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真実

 元王子の命令でダメルに向けて剣を振りかぶった騎士達は、ダメルに近付いた順に倒れた。


「どうした?!何をした?!」


 元王子の問いにダメルは答えず、ローザを背中に庇う。

 頭上に剣を構えた騎士が、じわりとダメルに近付いて倒れた。


「魔導具か!リゼを人質にして卑怯だぞ!」


 ダメルの背後から近付いた騎士が倒れる。上から飛び掛かる為に、檻に上ろうとした騎士が荷馬車から落ちた。


「まさか!毒!」


 元王子は口元を手で覆い一歩退く。

 立ち位置に限らず騎士が次々と倒れて、立っているのは元王子とダメルとローザの三人になった。


「どうして最初に閣下を倒さなかったの?」

「少し話をしようかと思って」

「話などない!」


 そう言って元王子は長剣をダメルに向け直す。そしてよろめいて地面に片手と片膝を突いた。


「くっ!何をしたのだ!」


 長剣を地面に突き刺し、それに縋るようにして元王子は体を支える。


「この馬車に載っている殺し屋達は、閣下が雇ったのですか?」

「違う!」

「では誰が」

「知るか!それに雇うも何も盗賊だろう!」

「盗賊を装った殺し屋だと本人が言っていました。雇い主もいる様です」

「騙されないぞ!盗賊なんぞの話を信じる訳がないだろう!」

「・・・それもそうですね。閣下の仰る通りだ」

「何言い負かされているの?しっかりしてね?」

「そうだね」

「お前は何者だ?!やはりバウドネス王国の手の者か?!」

「この盗賊達はバウドネス王国に連れて行きます。この者達が持つ情報はバウドネス王国の役に立つでしょう」

「・・・どう言う事だ?そいつらはバウドネス王国の者ではないのか?」

「御令嬢は何者かに命を狙われた。それが誰であってもピオニー王国に取ってはスキャンダルになる」

「やはりお前はバウドネス王国の!」

「私がバウドネス王国の者である方がピオニー王国の不利益になるなら、私はバウドネス王国の者だと思って下さい」

「・・・どう言う意味だ?」

「私はピオニー王国が御令嬢に対して(おこな)った仕打ちが赦せない。ただそれだけです」

「仕打ちなど」

「ピオニー王国の人間達の御令嬢への行いは、仕打ちと言うに相応しい」

「確かにロザリーゼ殿は国外追放になった!しかし私がこうして迎えに来たではないか!」

「迎えに来れば、国外追放にした行いがなかった事に出来る訳ではない」

「いや、確かにそうだが、裁判は仕方がなかったのだ!」

「確かに御令嬢を国外追放にする為には、裁判を行うしかなかった」

「裁判を?・・・いや、逆だ!」

「いいえ。閣下は御令嬢を助け出すと言う英雄的行為に酔って、裁判で御令嬢が国外追放になる様に仕向けていた」

「・・・え?」

「閣下が御令嬢の弁護を()めたから、御令嬢は国外追放になったのですよね?」

「いや!違う!」

「違いません。閣下は御令嬢の死罪は避けようとしたかも知れないが、国外追放になる様に誘導した」

「そんな訳がないだろう!」

「では閣下が御令嬢の救出劇を最初に思い付いたのはいつですか?」

「・・・え?」

「裁判の最中ですよね?」

「いや・・・その様な筈は・・・」

「その様な事を考える人間に、御令嬢を身を預ける訳にはいきませんし、御令嬢の将来を託す訳にもいきません」

「いや!違うんだ!そうではないんだ!」

「何がそうではないと?」

「死罪を免れる為には国外追放しかなかったんだ!」

「まるで国外追放にしたのは御令嬢の為の様な言い回しですね」

「実際そうではないか!お前は死罪の方が良かったと言うのか?!」

「私は裁判など起こさせない事が、御令嬢の為だったと思います」

「・・・いや、まあ、そうだが」

「裁判中もそうだが裁判前も、閣下は自分の保身に忙しく、御令嬢の為には何一つ()していない」

「いや!違う!私はロザリーゼ殿を守る為に証言をした!」

「いいえ。閣下は自分を守る為に証言をしました」

「いや・・・そんな・・・」

「そんなも何も、閣下は御令嬢の幸せより、御自分の幸せを優先しますよね?」

「違う!私はいつだってリゼの幸せを考えて、今だって助けに来たんだ!」

「御令嬢を閉じ込めて尋問するのが御令嬢の幸せの為ですか?」

「あっ・・・いや・・・それは」

「まあ、それが閣下の幸せになるなどと言われても、言われたこちらが困りますけれど」

