答え合わせ
元王子と共に来た騎士達をダメルは起こし、荷馬車と盗賊風殺し屋達を引き渡す。代わりに一頭の馬を借りた。
元王子がローザを見詰める。
「これからどこに行くのだ?」
ローザは僅かに目を細めると、ダメルに視線を送った。ローザの代わりにダメルが口を開く。
「判決に従う必要がありますので、先ずは国境までローザを連れて行きます。そこから先の行き先は、それまでに決めるでしょう」
ダメルの声に元王子はダメルに顔を少しだけ向けた。そしてダメルの言葉が終わるとまたローザに顔を戻す。
「そうか」
それだけ言って元王子は口を閉じ、ローザを見詰めた。
見詰められ続けてローザは気持ちが落ち着かず、またダメルに視線を送る。
ダメルはローザに手を差し伸べた。
「ではローザ。行きましょう」
ローザはふっと息を小さく吐いて、視線を元王子に戻す。
「それではこれで失礼します」
「国外追放は撤回させる。だから必ずこの国に戻って来てくれ」
「私の居場所はこの国にはありません」
「私が居場所を作る」
「そこには他の方を入れてあげて下さい」
「いや、君の為の場所だ。君の為に作る」
「閣下には私に似ていない、名前もロザリーゼではない人がお薦めです。その人自身の事をちゃんと見てあげて下さい」
「ロザリーゼ殿」
「そしてどの様な居場所を作るかは、その人に相談してあげて下さい。話を良く聞いてあげる事が必要です」
「・・・君に話を聞いて、君の居場所を作るのはどうだ?」
「私には閣下に話す事は何もありませんから、他を当たって下さい」
「・・・そうか」
「それではこれで失礼します」
ローザは元王子に向けて頭を下げる。そして頭を上げるとダメルに体を向けて、ダメルが差し出していた手を取った。そしてダメルを見上げてローザは微笑む。
先に乗ったダメルに引き上げられて、ローザは馬に乗った。始めて馬に乗ったローザが前屈みになるが、ダメルが後ろから腕を回してローザに体を起こさせる。
ローザの体を支えたまま、ダメルは顔だけ元王子に向けた。
「それでは馬をお借りします。国境でお返ししておきますので」
「その時に行き先を伝言しろ」
元王子の命令に返事をせずに前を向くと、ダメルはそのまま馬を走らせた。
「追ってこない?」
ローザがダメルの腕越しに後ろを気にする。
「追って来たら馬から落とすから大丈夫だよ」
ダメルは優しい声でそう言った。
「あれはどうやってやったの?」
ローザは前に向き直るとそう尋ねる。
「魔法でだよ」
「それはそうでしょう?それは分かっているけれど、どうやってやったのか分からないから聞いているの。私にはダメルの魔力が感じられなかったし。盗賊のは神経を切ったって言っていたけれど、公爵はまた立ち上がったから、別の魔法よね?」
「魔獣狩りと同じ様にやるんだよ」
「人間には魔石がないじゃない」
「でも人間にも魔獣にも神経はあるだろう?」
「ええ」
「後は自分で考えて御覧」
「ずっと考えているけれど、試してみないと分からない。それなら魔獣がいたら試したいから、見付けたら教えて」
「国境を越えたらね」
「それなら私に掛けて。体験して確認するから」
「馬上では危ないから駄目だよ。力が抜けたら騎士達みたいに落ちてしまうよ」
「ダメルが支えてくれるから大丈夫」
「駄目だよ。安全な所に行くまでは、何が起こるか分からない。もう少し緊張感を持ちなさい」
「でも、何があっても守ってくれるでしょう?」
「自分の事は自分で守れる様に育てた積もりだよ?」
確かに元王子達の魔法を見たら無駄ばかりで、ダンジョンでも自分だけだったら振動を感じた時点で避難したし、簡単に逃げられたかも知れない。
「そう言えば、ダンジョンでも今日も助けてくれたけれど、偶然なの?」
偶然だとしたら、運命かも知れない。
「偶然ではないよ。ローザが危なかったから助けたのだし」
「だから、私が危ない所に偶然居合わせたの?」
「その様な訳はないだろう?それだとローザを守り切れないじゃないか」
「え?私の事を見張っていたの?」
