訊き難い事、言い難い事
「でもダメルがそんな魔導具を持っているの、気付かなかった」
「ローザに靴を渡す時には仕込み終わっているからね」
「そちらではなくて、その光を見付ける方の魔導具の事よ」
「それは普通に魔法だよ」
「え?魔導具ではないの?」
「そうだよ。靴に仕込むのは魔導具だけれど、見付けるのは魔法の方が応用は効くし、持ち運ばなくて済むからね」
「確かにそうだけれど、魔導具を使うって言ったら魔導具だけかと思った」
「普通の魔導具は魔法が苦手な人も使うからね。そう思っても無理はないよ」
「そうよね。でもこの魔導具も限界はあるのではない?」
「距離のかい?」
「ええ」
「そうだね。探知魔法とそれ程変わらないと言うか、探知魔法の一種に反応して光を出すから、探知魔法が届かないと見付けられないね」
「え?そうしたら、どうやって私がこの国に来た事が分かったの?」
ローザはつい疑問形で言ったけれど、自分で考える様にダメルに言われると思っていた。しかしダメルは何も言わない。
少し経ってからその事に気付いたローザは、ダメルを振り向いた。
「ダメル?」
ダメルは覆面越しにローザに目を向けている。
「どうしたの?」
「ローザは自分が生まれた時の事とか、自分の母君から聞かなかったかい?」
ダメルにそう問われ、ローザは答えずに前を向いた。
「・・・生まれた時って?」
「そうだね・・・例えば生まれた場所とか」
「・・・聞いたわ」
ローザはそう答えたが、どこなのかは口にしない。
「そうか・・・他には?」
ローザは何をどう答えたら良いのか分からなかった。そこで無理矢理話を変える。
「ねえ?ダメル?ダメルは私の母親と言う人が、本当に私の母親だと思う?」
「えっ?違うかもしれないのかい?」
「分からない。私が想像していた母親と全然違っていて。最初は信じたのだけれど、今は疑っているの」
「ローザにそっくりだって言われているよね?」
「そうね。とても似ていると思ったわ。でももう一人、ロザリーゼ・ノバラーと言う人も私と間違えるくらい似ていたと言うし」
「その人とも血は繋がっているものね」
「え?私?」
「ああ、そうだけれど、母君とかには聞いていないのかい?」
「聞いていないわ。そうなの?」
「君の母君の父方のハトコで、母君の母方のイトコの子でもある」
「え?」
ローザは思わず振り向いた。揺れたローザの体をダメルが腕で支える。
「ロザリーゼ・ノバラーが?」
「そうだね。母方で見ればローザ自身のハトコだし、父方は何て言うのかちょっと分からないけれど」
「でも、血が繋がっていたのね」
「遡れば、もっと繋がりが見付かるかも知れないな」
「・・・そうだったのね」
ローザは前を向いてそう言った。
そしてしばらくしてからローザの口から呟きが漏れる。
「あれ?」
ダメルはその声を拾った。
「どうした?」
ローザは顔を動かさずに目だけを後ろに流した。それだけではダメルの姿は見えないから、ローザは視線を正面に戻す。
「ダメルは母親と私、似ていると思う?」
「似ているのではないかな?」
「この国で私の母親に会った?」
「会っていないよ?なぜだい?」
「でも会っていないのなら、私と母親が似ているかどうか、分からないのではない?」
「いや、会ってはいないよ。ローザと母君の両方を知っているあの街の人間は皆、二人を似ていると言っていただろう?ローザは母君にそっくりだって」
「そうね。それで?ダメルもそう思うの?」
「そうだね」
「会っていないのに?」
「会ってはいないよ」
「一度も?」
「一度も?」
「もしかしてダメルは、私の母親と言う人と会った事がないのではない?」
「それはないよ。あるよ。ローザの事は直接預かったのだし」
「私の母親は私を置いて街から出て行ったのでしょう?それを直接預かったって言えるの?」
「確かに置き手紙だったけれど、ローザをお願いと私宛に書いてあったよ。ローザは私が預かったんだ」
ローザは視線を下げた。馬のたてがみが揺れている。
「ローザ?」
「ダメル。本当の事を教えて」
「・・・何に付いて?」
「ダメルって、私の母親の顔、覚えて居ないのではない?」
「それは、しかし、毎日ローザを見ていたら、ローザにそっくりな顔なんて、思い出してもローザにしか見えないよ」
ローザは目を瞑った。
「もう一つ教えて」
「なんだい?」
「あっ、一つじゃないかも」
「構わないよ」
「ダメルは私が訊きたい事、分かっているんじゃない?」
「・・・どうかな」
「私が私の父親が誰なのか知っているって言ったら、驚く?」
「・・・そうか。やはり聞いたんだね」
「バラローズ侯爵は本当に私の父親なの?」
「そうらしい。魔法で親子判定をしなかったのかい?」
「やはりそう言うのがあるのね?」
「貴族は良く使うから」
「・・・そう言えば親子判定をすると言われていたけれど、したのかな?」
「親子じゃなかった場合が大変だから、普通は本人には内緒で使うのだけれどね」
「そうなの?」
「ああ。だからローザが知らない内に、判定されていたのではないかな?」
「そうなのね。父親と言う人と私は目や髪の色が一緒だと言われたけれど、あの時にはもう判定した後だったのかも知れないな」
「そうだね」
「それでね?ダメル?」
「なんだい?」
「正直に答えて」
「・・・ローザの事かい?」
「ダメルはいつから私がダメルの子じゃないって知っていたの?」
その問いにダメルは返事を返さない。
「ダメル?私の母親と、その、恋人だった事、あるの?」
「・・・何故?」
「だって、私にはダメルが、酔っている女性を無理矢理になんて」
「ちょっと待ってローザ?何の話?」
「何のって、私の出生?」
「違うよ、違う。私は女性にその様な事をした事はない」
ローザはダメルを振り返った。
「そうよね!」
ダメルに笑みを向けるとローザは再び前を向く。
「良かった〜」
「私もローザにそんな男と思われていなかった様で、良かったよ」
ダメルはそう言って小さく左右に首を振った。
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