「いや、違うんだ。誤解なんだ」

「誤解でも正解でも御令嬢にこれ以上何かない様にする為に、そして幸せになって貰う為に、御令嬢には私と一緒に来て貰います」

「待ってくれ!私にまたリゼを失えと言うのか?!」

「閣下のリゼは既にいません。今現在もいないのです」

「いや、だが、だからこそロザリーゼ殿が必要なのだ!」

「この御令嬢はいつまで経っても閣下のリゼにはなりません」

「そんな事はない!」

「あります」

「いいや!私と分かり合えば直ぐにでもロザリーゼ殿はリゼに!」

「いいえ」


 ダメルは首を左右に振った。


「これだけは教えたくなかったのですが」

「なんだ?何の事だ?」

「リゼと言うのは亡くなったロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢の愛称ですね?」

「最初はそうだが今は違う!」

「いえ。リゼと言うのはロザリーゼのリーゼから来ているのですよね?」

「・・・もちろんだが、それがどうした?」

「御令嬢」


 ダメルはローザを振り向く。


「閣下にあなたの本名を教えてあげて下さい」


 ここまでどんな結論になるのかと不安に思っていたローザは、やっとダメルの意図が分かって笑みを零した。

 元王子は不思議そうな顔をローザに向ける。


「本名?」


 ローザは元王子に肯いた。


「はい。私の本名は、ローザです」

「ローザ?」

「そうです」


 ローザがもう一度肯くのと共に、ダメルも肯く。


「この子は貴族の令嬢ではない。家名もない。この子の名はローザ。この子にはリゼはありません」

「え?バラローズ侯爵家のロザリーゼ・ロッソ・バラローズではないのか?」

「この子が本当にバラローズ侯爵家の娘なら、バラローズ侯爵は国外追放になどさせないのではありませんか?それに見送りに本人や家族どころか誰も寄越さないなんて出来るのは、この子がロザリーゼ・ロッソ・バラローズ侯爵令嬢ではないからでしょう」

「え?・・・そんな馬鹿な」

「そうですね。何故そんな馬鹿な事をして、身分を偽らせたのか、私にも分かりません」

「いや、それでは、私のリゼは?」

「ロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢がロザリーゼ・ロッソ・バラローズ侯爵令嬢だったのか、ロザリーゼ・ロッソ・バラローズ侯爵令嬢がロザリーゼ・ノバラー男爵令嬢だったのか、あるいは他に誰かいるのか、それとも誰もいないのか。それは一切分かりません。それに付いてはローザも何も聞いていないね?」

「ええ。いきなり連れ去られて、今からロザリーゼ・ロッソ・バラローズだと言われて、貴族の練習をさせられただけで、事情は全く聞かされていないから知りません」

「と言う事だそうです」

「・・・本当に、ロザリーゼ殿ではないのか?」

「はい。それも先程お教えした人に訊いて貰ったら分かります」

「・・・そんな、しかし、その女性もバラローズ侯爵家の人間なのだろう?」

「え?・・・どうでしょう?」

「違うのか?」

「名前も知りませんし、分かりません。ただその人は、バラローズ侯爵の事は大好きですけれど、侯爵の正妻の事は大嫌いですので、正妻の悪口を仕入れて行けば、きっと早く仲良くなれると思います」

「悪口・・・そうか」

「はい」


 ローザは笑顔で元王子に返した。ダメルはローザを見てふっと息を吐いてから、元王子に視線を移す。


「ところでこの盗賊は要りますか?」

「私がか?」

「ええ。バウドネス王国まで運んでも良いですけれど、もしローザに非道い事をした人間達を閣下が懲らしめて下さるのなら、この者達は引き渡します。閣下は尋問をなさる様ですし」

「いや、尋問はまあ」

「どうしますか?」

「閣下」


 ローザが元王子に呼び掛けた。


「私には何の力もありませんので、私の代わりに閣下が私の仇を打って下さったら嬉しいです」

「・・・そうか」

「はい。私が何故ピオニー王国に連れて来られなければならなかったとか、それ以前の事とか、何かの手掛かりに繋がるかも知れませんし」

「それ以前か。そうだな」

「はい」

「・・・分かった。引き受けよう」

「よろしくお願いします」


 ローザが頭を下げる。元王子は僅かな寂しそうな微笑みを浮かべながら、ローザに向けて肯いた。


「ああ。任せてくれ」

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