「危ない所にいる時だけね」
「どうやって?危ない時だけ分かるって事?」
「自分で考えて御覧」
またか、とローザは眉根を寄せた。そしてそのまま考える。
「私に危険が迫っているかどうか、離れていて分かる方法ってない筈。そんな魔法があれば探知魔法ではなくて、その魔法をダメルは私を守る為に教える筈。つまり危険の有無は場所?私がいる場所で危険かどうかを判断している。合っている?」
「ああ。合っているよ」
「よし。そうするとどこに私がいるかだけれど、私の魔力を感じていた?連れて来られてから防御魔法で魔力を遮っていたから考え難いけれど、ダメルは私より魔力感知が上手だし、そう?」
「答えは違うね。魔力関知で分かる距離ならもちろん魔力関知を使うけれど、問題は魔力関知では分からない時だよね」
「あちらこちらに監視の魔導具を置いている?」
「なるほど。その地域を監視するには良いかもね。でもローザがどこにいるか分からないと、どの魔導具から情報を集めれば良いか分からないのではないかな?」
「魔導具をリレーして、遠くの魔導具の情報も届く様にする」
「それは面白いね。でも今回のは違うよ。私にはその発想はなかった」
「それなら私の場所が直接分かるって事よね?匂いとか?」
「なるほど。匂いを嗅ぎ分けられる魔法か。それも思い付かなかったな」
「え~、違うのね?」
「ああ。でも発想的には近いね」
「こっそりと私の跡を付ける魔導具?」
「なるほど。ローザに見付からない様な魔導具が作れるなら可能かな」
「遠くから私の姿をずっと追い続ける魔導具?」
「それなら実現出来そうだね。ただ、建物に入った時にどうするか」
「もしかして、私が身に付けている物?」
「正解だ」
「え?何だろう?でもダンジョンと今日で、あっ!靴?!」
ローザが体を斜めにして、履いている靴を見ようとする。ダメルはそれを腕で支えた。
「正解だよ」
「この靴、特注だったけど、そんな機能を付けていたの?」
「その靴だけじゃなくて、ローザが歩き始めてからは全部そうだよ」
「え?なんで?どうやっているの?」
ダメルの腕に凭れながら振り返り、ローザはダメルを見上げる。
「ここまで分かれば何故かもどうやってかも分かる筈だ」
「う~ん?」
ローザは体を戻してまた眉根を寄せた。
「何故かは、誘拐対策?」
「正解だ」
「今回みたいな事をダメルは想定していたの?」
「それもあるし、ローザは可愛かったから、普通の誘拐も怖かったからね」
「可愛かった?」
「ああ。可愛かったよ」
「過去形?」
「いいや。今も可愛いよ」
ダメルに言わせておいてローザは照れた。顔が赤くなったけれど、それはダメルからは見えない。
馬上の風が頬と額と首筋に気持ち良い。
「・・・音か光?匂いで発想が近いのよね?」
「そうだね。ほぼ正解」
「ほぼ?音でも光でもないの?」
「いや。どちらかだよ。ただここからは難しいかな?」
「絶対に当てるわ」
「そうだね」
覆面で見えない筈だけれど、ダメルが微笑んでいるのをローザは背中で感じていた。
ローザは目を瞑ってみる。
馬を走らせる音が強く聞こえる。足音がリズミカルだ。後は風を切る音。轡や手綱が揺れて打つかる音もする。
目蓋の裏には斑模様。
何かを掴めそうな気はする。
多分、光でも音でも、そのままは使っていない。光ったり鳴ったりしていたら気付く筈。
光や音を気付かれずに使うには、どうする?
「分かった。感じない光か音?魔獣が使う様な」
「正解。人の目には見えない光の仲間を出す魔導具を仕込んである」
「魔獣が地面を透かして見る様な?」
「そうだね。それを応用しているんだよ」
ローザはダメルの腕に寄り掛かって振り返り、ダメルを見上げる。
「だから私が建物の中にいてもダンジョンに入っていても捜せるのね?」
「その通りだよ」
ダメルが柔らかい声で答えるのを聞いて、ローザは前に向き直ってから両手を胸の前で握った。
「よし!」
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