提出すれば完了だよ」

「そうだけれど」

「念の為に帰りながらも同じ様に調査をするけれどね」

「この先にいるって事はない?」


 ローザは境界の先を見詰める。


「可能性はあるけれど、領地の境界はここまでだし、依頼の調査範囲もここまでだ。この辺りの魔獣も特に変わった様子はないから、もし強い魔獣がいたとしても、きっと隣町の近くではないかな?」

「そうなの?」

「ああ。ローザの意見は違うのかい?」

「私は強い魔獣って見た事がないから、分からない」

「ローザが探知できる範囲にも、それらしい魔獣はいないだろう?」

「そうだけれど・・・」

「それなら依頼以外の範囲を調べたりはせずに、この調査結果を早く報告する事を優先するべきではないかな?」

「・・・そうね」

「あの冒険者達の裁判も既に終わっている筈だし、取り敢えず街に戻ろうよ」

「分かったわ」


 そう言って頷くローザの頭をまたダメルは撫でる。その手から離れる様に、ローザは街の方を振り返った。


「そう言えば、街からの馬車ってしばらく来てないわよね?」

「そう言えばそうだね」

「人も馬も相変わらず通らないし。ねえ?ダメル?」

「普段を知らないけれど、さすがにおかしいかもね」

「何かあったのかしら?」

「そうかもね。取り敢えずそれも警戒しながら帰ろうか」

「はい」


 そう言って頷くとダメルが手を伸ばして来そうだったので、ローザは知らぬ顔をしてダメルの腕が届く範囲から外れて歩き出す。

 半端に伸ばし掛けた腕を戻して、ダメルもローザの後を追った。

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